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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第10章 魔法使い ティナ

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第94話 勇者一行、侯爵家にお泊り!?

勇者一行、まさかの「泊めてください」から始まる同室地獄(?)回へようこそ。

監視を名目に転がり込むレオン、胃にくる善行を受け止めるライ、そしてミーナの地獄表が火を吹きます。大浴場ハプニング、恋腹メーター、モフドラの“ぷしゅー”まで、ドタバタなのにどこかあったかい一日をご一緒に。


「この先も追いかけたい!」と思ったら、ブックマークをぽちっとお願いします。更新にすぐ気づけるし、作者のやる気ゲージとライの誠実ゲージが同時に上がります(※恋腹も少し上がるかも)。

グランツ侯爵邸の門前で、朝から大声が響いた。


「頼む! 一晩でいい、泊めてくれぇぇぇっ!」


 叫んでいるのは――勇者レオン。

 マントは泥だらけ、剣はガタガタ。

 その後ろには、僧侶ミリアと魔法使いティナも疲れた顔で立っていた。


「レオン様、宿代が底をつきました……」

「だ、大丈夫! 正義はお金で買えない!」

「……でも寝床は買えないと、寒いよね……」


 三人の会話は完全に破綻していた。



 門の上から声が落ちてくる。


「おはよう。勇者一行が、貧乏旅団になっているようだな」


 グランツ侯爵家の嫡男、ライオネル・フォン・グランツ。

 通称ライ。完璧超人、ただし顔が怖い。

 今日も見事に真顔で見下ろしている。


 


「何しに来た?」

「決まってる! 貴様の監視だ! 悪の侯爵を放置するわけにはいかん!」

「……泊まり込みの監視か?」

「うむっ!」


 ライは一拍置いて、静かに言った。


「いいだろう。監視でも客でも、歓迎する。

 ただし、規則は守れ。火気厳禁、門限厳守、爆発は禁止だ」


「そんな屋敷ある!?」

「ある。うちだ」


 

 バルド執事が後ろからカップを持って登場。

 「若様、善行と宿貸しは似ております。どちらも胃に来ますな」と毒を落とす。


 


「では――泊まりを許可する。部屋割りはミーナに任せる」


「おまかせくださいっ!」


 現れたのは侍女ミーナ。

 いつものように妙なテンションで「仲良し計画表」を広げた。


 


「じゃーん! 本日の同室割りはこちらっ!」


 紙には、巨大なハートマーク付きで書かれている。



---


男部屋:ライ様&レオン様(※監視しやすいから)

女部屋:ミリア様&ティナ様(※夜のおしゃべり推奨)

管理部屋:バルド様(※トラブル対応)



---


「ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇっ! なぜ俺が“悪の侯爵”と同室なんだ!」

「監視対象に密着するのが正義ですっ!」

「そんな教義ないだろ!?」


 バルドが紅茶を口に含んで一言。

 「若様、正義も不眠も紙一重でございます」


「寝かせてやれよ!」


 


 ティナが苦笑いを浮かべながらつぶやく。


「……仲良いね、あの二人」


「全然よくないですからね!?ねぇティナ!」

とミリアが全力否定。

 しかしティナは「まあ、悪人には見えないし」と小さく笑う。

 ライは気づかぬふりをした――が、懐中時計が“チチッ”と針を刻んだ。

 恋腹メーター1メモリ上昇。


 モフドラが「ぷしゅー」と湯気を吹き、腹の上で温めてくる。

 ――完全に慣れた流れである。


 


◆ ◆ ◆


 昼食の時間。侯爵家の食堂は広く、天井のシャンデリアがきらめいている。

 が、今日のメニューは庶民的だった。


「保存食プレートです!」とミーナが胸を張る。

 並んだのは黒パン、塩鶏、根菜スープ。


「……普通においしい!」とレオン。

「正義は腹から立つ!」と謎の名言を叫び、がっつく。

 バルドがすかさず「知性は腹で消化されぬようで」と突っ込む。


 


 一方、ティナはゆっくりスープを飲みながら言った。


「……味、やさしいね」


「保存食だが、無駄に塩分を入れないようにしてある。

 旅慣れした人ほど、薄味を好むからな」


 ティナが少し驚いた顔でこちらを見た。


「へぇ……細かいところまで考えてるんだね」


 その瞬間――懐中時計が“チリッ”。

 恋腹②キリキリ発動。

 ライがわずかに腹を押さえると、モフドラがすかさず「ぷしゅー」。

 湯気がほわっと立ちのぼった。


「な、何それ!? ドラゴンの湯たんぽ!?」

「医療用の魔獣です」とバルドが即説明。

「主に恋に負けた際に温める用途でございます」


「そんな専用機能いらない!」


 


