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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第9章 ドジ天使 セラ

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88/100

第88話 ドジかわ天使、天使の輪が爆発!?

おはようございます!今日もグランツ侯爵家は、朝から波乱の予感です。

――というわけで今回は、あの爆発音から始まる“大事件回”!

ルチアの「実験」がついに炸裂(物理)します。

焦げる、飛ぶ、回る、そして……まさかの“輪っか事件”勃発!?


天使の輪をめぐるドタバタ劇の中で、ライの“誠実”がまたひとつ試されます。

そして、ほんの少しだけ進む「恋腹の針」にも注目です。


気に入っていただけたら、ブックマークをぽちっとして応援してもらえると嬉しいです!

ブックマークの光が、この屋敷の非常ベルを止める唯一の魔法です✨

 グランツ侯爵邸の朝は、いつも静かだ。

 広い廊下には陽が差し込み、窓辺では白いカーテンがゆるく揺れている。


 ――の、はずだった。


 その朝は、屋敷の奥から「ボンッ!」という鈍い音とともに、黒い煙がもくもくと吹き上がった。

 焦げたような、甘ったるいような、なんとも言えない臭いが広がる。


 ちょうど帳場で書類を整理していたライは、顔を上げて小さく息を吐いた。

「……バルド」

「はい、若様。あれは間違いなく“姫様案件”でございますな」


 バルド――長年仕える執事は、湯気立つお茶を置いたまま、遠くの煙を見ていた。

「黒煙の濃度で分かります。あれは、普通の失敗ではございません」

「失敗に濃度があるのか?」

「ございますとも。姫様の“気合い”が多いほど、黒が深まるのです」


 ライは額に手を当てた。

「……つまり最悪ということだな」


 ミーナが廊下から駆け込んできた。

「ライ様っ! 焦げた砂糖みたいな匂いしますけど!? あと、なんか鉄っぽいような……!」

 すでに目がうるんでいる。どうやら煙が少し染みたらしい。


 ライは即座に指示を出した。

「ミーナは消火班。バケツを持ってきてくれ」

「はいっ!」

「モフドラは偵察だ。天井裏から行け」

「ぷぴゅい!」

 小さなドラゴン――モフドラが湯気を吐きながら、天井の隙間へと飛び込んだ。

「バルドは交渉役を頼む。今回は穏便に」

「心得ております。“穏便”という言葉が通じれば、の話ですが」


 屋敷の奥、書庫を改装したルチアの“実験室”へと向かうと、扉の隙間から紫がかった黒い光がちらちらと漏れていた。

 ドアには分厚い板が打ち付けられ、そこにはチョークでこう書かれている。


 ――立入厳禁/でもおやつ持参なら入室可――


「……条件付き立入禁止か」

 ライは小さくつぶやき、ノックした。


「ルチア、いるか」


 すぐに中から声が返ってきた。

「兄様? 今、“珍しい輪っか”を魔法素材に混ぜる大事なところ! 邪魔しないで!」

「輪っか?」

 ミーナが小首をかしげる。ライとバルドは視線を交わした。

 “輪っか”――まさか。セラが探している天使の輪ではないだろうか。


 ライは少し声を落とした。

「ルチア、その輪はどこで手に入れた?」

「倉庫の奥! ピカピカ光ってて、すっごくレアな感じだったの!」

「それ、持ち主がいるかもしれない。確認したか?」

「してないけど、輝きが“私を使って”って言ってたから問題ない!」

「……問題しかないな」


 バルドが静かに言葉を挟む。

「姫様、火加減というのはですね。弱火でコトコトが王道でございます」

 中から返ってきた声は元気いっぱいだった。

「いまは強火でドカンの時間なの!」


 ミーナは真っ青になった。

「ドカンって言いました!? 絶対いい予感しないです!」


 そのとき、天井の隙間からモフドラが戻ってきた。

 「ぷぴゅ、ぷぴゅい!」と鳴きながら、ちいさな前足を丸くして見せる。

