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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第10章 魔法使い ティナ

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95/100

第95話 勇者一行、悪侯邸で恋と誤解!?

勇者パーティの朝会議が修羅場、からの——ティナ、単独で“悪侯”邸へ。

紅茶と湯気モフドラと恋腹が入り混じる、胃に優しいのに胃にくるお茶会回です。

「続きも読みたい」「この二人の距離、見届けたい」と感じたら、ブックマークをそっと置いていってください。更新にすぐ気づけるし、作者のやる気ゲージとライの誠実ゲージが同時に上がります(レオンの誤解ゲージも少し上がるかも)。

朝の光が差しこむなか、勇者パーティの泊まった宿には重い空気が漂っていた。

 テーブルの上にはパンの残骸と、何度も折られた地図。

 そして、その真ん中で勇者レオンがティナをにらみつけていた。


 


「ティナ!悪侯ライオネルと夜に密会していただとぉ!!」


「それ、完全に誤報だから!!」とティナが慌てて立ち上がる。

「私、ただ眠れなくて散歩してたら……声をかけられただけ!」


「眠れぬ夜に悪の囁き、まさに洗脳の第一歩です!」と僧侶ミリア。

「ミリア、アナタまで信じないでーー!!」


 ティナが頭を抱える横で、レオンは机をばんっと叩いた。


「よし! もう一度あの悪侯のもとへ行くぞ! 今度こそ正義で洗い流す!」


「いや、だから誤解だってば!」


 


 レオンは正義感のかたまり。

 だが、勢いだけで進むタイプでもある。

 ティナはため息をつき、ミリアの方を見た。


「……もう、私が直接行って話してくるよ。ちゃんと謝りたいし」


「えぇ!? ひとりで!?」

「だって、あの人……悪い人じゃないもの」


 その一言に、レオンの顔がみるみる青ざめた。

「ティナ、落ち着け! それが“洗脳の効果”というやつだ!!」


「うるさいなぁ! 行くだけだってば!」


 


 結局、ティナの決意は固く。

 ミリアは泣きそうな顔で「帰ってきたら報告書いてね……!」

 レオンは剣を握りしめて「必ず戻ってこい、正義の仲間よ!」


「大げさすぎるってば!」と笑いながら、ティナは宿を出た。


 


◆ ◆ ◆


 グランツ侯爵邸。

 王都の外れ、白い石造りの立派な屋敷。

 噂では「恐怖の悪侯が住む」とまで言われている場所だ。

 だが門の前に立ったティナは、どこか拍子抜けしたように首をかしげた。


 


「……あれ? よく見ると思ったより、花が多い……」


 庭の花壇は色とりどり。

 小鳥が水盤で羽をばたつかせ、門番も優しく会釈してくる。


 その瞬間――

 ぱぁんっ!!と、どこからともなく紙吹雪が飛び出した。


 


「ようこそおいでませ〜! 恋のリベンジマッチへっ!!」


 現れたのは、屋敷の侍女ミーナ。

 肩までの明るい髪に、いつもの“暴走テンション”が輝いている。

 手には“歓迎”と書かれた横断幕。ハートで縁取られていた。


「ちょ、ちょっと! 恋のって何ですか!?」

「安心してください! こちらの館では、恋と胃薬は常備品です!」


「意味わかんない!!」


 


 ミーナがティナを引っ張って中へ案内する。

 途中でバルド執事が現れ、穏やかな笑みで頭を下げた。

 「若様、本日のお客様は“謝罪に来た魔法少女様”でございますな」


「変な肩書きにしないでください!!」


 その声を聞きつけて、奥からゆっくりと足音が近づく。

 背の高い青年――ライオネル・フォン・グランツ。

 侯爵家の嫡男。

 完璧超人、ただし顔が怖い。


 


「遠いところをご苦労。……昨日は騒がしかったな」


 低いけれど落ち着いた声。

 ティナは一瞬、言葉を失った。


「え、あ……いえ、こちらこそ、いろいろとすみません」


「気にすることはない。むしろ、勇者殿の体力に驚かされた」


「……そういう人なんです」


 ライがわずかに口元をゆるめた。

 そのわずかな笑みだけで、威圧感が一瞬やわらぐ。

 ――その時、ライの懐中時計が「チリッ」と音を立てた。

 恋腹メーター、わずかに上昇。


 胸元から顔を出したモフドラ(手のひらサイズの小竜)が、ぷしゅーと湯気を吹いた。


「わ、湯気!?な、なにそれ!?」

「……癖のあるペットだ。温度調整に使っている」 「ペットで温度調整!?」


 