◆ ◆ ◆


 昼食後。ミーナがまたも張りきっていた。

 「お客様には館内オリエンテーリングをプレゼントします!」


 どう見ても遊びである。

 手には「チェックポイント表」と「おやつ券」。

 使用人たちが「姫路城観光案内みたいだ……」と小声でつぶやいていた。


 


「ではスタート! 第一チェックは大浴場です!」


「えっ!? そこから!?」


 


 ミーナが札を掲げて「男子→女子→交代」と説明。

 しかし、札の裏表を間違えて設置してしまった。


 


 その結果――


「おーい、誰もいないな?」

 レオンが男湯だと思って戸を開けた。

 中ではミリアがちょうど髪を洗っていた。


「ぎゃああああああっ!!」

「このタイミングで!?!?」


 


 次の瞬間、廊下にライの声が響く。

 「――結界展開!」


 透明な壁がバチィッと光り、レオンの突進を防ぐ。

 彼は顔面からごんっと当たり、床に転がった。


 


 バルドが手帳を開きながら淡々と記録する。

 「“勇者、第一日目で破廉恥未遂”。はい、要注意リストに追加っと」


「書くなーーー!!」


 ミリアがタオルで叩きながら叫ぶ。

 「レオン様の目を清める浄化魔法をーーー!!」


「いや、どっちが悪なんだ……」


 


 ライはため息をつきつつ、掲示札を裏返した。

 「……ミーナ。次から“表:女子、裏:地獄”と書いておけ」


「わかりましたぁ!」


 わかってない。


 


◆ ◆ ◆


 その後、館の倉庫を見学する一行。

 ティナは興味深そうに、棚に並ぶ魔道具を眺めていた。


「これは……“魔力秤まちからはかり”?」


 丸い盤面に魔力を流すと、針が“どれくらい安定しているか”を示す装置だ。

 魔法研究用の珍しい道具である。


「その通りだ。魔力のゆらぎを可視化できる。

 君も試してみるか?」


「うん」


 ティナがそっと手を乗せると、針がピタリと中央で止まる。

 ライが軽く目を細めた。


「……見事だ。制御が正確だな」


「へへ、ありがと」


 ほんの一瞬、ティナの笑顔。

 その光が差し込むようで――ライの懐中時計が“チチチッ”と暴走寸前。

 恋腹②→③へ。

 「うっ……」

 腹を押さえるライの横で、モフドラが慌てて「ぷしゅー」と湯気。

 ティナが不思議そうに首をかしげる。


「……大丈夫? 急に顔、真っ赤だけど」


「気のせいだ。……腹の中で小さな戦争が起きているだけだ」


「それ、病気では?」


 


 バルドが横から静かに言う。


「恋の病でございます」


「やっぱり病気なんだ!!」


 


 ティナが吹き出す。

 ライは赤面して背を向けた。

 ――その笑顔が、また心臓に悪かった。


 


 夕方、窓の外がオレンジに染まるころ。

 レオンの声が庭から響く。


「ライオネルー! 今日こそ正義の一撃を教えてやる!」


 バルドがつぶやいた。


「若様、正義も胃も、一日三度が限度でございます」


「……僕の胃には休暇がないらしいな」


 


 そして、次なる夜の事件が――静かに近づいていた。



夜。

 グランツ侯爵邸の廊下は、しんと静まり返っていた。

 昼間あれだけ騒がしかった勇者たちも、それぞれの部屋で眠っている――はずだった。


 


 ――が。


 


「……誰かいるな」


 ライは寝間着姿のまま、廊下を歩いていた。

 懐中時計の針がチチチッと微妙に揺れる。

 どうやら“心拍に関わる何か”が近づいているらしい。


 


 角を曲がると、そこにいたのはティナだった。

 寝巻きの上に薄いローブを羽織り、髪はほどけている。

 月明かりに照らされる横顔が、どこか柔らかく見えた。


 


「眠れないのか?」


「うん。……ミリアが寝言で“悪は逃がさない!”って叫ぶから、全然寝れないの」


「……寝てる時まで職務熱心だな」


 


 ティナは小さく笑った。

 その笑い声が、やけに静かな夜に響く。

 ライの懐中時計がチリッと鳴り、針がじわっと上がった。

 モフドラが胸元から顔を出し、「ぷしゅー」と湯気を吐く。


 


「……あ、出た。湯気ドラゴン」


「名前はモフドラだ。心の温度計みたいなものだ」


「へぇ……可愛い。あったかそう」


 そう言ってティナが手を伸ばす。

 モフドラが“ぷくっ”と膨らみ、ティナの指先にちょこんと乗った。

 触れた瞬間、湯気がふわっと立ちのぼる。


「わ、ほんとにあったかい!」


「腹痛にも効く」


「……何それ。恋の病専用?」


「……そんな診断書、出した覚えはない」


 


