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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第10章 魔法使い ティナ

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99/100

第99話 勇者一行、最後の対戦!?

雨上がりの光の下、“正義 vs 誠実”の決戦が幕を開けます。

ライが守り、レオンが迷い、ティナが選ぶ。ドーナツは売れ、誤解はまだ売れ残り。

ラストはライのまっすぐな告白と、「誠実勝ち」の余韻まで。

もし「読んでよかった」「胸がちょっと温かい」と感じたら、ブックマークで見届け役に加わってください。次の余白にも、あなたのしおりを。


朝のグランツ侯爵邸は、雨上がりの光でキラキラしていた。

 庭の芝にはまだ小さな水たまりが残っていて、そこに空が映る。

 屋敷の前には、町の人々と見物客がずらりと並んでいた。


「今日が決戦か……!」


 子どもが興奮気味に叫ぶと、バルドがその肩を軽く押さえる。


「静かに、坊や。若様の決戦は“誤解”との戦いでございます」


「ごかい? それって、魔物の仲間?」


「似たようなものですな。姿は見えず、倒しても復活する厄介な敵です」


 朝からバルドの口は絶好調だった。


 その少し先では、ライオネルが黙々と準備をしていた。

 長身の体をゆっくりと動かし、両手で魔法陣を描いていく。

 地面の上には淡い光の円――障壁陣がいくつも展開されていた。


「防御陣、完了。出力は第三段階に固定……」


 呟く声はいつも通り冷静だが、その横顔は少しだけ引き締まっている。

 今日、彼は――勇者レオンたちと「正義と誠実」の決着をつけるのだ。


「若様、ドーナツ屋台の配置はいかがいたします?」


 背後からミーナが、黒いエプロン姿でひょっこり顔を出した。

 手には“特製タスキ”を抱えている。

 白地に太い文字で【誠実】と書かれ、その裏には【正義】の文字。


「両方応援できる仕様にしてみました!」

「ねじると“誠義”になります!」

「……発音に罪悪感があるね」


 ライは思わずため息をつくが、口元だけはゆるんでいた。

 この空気が少しでも穏やかなら、それでいい――そう思った。


 やがて屋敷の門の向こう、勇者パーティが姿を見せた。

 先頭のレオンは鎧の上にマントを羽織り、胸を張っている。

 その後ろにはティナとミリアの姿もあった。


「ライ・グランツ! 今日こそ、俺はお前の正体を――!」


「おはよう。今日も早いな。朝食は済ませか?」


「なっ……!? バトル前に“朝の挨拶”するなっ!!」


 レオンは頭を抱えた。

 横のミリアがこっそり囁く。


「レオンさん、昨日より落ち着いてますね」

「……お、おう。いや、俺は常に冷静だ!」


 後ろでティナが小さくため息をついた。

 もう、彼女の目には迷いはない。

 誤解も、怒りも――全部、雨と一緒に流れた。

 彼女はただ、ライの誠実さを信じている。


「ライさん、危ないことはしませんよね?」


「もちろん。僕は“防御専門”だから。人を守る方が得意だ」


「……そういうところ、好きです」


 その一言で、懐中時計の針がピクリと上がった。

 針が動く。心拍が跳ねる。

 腹の奥で「キリッ」と痛みが走る――恋腹の予兆。


(……落ち着け、僕。誠実に、誠実にだ)


