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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第10章 魔法使い ティナ

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92/100

第92話 勇者一行、井戸で大騒ぎ!?

今回のお話は「顔はこわいけど中身は超やさしい」ライと、勘違いが止まらない勇者たちの“朝からドタバタ編”です。井戸がボコボコ、正義はキラキラ、モフドラはぷしゅ〜。そしてライは、三行で町を救う男。


「続きも読みたいな」「このメンバー、クセ強くて好き」と思ったら、ブックマークしておいてください。更新にすぐ気づけますし、作者のやる気ゲージも一気に上がります。では、誤解ポイント2倍デーの開幕です。

朝の王都はまだ少し肌寒かった。

けれど、グランツ侯爵邸の庭にはもう人だかりができている。


ライオネル・フォン・グランツ――通称ライ。

名門侯爵家の跡取りにして、恐ろしいほど仕事ができる男だ。

ただし、顔が怖い。


今日も朝から町の代表たちを集め、井戸の整備計画を説明していた。


 


「――地下水の流れが少し変わっている。

昼までに一度、圧を抜けば持つはずだ。あとは節水を頼む」


 


大きな黒板にチョークで図を描き、三行でまとめる。

町の人たちは「さすがライ様!」と拍手喝采。

中には「顔は怖いけど話はわかりやすいな!」という声も混ざった。


バルドが後ろでうなずく。

「若様、顔面の迫力を除けば完璧な朝会でございます」

「除けば、とは何だ」


ミーナが白い旗を持って駆け寄る。

旗には今日の目標がでかでかと書かれていた。


『本日の目標:爆発ゼロ!』



「……毎日が戦場みたいだな」

「安全祈願です!」


 そんな平和な朝。

 だが、少し離れた路地裏では――。



「見たか、ミリア! 民を集め、怪しい話をしている!」

「わーっ、あれが“悪の会議”なのですね!」


壁の陰から顔を出している三人の若者。

昨日、屋敷に突撃してきた勇者パーティだった。


金髪に赤いマントの青年――勇者レオン。

正義感が強く、思い込みも強い。

その隣で祈っているのが僧侶ミリア。レオンに恋している。

そして一番冷静なのが魔法使いティナ。

栗色の髪をひとつに束ね、いつも二人に振り回されている。

 


「レオン、ただ井戸の話してるように見えるけど……」

「ふっ、甘いぞティナ!“地下”を語るのは“地獄”を意味する合図だ!」

「どんな解釈ですかそれ!?」


 


レオンが剣を握りしめる。

「奴はきっと地下に封じられた魔物と契約している!」

ミリアが真剣にうなずいた。

「やはり悪の侯爵……!」

ティナだけがひとり頭を抱えた。

「(どうしよう……この人たち、ほんとに勇者なの?)」

 


――その時。

井戸のひとつが「ボコボコッ」と泡を吹いた。

 


「うわっ!? 井戸が暴れてる!」

「洗濯物がびしょびしょだーっ!」



町の人たちが大慌て。

ライは即座に動いた。

 


「落ち着け。空気が詰まっているだけだ。子どもと年寄りを下がらせろ!」

 

ミーナが走り回り、モフドラが足元でぷしゅーと湯気を吐く。

小さな竜の体温はちょうどよく、泣きそうな子どもが笑顔になった。

 


「若様、どういたします?」

「圧を抜く。逆止弁を仮で作る――コルク、布、針金!」

 


ライは器用に手を動かし、井戸の口に細工を施していく。

その動きは、まるで職人。

しかしレオンの目には――。


 


「見ろ! 儀式だ! 悪の儀式だ!!」

「ええっ!? なんか普通の修理に見えますけど!?」

とティナが言ったが……

「騙されるなティナ! あの冷静さが悪の証拠だ!」


 


ライは振り返らずに言った。

「君――魔法使いの君、風魔法が使えるだろう?」


ティナがびくっとする。

「え、ええ、まあ……」

「なら、井戸口にそっと風を流して。強すぎると泡が乱れる」


言われるままにティナが手をかざす。

柔らかい風が吹き、井戸の泡がゆっくりと鎮まった。


 


「おおっ……!」

町の人が息をのむ。

ミーナが叫ぶ。

「止まりましたー! ライ様、神です!」

「いや、違う。君たちのおかげだ」

 


ライの穏やかな声に、ティナが少しだけ微笑む。

その瞬間、ライの懐中時計が「チリッ」と音を立て、針が1メモリ上がった。

 


 ――恋腹、反応。

 


 バルドが後ろでそっとつぶやく。

「若様、針が上がりました。恋の兆候でございます」

「実況するな」


 


その頃、物陰の勇者レオンは拳を握りしめていた。

「くっ……あの魔法使い、洗脳されている……! 悪侯、恐るべし!」

「(なんでそうなるの……)」ティナの心の声は届かない。


 


やがて井戸の泡は完全に止まり、町の人たちは笑顔でライにパンを差し出した。

「ライ様、ありがとうございます!」

「お礼にパンどうぞ!」

「ありがとう。みんなの協力があってこそだ」


ライは穏やかに受け取り、丁寧に頭を下げる。

その優しさを見て、子どもが笑った。


 

だがその直後、門の向こうからまたも声が響いた。

 


「悪の侯爵ライオネル!地下の魔物との契約をやめろーっ!!」


 


レオンだった。

夕陽を背に、マントをなびかせ、全力で勘違いしていた。


 


町の人たちはため息をつき、バルドがつぶやく。

「若様。誤解という井戸は……今日も深うございますな」

 


