表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第9章 ドジ天使 セラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/100

第89話 ドジかわ天使、焦げ付いた屋敷!?

焦げた屋敷に笑いが戻る――そんな朝から始まる今回のお話。

ルチアの“爆発事件”の後始末に追われるグランツ家一同、そしてセラの輪がついに完全復活……?と思いきや、最後はまたライの恋腹こいばらが炸裂です。


今回はコメディの中に少しだけ切なさが混じる回になっています。

もし読んで「焦げたけど温かいな」と感じていただけたら、ぜひブックマークで応援してもらえると嬉しいです!

ライの誠実が次回も焦げずに済むよう、作者の胃薬代を支える気持ちでポチッとお願いします。

グランツ侯爵邸の廊下には、まだうっすらと焦げた匂いが残っていた。


窓を全開にしても、ススのにおいは簡単には抜けない。

黒くなった床板を見つめながら、ライオネルは静かに息をついた。


「……火事にはならなかった。それだけで十分だな」


その声に、すぐ背後から穏やかな低音が返る。

「屋敷の三分の一がスス色でございますが、“誠実な焦げ”と考えれば上等ですな」

執事バルドはいつもの調子で淡々とモップを動かしていた。


「誠実な焦げ……そんな分類があるのか」

「ございますとも。姫様の好奇心が絡む場合に限ります」


モフドラは窓辺でぷしゅーと湯気を吐き、腹の熱を外に逃している。

ミーナは雑巾を持って右往左往し、床の黒い跡をゴシゴシ磨きながら半泣き顔だった。


「ひぃ〜! 拭いても拭いても取れません! これ、もう“芸術作品”ってことでどうですか!?」

「それは“現代魔災アート”だな」

「響きだけはオシャレですけど!」


そんな中、部屋の中心では――

金色の輪がふわりと宙に浮かんでいた。

セラの天使の輪だ。光はやわらかく戻ったが、表面にはうっすらと焦げの線が入っている。


セラはそれを両手で包みこみ、じっと見つめていた。

「大丈夫……少し焦げただけ。ちゃんと、戻ってきてくれたんだね」


ライは頷き、そっと手を差し出した。

「共鳴が少し乱れている。魔力の温度を整えれば安定するはずだ」


指先で軽く輪に触れ、短い詠唱を唱える。

淡い青の光が走り、焦げた部分がゆっくりと消えていった。

温度が下がるにつれ、輪の音が「キィン……」と澄んだ音に変わる。


モフドラが近づいて、お腹からぬるい湯気を吹きかけた。

まるで「これでホカホカだぞ」とでも言うように。

セラは思わず笑ってしまう。

「ありがと、モフドラ。あったかいね」

「ぷぴゅい!」


横ではミーナが鼻をすすりながら、まだ焦げた壁を拭いている。

「ライ様ぁ、もうこの壁の焦げぜんぜん落ちません! いっそ模様にしましょう、“ルチア爆心地”って札立てて!」

「却下だ」

「ひどい!」


バルドはというと、床に座りこんで焦げ跡を観察していた。

「若様、面白いことに“焦げの形”が姫様のトングの形をしております」

「つまり証拠品だな」

「はい、証拠品です」


その“本人”――ルチアは机の下で体育座りをしていた。

顔も髪もススだらけ、トングを握りしめてうなだれている。

「……兄様、ごめんなさい。輝いてたから、つい」


ライはため息をつきながらも、声を荒らげなかった。

「次からは必ず確認してくれ。輝いていても、触っていいとは限らない」

「うぅ……はい」


少しの間、沈黙。

だがルチアはやっぱりルチアだった。顔を上げると、ぱっと笑顔を見せる。

「じゃあ、そのお詫びに――兄様、今度お買い物に付き合ってください!」


ミーナが盛大にこけた。

「え、謝罪からデートの誘いに!?」

「だって兄様、最近まったく一緒に外出してくれないんだもの」

「領地運営で忙しいんだ」

「たまには私のワガママも領地に含めてください!」


バルドがすかさずメモを取りながらつぶやく。

「“姫様のワガママ=領地拡張”……記録しておきます」

「バルド、それ書かないで!」


笑いが小さく広がった。

屋敷中に残っていた焦げた匂いが、いつのまにか少しだけ甘く感じられる。


セラは輪を頭上に戻し、ぽつりとつぶやいた。

