第93話 勇者一行、フェス開催!?
お読みいただきありがとうございます!
今回の物語は――まさかの「悪の侯爵退治フェス開催」!?
顔が怖いだけで悪扱いされ続けるライが、ついに町ぐるみの誤解イベントに巻き込まれます。
勇者はマイクで叫び、侍女は屋台を出そうとし、執事は平然と紅茶を飲む。
一方で、魔法使いティナの胸の奥では、小さな“何か”が動きはじめる……。
「続きが気になる!」「この騒がしさがクセになる!」と思ってもらえたら、
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作者の“やる気メーター”も一気にMAXになります。
それでは――誤解と笑いとちょっぴり恋の香り漂う、“正義フェス”の開幕です!
朝の王都は、いつもよりもやけに騒がしかった。
パン屋の前には行列、広場では太鼓の音、空には「正義フェス開催!」の旗が舞っている。
「……フェス?」
グランツ侯爵邸の玄関前で、ライオネルは首をかしげた。
手には数枚のポスター。どれもやたら派手で、赤文字でこう書かれている。
> 『悪の侯爵退治フェス!
参加無料! 正義ポイント2倍! 勇者レオン主催!』
横にはライの似顔絵――いや、悪のボスみたいに角と黒マントが描かれていた。
目の下にはなぜかクマ。しかもポスターのすみに小さく「悪そう」とまで書いてある。
「……僕、今日も安定して誤解されてるな」
後ろから、バルドが静かに現れた。
「若様。印刷技術の進歩とは恐ろしいものでございますな。顔が勝手に“デーモン仕様”に。」
「悪魔じゃない。“経済で街を救った人”だ。」
「ですが民はもう“フェス”に夢中でございます。いっそ参加してしまっては?」
「参加する理由がない。」
「見た目の改善PRでございます。」
「……顔の改善は無理だろう。」
バルドは「ごもっとも」と小さくうなずいた。
そこへ、いつものようにミーナがドタドタと駆けてきた。
「ライ様ぁー! 市場がすごいことになってます! 屋台がいっぱいで! あと勇者レオン様がマイクみたいなの持って演説してます!!」
「マイク?」
「なんか魔法で声がでかくなる石です! “聞けぇぇ!正義の民よぉぉ!”って!!」
ライとバルドの視線が、同時に遠くの広場へ向く。
そこには、赤マントをなびかせた青年――勇者レオンがいた。
目をキラキラさせながら、両手を広げている。
「聞け! 悪の侯爵ライオネルを討つ日が来た!
だが暴力ではなく、フェスで決着をつける!
我こそは正義と思う者は、今ここに集えぇぇ!!」
周囲から「おおー!」と歓声が上がる。
子どもたちはワクワク、商人たちは商売チャンスとばかりに準備を始めていた。
ミーナが目を輝かせて言った。
「お祭りです! お祭りですよライ様! 屋台出しましょう!」
「出さない。」
「グランツ侯爵家名物“恋腹まんじゅう”とか!」
「そんなまんじゅうは存在しない。」
「じゃあ“完璧クッキー”!」
「もっと存在しない。」
ミーナがしょんぼりしていると、バルドがポスターをもう一枚持ってきた。
「若様。裏面をご覧ください。」
裏には――
『第一競技:悪を見抜け! “どっちが悪人”クイズ』
『第二競技:闇を暴け! 影踏み合戦!』
『第三競技:悪をこらしめろ! 水風船バトル!』
「……これは、ただの町内運動会だな。」
「はい。悪の要素はタイトルだけでございます。」
「民が楽しんでいるなら、それでいい。問題は、勝手に僕の顔が看板になっていることだ。」
「若様、角が見事に似合っておられます。」
「褒めてないだろう。」
そのとき、また広場からレオンの声が響いた。
「まずは“悪を見抜けクイズ”だぁぁ! こちらに映る三つの顔のうち、悪いのはどれ!?
