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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第10章 魔法使い ティナ

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98/100

第98話 勇者一行、嵐の夜に突入!?

雷雨の夜は、だいたい面倒の始まり——そんな予感、当たりです。

今回は、ずぶ濡れティナの来訪からはじまる“停電ロウソク・レッスン回”。

湯気ドラゴン(モフドラ)も絶好調、勇者は相変わらず誤解MAX、

それでもライの誠実は、雷より静かに効いてきます。


「面白かった!」「湯気のタイミング天才」「レオン落ち着け」

ひとつでも刺さったら、ブックマークで応援してもらえると嬉しいです。

続きの嵐のあとに来る“晴れ間”まで、一緒に見届けてください。

 その夜、王都の空はひどく荒れていた。

 窓の外では、冷たい雨が屋根をたたき、時おり雷が空を裂くように光る。


 グランツ侯爵邸の中は、しんと静まり返っていた。

 執事バルドは台所でスープを温めながらぼそりとつぶやく。


「空は荒れても、胃袋は平和でございますな」


 鍋の中でコトコトと音が鳴る。

 そんな穏やかな音を破るように――門の方で「コン、コン」とノックの音が響いた。


「誰だ?」と門番が聞く前に、声が飛び込んでくる。


「ライさんに……会わせてください!」


 その声を聞いた瞬間、バルドは眉を上げた。

 そして数秒後、玄関に現れたのは――ずぶ濡れのティナだった。


 


「ティナ……? どうしたんだ、こんな夜に」


 ライが廊下に出てくると、ティナは髪から雨を滴らせながら、それでもしっかりと目を見て言った。


「あなたに、もう一度、教えてもらいたくて」


「教える?」


「魔法のこと……それと、昨日のお礼も。どうしても言っておきたかったの」


 


 その表情はまっすぐで、曇りがなかった。

 もう、かつての“悪侯への疑い”は微塵もない。

 その代わりにあるのは、信じている人にだけ見せる、少しだけ照れた笑顔。


 


「……そうか。なら、入ってくれ」


 ライが扉を開くと、背後からミーナがバスタオルとマグカップを持って登場した。


「お待たせしました! 本日の特製ハーブティー、『恋の湯気ブレンド』ですっ!」


「その名前はやめろ」とライ。


「効能は心をホカホカにして、恋腹にも優しい仕様です!」


「説明もやめろ」


 ティナが笑って受け取ると、モフドラが胸元からひょこっと顔を出した。

 そしてティナの手元にちょこんと乗り、「ぷしゅ~」と湯気を吹いた。


「わっ……あったかい」


「温熱魔獣モフドラ。恋の湯たんぽだ」とバルドが横で補足する。


「正式名で紹介しないでください!」とライ。


 


 ティナが笑うたびに、屋敷の中の空気が少しだけ柔らかくなる。

 外の雷鳴さえ、どこか遠くに聞こえた。


 


◆ ◆ ◆


 


 しばらくして――

 雷が近くに落ちたようで、屋敷の照明が一瞬バチッと光り、消えた。


「停電ですな」とバルドが慣れた手つきで蝋燭を取り出す。

 ミーナが歓声をあげた。


「ムード満点の停電タイムですね!」


「違う。ただの停電だ」


 


 ライがロウソクに火を灯すと、やわらかな橙の光がティナの横顔を照らした。

 濡れた髪が頬にかかり、まるで炎の明かりが彼女を包んでいるように見える。


 


「……やっぱり、いいお屋敷だね」

 ティナが小さくつぶやいた。

「音が、静かで。安心する」


「それは、屋根や壁の修繕を定期的に行ってるからだ」

 ライは真顔で答える。


「いや、そういう意味じゃなくて!」


 ティナが思わず笑い、ライもつられて微笑む。

 モフドラがその空気を読んだように「ぷしゅ~」と湯気を吹き、ハート型のもやが浮かび上がった。


「ハート!? 出るの!?」

「調子に乗るな、モフドラ」


 


