第97話 勇者一行、恋成就おみくじで暴れる!?
王都は今日はお祭りムード!
恋も誤解も胃痛も入り乱れる「灯籠まつり」編、いよいよ開幕です。
完璧侯爵ライ様は、祭りの安全整備をするはずが……
なぜか「恋成就おみくじ屋台」に巻き込まれ、
勇者たちは勘違いを積み上げ、
そしてティナとの距離は、灯籠の灯りのように少しずつ近づいていきます。
笑いあり、ほろりあり、そして“湯気あり”の回。
読んで「面白い!」「ライ様が尊い!」「勇者、落ち着け!」と思った方は、
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あなたの一押しが、ライの“恋腹”と作者の“創作胃袋”を温めます。
王都の朝は、やけににぎやかだった。
大通りの角ごとに紙灯籠がぶら下がり、子どもたちが色とりどりの絵を描いて走り回っている。
年に一度の「灯籠まつり」。願いごとを書いた灯籠を川へ流す、庶民の大イベントだ。
屋台では焼き菓子の甘い匂い、鉄板のジュウジュウ音。
そしてその真ん中で、長身の青年が淡々と動線を調整していた。
「この屋台は三歩後ろへ。通路の幅を広げれば、転倒の危険が減ります」
「おお、さすがライ様だ!」
「火気は左側にまとめよう。風向きが南からだからね」
ライオネル・フォン・グランツ。
侯爵家の跡取りにして、この祭りの出資者でもある。
だが本人は偉ぶる様子もなく、まるで普通の町人のように汗を流していた。
「若様、こちら“恋成就おみくじ”屋台の設営が完了しました!」
ミーナが胸を張って現れる。後ろにはピンクの旗——でかでかと「恋が咲く屋台♡」の文字。
「……また派手な名前をつけたな」
「だって町の皆さん、恋がしたいって言ってましたもん!」
「僕の胃はすでに恋で痛いがな……」
「それは幸せの証ですっ!」
バルドが横から静かに口を挟む。
「若様の胃は屋台では売り物になりませんぞ。返品も不可でございます」
「返品できるなら助かるんだけどな……」
ライが苦笑すると、ミーナは「売れ筋になるのに!」と真剣にメモを取っていた。
その光景を見て、通りすがりの子どもがクスクス笑う。
侯爵家の若様は、町でもすっかり“腹痛の人”として親しまれていた。
――そのころ。
人混みの向こう側では、金髪の青年が露骨に眉をひそめていた。
剣を背負い、胸には「勇者」の紋章。名前はレオン。
「……見ろよティナ。悪侯が庶民の祭りで人気取りしてるぞ」
「人気取りじゃないよ。あの人、資金提供したって聞いたし」
「だからこそ怪しいんだ! 金で信頼を買うタイプだ!」
「理屈がめちゃくちゃだよレオン様!」
ミリアがチョコバナナを両手に持って叫ぶ。
「正義は糖分から!」
ティナは困ったように笑った。
彼女の視線の先で、ライが屋台主の老人と話している。
魔力供給がうまくいかない鉄板を前に、ライは冷静に指示を出した。
「導管を少し回して……そう、ここで火力を分散させれば安定します」
「おお! 助かった、さすがグランツ様!」
「無理な温度調整は危険だから、出力はこの範囲で固定を」
ライは丁寧に魔法陣を描き、屋台の鉄板を軽く叩いた。
青い光が走り、火力がちょうど良くなる。
観客から拍手が起こった。
その姿を見て、ティナの胸の奥にふと気持ちが浮かぶ。
(あの人……悪い人のわけないのに)
だがその横で、レオンは腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。
「ふっ、今のも自作自演だな。たぶん鉄板も彼の仕込みだ」
「えっ、どうやって?」
「悪い貴族はたいてい鉄板くらい仕込める!」
「それ、根拠ゼロですっ!」
ティナのツッコミが同時に入った。
――しばらくして。
屋台通りの真ん中で、ミーナがまた何か叫んでいた。
「おみくじ屋、はっじまるよーっ! 二人で引くと運命がわかるよーっ!」
手作り感満載の木札には、ミーナの丸っこい字でこう書かれている。
〈二人で引けば 恋がわかる♡〉
「……まさか」
ライの眉がピクリと動いた。
「まさかライ様、ティナさんと引く運命では!?」
「言わないで、ミーナ」
が、運命のいたずらというのは、えてしてミーナ経由でやってくる。
ちょうどその時、ティナが通りを歩いてきた。
偶然(?)にしては出来すぎていた。
「こんにちは、ライさん」
「……やあ、ティナ。祭りはお好きかな?」
「はい、とっても。……その、おみくじ、少し気になります」
