第94話 勇者一行、侯爵家にお泊り!?
勇者一行、まさかの「泊めてください」から始まる同室地獄(?)回へようこそ。
監視を名目に転がり込むレオン、胃にくる善行を受け止めるライ、そしてミーナの地獄表が火を吹きます。大浴場ハプニング、恋腹メーター、モフドラの“ぷしゅー”まで、ドタバタなのにどこかあったかい一日をご一緒に。
「この先も追いかけたい!」と思ったら、ブックマークをぽちっとお願いします。更新にすぐ気づけるし、作者のやる気ゲージとライの誠実ゲージが同時に上がります(※恋腹も少し上がるかも)。
グランツ侯爵邸の門前で、朝から大声が響いた。
「頼む! 一晩でいい、泊めてくれぇぇぇっ!」
叫んでいるのは――勇者レオン。
マントは泥だらけ、剣はガタガタ。
その後ろには、僧侶ミリアと魔法使いティナも疲れた顔で立っていた。
「レオン様、宿代が底をつきました……」
「だ、大丈夫! 正義はお金で買えない!」
「……でも寝床は買えないと、寒いよね……」
三人の会話は完全に破綻していた。
門の上から声が落ちてくる。
「おはよう。勇者一行が、貧乏旅団になっているようだな」
グランツ侯爵家の嫡男、ライオネル・フォン・グランツ。
通称ライ。完璧超人、ただし顔が怖い。
今日も見事に真顔で見下ろしている。
「何しに来た?」
「決まってる! 貴様の監視だ! 悪の侯爵を放置するわけにはいかん!」
「……泊まり込みの監視か?」
「うむっ!」
ライは一拍置いて、静かに言った。
「いいだろう。監視でも客でも、歓迎する。
ただし、規則は守れ。火気厳禁、門限厳守、爆発は禁止だ」
「そんな屋敷ある!?」
「ある。うちだ」
バルド執事が後ろからカップを持って登場。
「若様、善行と宿貸しは似ております。どちらも胃に来ますな」と毒を落とす。
「では――泊まりを許可する。部屋割りはミーナに任せる」
「おまかせくださいっ!」
現れたのは侍女ミーナ。
いつものように妙なテンションで「仲良し計画表」を広げた。
「じゃーん! 本日の同室割りはこちらっ!」
紙には、巨大なハートマーク付きで書かれている。
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男部屋:ライ様&レオン様(※監視しやすいから)
女部屋:ミリア様&ティナ様(※夜のおしゃべり推奨)
管理部屋:バルド様(※トラブル対応)
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「ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇっ! なぜ俺が“悪の侯爵”と同室なんだ!」
「監視対象に密着するのが正義ですっ!」
「そんな教義ないだろ!?」
バルドが紅茶を口に含んで一言。
「若様、正義も不眠も紙一重でございます」
「寝かせてやれよ!」
ティナが苦笑いを浮かべながらつぶやく。
「……仲良いね、あの二人」
「全然よくないですからね!?ねぇティナ!」
とミリアが全力否定。
しかしティナは「まあ、悪人には見えないし」と小さく笑う。
ライは気づかぬふりをした――が、懐中時計が“チチッ”と針を刻んだ。
恋腹メーター1メモリ上昇。
モフドラが「ぷしゅー」と湯気を吹き、腹の上で温めてくる。
――完全に慣れた流れである。
◆ ◆ ◆
昼食の時間。侯爵家の食堂は広く、天井のシャンデリアがきらめいている。
が、今日のメニューは庶民的だった。
「保存食プレートです!」とミーナが胸を張る。
並んだのは黒パン、塩鶏、根菜スープ。
「……普通においしい!」とレオン。
「正義は腹から立つ!」と謎の名言を叫び、がっつく。
バルドがすかさず「知性は腹で消化されぬようで」と突っ込む。
一方、ティナはゆっくりスープを飲みながら言った。
「……味、やさしいね」
「保存食だが、無駄に塩分を入れないようにしてある。
旅慣れした人ほど、薄味を好むからな」
ティナが少し驚いた顔でこちらを見た。
「へぇ……細かいところまで考えてるんだね」
その瞬間――懐中時計が“チリッ”。
