第95話 勇者一行、悪侯邸で恋と誤解!?
勇者パーティの朝会議が修羅場、からの——ティナ、単独で“悪侯”邸へ。
紅茶と湯気と恋腹が入り混じる、胃に優しいのに胃にくるお茶会回です。
「続きも読みたい」「この二人の距離、見届けたい」と感じたら、ブックマークをそっと置いていってください。更新にすぐ気づけるし、作者のやる気ゲージとライの誠実ゲージが同時に上がります(レオンの誤解ゲージも少し上がるかも)。
朝の光が差しこむなか、勇者パーティの泊まった宿には重い空気が漂っていた。
テーブルの上にはパンの残骸と、何度も折られた地図。
そして、その真ん中で勇者レオンがティナをにらみつけていた。
「ティナ!悪侯ライオネルと夜に密会していただとぉ!!」
「それ、完全に誤報だから!!」とティナが慌てて立ち上がる。
「私、ただ眠れなくて散歩してたら……声をかけられただけ!」
「眠れぬ夜に悪の囁き、まさに洗脳の第一歩です!」と僧侶ミリア。
「ミリア、アナタまで信じないでーー!!」
ティナが頭を抱える横で、レオンは机をばんっと叩いた。
「よし! もう一度あの悪侯のもとへ行くぞ! 今度こそ正義で洗い流す!」
「いや、だから誤解だってば!」
レオンは正義感のかたまり。
だが、勢いだけで進むタイプでもある。
ティナはため息をつき、ミリアの方を見た。
「……もう、私が直接行って話してくるよ。ちゃんと謝りたいし」
「えぇ!? ひとりで!?」
「だって、あの人……悪い人じゃないもの」
その一言に、レオンの顔がみるみる青ざめた。
「ティナ、落ち着け! それが“洗脳の効果”というやつだ!!」
「うるさいなぁ! 行くだけだってば!」
結局、ティナの決意は固く。
ミリアは泣きそうな顔で「帰ってきたら報告書いてね……!」
レオンは剣を握りしめて「必ず戻ってこい、正義の仲間よ!」
「大げさすぎるってば!」と笑いながら、ティナは宿を出た。
◆ ◆ ◆
グランツ侯爵邸。
王都の外れ、白い石造りの立派な屋敷。
噂では「恐怖の悪侯が住む」とまで言われている場所だ。
だが門の前に立ったティナは、どこか拍子抜けしたように首をかしげた。
「……あれ? よく見ると思ったより、花が多い……」
庭の花壇は色とりどり。
小鳥が水盤で羽をばたつかせ、門番も優しく会釈してくる。
その瞬間――
ぱぁんっ!!と、どこからともなく紙吹雪が飛び出した。
「ようこそおいでませ〜! 恋のリベンジマッチへっ!!」
現れたのは、屋敷の侍女ミーナ。
肩までの明るい髪に、いつもの“暴走テンション”が輝いている。
手には“歓迎”と書かれた横断幕。ハートで縁取られていた。
「ちょ、ちょっと! 恋のって何ですか!?」
「安心してください! こちらの館では、恋と胃薬は常備品です!」
「意味わかんない!!」
ミーナがティナを引っ張って中へ案内する。
途中でバルド執事が現れ、穏やかな笑みで頭を下げた。
「若様、本日のお客様は“謝罪に来た魔法少女様”でございますな」
「変な肩書きにしないでください!!」
その声を聞きつけて、奥からゆっくりと足音が近づく。
背の高い青年――ライオネル・フォン・グランツ。
侯爵家の嫡男。
完璧超人、ただし顔が怖い。
「遠いところをご苦労。……昨日は騒がしかったな」
低いけれど落ち着いた声。
ティナは一瞬、言葉を失った。
「え、あ……いえ、こちらこそ、いろいろとすみません」
「気にすることはない。むしろ、勇者殿の体力に驚かされた」
「……そういう人なんです」
ライがわずかに口元をゆるめた。
そのわずかな笑みだけで、威圧感が一瞬やわらぐ。
――その時、ライの懐中時計が「チリッ」と音を立てた。
恋腹メーター、わずかに上昇。
胸元から顔を出したモフドラ(手のひらサイズの小竜)が、ぷしゅーと湯気を吹いた。
「わ、湯気!?な、なにそれ!?」
「……癖のあるペットだ。温度調整に使っている」 「ペットで温度調整!?」