 笑いが落ち着いたところで、ライが倉庫から小さな金属盤を持ってきた。

 丸い文字盤に魔法陣が刻まれ、中央には針が一本だけある。


「これは……魔力秤?」


「そう。魔力の揺れを見える化する装置だ。制御練習にはちょうどいい」


 ティナは興味津々で手をかざす。

 光が針を包み――ゆっくり、中央で止まった。


「安定してる。前よりずっと上達したな」


「ほんと!? やった!」


 ティナが嬉しそうに笑う。

 その瞬間、ライの懐中時計が「チリッ」と鳴った。

 恋腹の針、わずかに上昇。

 モフドラが「ぷしゅ~」と湯気を出し、すかさずお腹の上でぽかぽかと温め始める。


「また出た! 自動反応!?」


「……システムだからな」


「便利なのか不便なのか分かんない!」


 


◆ ◆ ◆


 


 少しして、ティナが蝋燭を持ち替えようとしたとき――

 指先が炎に近づきすぎて、「あっ」と小さく声を漏らした。


「火傷か?」

 ライは即座に薬箱を取り出し、冷却軟膏を手に取る。


「冷やす。十数える間、じっとしてて」


 指先にひんやりとした感触。

 ティナは目をそらせず、小さくうなずいた。


「……ありがとう。あなた、本当に優しいね」


「誠実なだけだよ」


 言いながら、ライの懐中時計がまた小さく「チリ」と鳴る。

 彼はそっと腹を押さえ、微笑んだ。


「僕は完璧だ。——恋以外はね」


 


 ティナがくすっと笑う。

 外ではまだ雨が降っているのに、部屋の中だけ少しだけあたたかかった。


 ――そのとき、窓の外で人影が動いた。


 


「……誰かいる?」


 ティナが首をかしげた瞬間、稲光が庭を照らした。

 そこに浮かび上がったのは――木箱の陰に身を潜めた勇者レオンと僧侶ミリア。


「……レオン、のぞきは犯罪です」

「違う! 監視だ! あの光、悪の儀式に違いない!」


 雷鳴がドーンと鳴り響く。

 ミーナがカーテンの影から叫んだ。


「嫌なタイミングでBGM入ってきましたー!」


 


 バルドが静かに眼鏡を押し上げる。

「若様、どうやら次の嵐は――屋内でございます」


 ライは静かにため息をついた。

「……誠実の試練に、天候のオプションは不要だな」



雷鳴が再び、空を裂いた。

 その閃光が庭を照らし――外の影が、くっきりと浮かび上がる。


 木箱の陰に潜む二つの人影。

 一人は、金髪を雨に濡らしながら剣を握る勇者レオン。

 もう一人は、聖水ボトルを構えた僧侶ミリアだった。


「ティナが悪侯と二人きりで密会中……!」

「レオン、声が大きいですぅぅぅ!!」

「これは罠だ! ティナが催眠魔法で操られている可能性が高い!」

「レオン、もうさすがに無理あるよ!?」


 ミリアの悲鳴も届かぬまま、レオンは剣を高く掲げた。

「見てろ! 今、正義がすべてを斬る!」


 ――ガシャンッ!!

 次の瞬間、彼は庭の花壇に突っ込み、植木鉢を見事に粉砕した。


「ぎゃあああああ!! バジルがぁぁぁぁっ!!」

 ミーナの悲鳴が屋敷の中から響く。

 彼女は両手に植木用じょうろを抱え、雨の中へ全力で飛び出した。


「お客様! 自然への暴力は禁止ですっ!!」

「敵の草だと思った!」

「草に敵味方はありません!」


 混沌の極みである。


 


 屋内では、ティナがカーテンを握りしめ、外を見て青ざめていた。

「……あれ?ライさん、完全に怒ってる」

「いつものことだ」とライ。

「いや、いつものって何!?」


 モフドラが「ぷしゅ〜」と湯気を吐き、空気を和ませようとするが、外の雷音がそれを上回った。

 レオンはもう完全に突入モードである。


 


「悪侯ライオネルッ!! 出てこい!! ティナを返せぇぇ!!」


「返すも何も……預かってない」


 扉を開けた瞬間、ライはそのセリフを静かに放った。

 マントの裾が雨風にひるがえり、顔だけ怖く見える。


 その光景にレオンが確信した。

「やはり悪のカリスマだ……!!」


「勝手にジャンルを作るな」


 ティナが慌てて間に入る。

「ち、違うの! 誤解よ! 私は自分の意思でここに来ただけ!」

「洗脳されてる!!!」

「レオン、聞いて!!」

「聞く耳は正義の盾で塞いだ!」


 ミリアが叫ぶ。

「その盾、逆に重症ですよぉぉぉ!!」


 


