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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第10章 魔法使い ティナ

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第91話 勇者一行、怖い顔に立ち向かう!?

読んでくれてありがとうございます。

このお話は、「顔はこわいけど中身は超いい人」な侯爵ライと、勘違い全開の勇者たちが出会ってしまうコメディです。執事の毒舌、侍女の暴走、小竜モフドラの“ぷしゅー”──ぜんぶまとめて、にぎやかな日常が始まります。


もし少しでも「続きが気になる」「キャラが好きかも」と思ってもらえたら、ブックマーク(保存)しておいてください。更新のたびにすぐ読めますし、僕(作者)もとても励みになります。

それでは、ライの“誠実”が今日も胃に来る物語、どうぞ。

その日のグランツ侯爵邸は、朝からやけに静かだった。


 いつもならミーナの「ライ様ー! 朝ごはん焦げてます!」の声が響くのだが、今日はやけに落ち着いている。

 使用人たちは掃除に励み、モフドラは窓辺で湯気をぷしゅー。

 そして当のライオネルは、机の上に三冊の帳簿を広げていた。


 


「……ふむ。港湾倉庫の税率は二%下げ、代わりに鉱山利権の回収率を上げる。これで均衡だな」


 


 ライはさらさらと三行で書きつけ、書簡をまとめた。

 彼にとって、三行で街の財政が変わるのは日常茶飯事である。


 


「若様、いつもながら経済の神でございますな。顔がもう少し穏やかなら“商売の女神”も微笑むでしょうに」


 


 執事のバルドが紅茶を置きながら、いつもの調子で毒を添える。

 ライは軽くため息をついた。


 


「僕は完璧だ。……恋以外はね」


「ええ、恋腹以外は非の打ちどころがございません」


 


 そんな静かなやり取りの最中、扉が軽くノックされた。


 


「ライ様ー! 手紙が届いてます! しかも封蝋が金色です!」

「金色……? どこの貴族だ?」


 


 ミーナが胸を張って答えた。


「“ロイス様”って書いてあります!」


 


 ロイス。

 金髪碧眼、王都一の美男子であり、ライの良きライバル。

 彼が書いてくる手紙はたいてい――面倒事の始まりだった。


 


 封を切ると、整った筆跡でこう記されていた。


> 『隣国で勇者召喚が行われた。召喚されたのは三人――勇者レオン、僧侶ミリア、魔法使いティナ。

だが彼らは王命を受けず、独断で旅をしている。

噂では、“悪の侯爵”を退治するため王都に向かったとか。

その侯爵の名が――君だ、ライ。』




 


 ライは眉をひそめ、手紙を机に置いた。


「……僕、悪の侯爵になっていたらしい」


「おめでとうございます、若様。肩書が増えましたな」


 


 バルドの声は穏やかだが、口元が笑っている。

 ミーナが慌てて首を振った。


「えっ!? そんなわけないです! ライ様は正義の塊です!」

「でも、顔がこわいから誤解されがちなんですよね……」


「やめなさい、ミーナ」


「すみません!」


 


 モフドラが机の上でぷしゅーと湯気を吐いた。

 それがちょうどため息みたいで、妙にぴったりだった。


 


「まあいい。放っておけば――」


 


 ライが言いかけたそのとき、屋敷の外から大きな声が響いた。


 


「――悪の侯爵ライオネル! 出てこい!!」


 


 全員、固まる。


 


「えっ……もう来た!?」


「対応が早いですな。正義のフットワーク、恐るべし」


「どうするんですか!? 武器とか爆弾とか持ってたら!」


「落ち着け。僕は悪ではない。説明すれば済む話だ」


 


 そう言って立ち上がるライ。

 ただ、その姿――背が高く、表情が真剣すぎる――が、

 どう見ても「悪のボスの登場」にしか見えなかった。


 


 門の外では、三人の若者が待ち構えていた。


 


「出たな、悪の侯爵!!」


 


 先頭で剣を構えるのは、金髪に赤いマントをなびかせた青年。

 彼こそが、勇者レオン。

 正義感が強く、曲がったことが大嫌い――ただし、よく曲がるのは自分の判断だった。


 


「レオン様! 立派です!」

 後ろで両手を合わせて祈るのは僧侶ミリア。

 いつも明るく、勇者にぞっこん。

 まるで恋心が信仰になってしまっているタイプだ。


 


「……あの、たぶん人違いだと思うんだけど……」

 控えめに言うのは魔法使いティナ。

 栗色の髪を後ろでまとめ、手には魔法杖。

 どこか流されやすく、いつも二人の間で苦労しているようだ。


 


 ライがゆっくりと門の前に立つと、三人が一斉に身構えた。


 


「貴様が悪の侯爵ライオネルか!」


「……違うとは言わないが、“悪の”は余計だ」


 


 静かな声。

 だが、低音で響くその調子が逆に怖かったらしい。

 レオンがビクッと一歩下がる。


 


「や、やはり悪のオーラが……!」


 