ティナが笑うと、空気が少しやわらいだ。
バルドが横で小声でつぶやく。
「若様、笑いは恋の予兆でございます」
「やめろ」
◆ ◆ ◆
応接室に通されると、テーブルの上には紅茶と焼き菓子。
……そして壁一面に貼られた“誠実度診断チャート”。
「……なにこれ」
「以前の“婚活フェア”で使った装飾がそのままでして」とバルド。
「撤去してくれ」
ティナは苦笑しながらイスに座った。
「落ち着いた雰囲気ですね」
「うちの執事が“胃にやさしい空間づくり”を提案した結果だ」
「胃にやさしいって、なんか実感こもってますね……」
ミーナが紅茶を差し出す。
「こちら、恋に効くハーブティーです♡」
「ただのミント茶だ」とライが即訂正。
ティナは笑いながらカップを受け取った。
香りはほんのり甘く、温かかった。
「……昨日のこと、すみません。
勇者なのにがあんなこと言って……本当は、あなたに助けてもらってたのに」
「謝る必要はない。正義を信じるのは、悪いことじゃないさ」
その言葉に、ティナが少し驚いた顔をした。
「……そういう考え方、できるんだ」
「人は、自分の信じたものしか見えない。
だから僕は“信じられる側”でいようと思っているだけだ」
ティナの手が止まった。
目の前の“悪侯”が、まるで教本に載せたいくらいまっとうなことを言っていた。
「……悪人には聞こえないね、それ」
ふっと笑うティナ。
その瞬間――懐中時計がチチッと跳ねた。
モフドラ「ぷしゅ〜」と満足そうに湯気を吐く。
ライが小さくため息をついた。
「まただ……。どうやら、恋の神は僕の胃に宿っているらしい」
「いや、それは神じゃなくてドラゴンでしょ!」
ティナの笑い声が響く。
ライの顔がわずかに赤くなり、モフドラが再びぷしゅ〜。
温かい空気が、部屋いっぱいに広がった。
◆ ◆ ◆
廊下の外。
ミーナは双眼鏡でこっそりのぞきながら小声で報告。
「進展率、三割増し〜♡」
バルドが紅茶をすすりながらぼそっと返す。
「若様の恋路、観察対象から実験段階に入りましたな」
「どんな研究なんですか!?」
――恋の実験は、どうやら胃にくるタイプだった。
紅茶の香りが落ち着く頃、ティナはゆっくりとカップを置いた。
窓の外では、庭の噴水が小さく光を反射している。
静かで、やけに穏やかな時間だった。
「……こうして話してると、やっぱり思う」
ティナがぽつりと口を開く。
「あなた、本当に“悪侯”じゃないね」
「そう言われると、ちょっと救われるよ」
ライが静かに笑った。
その笑顔は柔らかく――けれど、どこか照れくさそうで。
懐中時計が“チチッ”と鳴る。
恋腹メーター、上昇中。
「……あれ? また鳴った」
「これは、感情の針だ。落ち着けば止まる」
「感情の……って、それ完全にラブメーターじゃん!」
「違う。これは……生命維持装置だ」
「どんな命運なんですか!?」
ティナのツッコミに、ライは小さく咳払いした。
「まあ……誤作動が多いだけだ」
「顔、真っ赤だけど?」
「温度上昇だ」
「体温計でもないでしょ!」
ティナが吹き出す。
その笑い声に、モフドラがぷしゅ〜と湯気を吐いた。
まるで「恋の蒸気機関」だった。
◆ ◆ ◆
そのころ――廊下の外。
「バルドさんっ! 見てください! 今、あの二人の間に“湯気の虹”が!!」
「若様の恋心、ついに可視化されましたな」
「ということは、実験成功ですっ!」
「恋の臨界点、まもなく突破でございます」
ふたりは扉のすぐ外で小声で盛り上がっていた。
だが、ミーナの声量が小声になっていない。
「よし! この流れで“恋愛BGM”を流しましょう!」
「なぜそうなる!」
次の瞬間――廊下のスピーカー(※ミーナ自作)がぶおんっと鳴った。
流れ始めたのは、なぜか軍隊行進曲。
「選曲!! 完全に違う!!」
ティナがびくっとしてカップを落としかけた。
「なんの戦い始まるの!?」
