表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第10章 魔法使い ティナ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/100

第97話 勇者一行、恋成就おみくじで暴れる!?

王都は今日はお祭りムード!

恋も誤解も胃痛も入り乱れる「灯籠まつり」編、いよいよ開幕です。


完璧侯爵ライ様は、祭りの安全整備をするはずが……

なぜか「恋成就おみくじ屋台」に巻き込まれ、

勇者たちは勘違いを積み上げ、

そしてティナとの距離は、灯籠の灯りのように少しずつ近づいていきます。


笑いあり、ほろりあり、そして“湯気あり”の回。

読んで「面白い!」「ライ様が尊い!」「勇者、落ち着け!」と思った方は、

ぜひブックマークで応援してください!

あなたの一押しが、ライの“恋腹”と作者の“創作胃袋”を温めます。

王都の朝は、やけににぎやかだった。


大通りの角ごとに紙灯籠とうろうがぶら下がり、子どもたちが色とりどりの絵を描いて走り回っている。

年に一度の「灯籠まつり」。願いごとを書いた灯籠を川へ流す、庶民の大イベントだ。


屋台では焼き菓子の甘い匂い、鉄板のジュウジュウ音。

そしてその真ん中で、長身の青年が淡々と動線を調整していた。


「この屋台は三歩後ろへ。通路の幅を広げれば、転倒の危険が減ります」

「おお、さすがライ様だ!」

「火気は左側にまとめよう。風向きが南からだからね」


ライオネル・フォン・グランツ。

侯爵家の跡取りにして、この祭りの出資者でもある。

だが本人は偉ぶる様子もなく、まるで普通の町人のように汗を流していた。


「若様、こちら“恋成就おみくじ”屋台の設営が完了しました!」

ミーナが胸を張って現れる。後ろにはピンクの旗——でかでかと「恋が咲く屋台♡」の文字。


「……また派手な名前をつけたな」

「だって町の皆さん、恋がしたいって言ってましたもん!」

「僕の胃はすでに恋で痛いがな……」

「それは幸せの証ですっ!」


バルドが横から静かに口を挟む。

「若様の胃は屋台では売り物になりませんぞ。返品も不可でございます」


「返品できるなら助かるんだけどな……」


ライが苦笑すると、ミーナは「売れ筋になるのに!」と真剣にメモを取っていた。

その光景を見て、通りすがりの子どもがクスクス笑う。

侯爵家の若様は、町でもすっかり“腹痛の人”として親しまれていた。


――そのころ。


人混みの向こう側では、金髪の青年が露骨に眉をひそめていた。

剣を背負い、胸には「勇者」の紋章。名前はレオン。


「……見ろよティナ。悪侯が庶民の祭りで人気取りしてるぞ」

「人気取りじゃないよ。あの人、資金提供したって聞いたし」

「だからこそ怪しいんだ! 金で信頼を買うタイプだ!」

「理屈がめちゃくちゃだよレオン様!」

ミリアがチョコバナナを両手に持って叫ぶ。

「正義は糖分から!」


ティナは困ったように笑った。

彼女の視線の先で、ライが屋台主の老人と話している。

魔力供給がうまくいかない鉄板を前に、ライは冷静に指示を出した。


「導管を少し回して……そう、ここで火力を分散させれば安定します」

「おお! 助かった、さすがグランツ様!」

「無理な温度調整は危険だから、出力はこの範囲で固定を」


ライは丁寧に魔法陣を描き、屋台の鉄板を軽く叩いた。

青い光が走り、火力がちょうど良くなる。

観客から拍手が起こった。


その姿を見て、ティナの胸の奥にふと気持ちが浮かぶ。


(あの人……悪い人のわけないのに)