 バルドが小声でつぶやいた。


「若様、ただの朝の挨拶で敵が一歩下がるとは……顔面、戦略兵器でございますな」


「それ褒めてないだろう」


 


 ミーナは物陰から小さな旗を取り出した。

 『ようこそ決闘へ!』と書かれたそれを振ろうとして、バルドに止められる。


「今は祭りではありませんぞ」


「す、すみません!」


 


 レオンが剣を構え、真剣な顔で叫ぶ。


「罪状は三つ! ひとつ、“笑顔がない”! 二つ、“目が鋭い”! 三つ、“背が高い”!」


「それ全部、見た目の話だろう」


「見た目は心を映す鏡だ!」


「鏡が歪んでるのは君のほうじゃないか?」


 


 その瞬間、ティナがこっそり呟いた。


「……ほんと、それな」


 


 ミリアが横からレオンを応援する。


「がんばってくださいレオン様! 正義は負けません!」


「ありがとうミリア! 今こそ、悪を斬る!」


 


 ――そして、彼は突撃した。


 


 剣を振り上げ、勢いよく駆け出すレオン。

 しかし、ライはまったく動かない。


 すれ違う一瞬、ライはただ足を半歩ずらしただけ。

 レオンの剣は空を切り、そのまま――


 


「うわあああっ!?」


 


 見事につんのめって転んだ。

 ライの仕込んだ滑り止め強化魔法が床の摩擦を変えたせいだ。


 


「ふむ、やはり制御に甘さがある」


「ちょ、ちょっと! 地面が裏切りましたーっ!」


 


 ミリアが慌てて回復魔法を唱える。

 光がレオンを包み――元気に立ち上がった。


 


「うおお! 力がみなぎる!」

 再突撃。


 ……そしてまた滑って転んだ。


 


「うおおおぉぉ……!? 地面がぁぁっ!」


「レオン様ぁぁぁぁぁぁ!!」


 


 ティナが慌てて小さな魔法陣を描き、暴走する光を抑える。

 それを見たライが、ふと声をかけた。


「君、魔力の制御が上手いな」


「えっ? あ、ありがとう……ございます」


 


 その一言にティナは少し頬を赤らめた。

 懐中時計の針が“チチッ”と鳴る。

 ミーナが双眼鏡をのぞきこみながら叫ぶ。


「針が上がったー! ライ様、恋腹メーター1メモリ上昇です!」


「実況するな、ミーナ!」


 


 そんな中、レオンは剣を杖にしながら立ち上がった。


「今日はこのくらいにしておいてやる! だが明日は本気だ!」


「今日も本気でしたけどね!」とミリア。


 


 レオンたちは夕暮れの街へ去っていった。

 ティナだけが一度振り返り、ライに頭を下げた。


 


「……ご迷惑をおかけしました」


「気にするな。怪我をしないように」


 


 短い言葉。

 でも、ティナはほんの少し笑った。


 


 バルドが肩をすくめる。


「若様、また一日で“悪人”から“誤解された人”にランクアップしましたな」


「望んでない称号だ」


 


 モフドラが「ぷしゅ〜」とため息。

 屋敷には、なんとも言えない静けさと焦げ臭さが戻ってきた。


 


――次の日、もっと面倒なことが起きるとも知らずに。


夜。

 グランツ侯爵邸は、月明かりに包まれていた。

 昼間あれだけ騒がしかったのが嘘のように、静まり返っている。


 


 ライは書斎で蝋燭の灯を眺めていた。

 机の上には、勇者が残していった“罪状メモ”が置かれている。


 


「一、“笑顔がない”。二、“目が鋭い”。三、“背が高い”……」


 


 彼は小さくため息をついた。


「この国、裁判が外見採点制になったのか?」


 


 バルドが紅茶を注ぎながら言う。

「若様、世の中の“誤解税”は顔で支払う時代でございます」


「不本意な納税だな……」


 


 窓の外ではモフドラが月を見上げ、ぷしゅーと湯気を吐いている。

 その蒸気がまるで“ため息の翻訳”のように、静かに立ちのぼった。


 


「しかし若様、あの勇者殿……本気で信じておられましたな」

「顔が怖い=悪、というやつか」

「はい。“正義”が目に見えるものと思っておられるご様子で」


「なら、せめて視力を鍛えてもらいたいな」


 


 バルドがふっと笑う。

 そんなやり取りのあと、廊下の方から――コツ、コツ、と小さな足音が聞こえた。


 


 ミーナがドアを少し開けて、そっと覗き込む。


「ライ様ぁ……外に誰かいます!」


「また物売りか?」


「いえ……勇者っぽい影が三つ……!」


「まさか、夜襲か?」


「はいっ、たぶん『二度目の正義』です!」


「何だその必殺技みたいな名前は」


 


 ライは立ち上がり、マントを羽織った。

 外を覗くと、確かに門の前に三つの影。

 月明かりに照らされ、剣と杖がキラリと光る。


 


「……懲りないな。昼間のあれで学ばなかったのか」


「若様、誠実な悪役はつらいものでございます」


「誠実な悪役ってなんだ」


 


