第92話 勇者一行、井戸で大騒ぎ!?
今回のお話は「顔はこわいけど中身は超やさしい」ライと、勘違いが止まらない勇者たちの“朝からドタバタ編”です。井戸がボコボコ、正義はキラキラ、モフドラはぷしゅ〜。そしてライは、三行で町を救う男。
「続きも読みたいな」「このメンバー、クセ強くて好き」と思ったら、ブックマークしておいてください。更新にすぐ気づけますし、作者のやる気ゲージも一気に上がります。では、誤解ポイント2倍デーの開幕です。
朝の王都はまだ少し肌寒かった。
けれど、グランツ侯爵邸の庭にはもう人だかりができている。
ライオネル・フォン・グランツ――通称ライ。
名門侯爵家の跡取りにして、恐ろしいほど仕事ができる男だ。
ただし、顔が怖い。
今日も朝から町の代表たちを集め、井戸の整備計画を説明していた。
「――地下水の流れが少し変わっている。
昼までに一度、圧を抜けば持つはずだ。あとは節水を頼む」
大きな黒板にチョークで図を描き、三行でまとめる。
町の人たちは「さすがライ様!」と拍手喝采。
中には「顔は怖いけど話はわかりやすいな!」という声も混ざった。
バルドが後ろでうなずく。
「若様、顔面の迫力を除けば完璧な朝会でございます」
「除けば、とは何だ」
ミーナが白い旗を持って駆け寄る。
旗には今日の目標がでかでかと書かれていた。
『本日の目標:爆発ゼロ!』
「……毎日が戦場みたいだな」
「安全祈願です!」
そんな平和な朝。
だが、少し離れた路地裏では――。
「見たか、ミリア! 民を集め、怪しい話をしている!」
「わーっ、あれが“悪の会議”なのですね!」
壁の陰から顔を出している三人の若者。
昨日、屋敷に突撃してきた勇者パーティだった。
金髪に赤いマントの青年――勇者レオン。
正義感が強く、思い込みも強い。
その隣で祈っているのが僧侶ミリア。レオンに恋している。
そして一番冷静なのが魔法使いティナ。
栗色の髪をひとつに束ね、いつも二人に振り回されている。
「レオン、ただ井戸の話してるように見えるけど……」
「ふっ、甘いぞティナ!“地下”を語るのは“地獄”を意味する合図だ!」
「どんな解釈ですかそれ!?」
レオンが剣を握りしめる。
「奴はきっと地下に封じられた魔物と契約している!」
ミリアが真剣にうなずいた。
「やはり悪の侯爵……!」
ティナだけがひとり頭を抱えた。
「(どうしよう……この人たち、ほんとに勇者なの?)」
――その時。
井戸のひとつが「ボコボコッ」と泡を吹いた。
「うわっ!? 井戸が暴れてる!」
「洗濯物がびしょびしょだーっ!」
町の人たちが大慌て。
ライは即座に動いた。
「落ち着け。空気が詰まっているだけだ。子どもと年寄りを下がらせろ!」
ミーナが走り回り、モフドラが足元でぷしゅーと湯気を吐く。
小さな竜の体温はちょうどよく、泣きそうな子どもが笑顔になった。
「若様、どういたします?」
「圧を抜く。逆止弁を仮で作る――コルク、布、針金!」
ライは器用に手を動かし、井戸の口に細工を施していく。
その動きは、まるで職人。
しかしレオンの目には――。
「見ろ! 儀式だ! 悪の儀式だ!!」
「ええっ!? なんか普通の修理に見えますけど!?」
とティナが言ったが……
「騙されるなティナ! あの冷静さが悪の証拠だ!」
ライは振り返らずに言った。
「君――魔法使いの君、風魔法が使えるだろう?」
ティナがびくっとする。
「え、ええ、まあ……」
「なら、井戸口にそっと風を流して。強すぎると泡が乱れる」
言われるままにティナが手をかざす。
柔らかい風が吹き、井戸の泡がゆっくりと鎮まった。
「おおっ……!」
町の人が息をのむ。
ミーナが叫ぶ。
「止まりましたー! ライ様、神です!」
「いや、違う。君たちのおかげだ」
ライの穏やかな声に、ティナが少しだけ微笑む。
その瞬間、ライの懐中時計が「チリッ」と音を立て、針が1メモリ上がった。
――恋腹、反応。
バルドが後ろでそっとつぶやく。
「若様、針が上がりました。恋の兆候でございます」
「実況するな」
その頃、物陰の勇者レオンは拳を握りしめていた。
「くっ……あの魔法使い、洗脳されている……! 悪侯、恐るべし!」
「(なんでそうなるの……)」ティナの心の声は届かない。
やがて井戸の泡は完全に止まり、町の人たちは笑顔でライにパンを差し出した。
「ライ様、ありがとうございます!」
「お礼にパンどうぞ!」
「ありがとう。みんなの協力があってこそだ」
ライは穏やかに受け取り、丁寧に頭を下げる。
その優しさを見て、子どもが笑った。
だがその直後、門の向こうからまたも声が響いた。
「悪の侯爵ライオネル!地下の魔物との契約をやめろーっ!!」
レオンだった。
夕陽を背に、マントをなびかせ、全力で勘違いしていた。
町の人たちはため息をつき、バルドがつぶやく。
「若様。誤解という井戸は……今日も深うございますな」
ライはこめかみを押さえた。