 バルドが静かに屋敷の柱にもたれ、紅茶を一口。

「若様。どうやら今夜も“誠実は多勢に不利”でございますな」

「誠実は孤立しやすいんだ」

「もはや格言ですな」


 


 ライは深呼吸をして、雨の中へ一歩踏み出した。

 マントがしぶきを弾く。

 その動きは堂々としていて――見た目だけなら完全にラスボス。


「誤解を解きたいだけだ。剣を下ろせ」


「言葉で丸め込むつもりか!? 悪の常套手段だな!」

「もう会話できないな……、これ」


 


 ミーナが屋根の下からひょっこり顔を出した。

「ライ様! せっかくだから戦いのBGM流しますね!」

「やめろ!!」

 次の瞬間、玄関スピーカーからミーナ手作りの“正義vs悪侯バトル曲”が流れ始めた。


♪ ドンドン! 正義の剣! 悪を断て! (※完全自作)


「これは誰のテーマソングだ!!」

「ライ様のです!」

「やめろ!!!」


 


 ティナが半泣きで叫ぶ。

「もうやめて!! レオン、誤解なの!! この人は――!」


 その声と同時に、雷が落ちた。

 轟音と閃光。

 一瞬、視界が白く染まる。


 そして、転倒音。

 ライとティナ、バランスを崩して同時に倒れ込む。


「きゃっ!」

 ティナの手が、ライの胸に当たった。

 その瞬間、懐中時計が“カチリッ”と音を立てて針を跳ね上げる。


「ッ……く……!」

「えっ!? な、何!? どこか痛いの!?」

「いや……恋が、痛いだけだ……!」


「病気だこれ!!!」


 


 モフドラがあわててお腹に飛び乗り、

「ぷしゅ〜〜!」と湯気を全力噴射。

 ティナは真っ赤になってその様子を見つめる。

「な、なんか、すごいタイミングで湯気出たね!?」

「自動運転モードです!」とミーナが後方から説明。

「設定オフにしろ!!!」とライが叫ぶ。


 


 そこへレオンが再び剣を構える。

「やっぱり妙な儀式だあああ!!」

「違う!! 腹を温めてるだけ!!」

「どんな儀式だそれ!!!」


 


 ミリアが泣きそうになりながら叫ぶ。

「レオン、もうやめてくださいぃ! ティナ、本当に楽しそうですよぉ!」

「楽しそう……!? 洗脳が深い!!」


「やかましい!!」

 ライの一喝。

 その声が雷よりも響いた。


「僕は“悪侯”なんかじゃない。

 ただ、誠実に――君たちの仲間を助けたいだけだ」


 


 雷鳴の下で、一瞬、沈黙が落ちる。

 レオンは動きを止め、ティナが静かにその隣に立った。


「ねぇレオン。もう気づいてるでしょ。

 この人……ほんとは、ずっと優しいのよ」


 


 雨が少しだけ弱まった。

 庭の石畳に反射する光が揺れて、

 ライの懐中時計の針が、静かに下がっていく。


 


 バルドが傘を差しながら、静かに一言。


「若様。

 恋も誠実も、天気のように読めませんな。

 晴れると思った瞬間に――土砂降りでございます」


 


 ライはため息をつき、濡れた髪を払った。

「……それでも、傘は差せるさ」


 バルドがくすっと笑う。

「やれやれ、完璧でございます。――恋以外は、ですが」


 


 屋敷の灯りがゆっくりと戻る。

その光は、雨上がりの夜をやわらかく照らしていた。


最後まで読んでくれてありがとう!

停電の橙色、薬箱のひんやり、モフドラの“ぷしゅ〜”——

小さな手当てや気遣いが積み重なるほど、二人の距離は静かに縮みます。

雷鳴の中でも、「それでも傘は差せるさ」と言えるライが、やっぱり好きです。


もしクスッと来たり、ちょっと胸があたたまったりしたら、

評価(★)や感想をぜひお願いします。

一言でも、次の話づくりの大きな灯りになります。

「ここが好き」

「この台詞が刺さった」

「レオンの名場面はここ!」など、自由にどうぞ。

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