-12- 私刑
朝山太陽は、指定されたファミリーレストランの駐車場に立っていた。
夜風が生ぬるく、ネオンの光がやけに白く見えた。
——あれ。
ここ、前にちょっとだけ働いてた店じゃなかったか。
そう思ったのは一瞬だった。
もう何年も前のことのように感じられたし、特別な感情も湧かなかった。
周囲には、同じように所在なさげな人間が集まっていた。
無言の男、落ち着きなく歩き回る男、目を伏せたままスマホをいじる男。
どこか社会からこぼれ落ちた匂いがする連中ばかりだ。
その中に、ひとりだけ異質な男がいた。
背筋が伸びていて、服も小綺麗で、顔立ちも整っている。
こんな場所にいる人間には見えなかった。
——なんだあいつ。
そう思ったが、それ以上興味は湧かなかった。
店のシャッターが下りる音がした。
それを合図に、群れが一斉に動き出す。
朝山も流れに押されるように店内へ入った。
すでに、ひとりの女が囲まれていた。
太っていて、化粧が崩れ、怯えたように目を泳がせている。
「人殺し」
誰かがそう叫んだ。
次の瞬間、卵が飛んだ。
殻が割れ、黄身が女の髪と制服にべったりと張りつく。
「最低だな」
「よく平気で生きてられるな」
罵声が重なり、卵がまた飛ぶ。
女は声にならない声を上げ、両手で顔を覆った。
朝山は、少し離れた場所からそれを見ていた。
胸がざわついたが、足は動かなかった。
——殴るんじゃないんだな。
そんな、どうでもいい感想が浮かぶ。
そのときだった。
人垣の隙間から、ひとりの男が前に出た。
男は無言で、女に液体をぶちまけた。
透明で、ただの水のように見えた。
次の瞬間、女が悲鳴を上げた。
「ぎゃあああああっ!」
女は顔を押さえて床に転がり、のたうち回った。
意味の分からない言葉を叫び、足をばたつかせる。
——ああ、毒か。
朝山はそう理解した。
誰かがやった、という事実だけが頭に残った。
誰が、なぜ、という問いは浮かばなかった。
周囲の人間が一斉に後ずさる。
さっきまでの熱が、嘘のように引いていく。
朝山も、流れに逆らわず出口へ向かった。
振り返らなかった。
外に出ると、冷たい空気が肺に入った。
心臓が少しだけ早く打っている。
——仕事、終わりか。
それだけだった。
ふと、さっきの異質な男の姿を探したが、もう見当たらなかった。
あの男が何を考えていたのか、朝山は知らない。
知ろうとも思わなかった。
朝山はポケットからスマホを取り出し、
報酬の振込予定日を確認しながら、何事もなかったように歩き出した。