だがその横で、レオンは腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。

「ふっ、今のも自作自演だな。たぶん鉄板も彼の仕込みだ」

「えっ、どうやって?」

「悪い貴族はたいてい鉄板くらい仕込める!」

「それ、根拠ゼロですっ!」


ティナのツッコミが同時に入った。


――しばらくして。


屋台通りの真ん中で、ミーナがまた何か叫んでいた。

「おみくじ屋、はっじまるよーっ! 二人で引くと運命がわかるよーっ!」

手作り感満載の木札には、ミーナの丸っこい字でこう書かれている。

〈二人で引けば 恋がわかる♡〉


「……まさか」

ライの眉がピクリと動いた。

「まさかライ様、ティナさんと引く運命では!?」

「言わないで、ミーナ」


が、運命のいたずらというのは、えてしてミーナ経由でやってくる。

ちょうどその時、ティナが通りを歩いてきた。

偶然(?)にしては出来すぎていた。


「こんにちは、ライさん」

「……やあ、ティナ。祭りはお好きかな?」

「はい、とっても。……その、おみくじ、少し気になります」


ミーナの目が光った。

「出たー! 引く流れ! 空気読んでますー!」

バルド「ミーナ、空気は読むものであって、燃やすものではありませんぞ」


屋台の周りに、いつのまにか見物人が集まっていた。

町の人々は「若様と勇者の仲間が一緒に!?」とソワソワしている。

ミリアは遠くで「恋の風が吹いてます!」と旗を振っていた。


ライは観念して、木札を一枚引く。

ティナも同時に引いた。


結果は——


ライの札:「誠実」

ティナの札:「迷い」


ミーナがバン!と机を叩いた。

「きたぁぁーーー! これ絶対物語のタイトルになります!」

「うわあ、恥ずかしい……」ティナが顔を赤らめる。


懐中時計が「チリッ」と鳴った。

モフドラがライの肩で「ぷしゅ~」と湯気を出す。

バルド「恋腹、軽症でございますな」


そのタイミングで、レオンが人混みをかき分けて突入した。

「何をしている! ティナ、洗脳されるなっ!」

「洗脳じゃないです! おみくじです!」

「おみくじも悪用すれば呪具になるんだぞ!」

「なりませんっ!」


レオンがライを指さす。

「“迷い”だと? これは暗号だ! 悪の儀式の始まりだな!」

ライ「……どんな発想力だい、それは」

ミーナ「逆に尊敬しますね!」


屋台の周囲はすっかり大騒ぎ。

ティナが「もうやめて!」と慌てて間に入る。

ライはため息をつき、静かに言った。


「結果は結果。けれど、選ぶのは君だ」


ティナは目を瞬かせ、何も言えずにうなずく。

その姿を見てレオンはますます混乱し、ミリアは屋台の鐘をチンと鳴らした。


「はーい、今日の“恋と誤解セット”完売でーす!」


ライ「……完売したなら、せめて返品したい」

バルド「若様、返品不可でございます」


ざわめく人混みの中、笑い声と屋台の匂いが混じり合う。

その真ん中で、また一つ――誤解の花が満開になった。


祭りが夜の色に染まるころ、空には無数の灯籠が浮かびはじめた。

風にゆらめく光が、まるで星が地上に降りてきたように見える。


屋台のざわめきも少し落ち着き、笛の音が遠くで流れていた。

子どもたちは川沿いで願いごとを書き、灯籠をそっと流している。


グランツ侯爵家が支援したこの祭りのメイン――

「灯籠流し」。

人々は「願いが灯りとともに届く」と信じている。


 


そんな中、橋の上に二つの影が並んでいた。

ひとりはライ、もうひとりはティナ。

レオンとミリアは屋台に釣られて別行動中。ミーナは「恋の風、追跡開始!」とどこかへ消えていた。


 