ライはこめかみを押さえた。

「……どこまで掘り下げる気なんだ、あいつは」



井戸騒動が落ち着き、町にようやく平和が戻った。

だが、その空気をぶち壊す声がまた響いた。


 


「悪の侯爵ライオネル! その“黒い影の手”を離せぇぇぇぇぇっ!!」


 


広場の人々が一斉にそちらを向く。

門の上でマントをバサッと広げて立つのは――勇者レオン。

昨日と同じく、いや昨日以上にキラキラした正義顔だった。


 


「……あの人、毎日来るね」

ミーナがパンをかじりながらつぶやく。

バルドは紅茶を注ぎつつ静かに答える。

「正義とは、時に日課でございます」


 


そのころライは、子どもに怪我の手当てをしていた。

ミーナが持つ包帯を、影のようにスッと伸びた手で受け取った――

正確には、背後からミーナが“影に見える角度”で差し出しただけ。


 

だがレオンの視界には、それが“闇の呪術”にしか見えなかった。

 


「見たかミリア! 影から手が伸びている!」

「ひゃああっ! 闇の契約っ!」

「ちょ、ちょっと! ただの手渡しよ!」ティナが全力で否定する。

 


しかしレオンは聞く耳を持たない。

「悪は光を嫌う! 我らが正義の太陽で焼き払うのみ!」

「ちょ、待って! “焼く”とか言わないで!」

 


レオンは空に向かって叫んだ。

「出でよ! 聖なる光よ!」

 ……が、

 なにも出ない。

 


「……ん?」

「レオン様、詠唱の順番が逆です!」

「なにぃ!? “光の加護よ、照らせ我らを”……おおおおおっ!!」


 


今度は、出た。

すごい勢いで。


まぶしい光が空から降り注ぎ、

ミーナが「目がーっ!」と叫びながら地面に転がる。

バルドは紅茶を持ったまま、静かに日傘を開いた。


 


「若様、正義の光、直射でございます」

「……これは、ただの迷惑光線だ」


 


光が収まると、レオンは息を切らして剣を構えた。

「どうだ! 影は消えたか!」

「消えたのはミーナの視力です!」

「うう……まだ星が飛んでますぅ……」


 


ライはため息をつき、歩み寄った。

「勇者殿、これは治療だ。子どもの怪我を手当てしていただけだ」

「なにぃ……!? “子どもを利用する悪”だと!?」

「違う、言葉を省くな」


 


ティナがたまらず前に出た。

「レオン、ほんとに落ち着いて!この人、悪い人じゃない!」

「だが顔が怖い!」

「顔で判断すんな!!」

 


 ミリアがうっとりと見上げる。

「でも、怖い顔って……威厳があって素敵かも……」

「おい、ミリア! 寝返るな!」


 

 その混乱の中で、また一つ事件が起きた。

 井戸のそばで遊んでいた子どもが、バランスを崩して落ちかけたのだ。

 


「危ない!」

 ライがすぐさま動いた。

 長い腕で子どもを抱き上げ、魔法で足場を固める。

 その姿は――どう見ても“悪の怪人が子どもをさらう”構図。


 


「きゃーーーっ! ついに人質がぁぁぁっ!!」レオンが叫ぶ。

「……いや、助けてるでしょこれ!」ティナがまた全力で否定する。


 


 ライは苦笑しながら子どもを地面に降ろし、膝をついた。

「もう大丈夫。怖くなかったか?」

「う、うん。ありがとう、ライ様!」


 子どもはにこっと笑い、ミーナが感動して泣く。

「ライ様、今日も尊いですぅ……!」


 


 しかしその優しい光景の中で、

 レオンはまた別の解釈をしていた。


 


「くっ……“優しいフリ”をして民の心を操るつもりだな……!」

「どこまでひねくれてんの!?」


 


 ティナはもう頭を抱え、ミリアは「レオン様カッコいい!」と意味不明に叫ぶ。

 町の人たちは完全にあきれ顔。

 バルドは静かに紅茶をすすりながらつぶやいた。


 

「若様、世に正義が多いほど、誤解も増えるものでございます」

「……それはもう十分に実感してる」

 


 レオンは最後に剣を高く掲げ、叫んだ。

「今日のところは見逃してやる! だが明日こそ真実を暴く!」

「暴かれるのは君の思い込みだと思うが」

 


勇者たちは風のように去っていった。

そのあとに残ったのは、光に焦がれた花壇と、紅茶の香りだけだった。


 


ミーナがぽつりと呟く。

「……毎日来たら、もう“常連”ですよね」

「スタンプカードでも作るか」


 


ライがぼそっと言うと、バルドが頷いた。

「“来るたび誤解ポイント2倍”、でございますな」

「やめろ、それだと僕が店主みたいだ」


 


モフドラがライの肩に乗り、「ぷしゅ〜」と小さく湯気を吐く。

その湯気が、少しだけやさしい香りを残した。


 


そしてその香りを、ティナだけが少し遠くで感じていた。

胸の奥で、ほんの少しだけ――何かが動いた気がした。


 

ライの誠実、レオンの一直線、ティナの冷静、ミリアの推し力、そしてモフドラの湯気。みんながそろうと、井戸ひとつでも小さな冒険になりますね。ライの「三行で解決」とバルドのツッコミ、気に入ってもらえたらうれしいです。


もしよかったら、**評価(☆)**で応援してください。さらに、感想で「ここ笑った」「このシーンしんみりした」「このキャラもっと見たい」など一言でも書いてもらえると、次の話づくりがめちゃくちゃはかどります。


それではまた次回。

明日も誤解は深く、でも心はちょっとだけ近く。ぷしゅ〜。


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