「……ねえ、ライ。私、本当にありがとうって言いたいの。助けてくれて」

「礼はいい。君の輪が戻ってきたなら、それで十分だ」

「でもね、路地裏で出会ったあのとき、誰よりも早く手を差し伸べてくれたのはあなたでしょ?」

「僕は……ああいう時、考えるより先に動く癖があるだけだ」


ライは照れたようにマントの襟を直した。

セラはその姿を見て、小さく笑った。

「あなたのそういうところ、すき――」


そこまで言って、はっと口をつぐむ。

空気が一瞬止まった。

そしてライの腹が、ぐぐぐっ……! と音を立てた。


「っ……またか……!」

「恋腹スイッチ入っちゃったぁぁぁぁ!」とミーナが絶叫。

モフドラが慌ててライのお腹に飛び乗り、ぷしゅーと温かい湯気を吐く。

バルドは頭を抱えながら言った。

「若様、誠実も命がけでございますな」


ライは片膝をつきながら、なんとか笑って返した。

「誠実は……痛みを伴うんだ……!」


セラは慌てて近づき、輪を両手で押さえた。

「ごめんなさい! 今のは、その……うっかりで!」

「いや……いい。うっかりでも、嬉しいから……余計痛い」


バルドが静かにメモを閉じて言った。

「若様の胃痛は、世界でいちばん誠実な負傷でございます」



---


焦げた屋敷に、ようやく笑い声が戻ってきた。

光を取り戻した輪が、天井近くでゆらゆらと揺れ、やさしい金色を落とす。


ルチアはその光を見上げながら、こっそりつぶやいた。

「……でも次の実験、もうちょっと“光る系”やってみたいな」

「聞こえてるぞ、ルチア」

「ひゃっ!?」


笑いと叱責が交じり合う中、焦げた部屋に残ったのは――

いつも通り、ちょっとドタバタで、でも不思議と温かい朝の空気だった。


爆発騒ぎが収まったあと、屋敷の空気はようやく落ち着きを取り戻した。

 黒こげになった床の上では、モフドラが丸まって寝息を立てている。

 湯気がふわりと立ち上り、焦げ臭い匂いの中にほんのりとした甘い香りが混じった。


「……やっぱり、焦げパンの匂いに似てますね」

 ミーナが鼻をくんくん鳴らしながら、バケツを持ってうろうろしていた。

「妹様の実験、ついに“食べられる爆発”の領域に……!」

「食うな」

 ライのツッコミが一閃する。

 だがミーナは懲りずに、こげ跡の中からなぜか丸い焦げクッキーのようなものを拾い上げていた。


「ね、ライ様。これ、たぶん安全ですよ! だって、ちょっと甘い匂いしますもん!」

「それ、魔法薬の副産物だ。食べたらお腹の中で花が咲くぞ」

「えっ! 咲くんですか!? 食べてみたい!」

「今すぐ捨てろ」


 ミーナが泣きながら焦げクッキーをゴミ箱に投げ入れる。

 その後ろで、ルチアはケロッとした顔で手帳を開いていた。


「……“反省ノート”に書いておくね。“天使素材は鍋に入れない”っと」

「常識だ」

「じゃあついでに、“兄様はすぐ怒る”も書いとこう」

「怒って当然だ」

「うー、理屈屋~!」

 ルチアが頬をふくらませて机をドンと叩いた瞬間、机の端からもうもうと灰が舞い上がる。

「ひゃあっ!? また爆発の残り粉ーっ!」

 ミーナが悲鳴を上げ、バルドが黙ってモップで抑えた。


 静寂。

 次の瞬間、バルドの落ち着いた声が響く。

「……姫様の実験後の後片付け、それ自体がもはや“修行”でございますな」

「修行っていうか拷問ですよ!」

「いや、人生の訓練だ」

 ライの淡々とした声に、ミーナが半泣きで「そんな人生いやぁぁぁ!」と叫んだ。



---


 しばらく後。

 ようやく掃除も終わり、ライたちはダイニングに移動して遅い昼食を取っていた。

 焦げた屋敷を背景にして食べる焼きたてパンは、なぜかいつもより香ばしい。


「……皮がカリカリしてるな」

「焦げた空気を吸いすぎたからですよ、きっと」

 ミーナの適当な推測に、ルチアは頷きながらジャムを塗っている。

「兄様、この味、実験の副作用で“成功の味”って気がします」

「失敗の味にしか思えん」


 セラはというと、いつもの席でおとなしくパンをちぎっていた。

 彼女の頭上では、天使の輪がやさしく光り、焦げ跡もほとんど消えている。

 まるで何事もなかったように輝くその輪を、彼女は時おりそっと撫でた。


