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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第1章 貴族令嬢 クラリス

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9/100

第9話 若様、市場のスリと恋腹騒動

今回はライとクラリスの「大市場デート回」。

人混みでのスリ騒ぎに始まり、吟遊詩人の空気読まない歌、鳩との微妙なすれ違い……次々と笑えるハプニングが押し寄せます。

それでもクラリスの「信じています」の言葉に、ライの胸は大きく揺れました。

彼の恋腹は今日も絶好調(?)ですが、少しずつ、確実に二人の距離は近づいているのかもしれません。


物語をまた覗きに来てもらえるように、

そっと★【ブックマーク】★しておいてくださいね!

王都の大市場は、朝から大にぎわいだった。


果物の山、香辛料の袋、屋台の焼き菓子から漂う甘い匂い。子どもが走り回り、大人たちの声が重なり合う。


その人混みをスッと割って進むのが、長身のライと、隣を歩くクラリスだった。

「人が多いですね」

クラリスが少し不安そうに言うと、ライはすぐに歩調を合わせ、さりげなく彼女を庇う位置に立った。


「安心してください。僕がいます」

その一言は頼もしい……はずだったのだが、顔がこわすぎて通りすがりの子どもが「うわああん!」と泣き出した。


クラリスは苦笑いしながらも、ライが次々と商人とやり取りする姿に目を見張る。

香辛料の袋をひと目で見抜き、

「これは本物です。けれど少し湿気ていますね」

と値切り。

羊毛布を手に取っては

「織り方が雑です、別の職人のものを」

と即座に判断。

周りの人は「さすがグランツ家のお坊ちゃま!」

と拍手喝采。


「本当に頼れる方ですね」

クラリスが微笑んだ瞬間、ライの懐中時計の針が“ぐぐっ”と跳ね上がった。

恋心メーターが上がる音がした気がして、ライの腹が「ムズッ」と反応する。


——と、その時だった。


人混みの中で、ひょろ長い男の腕がクラリスの腰元へ伸びた。

華やかなドレスの陰から、財布を狙っている。


ライの目が鋭く光る。

「スリです」

低い声でそう告げた瞬間、周りの客たちはビクッと身を引いた。


「ひっ……強盗!?」

「怖い顔のあいつが襲ったぞ!」


……違う。どうしてこうなる。


ライはため息をつき、素早く足を伸ばした。

ひょろ長い男がつまずいた瞬間、剣の柄で器用に押さえ込み、動きを封じる。


「ぐえっ!」と倒れ込むスリ。

しかし周囲の人々は

「うわぁ、怖い人がスリをボコった!」と大混乱。


さらにタイミング悪く、モフドラが「ぷしゅー」と湯気を吐いた。

「火を吹いた!ドラゴン使いだ!」

「助けてー!」


観客は大騒ぎで逃げ惑う。ライは「……違うんだけど」と額を押さえるが、顔が怖いせいで余計に迫力が増す。


そんな中、クラリスが一歩前に出て声を張り上げた。

「落ち着いてください!この方は助けてくださったんです!」


その一言で空気が変わった。

「おお……じゃあヒーローか!」

「スリを捕まえてくれたのか!」

市場の人々が口々に叫び、次第に拍手が広がっていく。


「お兄ちゃん、すげえ!」

子どもが無邪気に駆け寄る。ライは柔らかく微笑もうとした。

——次の瞬間、子どもたち全員が「ひぃぃ!」と泣き叫んで親の後ろに隠れた。


クラリスだけが、クスクス笑って肩を震わせた。

「本当に頼れる方ですね。……顔はちょっと怖いですけど」

ライは腹にじわっと違和感を覚えつつも、胸の奥が温かくなるのを感じた。


市場の喧騒を背に、遠巻きに見守っていた執事バルドがぼそり。

「若、人気商売は大変でございますな。……お顔さえ改善できれば」


ライは頭を抱えた。



スリ騒ぎがようやく収まり、ライは人混みをかき分けながらクラリスを広場の方へと導いた。

そこは王都の中でも人通りが少なく、石の噴水と並木道しかない小さな広場。夜風がさらりと吹き抜けて、さっきまでのざわつきが嘘みたいに静かだった。


「ここなら、落ち着いて話せます」

ライは深呼吸しながらベンチを指し示した。

心の中ではすでに作戦会議が始まっている。

——第一に、深呼吸。第二に、ミントの葉。第三に、祖母の腹当ての位置を正す。

恋腹対策フルセット、準備よし。