「……どこまで掘り下げる気なんだ、あいつは」
井戸騒動が落ち着き、町にようやく平和が戻った。
だが、その空気をぶち壊す声がまた響いた。
「悪の侯爵ライオネル! その“黒い影の手”を離せぇぇぇぇぇっ!!」
広場の人々が一斉にそちらを向く。
門の上でマントをバサッと広げて立つのは――勇者レオン。
昨日と同じく、いや昨日以上にキラキラした正義顔だった。
「……あの人、毎日来るね」
ミーナがパンをかじりながらつぶやく。
バルドは紅茶を注ぎつつ静かに答える。
「正義とは、時に日課でございます」
そのころライは、子どもに怪我の手当てをしていた。
ミーナが持つ包帯を、影のようにスッと伸びた手で受け取った――
正確には、背後からミーナが“影に見える角度”で差し出しただけ。
だがレオンの視界には、それが“闇の呪術”にしか見えなかった。
「見たかミリア! 影から手が伸びている!」
「ひゃああっ! 闇の契約っ!」
「ちょ、ちょっと! ただの手渡しよ!」ティナが全力で否定する。
しかしレオンは聞く耳を持たない。
「悪は光を嫌う! 我らが正義の太陽で焼き払うのみ!」
「ちょ、待って! “焼く”とか言わないで!」
レオンは空に向かって叫んだ。
「出でよ! 聖なる光よ!」
……が、
なにも出ない。
「……ん?」
「レオン様、詠唱の順番が逆です!」
「なにぃ!? “光の加護よ、照らせ我らを”……おおおおおっ!!」
今度は、出た。
すごい勢いで。
まぶしい光が空から降り注ぎ、
ミーナが「目がーっ!」と叫びながら地面に転がる。
バルドは紅茶を持ったまま、静かに日傘を開いた。
「若様、正義の光、直射でございます」
「……これは、ただの迷惑光線だ」
光が収まると、レオンは息を切らして剣を構えた。
「どうだ! 影は消えたか!」
「消えたのはミーナの視力です!」
「うう……まだ星が飛んでますぅ……」
ライはため息をつき、歩み寄った。
「勇者殿、これは治療だ。子どもの怪我を手当てしていただけだ」
「なにぃ……!? “子どもを利用する悪”だと!?」
「違う、言葉を省くな」
ティナがたまらず前に出た。
「レオン、ほんとに落ち着いて!この人、悪い人じゃない!」
「だが顔が怖い!」
「顔で判断すんな!!」
ミリアがうっとりと見上げる。
「でも、怖い顔って……威厳があって素敵かも……」
「おい、ミリア! 寝返るな!」
その混乱の中で、また一つ事件が起きた。
井戸のそばで遊んでいた子どもが、バランスを崩して落ちかけたのだ。
「危ない!」
ライがすぐさま動いた。
長い腕で子どもを抱き上げ、魔法で足場を固める。
その姿は――どう見ても“悪の怪人が子どもをさらう”構図。
「きゃーーーっ! ついに人質がぁぁぁっ!!」レオンが叫ぶ。
「……いや、助けてるでしょこれ!」ティナがまた全力で否定する。
ライは苦笑しながら子どもを地面に降ろし、膝をついた。
「もう大丈夫。怖くなかったか?」
「う、うん。ありがとう、ライ様!」
子どもはにこっと笑い、ミーナが感動して泣く。
「ライ様、今日も尊いですぅ……!」
しかしその優しい光景の中で、
レオンはまた別の解釈をしていた。
「くっ……“優しいフリ”をして民の心を操るつもりだな……!」
「どこまでひねくれてんの!?」
ティナはもう頭を抱え、ミリアは「レオン様カッコいい!」と意味不明に叫ぶ。
町の人たちは完全にあきれ顔。
バルドは静かに紅茶をすすりながらつぶやいた。
「若様、世に正義が多いほど、誤解も増えるものでございます」
「……それはもう十分に実感してる」
レオンは最後に剣を高く掲げ、叫んだ。
「今日のところは見逃してやる! だが明日こそ真実を暴く!」
「暴かれるのは君の思い込みだと思うが」
勇者たちは風のように去っていった。
そのあとに残ったのは、光に焦がれた花壇と、紅茶の香りだけだった。
ミーナがぽつりと呟く。
「……毎日来たら、もう“常連”ですよね」
「スタンプカードでも作るか」
ライがぼそっと言うと、バルドが頷いた。
「“来るたび誤解ポイント2倍”、でございますな」
「やめろ、それだと僕が店主みたいだ」
モフドラがライの肩に乗り、「ぷしゅ〜」と小さく湯気を吐く。
その湯気が、少しだけやさしい香りを残した。
そしてその香りを、ティナだけが少し遠くで感じていた。
胸の奥で、ほんの少しだけ――何かが動いた気がした。
ライの誠実、レオンの一直線、ティナの冷静、ミリアの推し力、そしてモフドラの湯気。みんながそろうと、井戸ひとつでも小さな冒険になりますね。ライの「三行で解決」とバルドのツッコミ、気に入ってもらえたらうれしいです。
もしよかったら、**評価(☆)**で応援してください。さらに、感想で「ここ笑った」「このシーンしんみりした」「このキャラもっと見たい」など一言でも書いてもらえると、次の話づくりがめちゃくちゃはかどります。
それではまた次回。
明日も誤解は深く、でも心はちょっとだけ近く。ぷしゅ〜。