「輪っかが見えるって? ……作業台の上?」

「ぷぴゅ!」

「しかも鍋の隣?」

「ぷぴゅ!」


 ライの顔が固まった。


「バルド、今すぐ中へ――」

「無理でございます、若様」

 執事は指で床を指した。そこにはうっすらと魔法陣の結界が刻まれていた。

「魔法語で“許可無き者立入禁止”とあります。扉を無理やり開けると、悪魔が出てくる仕組みですな」

「……あいつ、なんて結界を張ってやがるんだ」


 中からは、トングで何かを持ち上げる音が聞こえた。

「これが“輪っか素材”……形も完璧、重さも最高。さあ、投入カウントダウン!」


「ルチア! 待て!」

 ライが叫ぶ。

「それを鍋に入れたら――」

 だが声は、扉の結界に吸い込まれて消えた。


 ミーナは泣きそうな声で「ルチア様ー! それセラさんの輪かもしれませんー!」と叫ぶが、やはり届かない。

 扉の隙間から見える光はどんどん強くなり、まるで夜空の流星のように紫の火花を散らしている。


 ライは短く息を吸った。

「……温度と共鳴を下げる。間に合えば……」

 手のひらを扉に当て、指先で小さな干渉陣を描く。淡い光が広がり、結界の色が少しだけ薄くなった。

 それでも中のルチアはまったく止まる気配がない。


 彼女の声が、扉の向こうから響いた。

「兄様の理屈は嫌いじゃないけど、実験は理屈より直感!」

 続いて、彼女の高らかな宣言が響く。

「カウント開始――十、九、八!」


 ミーナはバケツを抱え、ライの背中を見つめた。

「ライ様、これ……間に合いますか?」

「……ギリギリだ」


 屋敷の奥を包む黒い煙は、さらに濃くなっていった。

 ライの銀の懐中時計が、微かにチリ、と鳴る。

 爆発まで、あと少し――。



屋敷の奥に響くカウントダウンの声。


「七、六、五――!」


 その調子のよすぎる声に、ライの眉がぴくりと動いた。

 隣ではミーナが半泣きでバケツを抱え、バルドは冷静にメモ帳を取り出していた。


「若様、万が一吹き飛んだ場合に備えて、修繕費の見積りを出しておきます」

「いまはそれどころじゃない!」


 黒い煙はさらに濃くなり、廊下まで流れ出してきた。

 焦げた砂糖と鉄の匂いが混じり合い、鼻がツンとする。

 ミーナが咳き込みながら叫んだ。

「も、もしかしてルチア様、もう輪っかを――!」


 その瞬間、屋敷の外から風が吹き抜けた。

 空気が変わる。胸の奥が、ふとざわざわと揺れた。


 セラだった。


 彼女は庭のベンチに腰かけて、空を見上げていた。

 いつもはおっとりしているその顔が、今はきゅっと真剣に引き締まっている。


「……なぜだろ。胸の奥が、ドクドクして……」

 彼女の背中の羽が、ほのかに光りはじめる。

「この感じ……近くにある。絶対に、私の“輪”だ!」


 そう言うと、セラは立ち上がった。

 その拍子に、手に持っていたパンがぽとりと落ちる。だが拾っている暇はない。

 羽をばさりと広げ、屋敷の廊下へと駆けだした。



---


 その頃。

 ライたちは結界の前で作戦会議というより“時間稼ぎ”をしていた。


「若様、扉を破壊するのは最終手段でございます。反動で中身ごと吹き飛ぶやもしれません」

「分かっている……だが放っておけない」

 ライの手のひらに汗がにじむ。

 中からは――「四! 三!」――という明るいカウントが聞こえてきた。


 ミーナが叫ぶ。

「もう時間ないですよ! ルチア様、ストップって書いた看板とかないんですか!?」

「そんな器用な看板作る暇があるなら、彼女は爆発を起こす」

「たしかに!」


 と、バタバタと足音が近づく。

 セラが勢いよく角を曲がって飛び込んできた。

「ライ! この感じ、私の輪があるよ!」


「やはりそうか!」

 ライが振り返る。

 セラは頷いた。

「間違いないよ。あれは……私の輪。お願い、助けて!」

「任せろ」


 そのとき、扉の向こうから最後のカウントが響く。

「二……いーち!」


 バルドの声が被さった。

「若様、結界解除、今です!」

