第96話 勇者一行!2夜連続の騒動!?
勇者一行、朝から絶好調(?)です。
ティナは誤解を解きに来ただけなのに、なぜか「洗脳された!」と叫ぶ勇者。
ミーナの“恋の湯気ニュース号外”も炸裂し、ライの胃とモフドラの湯気が限界突破!
……そんなドタバタから始まる今回の物語は、笑いと誠実が入り混じる“恋腹フルスロットル回”です。
読んで「続きが気になる!」「モフドラの湯気もっと!」と思ったら、
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あなたの一押しが、作者とライの“誠実ゲージ”を同時に回復させます。
朝の光が、グランツ侯爵邸の大食堂に差し込んでいた。
窓辺の白いカーテンがふわりと揺れ、テーブルの上の紅茶が小さく波を立てる。
穏やかな――はずの朝だった。
「ライ様ぁぁぁぁ!!」
侍女のミーナの叫びが、いつも通りの平和をぶち壊した。
手には一枚の紙。しかも、でかでかと“恋の湯気ニュース号外!”と書いてある。
「昨日の“お茶の時間デート”! 観測史上最高の湯気量を記録です!」
「観測してたのか」
バルド執事が即座に紙を回収する。
「ミーナ。館内報とは、秘密を守るためのものでございます」
「えっ、違いました!?」
ライオネル・フォン・グランツ――通称ライ。完璧な侯爵家嫡男であり、
恋愛だけ激しくポンコツな青年は、静かに紅茶を口にした。
「昨日はただの礼儀あるお茶の時間だった。それ以上でも以下でもない」
言葉は落ち着いている。
だが、懐中時計が“チチッ”と心拍を刻む音を鳴らした。
針がわずかに上がり、恋腹反応、軽度発症。
胸ポケットから顔を出した小竜――モフドラが「ぷしゅ〜」と湯気を吐く。
まるで「ご主人、また発症ですね」とでも言いたげだ。
「……モフドラ。黙っててくれ」
「ぷしゅ〜」
そんな穏やか(?)な朝食風景を破るように、
門番が血相を変えて飛び込んできた。
「若様っ! 門前に、勇者一行がっ!」
「またか」
「い、いえ、今回はさらに音量が……!」
◆ ◆ ◆
屋敷の門前では、勇者レオンが朝日を背に仁王立ちしていた。
金髪を逆光に輝かせ、胸を張り、両手を腰に当て――完全に“演説ポーズ”である。
「出てこい、悪の侯爵ライオネル! ティナを返せぇぇぇっ!!」
朝から町中に響く絶叫。
ちなみに“ティナ”とは、魔法使いの少女であり、勇者パーティーの一員。
昨日、謝罪に来ただけである。
だが勇者レオンは――そういう説明をまったく聞かないタイプだった。
「ティナは洗脳されている! 悪の香りがする館に囚われたんだ!」
「ちょ、ちょっとレオン!? 言いすぎ!」とティナ。
「洗脳じゃなくて、お茶しただけ!」
しかし隣の僧侶ミリアが、涙目で「レオン様、がんばって!」と声援を送る。
完全に“恋の三角関係ドラマ”の観客と化していた。
バルドが門上から静かに言った。
「若様。正義とは、早起きと同じで過ぎると体に悪いですな」
ライはため息をつきながら門へ歩き出す。
「レオン。僕は誰も洗脳していない」
「その冷静な声が洗脳っぽい!」
「なら、どうしろと言うんだ」
「うるさい! 見た目からして悪だ!」
レオンが剣を構える。
その瞬間、ライは右手を軽く上げた。
「――門前安全結界、展開」
光の壁が“ぽよんっ”と張られ、レオンの突進を弾き返す。
勇者はくるりと宙を舞い、地面の植木鉢に見事に突き刺さった。
「うわあああああああっ!!」
見事な頭からのダイブ。
ミーナが拍手を送りながら、
「今日の正義はソフトタッチ!」と評する。
バルドは紅茶を飲みながら、
「無害な戦いほど優雅ですな」。
顔を真っ赤にしたレオンが叫ぶ。
「う、うるさいっ! これは手加減だ! 本気を出せば悪の城など一撃で――!」
背後からティナの冷静な声が落ちた。
「前にも一撃で吹っ飛ばされたよね」
「……記憶の改ざんはやめてくれ!」
◆ ◆ ◆
しばらくの混乱ののち、ティナが一歩前に出た。
「レオン、もうやめよう。ちゃんと話せば――」
「ダメだ、ティナ! 悪侯は口がうまい!」
「……じゃあ、耳ふさいで話聞く?」
「それもダメだ!」