「……なんだか、あったかいんだ。前よりも」

 その言葉にライは少しだけ笑った。

「それはきっと、君を助けた皆の温度が残っているんだ」

 セラは目を瞬かせる。

「皆の……温度?」

「ルチアの好奇心、ミーナの慌てっぷり、バルドの冷静さ、そして……僕の焦げたマントの匂いだ」

「最後だけいらないですっ!」とミーナが全力で突っ込む。


 笑いが広がる。

 その笑い声を、ルチアが不意に遮った。

「ねぇ兄様、約束、覚えてますよね?」

「……約束?」

「お買い物、付き合ってくれるって言ったじゃないですか~!」

「……あれは謝罪の文脈であって――」

「約束は約束ですっ!」

 ルチアは立ち上がり、両手を腰に当てて仁王立ちになった。

「明日、一緒に街へ行きます。ついでにセラさんの輪のお手入れ用の飾りも見ましょう!」


「わ、私も……?」とセラが驚く。

「もちろんです! 焦げた記念にキラキラの飾りをつけましょう!」

「そんな発想ある!?」とミーナがまた叫んだ。


 バルドは静かにお茶を注ぎながら、ぽつりと言った。

「若様。“誠実”という言葉には、“付き合いの良さ”も含まれるものでございます」

「……どうやら断る自由はないようだな」

「“自由”より“妹”の方が強いんですよ!」

「僕の家系、民主主義が成立してないな……」



---


 午後の陽が傾きはじめ、食卓を金色に染めていく。

 セラは光を透かすように輪を見つめていた。

 どこか切なげな笑みを浮かべながら、小さくつぶやく。


「……もうすぐ、帰らなきゃいけない気がするの」

 その言葉に、場の空気が静まった。

 ライは一瞬だけ言葉を失う。

 輪の輝きは、まるで空の彼方を指すように強く光っていた。


「天界の呼びかけ、でしょうな」

 バルドの声はいつもより静かだった。

「若様。天使が帰るときは、光の道が開く。名残惜しさも、そこに置いていくものです」


 セラは少し俯いて、両手で輪を抱きしめる。

「ここに来て、みんなに出会えて、本当によかった。怖い顔のライも、好奇心旺盛な妹も、ドジな侍女も、みんな優しくて……」

「“怖い顔”と“ドジ”が一緒に並ぶの、すごい破壊力ですよねぇ!?」とミーナが涙目で突っ込む。


 ライはゆっくりと席を立った。

 夕陽の光を背に、まっすぐセラを見つめる。

「セラ。もし……明日、君が天に帰るとしても、僕はきっと後悔しない」

「え……?」

「君が笑っていられるなら、それでいい。僕の誠実は、君の自由の味方だ」


 バルドはそっとつぶやいた。

「……若様、また名言の後に胃痛コースですな」


 その通りだった。

 次の瞬間――ライの腹が、ぐぎゅるるる…… と鳴った。


「っ……今のは、誠実の……副作用だ……!」

「副作用って言わないでくださいっ!!」

 セラが涙目で笑い、モフドラが慌ててライの腹に乗って温める。

 ミーナは叫びながら笑い、ルチアは机を叩いて転げ回った。


 屋敷の中は、また笑い声で満たされる。

 その中で、セラの輪は静かに、穏やかに光を増していった。

 まるで――別れの準備を始めているかのように。



---


バルドはその光を見上げ、そっとつぶやいた。

「若様。恋とは、別れを恐れて焦げるもの……それでも誠実を貫く貴方は、やはり“完璧未満”でございますな」


 ライは苦笑して答えた。

「……完璧でなくていいさ。焦げても、守りたいものがあるなら、それで十分だ」


 窓の外では、夕陽が沈み、天使の輪の光がそれに重なるようにきらめいていた。


今回もお読みいただきありがとうございました!

焦げた床、焦げた輪、そして焦げた誠実――とにかく“焦げ尽くした回”でしたね。笑

ライの腹痛はますます悪化中ですが、セラの言葉で少しずつ“恋”が形になっていくのを感じてもらえたら嬉しいです。


次回はついに「別れの気配」が近づいてきます。

コメディと切なさのバランスを楽しんでいただけたら最高です。

もし「焦げライ頑張れ!」「ルチアもっと爆発して!」と思っていただけたら、評価や感想をぜひお願いします!

みなさんの反応が、作者にとっての“誠実エネルギー”です。


――では、次回も焦げた心でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