 ティナがまたくすっと笑う。

 ライの腹がキリキリと鳴った。

 ――完全に恋腹こいばら発作、発動中。


 


「だ、大丈夫? 顔、真っ赤だよ?」


「月明かりのせいだ」


「それ、昼でも言ってそう」


 


 そんなやり取りをしていると――

 廊下の奥から、ぼそぼそと声が聞こえてきた。


「……こっちだ、ミリア。悪のアジトはここだ!」


「ひぃぃぃ! レオン様、そこ物置ですぅぅぅ!」


 


 ふたり同時にため息をつく。


「起きてきたようだな、あの勇者は」


「寝ぼけてても正義……ほんとにすごいね」


 


 物置の扉がガタッと開き、レオンが飛び出してきた。

 木箱をかぶったまま、剣を構えている。


「出たな悪の影ーーッ!」


「それは僕の影だ」


「なんだ、本人か!」


「寝ぼけ正義の突撃はやめろ」


 


 レオンはきょとんとした顔で言った。


「ん? ティナ? こんな夜中に悪の侯爵と二人で……!?」


「ち、違う! ちょっと話してただけ!」


「おのれ、誘惑の魔法かっ!? ティナ、目を覚ませぇぇ!」


「覚めてる!!」


 


 ミリアも後ろから転がり出てくる。

 寝癖全開で、片手に聖水ボトル。


「悪の祓いをーー!」


「それは水筒だ!」


「間違えましたぁ!」


 


 もうカオスである。


 


 そこへ、のそのそとバルドが登場した。

 完全に“夜勤モード”である。


 


「若様、深夜テンションの暴走でございますか?」


「いつものことだ。被害が出る前に止める」


「止められるなら苦労いたしませんな」


 


 レオンは剣を構え、気合を入れる。


「我が正義の一撃を見よ!!」


「見たくない!」


 


 ライが冷静に障壁魔法を展開。

 光の壁が“バチンッ”と弾け、レオンの剣がきれいに跳ね返る。

 勢いそのままに、勇者は背中から廊下を滑り落ちた。


「うわあああああっ!! また地面が裏切ったぁぁぁ!!」


「滑り止め魔法、再利用完了」とライ。

「もう完全にトラップ屋じゃん!」とミリア。

「悪の才能、芽生えてますよね!?」とツッコミが飛ぶ。


 


 ティナは笑いをこらえきれずに、肩を震わせた。


「……ほんと、悪人には見えないな」


「君がそう言うと、救われる気がする」


「じゃあ、今夜だけは“誤解された侯爵”って呼んであげる」


「長いな。できれば“善良な被害者”くらいで頼む」


 


 その会話の最中。

 懐中時計の針が、静かに一メモリ上へ。

 モフドラが“ぷしゅ〜”と満足げに湯気を吹いた。


 


 バルドがその光景を見て、ふっと笑った。


「若様。恋腹の調子、いかがでございます?」


「平常運転だ。つまり、痛い」


「誠実の代償でございますな」


「……誠実、胃に悪いな」


「はい。恋はすべて、消化不良から始まります」


 


 バルドのひと言で、場がまた笑いに包まれる。


 


 結局――勇者たちはそのままリビングで雑魚寝になった。

 床に転がる勇者、枕を抱えて寝言を言う僧侶、

 そして窓際で星を見上げる魔法使い。


 


 ライはそっと呟いた。


「正義も悪も、夜になると同じだな。……騒がしい」


「そして翌朝も、さらに騒がしいことでしょうな」とバルド。


「……予言か?」


「経験則でございます」


 


 モフドラが湯気をふわりと吐く。

 それは、まるで“明日のドタバタ予報”のようだった。



“監視=同室”という無茶設定、ミーナの札ミスからの大浴場事件、そして夜の小声コメディまで、勢いで駆け抜けました。レオンは今日も床に負け、バルドはいつも通りに勝ち、ティナの一言がそっと物語を前に進めます。


もし少しでもクスッとしたり、ライの誠実に「いいじゃん」と感じてくれたら、評価(★)を頂けるとめちゃくちゃ励みになります。さらに感想で一行コメント(「ミーナの札、裏:地獄は草」「モフドラ欲しい」「レオンの滑走距離、今日も更新」など)を書いてもらえると、次回のドタバタ燃料になります。


次回も、誤解は深まり、湯気は増し、恋腹はきっちり痛みます。どうぞお楽しみに。

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