ミーナがパタパタと駆け寄り、「ならこれで!」と紙を広げた。
巨大な“仲良し作戦シート”である。
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【仲直り会議 in グランツ邸】
ルール①:怒鳴らない
ルール②:物を壊さない
ルール③:甘い物は食べていい
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「じゃーん! これでみんなハッピーです!」
ライは頭を押さえた。「またお前は……」
結局、全員が中庭の丸テーブルに集まることになった。
バルドがハート型のクッキーを配りながら言う。
「和解の象徴でございます。毒見は私が」
バルドが一枚かじる。
「……普通の小麦味ですな」
「くっ、洗脳クッキーめ……!」とレオンは震えながらも手に取る。
ティナがため息をついた。「もうやめてよ……」
ライは落ち着いた声で口を開く。
「まず、僕は誰も洗脳していない。ティナが来たのは、自分の意志だ」
「証拠を出せっ!」
「……証拠の意味を教えてくれ」
その時、遠くの鐘が鳴った。
町の非常鐘――「カーン、カーン」と低い音が響く。
「な、なんだ今の音は!?」
レオンが即座に構える。「悪の呼び出しベルだな!」
「いや違うから! 普通の非常ベルだから!」とティナがツッコむ。
「悪の城は非常ベルすら黒魔術で鳴るのだ!」
「どんな偏見!?」
バルドがメモを取りながら、「本日、勇者の誤解レベル:更新でございます」
ライは目を細め、静かに立ち上がった。
「……鐘の音は町の異変だ。僕が確認してくる」
「待て! 悪の現場を隠すつもりだな!?」
「行かないと住民が困る」
「なら俺も行く!」
「では同行して確認してくれ」
とライが言うと、レオンは得意げに腕を組んだ。
「よかろう。正義の監視付きで、悪の行動を見届けてやる!」
「つまり一緒に行くのね」とティナ。
「そういうことだ!」
ミーナが小声でバルドにささやく。
「これ……まさかの“デート同伴コース”では?」
「ええ。三人目が常に空気を読まぬのが、恋の邪魔役の基本です」
――こうして、また一つの誤解が爆誕したまま、
グランツ侯爵と勇者一行の“共同行動”が始まるのだった。
日が暮れ、王都の空が群青に染まりはじめた。
グランツ侯爵邸の窓には、ランプの明かりがひとつ、またひとつと灯っていく。
屋敷の中は静かだった――少なくとも表面上は。
しかしその裏で、ひとりの男が屋敷の外壁をよじ登っていた。
「……ふっ、正義のためなら多少の高所も恐れん!」
勇者レオンである。
彼は黒いマントをかぶり、なぜか頬に黒線を引いていた。完全に夜襲スタイル。
「ミリア、足元見張りを頼む!」
「えっ!? もうやめましょうよレオン様! 昨日も門に刺さったじゃないですか!」
「黙れ! あの悪侯がティナを――あぁ、考えるだけで怒りが爆発しそうだ!」
「……胃が爆発しそうなの間違いでは」
と、後ろで魔法使いティナがぼそっと言った。
実は彼女も“止めに来た”はずなのだが、もはや止まる気配がない。
ライオネル・フォン・グランツ。完璧すぎる侯爵家の跡取り。
正義感の塊・勇者レオンにとって、彼はどうしても“悪の象徴”に見えてしまう。
――顔が怖いから。
それだけである。
◆ ◆ ◆
一方そのころ、屋敷の書斎ではライが机に向かっていた。
魔道書を開き、町の結界修繕計画の設計図を引いている。
真剣そのものの横顔。
――が、その机の上に、なぜか“お菓子の山”があった。
「ミーナ、なぜ報告書の上にクッキーがある」
「差し入れですっ! “頭脳は糖分で動く”って書いてました!」
「書いたのは君だろう」
「ふふ、今日はティナ様も来てますし、甘い空気に糖分は必須ですよ!」
「……変な理屈を作るな」
ティナは隣のソファでおとなしく本を読んでいた。
落ち着いた時間。
あのドタバタ続きの日々からは想像できないほどの静けさだ。
「……ねえ、ライさん」
「なんだ?」
「あなたって、なんでそんなに人のために動けるの?」
「ん?」
不意の問いに、ライはペンを止めた。