 ライが両手を合わせ、指先で光の陣を描く。

 パチン、と小さな音と共に扉の紋章が砕けた。



---


 中は、まるで爆発前の竜の口のようだった。

 机の上では鍋がぐつぐつと煮え立ち、紫の液体が泡を立てている。

 そしてその鍋の中には――


 金色の輪っか。


 セラの天使の輪が、ぴかぴかと震えながら沈みかけていた。


「それ入れちゃダメーッ!!」

 セラの叫びが部屋を突き抜けた。


 ルチアは、鍋の前でトングを持ったまま、ぽかんとしている。

「え? これ、天使の部品?」

「その通りだ!!」

 ライが駆け寄る。


 だが遅かった。輪の輝きが液体に吸い込まれ、部屋中が一気に光に包まれた。

 天井の魔石が割れ、紙束が宙に舞う。


「バルド、下がれっ!」

 ライは腕を突き出し、風の魔法で爆風を押し返す。

 だが吹き返しが強く、髪が乱れ、マントがめくれ上がった。

 バルドが吹き飛び、ミーナがバケツを抱えたまま壁に張り付く。


「わ、若様ぁぁぁ!」

「平気だ!」


 その時、モフドラがぷしゅーっと白い湯気を吐いて飛び出した。

 体の中の熱を逃がす小型竜の能力で、部屋の温度が一気に下がる。


 光が薄れ、ルチアの実験室はようやく落ち着きを取り戻した。

 机の上の鍋は黒こげ。床には焦げたパンくずと羽毛が散らばっている。


 ルチアは真っ黒になった顔で、トングを持ったまま立ち尽くしていた。

「……兄様、ちょっと強火すぎました」

「強火どころか、地獄火だ」

「でもすごく綺麗な光だったでしょ!」

「その感想はあとだ」


 セラは駆け寄り、鍋の中をのぞきこんだ。

「まだ……ある、かも……」

 湯気の向こう、金色の輪がゆらりと浮かんでいる。

 けれど、表面は少し歪んでいた。


「うわああ! 焦げてる!」

 セラは目を潤ませて、輪を両手で抱えた。

「私の……私の大事な輪が……!」


 ミーナがタオルを持ってきて包もうとするが、輪はふるふると震えて逃げるように宙に浮かぶ。

 まるで「まだ働けるよ」と言っているみたいに、かすかに光を放った。


 セラはその光を見つめ、涙をぬぐう。

「よかった……本当に、よかったぁ……」

 ミーナはほっと胸をなでおろし、ルチアは舌を出して笑った。


「ふふ、まぁ結果オーライってことで!」

 ライは額に手を当てる。

「結果オーライで屋敷が焦げたのは、うちくらいだろうな……」


 バルドが静かにメモを取ってつぶやく。

「姫様、実験後の感想欄には“危険”と“笑顔”の両方を記しておきます」

「なにそれ評価高そうでイヤ!」とミーナが突っ込む。


 笑いが広がる中、セラの輪はふわりと浮かび、淡い光を放ちながら彼女の頭の上に戻った。

 まるで「もう大丈夫」と語るように、静かに輝きを増していく。


 セラは小さくつぶやいた。

「みんな、ありがとう……」


 そしてその光の中で、ライの懐中時計がチリ、と鳴った。

 恋腹の針が、ほんの少しだけ――動いた。



---


 バルドは深く息をついて言った。

「若様。屋敷は少々焦げましたが……天使は無事。お顔もススで黒くなりましたが、それもまた“誠実の証”でございますな」


 ライは肩をすくめて答えた。

「誠実は、毎回なぜこうも焦げ臭いんだろうな……」


 屋敷の窓の外では、セラの輪が夕日に反射して、きらりと光った。


読んでくださってありがとうございました!

今回も爆発・焦げ・ツッコミ満載の侯爵邸、いかがでしたか?


ルチアの「強火ドカン理論」は作者的にも止められませんでしたが(笑)、

そんな中で、セラの輪が無事戻るシーンには少しだけ胸が熱くなりました。

ライの恋腹針が“ほんの少し動く”――この微妙な進展こそ、彼ららしいですよね。


もし楽しんでいただけたら、作品への「評価⭐」と「感想」をぜひお願いします!

あなたの一言が、作者の創作エネルギー……いや、ライの胃薬になります


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