一つ、子犬を助けたおじさん! 二つ、笑顔の商人! 三つ……こいつだ! 悪の侯爵ライオネル!!」
「また僕か。」
観客の子どもたちが首をかしげる。
「でもこの人、悪い顔してるけど、去年うちの村の橋直してくれたよ?」
「おれもだ!あの人のパン配りのとき、笑ってた!」
「……笑ってたかは分かんないけど!」
レオンが一瞬たじろぐ。
ミリアがすかさずフォローする。
「れ、レオン様! あれは“悪の笑み”です! きっと!」
「そ、そうか! 笑ってるだけで悪いとは……! やはり深い!」
「いや、浅いだろ。」とライ。
バルドが紅茶を飲みながらつぶやく。
「若様、悪評という名の人気投票が始まりましたな。おや、一位になりそうですぞ」
「……そう聞くと悲しいな。」
やがて、第二競技「影踏み合戦」が始まる。
ルールは簡単――相手の影を踏んだら勝ち。
ただし今回は“悪の影”を探す、という無茶なテーマがついていた。
ライは安全面が気になり、こっそり広場に魔法陣を展開した。
転倒防止と、ぶつかったときの衝撃をやわらげる小規模魔法だ。
(これでケガは防げる。)
その光景を見たレオンが、青ざめた。
「な、なんだあの結界!? 悪の加護が広場を包んでいる!」
「いや、安全対策だ。」
「悪の安全対策!? 新しい!」
ミリアは手を組んで叫ぶ。
「レオン様! やっぱりあの人、悪の貴族です! 安全すら支配してます!!」
「支配って何だ!」
ミーナが旗を持って飛び出した。
「がんばれライ様ー! 安全の魔王ー!!」
「なんだそれは…一番ひどいぞ…」
観客の子どもたちは笑いながら遊び、
ライの防御魔法で誰もケガをしなかった。
ティナが人混みの中で、小さくつぶやく。
「……なんか、平和すぎない?」
彼女の視線の先では、ライが子どもの靴ひもを直してやっていた。
その姿を見た瞬間、ティナは少しだけ笑った。
ライも気づいて、ほんの一瞬だけ視線が交わる。
懐中時計の針が――“チリッ”と音を立てて動いた。
ミーナが横から望遠鏡でのぞき込み、声を上げる。
「ライ様、恋腹メーター1メモリ上昇ですー!」
「実況するな!」
モフドラがライのお腹の上で「ぷしゅ〜」と湯気を吐いた。
……朝の空気に、その湯気だけが静かに漂っていた。
夕方。広場の熱気は最高潮だった。
屋台の匂い、子どもたちの笑い声、そして――魔法スピーカーから響くレオンの絶叫。
「ついに最終競技だぁぁぁ!! 悪の侯爵を――裁けッ!!」
ざわめく観客たち。
広場中央には即席の木製ステージ。
その上に立たされたのは、もちろんライオネルだった。
「……なぜ僕が被告席にいるんだ?」
ライの手にはなぜか“紙の鎖”が巻かれている。
フェス用の安全アイテムだが、見た目だけは完全に囚人。
「若様、堂々たる悪人ぶりでございます」とバルド。
「褒め言葉じゃないぞ。」
ステージ前ではレオンが胸を張っていた。
その隣には補佐役のミリア。
二人は観客に向けて大げさにポーズを取る。
「見よ民よ! この男こそ、笑顔の裏に悪を隠す侯爵だ!」
「証拠はこちらです!」とミリアが掲げたのは――帳簿だった。
ライは一瞬で見覚えを悟る。
(あれは……領地支援金の会計帳簿だ。昨日、広場の募金箱に寄付した分だな。)
「その紙に何が書かれているのか、読んでみろ」とライ。
ミリアがドヤ顔で読み上げる。
「“支出:孤児院支援、橋修繕費、農村の井戸整備金――”……あれ? 全部いいこと書いてあります?」
「はい、良いことしかしておりませんな」とバルド。
「若様、犯罪の才能も欠落しておられる。」
「誇らしい欠落だ。」
レオンが慌てて次の証拠を持ち出す。
「じゃ、じゃあ次はこれだ! “魔力反応の記録書”! 彼は常に強力な魔法を放っている! つまり危険人物だ!」
「戦闘訓練の記録だ。」
「……民の前で筋トレしてるようなもんだな……」
「安全第一だ」とライ。