ミーナの目が光った。
「出たー! 引く流れ! 空気読んでますー!」
バルド「ミーナ、空気は読むものであって、燃やすものではありませんぞ」
屋台の周りに、いつのまにか見物人が集まっていた。
町の人々は「若様と勇者の仲間が一緒に!?」とソワソワしている。
ミリアは遠くで「恋の風が吹いてます!」と旗を振っていた。
ライは観念して、木札を一枚引く。
ティナも同時に引いた。
結果は——
ライの札:「誠実」
ティナの札:「迷い」
ミーナがバン!と机を叩いた。
「きたぁぁーーー! これ絶対物語のタイトルになります!」
「うわあ、恥ずかしい……」ティナが顔を赤らめる。
懐中時計が「チリッ」と鳴った。
モフドラがライの肩で「ぷしゅ~」と湯気を出す。
バルド「恋腹、軽症でございますな」
そのタイミングで、レオンが人混みをかき分けて突入した。
「何をしている! ティナ、洗脳されるなっ!」
「洗脳じゃないです! おみくじです!」
「おみくじも悪用すれば呪具になるんだぞ!」
「なりませんっ!」
レオンがライを指さす。
「“迷い”だと? これは暗号だ! 悪の儀式の始まりだな!」
ライ「……どんな発想力だい、それは」
ミーナ「逆に尊敬しますね!」
屋台の周囲はすっかり大騒ぎ。
ティナが「もうやめて!」と慌てて間に入る。
ライはため息をつき、静かに言った。
「結果は結果。けれど、選ぶのは君だ」
ティナは目を瞬かせ、何も言えずにうなずく。
その姿を見てレオンはますます混乱し、ミリアは屋台の鐘をチンと鳴らした。
「はーい、今日の“恋と誤解セット”完売でーす!」
ライ「……完売したなら、せめて返品したい」
バルド「若様、返品不可でございます」
ざわめく人混みの中、笑い声と屋台の匂いが混じり合う。
その真ん中で、また一つ――誤解の花が満開になった。
祭りが夜の色に染まるころ、空には無数の灯籠が浮かびはじめた。
風にゆらめく光が、まるで星が地上に降りてきたように見える。
屋台のざわめきも少し落ち着き、笛の音が遠くで流れていた。
子どもたちは川沿いで願いごとを書き、灯籠をそっと流している。
グランツ侯爵家が支援したこの祭りのメイン――
「灯籠流し」。
人々は「願いが灯りとともに届く」と信じている。
そんな中、橋の上に二つの影が並んでいた。
ひとりはライ、もうひとりはティナ。
レオンとミリアは屋台に釣られて別行動中。ミーナは「恋の風、追跡開始!」とどこかへ消えていた。
「……静かですね」
ティナが呟いた。
川面には金と橙の光がゆらゆらと流れ、風が髪を揺らす。
「昼間があれだけ騒がしかったから、余計にそう感じるね」
ライは淡々と答える。
少し離れた場所でバルドが屋台の後始末をしており、彼らの会話に気づかぬふりをしていた。
「灯籠、流さないんですか?」
「僕は願いごとより、願いを叶える側でいたいんだ」
ティナが笑う。
「そういうところ、やっぱり“悪侯”っぽくないですね」
「……褒め言葉として受け取っていいのかな」
「もちろんです」
ティナの目が柔らかく細まった。
その瞬間、懐中時計がチリッと鳴る。
モフドラがライの胸元から顔を出し、「ぷしゅ~」と湯気を吹いた。
「わっ、出た! また湯気ドラゴン!」
「もう説明省略で済むくらい定着してるね……」
「ほんとにお腹痛いんですか?」
「恋腹というやつだ」
「……ネーミングが可哀想!」
ティナが思わず笑う。
だがその笑い方は、前よりもずっと優しかった。
「……でも、あなたは本当に優しい人ですね」
「優しさというより、性分かな」
ライは橋の欄干に手を置いた。
「人が困っているのを見過ごせない。それだけだ」
「ふふ。だから“誠実”なんだ」
その言葉に、ライの心拍がほんの少しだけ跳ねた。
懐中時計の針がチチチッと上がり、モフドラが「ぷすぷす」と湯気を出す。
ティナが首をかしげる。
「……針、動いてません?」
「風のせいだ」
「いや、機械式ですよね?」
「風のせいだ」
「……便利な言い訳ですね」
「完璧さを守るには、少しの誤魔化しも必要だ」
「ふふっ」ティナが吹き出す。「やっぱりあなた、おかしいです」
「それは褒め言葉?」
「もちろん。面白い人って意味です」
懐中時計が「チリッ」と反応。
ライは小さく腹を押さえた。
「……胃が笑ってる」
「それ、笑う場所ちがいます!」
ティナは思わず突っ込み、二人の間に笑いが広がる。
だがその明るさの裏で、ティナの目の奥に一瞬だけ影が落ちた。