 ミーナは慌てて玄関に飛び出そうとするが、ライが止める。

「ミーナは中にいろ。僕が行く」

「えっ、でもまた顔が怖いって言われますよ!」

「それはもう慣れた」


 


 彼が外に出ると、勇者パーティーの三人が構えていた。

 レオンは剣を握りしめ、やたらキリッとした顔で言う。


 


「夜に動く悪は、本物だと聞いた!」


「ただの睡眠不足だ」


「その冷静な返しが逆に怖い!」


 


 ミリアが祈りながら叫ぶ。


「レオン様っ! 月光に負けないでください! 闇の気配が濃いです!」


「いや、ただの夜だから!」


 


 ティナは少し離れたところでため息をついていた。

 どうやら彼女だけは、事の無茶さを分かっているらしい。


 


「レオン、もうやめようよ。昼間の人、悪い人じゃなかったと思う」

「ティナ、君は優しすぎる! 悪はいつだって“いい人のふり”をするんだ!」

「それ、君のほうが怪しい発言だぞ」とライが口を挟む。


 


 バルドが後ろからひょいと出てきた。

「若様、ここは一つ、“誠実外交”を試してみてはいかがです」

「つまり?」

「紅茶で会談ですな。温度で心は解けます」


 


 ライは苦笑しながらうなずいた。

 門を開け、彼らを庭に招き入れる。


 


 ミリアが震えながら小声で言う。


「わ、罠じゃないですよね……? 毒入り紅茶とか……?」


「安心しろ。僕の紅茶は人生相談にも効く」


 


 勇者たちは恐る恐る椅子に座った。

 ティナだけは、どこか興味深そうにカップを見つめている。


 


「……おいしい。香草の香りがする」


「それは夜明花やめいか。眠れぬ者の心を静める花だ」


 


 ティナの瞳が少し柔らかくなった。

 レオンとミリアはというと、まだ落ち着かず、カップを持つ手が震えている。


 


「勇者殿」

 ライが穏やかに口を開いた。

「僕が悪の侯爵だという噂、どこで聞いた?」


「町の噂です! “顔が怖くて経済に強い男=裏で悪を操る天才”って!」


「その連想ゲームで冤罪作れるのか……」


「でも、民は噂を信じます! 俺はそれを正す使命を!」


「じゃあまず、信じる力の使い方を正すんだな」


 


 レオンが言葉に詰まる。

 横でティナが小さく笑った。


 


「レオン、今日は帰ろう。明日また……ちゃんと話そう」


 


 ミリアが「えぇ~!?」と不満を漏らすが、ティナが目で制した。

 ライは軽く頷いた。


 


「門は開けておく。次は剣じゃなく、会話で来てくれ」


 


 レオンは少し顔を赤らめながら、剣を納めた。


「……わかった。正義は、時々休憩も大事だからな!」


「いい心がけだ。勇者にも睡眠は必要だ」


 


 ミリアが慌てて後を追い、ティナが最後に一度だけ振り返った。


 


「……その、お茶。ごちそうさまでした」

「またいつでも飲みに来い。悪の館は夜も営業中だ」


 


 ティナは吹き出した。


「ふふっ……やっぱり、悪人には見えないな」


 


 その言葉に、ライの懐中時計が“チリッ”と鳴った。

 針が少しだけ上がる。


 バルドが小声でつぶやく。


「若様、誠実にも副作用が出始めましたな」


「……静かにしろ、バルド」


 


 勇者たちが帰ったあと、庭に静寂が戻る。

 モフドラが足元にすり寄り、ぷしゅーと湯気を吐いた。


 


 ミーナが玄関から顔を出す。

「ライ様ぁ~! 今の子たち、けっこう可愛かったですね!」

「そういう感想をいきなり言うな」

「で、どの子がタイプでした?」

「職務質問か?」


「勇者除外なら魔法使いさんでしょ! 当たりですよね!?」

「……黙秘権を使う」


 


 バルドが静かに紅茶を飲み干しながら言った。


「若様。正義も悪も、恋も腹痛も。すべては夜に一度、静まるものでございますな」


「そして朝になればまた面倒が増える」


「はい、明日も正義が押しかけてくるでしょう」


「……予言か?」


「経験則でございます」


 


 その夜、ライの懐中時計は小さく光ったまま、

 針を一ミリだけ――上に、動かしていた。


 


――翌朝、さらに大きな勘違いが待っているとも知らずに。


最後まで読んでくれてありがとう!

悪の侯爵と呼ばれつつも、紅茶を出して話し合おうとするライ。すぐ滑る勇者。実況する侍女。湯気でフォローするモフドラ。にぎやかな初対面、楽しんでもらえたなら嬉しいです。


次回以降は、誤解が誤解を呼び、でもちょっぴり心が近づく……そんな展開をテンポよく描いていきます。よければ評価(☆)で応援を、感想コメントで「ここが面白かった」「このキャラもっと見たい」など教えてください。ひと言でも、めちゃくちゃ力になります。


それではまた次回。

ライの誠実、明日も健在(そして胃にくる)。


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