観客たちは笑い始めた。
「悪いっていうより、なんかマメだな」
「うちの亭主より働いてるじゃん!」
「ていうか勇者より人気あるぞ!」
レオンの額に汗がにじむ。
ティナが後ろで心配そうに見ていた。
だがミリアは諦めない。
ポケットから最後のカードを取り出した。
「レオン様、これです! “女性に近づくと倒れる呪い”――つまり恋の呪い! それって闇の儀式では!?」
会場「おおおー!!」
ライ「違う。体質だ。」
バルドが咳払いして補足する。
「若様は“恋腹”でございます。恋の感情を抱くと腹痛が発生いたします。」
「……それも十分呪いじゃないか?」とレオン。
「いいえ、むしろ呪われるほど誠実です!」
とミーナが割り込む。
「好きになったらお腹が痛いって、心も体もピュアすぎるでしょう!」ミリアが叫ぶ。
「……フォローのようで全然嬉しくない。」
観客が爆笑する。
レオンの立てた「悪の侯爵フェス」は、完全に“グランツ家応援フェス”と化していた。
子どもたちが「ライさまー!」「安全の魔王ー!」と叫ぶ。
パン屋が「グランツまん」なる新商品を売り出す。
そして――屋台の売り上げは軒並み倍増。
レオンは頭を抱えた。
「おかしい……これは正義の祭りのはずだ……」
「正義と人気は別物ですな」とバルド。
「若様、もはや“顔が怖い”どころか、“顔が効く”レベルでございます。」
「洒落てるけど複雑だな。」
そのとき、ティナがステージに上がった。
勇者パーティーの中でも、彼女だけが落ち着いていた。
「ライ様。さっき、橋を直してくれた村の子が言ってました。
“怖い顔でも、優しい人だよ”って。」
静まり返る広場。
レオンが何か言いかけたが、ライが先に口を開いた。
「……顔は変えられない。でも、怖い顔でも笑える場を作ることはできる。
だからこのフェス、悪くない。……ただし。」
「ただし?」とティナ。
「次からは、名前を“悪の”じゃなく“安全のフェス”にしてくれ。」
会場から大歓声が起きた。
レオンは呆然とし、ミリアはメモ帳を握りつぶした。
バルドはにっこり微笑む。
「若様、もはや民の胃袋と心を同時に掴んでおられますな。」
「胃袋だけは掴まれたくない。こっちが痛くなる。」
「恋腹でございますな。」
「違う。今日は焼きそばの食べすぎだ。」
その後――フェスは夜まで続いた。
最後の花火が上がるころ、ティナがそっとつぶやいた。
「……やっぱり、この人、悪じゃない。」
その横でモフドラが、腹の上で「ぷしゅー」と湯気を出した。
ライの懐中時計の針が、静かに一メモリ動く。
――“恋心、警戒レベル1”。
バルド「若様、また針が上がりましたな。」
ライ「……放っておけ。」
バルド「では恒例の一言を。」
バルドは空を見上げて、にやりと笑った。
「善も悪も、若様の前では“胃薬”でございますな。」
「意味が分からない。」
「どちらもお腹に効く、という意味でございます。」
「バルド。」
「はい。」
「……黙ってろ。」
夜空にドカンと花火が咲いた。
笑い声と湯気と腹痛が、今日も見事に混ざっていた。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
今回は“正義フェス”という名のカオス回でした。
レオンの暴走、ミリアの暴愛、ティナの冷静、ミーナの屋台魂、そしてバルドの静かな毒。
ライがまじめに行動するほど、周りが勝手に“伝説”を作っていく――まさにこの作品の真骨頂です。
ライの「誠実」と、みんなの「誤解」がぶつかりあうこのシリーズ、
もし楽しんでもらえたなら、ぜひ評価(☆)と感想をお願いします!
「この回笑った!」「ティナかわいい!」「バルドもっとしゃべれ!」など、
どんな一言でも次の話のガソリンになります。
次回――“正義”はまた誤解し、“恋腹”はまた鳴る。
どうぞお楽しみに。