 ティナが笑うと、空気が少しやわらいだ。

 バルドが横で小声でつぶやく。

 「若様、笑いは恋の予兆でございます」

 「やめろ」


 


◆ ◆ ◆


 応接室に通されると、テーブルの上には紅茶と焼き菓子。

 ……そして壁一面に貼られた“誠実度診断チャート”。


「……なにこれ」

「以前の“婚活フェア”で使った装飾がそのままでして」とバルド。

「撤去してくれ」


 ティナは苦笑しながらイスに座った。


 


「落ち着いた雰囲気ですね」

「うちの執事が“胃にやさしい空間づくり”を提案した結果だ」


「胃にやさしいって、なんか実感こもってますね……」


 


 ミーナが紅茶を差し出す。

 「こちら、恋に効くハーブティーです♡」

 「ただのミント茶だ」とライが即訂正。


 ティナは笑いながらカップを受け取った。

 香りはほんのり甘く、温かかった。


 


「……昨日のこと、すみません。

 勇者なのにがあんなこと言って……本当は、あなたに助けてもらってたのに」


「謝る必要はない。正義を信じるのは、悪いことじゃないさ」


 その言葉に、ティナが少し驚いた顔をした。


「……そういう考え方、できるんだ」


「人は、自分の信じたものしか見えない。

 だから僕は“信じられる側”でいようと思っているだけだ」


 ティナの手が止まった。

 目の前の“悪侯”が、まるで教本に載せたいくらいまっとうなことを言っていた。


「……悪人には聞こえないね、それ」


 ふっと笑うティナ。

 その瞬間――懐中時計がチチッと跳ねた。

 モフドラ「ぷしゅ〜」と満足そうに湯気を吐く。

 ライが小さくため息をついた。


「まただ……。どうやら、恋の神は僕の胃に宿っているらしい」


「いや、それは神じゃなくてドラゴンでしょ!」


 


 ティナの笑い声が響く。

 ライの顔がわずかに赤くなり、モフドラが再びぷしゅ〜。

 温かい空気が、部屋いっぱいに広がった。


 


◆ ◆ ◆


 廊下の外。

 ミーナは双眼鏡でこっそりのぞきながら小声で報告。


「進展率、三割増し〜♡」

 バルドが紅茶をすすりながらぼそっと返す。

 「若様の恋路、観察対象から実験段階に入りましたな」


「どんな研究なんですか!?」


 


――恋の実験は、どうやら胃にくるタイプだった。



紅茶の香りが落ち着く頃、ティナはゆっくりとカップを置いた。

 窓の外では、庭の噴水が小さく光を反射している。

 静かで、やけに穏やかな時間だった。


 


「……こうして話してると、やっぱり思う」

 ティナがぽつりと口を開く。

「あなた、本当に“悪侯”じゃないね」


「そう言われると、ちょっと救われるよ」

 ライが静かに笑った。

 その笑顔は柔らかく――けれど、どこか照れくさそうで。


 懐中時計が“チチッ”と鳴る。

 恋腹れんふくメーター、上昇中。


 


「……あれ? また鳴った」

「これは、感情の針だ。落ち着けば止まる」

「感情の……って、それ完全にラブメーターじゃん!」


「違う。これは……生命維持装置だ」

「どんな命運なんですか!?」


 


 ティナのツッコミに、ライは小さく咳払いした。

「まあ……誤作動が多いだけだ」

「顔、真っ赤だけど?」

「温度上昇だ」

「体温計でもないでしょ!」


 ティナが吹き出す。

 その笑い声に、モフドラがぷしゅ〜と湯気を吐いた。

 まるで「恋の蒸気機関」だった。


 


◆ ◆ ◆


 そのころ――廊下の外。


「バルドさんっ! 見てください! 今、あの二人の間に“湯気の虹”が!!」

「若様の恋心、ついに可視化されましたな」

「ということは、実験成功ですっ!」

「恋の臨界点、まもなく突破でございます」


 ふたりは扉のすぐ外で小声で盛り上がっていた。

 だが、ミーナの声量が小声になっていない。


「よし! この流れで“恋愛BGM”を流しましょう!」

「なぜそうなる!」


 


 次の瞬間――廊下のスピーカー(※ミーナ自作)がぶおんっと鳴った。

 流れ始めたのは、なぜか軍隊行進曲。


「選曲!! 完全に違う!!」

 ティナがびくっとしてカップを落としかけた。

「なんの戦い始まるの!?」

「……ミーナ、撤退だ」

「はいっ! 撤退曲流します!」


 次に流れたのは悲しいバイオリン。

 余計に意味深だった。


 


