-15- 空洞
冬休みに入った大学のキャンパスは、どこか浮ついていた。
試験が終わり、講義もなくなり、学生たちはそれぞれの帰省や予定の話をしている。そんな空気の中で、佐々木はただ一人、時間から取り残されたような感覚でいた。
飲み会の誘いは何度か来た。
忘年会、送別会、何でもない集まり。
佐々木はそのすべてを理由も告げずに断った。
最初のうちは「どうした?」と聞いてきた連中も、次第に何も言わなくなった。
声をかけられなくなるのは、思っていたよりも早かった。
居酒屋のアルバイトも辞めた。
騒がしい店内、愛想笑い、意味のない会話。
どれもが、今の自分には耐え難かった。
代わりに始めたのは、郊外の工場でのピッキング作業だった。
無機質な倉庫。
決められた棚から、決められた物を取り、箱に詰める。
人と話す必要はほとんどなく、作業は単純で、時間だけが淡々と過ぎていく。
それでよかった。
誰とも関わらず、何も考えず、ただ体を動かしていればいい。
家に帰ると、部屋は相変わらず暗かった。
カーテンは閉めたまま、テレビもつけない。
コンビニで買った酎ハイを開け、煙草に火をつける。
味なんて、もう分からない。
酔いたいわけでも、落ち着きたいわけでもなかった。
ただ、何も感じない時間を延ばしたかった。
復讐を終えた、という実感はなかった。
達成感も、解放感も、後悔もない。
あるのは、ぽっかりと空いたままの空白だけだった。
美咲のことを考えない日はなかったが、思い出に浸ることもなかった。
怒りも、悲しみも、もう形を失っていた。
残っているのは、戻れないという事実だけだ。
そんな日々が、どれくらい続いたのか分からない。
ある夜、部屋の静寂を切り裂くように、スマートフォンが震えた。
画面に表示された名前を見て、佐々木は一瞬だけ動きを止めた。
——藤井。
美咲の父親だった。
出るべきかどうか、迷った。
逃げたい気持ちと、逃げられない気持ちが同時に湧き上がる。
数秒後、佐々木は通話ボタンを押した。
「……はい」
返事をした自分の声は、驚くほど平坦だった。