腰を下ろす前に、ライは懐中時計をちらっと確認する。銀の時計の針は、心臓の鼓動に合わせてじわじわ上がり始めていた。

「……まだ、いける」

と自分に言い聞かせると、手のひらサイズの小竜モフドラが腹の上に乗り、「プシュー」と温風を吹き出した。完全に腹痛サポートの構えだ。


そのとき。

近くの露店で三流吟遊詩人が、空気も読まずに歌を披露し始めた。曲名は「恋は火のように」。

「なぜ今それを……」ライのこめかみがぴくり。

恋心針「ググッ」と跳ね上がり、腹も「ムズ……」と反応。

慌ててライは財布からコインを出し、

「できれば別の歌を」と依頼した。

吟遊詩人は「任せろ!」と胸を張り——次の瞬間、渾身の声で「焼き魚の歌」を熱唱。


クラリスは思わず肩を震わせて笑い、ライは赤面しながらも「……場は和んだ、ということで」とごまかす。


さらに鳩が一羽、クラリスの肩にとまった。

「まぁ、かわいい」クラリスが目を細めて笑った瞬間、ライも同じように笑おうとした。

だが彼の顔が怖すぎたのか、鳩が「グルッ!?」と叫びながら仲間を引き連れ一斉離陸。羽音ドバァ。


「……鳥類に通じない笑顔ですみません」

ライの真顔の謝罪に、クラリスはぷっと吹き出した。「いえ、さっき助けてくれたときの真剣な顔、私は好きですよ」


その言葉に恋心針が「ビィン!」と跳ね上がる。

ライは慌ててミントを二枚かじり、モフドラが

「プシュー!」と蒸気を吐き、場をなんとか立て直した。



---


「……その、言いたいことが少しあります」

ようやく切り出した瞬間、先ほどの衛兵が戻ってきて「グランツ様、やはりお見事でした!」と拍手喝采。


つられて通行人までもパチパチと手を叩きはじめる。

「静かに。彼女が驚きます」

ライの一声で群衆はサッと散り、また静寂が戻った。


ライは気を取り直し、まずは安全な「お礼」から。

「先ほどは落ち着いていてくださって、助かりました。あなたが前を向いてくれたから、僕は動けたんです」

クラリスは首を振った。

「いえ、動いたのはあなたです。私は……信じたかっただけで」

その“信じる”の一言がトリガーになり、恋腹「キリキリ」。

モフドラは腹の上で必死に湯気を噴き、通りすがりの子どもが「お兄ちゃん、お腹から霧出てる!」とツッコミを入れる始末。


ライは咳払いして立て直し、

「……あなたが無事で、本当に良かった。それだけは、どうしても言いたかった」としめくくった。


クラリスはきょとんとした後、やわらかく笑った。「ありがとうございます。守ってくださったこと、忘れません」


その一言にライの胸は熱くなったが、ここで“好きです”を言えば確実に恋腹が爆発する。彼はぐっとこらえて深呼吸した。



---


二人はそのまま並んで歩き、クラリスの屋敷の前に到着した。

「今日は本当にありがとうございました」クラリスが振り返り、丁寧にお辞儀をする。

「その言葉で、僕は十分に救われます」ライは静かに答えた。


クラリスは少し恥ずかしそうに扉の向こうへ入っていく。最後にもう一度だけ振り返り、にこっと笑った。その笑顔は、ライの懐中時計の針をまた少し震わせたが、今度は静かに落ち着いた。



---


夜道を歩きながら、ライはひとり呟く。

「きっと、今日も誰かの幸せの余白に、僕の名前は残らない。それでも……書いておこう。丁寧な字で」

モフドラは腹の上でぐぅぐぅと寝息を立てている。腹当てはほんのり温かい。


屋敷に戻ると、玄関で待っていた執事バルドがハーブティーを盆にのせて立っていた。

「若、正義は勝つ。——しかし恋は、別口でございますな」

ライは小さく笑って

「わかっている。だから、明日も正義から始めるよ」と答えた。

バルドは片眉を上げ、にやり。

「恋の列車は遅延常習。しかし運休ではございませんからな」

お読みいただきありがとうございます!

今回は「群衆の中でのヒーロー」と「恋の場面での不器用さ」を対比させてみました。

スリを捕らえるライは文句なしにかっこいいのに、告白になれば鳩にすら逃げられる――そんなギャップが彼の魅力です。

そして最後のバルドの「恋の列車は遅延常習。しかし運休ではございません」という台詞は、自分でも気に入っています。

次こそは“遅延”ではなく“到着”を迎えられるのか。どうぞ見守ってください!


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