◆ ◆ ◆


 笑いの余韻が少し収まったあと、ティナは真面目な顔になった。


「……ねぇ。どうして、そんなに優しくできるの?」


「うん?」

「人に誤解されても、怒らないし。

 あんなに正義とか言われても、ちゃんと助けて。……普通、イヤにならない?」


 ライは少しだけ考えてから、静かに答えた。


「昔、母に言われたんだ。

 “綺麗は形じゃなく、与える安心だよ”って。

 だから、誰かを安心させられる人でいたいんだと思う」


「……そっか」


 ティナの瞳が、少しだけ揺れた。

 “悪侯”と言われていた男が、いまはただの“優しい人”に見える。


 胸の奥が、なぜかほんの少し温かかった。


 


「……変な人だね」

「よく言われる」

「ほんとに変な人」

「二回言ったな」


 ふたりの間に、静かな笑い。

 だが、笑った瞬間――ライの顔がピクリと強張った。


「っ……!」

 腹を押さえて、眉が寄る。


「ちょ、ちょっと!? どうしたの!?」


「恋……いや、腹が……!」

「恋腹きたぁぁぁ!!」


 


 ティナは慌ててモフドラを掴んでライの腹に乗せた。

 モフドラ「ぷしゅ〜〜〜」

 勢いよく湯気。


「熱い! ちょっと! 湯気量多くない!?」

「す、すまない……調整が……」

「これ完全に湯たんぽ暴走してるよ!?」


 


 そこへミーナが駆け込んできた。

 「湯気センサー反応ありっ! 恋腹発作レベル3確認っ!」

 「実況するなっ!!」


 バルドが手帳にさらさらと記録を取る。

 「若様、本日の症状:恋により胃が沸騰。処方=冷静。」

 「薬じゃないのかっ!?」


 ティナは笑いをこらえながら、モフドラをなでた。

 「ぷしゅ〜……おつかれ、ちびドラ」

 「プシ(任務完了)」


 


 ようやく落ち着いたライは、深呼吸して姿勢を戻す。

 ティナが心配そうに覗き込んだ。


「本当に、大丈夫?」

「……ああ。恋の副作用だから、治療法がない」

「そんな病気やだよ!」


 思わず笑うティナ。

 その笑顔に、ライはまた腹を押さえた。


「……治療法が、増えた気がする」

「今のは何?」

「“笑顔で悪化”だ」

「重症じゃん!!」


 


◆ ◆ ◆


 少しして――

 ティナは立ち上がった。


「そろそろ行くね。長居してごめん」

「いや、こちらこそ。楽しかった」

「……楽しかった、か。私も、ちょっとね」


 ティナの笑顔。

 それを見た瞬間、懐中時計の針がふっと揺れた。

 “チリッ”という小さな音。


 モフドラが、静かに「ぷしゅ〜」と湯気を吹いた。

 その湯気は、さっきよりもやわらかい。


 


 ティナが扉に手をかけると、ミーナが満面の笑みで見送った。

 「また遊びに来てくださいね〜!次は“恋の診断2”開催予定です!」

 「開催しなくていい!!」


 


 扉が閉まると、バルドがふぅと息をついた。

 「若様、今日の恋腹は見事な発作でございました」

 「褒められてる気がしない」

 「恋とはそういうものでございます。痛くて、少し誇らしい」


「……詩的だな」

「胃薬を飲みながら詩を詠むのが執事のたしなみです」


 


 モフドラが湯気を一筋上げ、テーブルの上に“ハート型の曇り”を描いた。

 それを見て、ライは小さく笑った。


 


「……今日も、痛くて温かい一日だったな」


 


――バルド:「若様、まことにお似合いです。痛みと誠実は、常にセットでございます」


モフドラ:「ぷしゅ〜(同意)」


読了ありがとうございます!

ティナの“完全誤解解けてる側”テンションと、ライの“誠実は胃薬”スタイル、そこへミーナの選曲事故とバルドの名言。笑いながらも、最後は少しあたたかい蒸気が残る回になっていたら嬉しいです。


「クスッと来た」「モフドラ欲しい」「恋腹の診断名おかしい」など、感じたことを評価(★)と感想でぽろっと教えてください。

一行でも、作者はめちゃくちゃ励まされます。次回のドタバタ燃料&しんみりスパイスにします!


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