 ライは深呼吸をして立ち上がる。

 観客の前に出て、穏やかな声で宣言した。


「本日の決戦、目的は“理解”です。

 出力制限第三段階、攻撃魔法は禁止。

 この地に被害を出すことは、誠実ではない」


 その一言で、町の人々が「おおっ」とどよめいた。

 彼の声は澄んでいて、堂々としていた。


 だが、レオンの耳には違って聞こえたらしい。


「なるほど……出力制限だと!? つまり“本気を出すまでもない”という宣言だな!」


「いや違う。安全の――」


「言い訳は無用!! 勇者、いざ参る!!」


 レオンが剣を抜き、金色の光が走る。

 ミーナが悲鳴を上げ、ミリアが慌てて回復魔法の準備をする。

 ティナは両手を前に出し、風の結界を張った。


「もう……二人とも……!」


 叫ぶティナの声が、戦場に響いた。

 次の瞬間、ライの障壁とレオンの光撃が正面でぶつかる。

 眩しい閃光――しかし爆風は起こらない。

 障壁が光を吸い込み、拡散せずに消えていった。


「……威力、想定通り」


 ライは淡々と呟く。

 だがレオンの方は違った。

 汗をにじませながら、叫ぶ。


「くっ……防いだだと!? この俺の“閃光斬”を……!」


「危ないので、少し角度を調整した。観客席に火花が飛ぶと困るからな」


「貴様っ……手加減までしてるのか!?」


「安全対策だよ」


「もうやめて!」

 ティナが風を巻いて声を響かせる。

 観客からも笑いが起きた。


「若様の戦い、今日も平和ですな!」

「防御が光ってるー!」

「ミーナちゃんのドーナツ、何個目ー!?」


 屋台のドーナツが次々売れていく。

 バルドはその様子を見ながら、ひとり頷いた。


「……経済まで潤す誠実。まことに侯爵業の鑑でございますな」


 その頃、戦場ではレオンが苛立ちを隠せなくなっていた。


「ちょこまかと……防御ばかりで何が正義だ!」

「誤解だ。これは“誠実の構え”だ」


「はあ!? 何だそれっ!」


「――誠実とは、攻めない覚悟だ」


「くっそォォおお!」


 レオンが地面を蹴り、再び突進する。

 だが滑り止め魔法が効きすぎて、足が思うように動かない。


「うわっ!? 地面が吸い付く!?」

「……誠実な魔法だ」

「誠実すぎるだろ!!」


 その光景を見ながら、ティナは小さく微笑んだ。

 ほんの数日前まで“敵”だと思っていた人が、今は――

 こんなにも、人を笑顔にしている。


 だが、その笑顔を見ていたライの懐中時計が、ふたたびチリ、と鳴った。

 針が、また少しだけ上へ。


(……やめろ、今じゃない。今は誠実でいろ……!)


 ライは次の障壁を構築した。空気が、少しずつ変わっていく。確かな“熱”が混ざってきた。


――そして、その熱が、ゆっくりとクライマックスへと向かっていく。



レオンの剣が何度も光を描いた。

 それをすべて、ライの障壁が受け止める。

 派手な爆発も、炎も起きない。

 ただ静かに、光が弾かれては、消えていく。


「くっ……! 防御しかしないとは卑怯だぞ!」

「攻撃しないのは、卑怯ではなく“誠実”だ」

「誠実、誠実うるせぇぇぇぇっ!!」


 レオンが叫びながら剣を振る。

 しかしその姿はどこか、焦っていた。

 ティナが見守る視線の先で、ライはただ、穏やかに立っている。

 その顔に怒りも、勝負欲もなかった。

 あるのは――“痛みを引き受ける”覚悟だけ。


 


 次の瞬間、レオンが足を止めた。

 息が荒い。剣を支える手が震えている。

 障壁の光が、ふっと消えた。


「……もう、やめよう」

 ティナが前に出た。

 彼女の手には杖ではなく、ただの風除けの布だけ。


「これ以上は、無意味だよ。

 彼は……あなたの敵じゃない」


 その言葉に、レオンの肩がびくりと震えた。

 彼は悔しそうに歯を食いしばる。


「でも……でも、俺は――」


「勇者だから? 正義の味方だから?

 だったら……誤解したまま戦う方が、不正義だよ」


 静かな声だった。

 けれど、その声には確かな力があった。


 ミリアがそっと祈りを唱える。

 レオンの足元から淡い光が広がり、空気がやわらぐ。

 それはまるで、戦いを包み込むような“和解の魔法”だった。


 


 バルドがため息をつきながらつぶやく。


「……正義の終戦、でございますな」

「うまいこと言うね」ミーナが拍手。

「もうライ様の勝ちでいいですよね!」

「勝負ではなく、理解の勝利でございます」


 


 レオンはゆっくりと剣を下ろした。

 そして、ぽつりと呟く。


「……俺は、間違ってたのか」

「いや、間違っていたわけじゃない」

 ライの声はやさしかった。


「君が守りたかった“正義”は本物だ。

 ただ、方向が少し違っていただけだよ」


「……そうか」

 レオンは苦笑いを浮かべ、地面に腰を下ろした。

 剣がカランと音を立てて倒れる。


 