恋腹②キリキリ発動。
ライがわずかに腹を押さえると、モフドラがすかさず「ぷしゅー」。
湯気がほわっと立ちのぼった。
「な、何それ!? ドラゴンの湯たんぽ!?」
「医療用の魔獣です」とバルドが即説明。
「主に恋に負けた際に温める用途でございます」
「そんな専用機能いらない!」
◆ ◆ ◆
昼食後。ミーナがまたも張りきっていた。
「お客様には館内オリエンテーリングをプレゼントします!」
どう見ても遊びである。
手には「チェックポイント表」と「おやつ券」。
使用人たちが「姫路城観光案内みたいだ……」と小声でつぶやいていた。
「ではスタート! 第一チェックは大浴場です!」
「えっ!? そこから!?」
ミーナが札を掲げて「男子→女子→交代」と説明。
しかし、札の裏表を間違えて設置してしまった。
その結果――
「おーい、誰もいないな?」
レオンが男湯だと思って戸を開けた。
中ではミリアがちょうど髪を洗っていた。
「ぎゃああああああっ!!」
「このタイミングで!?!?」
次の瞬間、廊下にライの声が響く。
「――結界展開!」
透明な壁がバチィッと光り、レオンの突進を防ぐ。
彼は顔面からごんっと当たり、床に転がった。
バルドが手帳を開きながら淡々と記録する。
「“勇者、第一日目で破廉恥未遂”。はい、要注意リストに追加っと」
「書くなーーー!!」
ミリアがタオルで叩きながら叫ぶ。
「レオン様の目を清める浄化魔法をーーー!!」
「いや、どっちが悪なんだ……」
ライはため息をつきつつ、掲示札を裏返した。
「……ミーナ。次から“表:女子、裏:地獄”と書いておけ」
「わかりましたぁ!」
わかってない。
◆ ◆ ◆
その後、館の倉庫を見学する一行。
ティナは興味深そうに、棚に並ぶ魔道具を眺めていた。
「これは……“魔力秤”?」
丸い盤面に魔力を流すと、針が“どれくらい安定しているか”を示す装置だ。
魔法研究用の珍しい道具である。
「その通りだ。魔力のゆらぎを可視化できる。
君も試してみるか?」
「うん」
ティナがそっと手を乗せると、針がピタリと中央で止まる。
ライが軽く目を細めた。
「……見事だ。制御が正確だな」
「へへ、ありがと」
ほんの一瞬、ティナの笑顔。
その光が差し込むようで――ライの懐中時計が“チチチッ”と暴走寸前。
恋腹②→③へ。
「うっ……」
腹を押さえるライの横で、モフドラが慌てて「ぷしゅー」と湯気。
ティナが不思議そうに首をかしげる。
「……大丈夫? 急に顔、真っ赤だけど」
「気のせいだ。……腹の中で小さな戦争が起きているだけだ」
「それ、病気では?」
バルドが横から静かに言う。
「恋の病でございます」
「やっぱり病気なんだ!!」
ティナが吹き出す。
ライは赤面して背を向けた。
――その笑顔が、また心臓に悪かった。
夕方、窓の外がオレンジに染まるころ。
レオンの声が庭から響く。
「ライオネルー! 今日こそ正義の一撃を教えてやる!」
バルドがつぶやいた。
「若様、正義も胃も、一日三度が限度でございます」
「……僕の胃には休暇がないらしいな」
そして、次なる夜の事件が――静かに近づいていた。
夜。
グランツ侯爵邸の廊下は、しんと静まり返っていた。
昼間あれだけ騒がしかった勇者たちも、それぞれの部屋で眠っている――はずだった。
――が。
「……誰かいるな」
ライは寝間着姿のまま、廊下を歩いていた。
懐中時計の針がチチチッと微妙に揺れる。
どうやら“心拍に関わる何か”が近づいているらしい。
角を曲がると、そこにいたのはティナだった。
寝巻きの上に薄いローブを羽織り、髪はほどけている。
月明かりに照らされる横顔が、どこか柔らかく見えた。
「眠れないのか?」
「うん。……ミリアが寝言で“悪は逃がさない!”って叫ぶから、全然寝れないの」
「……寝てる時まで職務熱心だな」
ティナは小さく笑った。
その笑い声が、やけに静かな夜に響く。
ライの懐中時計がチリッと鳴り、針がじわっと上がった。
モフドラが胸元から顔を出し、「ぷしゅー」と湯気を吐く。
「……あ、出た。湯気ドラゴン」
「名前はモフドラだ。心の温度計みたいなものだ」