「……静かですね」

ティナが呟いた。

川面には金と橙の光がゆらゆらと流れ、風が髪を揺らす。


「昼間があれだけ騒がしかったから、余計にそう感じるね」

ライは淡々と答える。

少し離れた場所でバルドが屋台の後始末をしており、彼らの会話に気づかぬふりをしていた。


「灯籠、流さないんですか?」

「僕は願いごとより、願いを叶える側でいたいんだ」


ティナが笑う。

「そういうところ、やっぱり“悪侯”っぽくないですね」


「……褒め言葉として受け取っていいのかな」


「もちろんです」

ティナの目が柔らかく細まった。


その瞬間、懐中時計がチリッと鳴る。

モフドラがライの胸元から顔を出し、「ぷしゅ~」と湯気を吹いた。


「わっ、出た! また湯気ドラゴン!」

「もう説明省略で済むくらい定着してるね……」

「ほんとにお腹痛いんですか?」

「恋腹というやつだ」

「……ネーミングが可哀想!」


ティナが思わず笑う。

だがその笑い方は、前よりもずっと優しかった。


「……でも、あなたは本当に優しい人ですね」

「優しさというより、性分かな」


ライは橋の欄干に手を置いた。

「人が困っているのを見過ごせない。それだけだ」


「ふふ。だから“誠実”なんだ」


その言葉に、ライの心拍がほんの少しだけ跳ねた。

懐中時計の針がチチチッと上がり、モフドラが「ぷすぷす」と湯気を出す。


ティナが首をかしげる。

「……針、動いてません?」

「風のせいだ」

「いや、機械式ですよね?」

「風のせいだ」


「……便利な言い訳ですね」


「完璧さを守るには、少しの誤魔化しも必要だ」


「ふふっ」ティナが吹き出す。「やっぱりあなた、おかしいです」

「それは褒め言葉?」

「もちろん。面白い人って意味です」


懐中時計が「チリッ」と反応。

ライは小さく腹を押さえた。


「……胃が笑ってる」

「それ、笑う場所ちがいます!」


ティナは思わず突っ込み、二人の間に笑いが広がる。

だがその明るさの裏で、ティナの目の奥に一瞬だけ影が落ちた。


「……ねえ、ライさん」

「なんだい?」

「レオンたち、きっとまた旅に出ると思うんです。私も一緒に」


「そうだろうね。勇者の旅は止まらない」


「……だから、今日が最後かもしれないなって思って」


ライは静かに頷いた。

風が吹き抜け、灯籠の光が二人の頬を照らす。


「僕は、出会いに期限があるのを悪いことだとは思わない」

「え?」


「終わるものは、終わるまでの間にどれだけ誠実でいられたかで意味が決まる」


ティナはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。

「あなた、やっぱり変わってる」


「顔もだな」

「それは自覚あるんですね」


「悲しいほどに」


二人は同時に笑った。

そして、ティナは懐から小さな紙灯籠を取り出す。


「これ、さっき書いたんです」

「願いごとか?」

「はい。……“人を正しく見られますように”」


ライは少し目を見開いた。

「……いい願いだ」


ティナは川へ灯籠を流す。

炎がふわっと揺れて、金色の光が水面に広がった。


その光が、ライの顔をやさしく照らす。

眉の角度も、鋭い目も、その瞬間だけはやわらかく見えた。


「……悪人には見えないな」

ティナが小さくつぶやく。


「その言葉、レオン殿にも聞かせたいところだ」

「無理ですね、耳が正義でふさがってます」

「それはもう病気だな」


ふたりは笑った。


だが、その笑いの裏では——


屋台の向こうでレオンが拳を握りしめていた。

「ティナ……! 闇の光に飲まれかけている!」

ミリア「どこが?」

レオン「目がキラキラしてる! それは恋の呪いだ!」

ミリア「純粋に照れてるだけな気もするなぁ……」


バルドが横から現れ、紅茶片手に一言。

「勇者様、恋と呪いの違いは“自覚”でございます」

「な、なんと哲学的……! だが悪の手先に見える!」

「哲学まで悪認定とは、忙しい正義ですな」


ミーナが走ってきて、パンフレットを掲げる。

「やばいです! 勇者様が川に突っ込みそうです!!」

「どういう流れ!?」

「正義の滝行らしいです!!」


ばしゃああああああああん!!


盛大な水しぶき。

川の灯籠が見事に散って、周囲の観客がどっと笑った。


ティナが叫ぶ。

「レオン! 願いごと、全部流れていくよ!!」

「くっ……正義は流されても、沈まない……!」


「沈んでますよー!!」


ミリアとミーナが救出に走り、バルドは冷静にタオルを用意する。

ライは橋の上で肩をすくめた。


「……今日も平和だ」

「ほんとに。あなたの周り、ずっとこんな感じですね」

「誠実は騒がしいらしい」


モフドラが「ぷしゅ~」と湯気を吹いた。

まるで「平和確認」の合図のように。


 


やがて夜が深まり、祭りの喧騒が静まっていく。

灯籠は少しずつ遠くへ流れ、光が星のように滲んでいった。


ティナは小さくつぶやいた。

「……誠実と迷い、か」


ライが振り返る。

「え?」


「おみくじ。あの結果、たぶん、間違ってません」


「君は迷っていると?」

「うん。でも……その迷いが、少しあたたかい気がします」


「それなら、いい迷いだ」


ライが微笑むと、懐中時計が“チリッ”。

モフドラが胸元で「ぷしゅ〜」と湯気を吹いた。


ティナが笑って言う。

「……あったかいの、伝わってきました」


 


その光景を見ながら、バルドがそっと紅茶をすする。

「若様。恋も祭りも、終わる頃がいちばん眩しゅうございますな」


「……胃も、ね」


「ええ。恋と消化は、どちらも誠実に時間をかけるものでございます」


 


川面の灯りがゆっくりと流れていく。

それはまるで——誤解の中にも灯る、ほんの小さな信頼の光のようだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は「灯籠まつり」という穏やかな舞台で、

ライとティナの関係が少しずつ変わりはじめる回でした。


「誠実」と「迷い」――おみくじの結果のように、

二人の距離はまっすぐではないけれど、

その迷いこそが温かく、物語を照らしていくのかもしれません。


そしてレオン様。毎回ながら、あなたの正義は物理です。

川に飛び込む勇者、湯気を吹くドラゴン、

祭りを走り回る侍女と執事……胃薬が足りません。


もし少しでもクスッと笑えたり、

最後の灯籠の場面で「いい話だな」と感じてもらえたら、

ぜひ評価(★)や感想をいただけると嬉しいです!

あなたの言葉が、次の“恋と誤解と湯気”を灯します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