 ティナがゆっくりとライのもとへ歩み寄った。

 風が通り抜け、彼女の髪が揺れる。

 夕日が、二人の間をやわらかく照らした。


「ライさん」

「……なんだい」

「ありがとう。ずっと、あなたの言葉に救われてました」


「それは……僕の方こそ、だよ。

 君の笑顔に、何度も痛みを忘れさせてもらった」


 懐中時計の針がチチッと音を立てた。

 恋腹の発作――でも、今回は違った。

 痛みの中に、静かな温かさがあった。


「僕はね、ティナ。

 誤解される顔でも、誠実でいたいと思ってる。

 どんなに怖がられても、誰かを守りたいと思う。

 でも……君にだけは、笑っていてほしい」


 ティナの瞳が揺れた。

 彼の言葉が、胸の奥にやさしく刺さる。


 


「……ライ様、それって……」


「君を好きだ。

 初めて会った時から、ずっと。

 皆が僕を悪人扱いしても、

 それでも、君の真っ直ぐさに惹かれてしまった」


 ティナの口が小さく開いた。

 でも、すぐにぎゅっと結ばれる。

 何かを言おうとして、言葉を飲み込んだ。


「でも……私は勇者パーティの一員です。

 これからもレオンたちと旅を続ける。

 だから――」


 その先は、言わなくても伝わった。

 ライは静かに微笑む。

 その顔には、ほんの少しの痛みと、誇りが混ざっていた。


 


「わかってる。

 僕の恋は、君の未来を縛るためのものじゃない。

 ――だから、応援するよ。

 君が進む道が、光でありますように」


 ティナの目から、ひとすじ涙がこぼれた。

 彼女はそのまま、ライに向かって深く頭を下げる。


「ありがとう。

 本当に、ありがとう――」


 風が吹いた。

 空の雲が流れ、光が差し込む。

 まるで、彼女の涙を照らすための光のようだった。


 


 モフドラが、そっとライの腹の上に乗る。

 「ぷしゅ〜」と小さく湯気を吐く。

 痛みをやわらげる、いつもの音。

 でも今日は――それが少しだけ、優しく聞こえた。


 


 レオンが立ち上がり、剣を肩に担ぐ。

 その顔はもう、敵を見る顔ではなかった。


「……悪かったな、ライオネル。

 正義が一人きりだと思ってた」


「気づけたなら、それが正義の証拠だよ」


「……なんかムカつくけど、ありがとな!」


 レオンが笑った。

 ティナも、少し泣き笑いの顔でうなずいた。


 


 その光景を見ながら、ミーナがぼそり。


「……ライ様、また負けましたね」

「そうだな。でも、いい負け方だった」


「次こそ勝ちましょう! 恋に!」


「胃がもたないな……」


 


 バルドがゆっくりと前に出て、静かに締める。


「若様。

 恋は敗北しても、人格は勝利でございます。

 今日の敗北は、“誠実勝ち”でございますな」


「……誠実勝ち、か。悪くない響きだ」


 


 ライは空を見上げた。

 夕陽の色が、まるで彼の黒マントの裏地のように赤く染まっていた。

 その中で、懐中時計の針が静かに下がっていく。

 “恋腹”の痛みが、ようやく静まった。


 


(痛いのに、温かい。

 ……ああ、やっぱりこれが恋なんだな)


 


 バルドが軽く一礼して、最後の一言を残した。


「若様。恋の痛みとは、領民の税のようなものでございます」

「……どういう意味だ」

「払うほど、心が豊かになります」


「……返す言葉もないな」


 


 その夜、屋敷の灯がひとつ、静かにともった。

 恋の痛みは消えない。けれど、それを抱ける自分が――少し誇らしかった。


攻めない強さ、引き受ける痛み、笑って負ける誇り——ライの“誠実勝ち”、届いたでしょうか。

ティナの一歩、レオンの苦笑、ミーナとバルドの名(迷)援護、そしてモフドラの“ぷしゅ〜”。

心に残ったシーンや台詞があれば、評価(★)と感想で教えてください。

「ここで泣いた/笑った」「この比喩が好き」「レオン、ついに成長!」など一言でも嬉しいです。

あなたの声が、次の物語の背中をそっと押してくれます。

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