「へぇ……可愛い。あったかそう」
そう言ってティナが手を伸ばす。
モフドラが“ぷくっ”と膨らみ、ティナの指先にちょこんと乗った。
触れた瞬間、湯気がふわっと立ちのぼる。
「わ、ほんとにあったかい!」
「腹痛にも効く」
「……何それ。恋の病専用?」
「……そんな診断書、出した覚えはない」
ティナがまたくすっと笑う。
ライの腹がキリキリと鳴った。
――完全に恋腹発作、発動中。
「だ、大丈夫? 顔、真っ赤だよ?」
「月明かりのせいだ」
「それ、昼でも言ってそう」
そんなやり取りをしていると――
廊下の奥から、ぼそぼそと声が聞こえてきた。
「……こっちだ、ミリア。悪のアジトはここだ!」
「ひぃぃぃ! レオン様、そこ物置ですぅぅぅ!」
ふたり同時にため息をつく。
「起きてきたようだな、あの勇者は」
「寝ぼけてても正義……ほんとにすごいね」
物置の扉がガタッと開き、レオンが飛び出してきた。
木箱をかぶったまま、剣を構えている。
「出たな悪の影ーーッ!」
「それは僕の影だ」
「なんだ、本人か!」
「寝ぼけ正義の突撃はやめろ」
レオンはきょとんとした顔で言った。
「ん? ティナ? こんな夜中に悪の侯爵と二人で……!?」
「ち、違う! ちょっと話してただけ!」
「おのれ、誘惑の魔法かっ!? ティナ、目を覚ませぇぇ!」
「覚めてる!!」
ミリアも後ろから転がり出てくる。
寝癖全開で、片手に聖水ボトル。
「悪の祓いをーー!」
「それは水筒だ!」
「間違えましたぁ!」
もうカオスである。
そこへ、のそのそとバルドが登場した。
完全に“夜勤モード”である。
「若様、深夜テンションの暴走でございますか?」
「いつものことだ。被害が出る前に止める」
「止められるなら苦労いたしませんな」
レオンは剣を構え、気合を入れる。
「我が正義の一撃を見よ!!」
「見たくない!」
ライが冷静に障壁魔法を展開。
光の壁が“バチンッ”と弾け、レオンの剣がきれいに跳ね返る。
勢いそのままに、勇者は背中から廊下を滑り落ちた。
「うわあああああっ!! また地面が裏切ったぁぁぁ!!」
「滑り止め魔法、再利用完了」とライ。
「もう完全にトラップ屋じゃん!」とミリア。
「悪の才能、芽生えてますよね!?」とツッコミが飛ぶ。
ティナは笑いをこらえきれずに、肩を震わせた。
「……ほんと、悪人には見えないな」
「君がそう言うと、救われる気がする」
「じゃあ、今夜だけは“誤解された侯爵”って呼んであげる」
「長いな。できれば“善良な被害者”くらいで頼む」
その会話の最中。
懐中時計の針が、静かに一メモリ上へ。
モフドラが“ぷしゅ〜”と満足げに湯気を吹いた。
バルドがその光景を見て、ふっと笑った。
「若様。恋腹の調子、いかがでございます?」
「平常運転だ。つまり、痛い」
「誠実の代償でございますな」
「……誠実、胃に悪いな」
「はい。恋はすべて、消化不良から始まります」
バルドのひと言で、場がまた笑いに包まれる。
結局――勇者たちはそのままリビングで雑魚寝になった。
床に転がる勇者、枕を抱えて寝言を言う僧侶、
そして窓際で星を見上げる魔法使い。
ライはそっと呟いた。
「正義も悪も、夜になると同じだな。……騒がしい」
「そして翌朝も、さらに騒がしいことでしょうな」とバルド。
「……予言か?」
「経験則でございます」
モフドラが湯気をふわりと吐く。
それは、まるで“明日のドタバタ予報”のようだった。
“監視=同室”という無茶設定、ミーナの札ミスからの大浴場事件、そして夜の小声コメディまで、勢いで駆け抜けました。レオンは今日も床に負け、バルドはいつも通りに勝ち、ティナの一言がそっと物語を前に進めます。
もし少しでもクスッとしたり、ライの誠実に「いいじゃん」と感じてくれたら、評価(★)を頂けるとめちゃくちゃ励みになります。さらに感想で一行コメント(「ミーナの札、裏:地獄は草」「モフドラ欲しい」「レオンの滑走距離、今日も更新」など)を書いてもらえると、次回のドタバタ燃料になります。
次回も、誤解は深まり、湯気は増し、恋腹はきっちり痛みます。どうぞお楽しみに。