「……ねえ、ライさん」
「なんだい?」
「レオンたち、きっとまた旅に出ると思うんです。私も一緒に」
「そうだろうね。勇者の旅は止まらない」
「……だから、今日が最後かもしれないなって思って」
ライは静かに頷いた。
風が吹き抜け、灯籠の光が二人の頬を照らす。
「僕は、出会いに期限があるのを悪いことだとは思わない」
「え?」
「終わるものは、終わるまでの間にどれだけ誠実でいられたかで意味が決まる」
ティナはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「あなた、やっぱり変わってる」
「顔もだな」
「それは自覚あるんですね」
「悲しいほどに」
二人は同時に笑った。
そして、ティナは懐から小さな紙灯籠を取り出す。
「これ、さっき書いたんです」
「願いごとか?」
「はい。……“人を正しく見られますように”」
ライは少し目を見開いた。
「……いい願いだ」
ティナは川へ灯籠を流す。
炎がふわっと揺れて、金色の光が水面に広がった。
その光が、ライの顔をやさしく照らす。
眉の角度も、鋭い目も、その瞬間だけはやわらかく見えた。
「……悪人には見えないな」
ティナが小さくつぶやく。
「その言葉、レオン殿にも聞かせたいところだ」
「無理ですね、耳が正義でふさがってます」
「それはもう病気だな」
ふたりは笑った。
だが、その笑いの裏では——
屋台の向こうでレオンが拳を握りしめていた。
「ティナ……! 闇の光に飲まれかけている!」
ミリア「どこが?」
レオン「目がキラキラしてる! それは恋の呪いだ!」
ミリア「純粋に照れてるだけな気もするなぁ……」
バルドが横から現れ、紅茶片手に一言。
「勇者様、恋と呪いの違いは“自覚”でございます」
「な、なんと哲学的……! だが悪の手先に見える!」
「哲学まで悪認定とは、忙しい正義ですな」
ミーナが走ってきて、パンフレットを掲げる。
「やばいです! 勇者様が川に突っ込みそうです!!」
「どういう流れ!?」
「正義の滝行らしいです!!」
ばしゃああああああああん!!
盛大な水しぶき。
川の灯籠が見事に散って、周囲の観客がどっと笑った。
ティナが叫ぶ。
「レオン! 願いごと、全部流れていくよ!!」
「くっ……正義は流されても、沈まない……!」
「沈んでますよー!!」
ミリアとミーナが救出に走り、バルドは冷静にタオルを用意する。
ライは橋の上で肩をすくめた。
「……今日も平和だ」
「ほんとに。あなたの周り、ずっとこんな感じですね」
「誠実は騒がしいらしい」
モフドラが「ぷしゅ~」と湯気を吹いた。
まるで「平和確認」の合図のように。
やがて夜が深まり、祭りの喧騒が静まっていく。
灯籠は少しずつ遠くへ流れ、光が星のように滲んでいった。
ティナは小さくつぶやいた。
「……誠実と迷い、か」
ライが振り返る。
「え?」
「おみくじ。あの結果、たぶん、間違ってません」
「君は迷っていると?」
「うん。でも……その迷いが、少しあたたかい気がします」
「それなら、いい迷いだ」
ライが微笑むと、懐中時計が“チリッ”。
モフドラが胸元で「ぷしゅ〜」と湯気を吹いた。
ティナが笑って言う。
「……あったかいの、伝わってきました」
その光景を見ながら、バルドがそっと紅茶をすする。
「若様。恋も祭りも、終わる頃がいちばん眩しゅうございますな」
「……胃も、ね」
「ええ。恋と消化は、どちらも誠実に時間をかけるものでございます」
川面の灯りがゆっくりと流れていく。
それはまるで——誤解の中にも灯る、ほんの小さな信頼の光のようだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は「灯籠まつり」という穏やかな舞台で、
ライとティナの関係が少しずつ変わりはじめる回でした。
「誠実」と「迷い」――おみくじの結果のように、
二人の距離はまっすぐではないけれど、
その迷いこそが温かく、物語を照らしていくのかもしれません。
そしてレオン様。毎回ながら、あなたの正義は物理です。
川に飛び込む勇者、湯気を吹くドラゴン、
祭りを走り回る侍女と執事……胃薬が足りません。
もし少しでもクスッと笑えたり、
最後の灯籠の場面で「いい話だな」と感じてもらえたら、
ぜひ評価(★)や感想をいただけると嬉しいです!
あなたの言葉が、次の“恋と誤解と湯気”を灯します。