「それは――僕が、“完璧”であるためだ」
「……完璧?」
「誰かを助けられなければ、自分の完璧が嘘になる。
嘘をつく自分は、たぶん一番嫌いなんだ」
ティナはしばらく黙って、少し笑った。
「……やっぱり、悪い人じゃないね」
その言葉が、ライの腹を直撃した。
懐中時計が“チチチッ”と激しく鳴り、針が一気に上昇。
「うっ……」
恋腹③、悶絶モード。
胸ポケットからモフドラが飛び出し、「ぷしゅ〜っ!!」と勢いよく湯気を吹く。
「えっ!? な、何これ!? 湯気がすごっ!?」
「落ち着け……。平常運転だ……」
「どんな運転!?」
ティナが慌ててモフドラを両手で包み、「あったかい……」と呟く。
その仕草にまた針が跳ね上がり、ライは机に手を突いた。
「ぐっ……モフドラ、温度を下げろ……っ」
「ぷしゅー(無理です)」
――と、その瞬間。
外から「開けろぉぉぉぉぉっ!!!」という絶叫。
ガンッと窓が開き、レオンが勢いよく転がり込んできた。
「ティナーー!!!」
「え、えええ!? なんで窓から!?」
「正義の夜襲だ!!!」
「うるさい! 常識への侵入だ!!」とライ。
レオンは床で転がりながら叫ぶ。
「見たぞ! 悪の儀式だな!? 湯気の怪しいドラゴンが飛び出した!」
「モフドラは湯たんぽだ……」
「そんな湯たんぽあるかぁぁぁっ!!」
ティナは頭を抱える。
「もうやめて、ほんとに誤解だから!」
「誤解? じゃあこの湯気は何だ!」
「恋の病です!」とミーナが勢いよく叫んだ。
「えっ!? 堂々と!? あれ病気だったの!?」
「違う! 恋腹という体質だ!」とライが即答。
「名前がもう病気!!!」とティナ。
完全にカオスだった。
バルドが静かに現れ、ロウソクを手にため息をつく。
「若様、夜の乱入者、二夜連続でございますな」
「予告なく来る勇者の習性だ。今度は罠でも張るか」
「その発想が既に悪の領域ですぞ」
床の上でレオンがふらふらと立ち上がり、剣を構えた。
「貴様、ティナを洗脳しているな……!」
「僕は紅茶を入れてただけだ」
「その紅茶に悪の香料をっ!」
「カモミールだ」
「落ち着くやつだ!」
ティナが堪らず声を上げた。
「もうやめてってば! ライさんは何もしてない!」
「ティナ……」
その一言に、ライの心拍針がまた震えた。
――恋腹②、再発。
「うっ……!」
「だからなんで今!?」
バルドが静かに手帳を開く。
「記録。若様、本日二度目の腹痛発作。原因:恋と誤解」
「やめろ…、書くな…、イタタ」
レオンはまだ納得していない様子で言った。
「……だが、ティナの表情が変わった。前の君とは違う」
「それは、私が自分で考えるようになったからよ」
「なっ……!」
静かな空気が流れる。
ティナの真剣なまなざし。
ライの懐中時計が、そっと一拍遅れて“チチッ”と鳴る。
バルドがぽつりと呟いた。
「若様。恋も正義も、燃えすぎると酸欠になりますぞ」
「……たしかに。息苦しい」
「ええ。胃の方も、もう限界のようで」
ミーナがティーポットを持って走り出す。
「落ち着きましょう! みんなでハーブティータイムですっ!」
――結果、深夜の乱入劇は「胃に優しいハーブ会」として幕を閉じた。
勇者はまだ「悪の証拠を掴む!」と叫んでいたが、
その口にクッキーを突っ込まれ、強制沈黙。
ティナは笑い、ライは少しだけ肩の力を抜いた。
「……騒がしい夜ほど、誠実の試練は多いな」
「はい。恋と胃薬は、セットでございます」
バルドの一言で、
夜の屋敷にようやく、静かな笑いが戻った。
゜
最後まで読んでくれてありがとうございます!
今回も、誤解→爆発→誤解→紅茶→恋腹→胃痛という、
完全に“安定のグランツ邸ループ”でしたね。
レオンは今日も窓を突き破り、ミーナは平然とニュース号外を配布し、
そしてライはまたひとつ、恋の痛みで強くなりました。
ティナの笑顔が少しやわらいだのが救いです。
「笑った!」「胃が心配」「恋腹って何度聞いてもツボ」
そんなふうに思ってもらえたら、ぜひ評価(★)と感想で教えてください!
あなたの一言が、次の“湯気と笑いと誠実”を生み出す原動力になります。