「……ミーナ、撤退だ」
「はいっ! 撤退曲流します!」
次に流れたのは悲しいバイオリン。
余計に意味深だった。
◆ ◆ ◆
笑いの余韻が少し収まったあと、ティナは真面目な顔になった。
「……ねぇ。どうして、そんなに優しくできるの?」
「うん?」
「人に誤解されても、怒らないし。
あんなに正義とか言われても、ちゃんと助けて。……普通、イヤにならない?」
ライは少しだけ考えてから、静かに答えた。
「昔、母に言われたんだ。
“綺麗は形じゃなく、与える安心だよ”って。
だから、誰かを安心させられる人でいたいんだと思う」
「……そっか」
ティナの瞳が、少しだけ揺れた。
“悪侯”と言われていた男が、いまはただの“優しい人”に見える。
胸の奥が、なぜかほんの少し温かかった。
「……変な人だね」
「よく言われる」
「ほんとに変な人」
「二回言ったな」
ふたりの間に、静かな笑い。
だが、笑った瞬間――ライの顔がピクリと強張った。
「っ……!」
腹を押さえて、眉が寄る。
「ちょ、ちょっと!? どうしたの!?」
「恋……いや、腹が……!」
「恋腹きたぁぁぁ!!」
ティナは慌ててモフドラを掴んでライの腹に乗せた。
モフドラ「ぷしゅ〜〜〜」
勢いよく湯気。
「熱い! ちょっと! 湯気量多くない!?」
「す、すまない……調整が……」
「これ完全に湯たんぽ暴走してるよ!?」
そこへミーナが駆け込んできた。
「湯気センサー反応ありっ! 恋腹発作レベル3確認っ!」
「実況するなっ!!」
バルドが手帳にさらさらと記録を取る。
「若様、本日の症状:恋により胃が沸騰。処方=冷静。」
「薬じゃないのかっ!?」
ティナは笑いをこらえながら、モフドラをなでた。
「ぷしゅ〜……おつかれ、ちびドラ」
「プシ(任務完了)」
ようやく落ち着いたライは、深呼吸して姿勢を戻す。
ティナが心配そうに覗き込んだ。
「本当に、大丈夫?」
「……ああ。恋の副作用だから、治療法がない」
「そんな病気やだよ!」
思わず笑うティナ。
その笑顔に、ライはまた腹を押さえた。
「……治療法が、増えた気がする」
「今のは何?」
「“笑顔で悪化”だ」
「重症じゃん!!」
◆ ◆ ◆
少しして――
ティナは立ち上がった。
「そろそろ行くね。長居してごめん」
「いや、こちらこそ。楽しかった」
「……楽しかった、か。私も、ちょっとね」
ティナの笑顔。
それを見た瞬間、懐中時計の針がふっと揺れた。
“チリッ”という小さな音。
モフドラが、静かに「ぷしゅ〜」と湯気を吹いた。
その湯気は、さっきよりもやわらかい。
ティナが扉に手をかけると、ミーナが満面の笑みで見送った。
「また遊びに来てくださいね〜!次は“恋の診断2”開催予定です!」
「開催しなくていい!!」
扉が閉まると、バルドがふぅと息をついた。
「若様、今日の恋腹は見事な発作でございました」
「褒められてる気がしない」
「恋とはそういうものでございます。痛くて、少し誇らしい」
「……詩的だな」
「胃薬を飲みながら詩を詠むのが執事のたしなみです」
モフドラが湯気を一筋上げ、テーブルの上に“ハート型の曇り”を描いた。
それを見て、ライは小さく笑った。
「……今日も、痛くて温かい一日だったな」
――バルド:「若様、まことにお似合いです。痛みと誠実は、常にセットでございます」
モフドラ:「ぷしゅ〜(同意)」
読了ありがとうございます!
ティナの“完全誤解解けてる側”テンションと、ライの“誠実は胃薬”スタイル、そこへミーナの選曲事故とバルドの名言。笑いながらも、最後は少しあたたかい蒸気が残る回になっていたら嬉しいです。
「クスッと来た」「モフドラ欲しい」「恋腹の診断名おかしい」など、感じたことを評価(★)と感想でぽろっと教えてください。
一行でも、作者はめちゃくちゃ励まされます。次回のドタバタ燃料&しんみりスパイスにします!




