第87話 ドジかわ天使、花言葉で感動!?
いつも読んでくださってありがとうございます!
今回はちょっぴり静かで、そして優しいお話です。
落ち込むセラと、それを支えるライとミーナ、そしてモフドラのにぎやかな午後。
彼らのやり取りの中に、少しでも「元気が出たな」「なんか温かいな」と感じていただけたら嬉しいです。
「ブックマーク」していただけると、作者の胃痛(=ライ様の恋腹)も少し軽くなります!
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昼下がりの侯爵邸の庭は、やわらかな風が吹いていた。
噴水の音が小さく響き、陽射しに照らされた花々がそよいでいる。
その静かな中庭の片隅で、セラはベンチに座っていた。
羽をたたみ、うつむいた姿は、いつもの元気さがまるで見えない。
「セラさん、レモネード持ってきましたよっ!」
明るい声とともに、ミーナが駆け寄ってきた。
トレイの上には氷の入ったグラスが二つ。光が反射してきらきらと輝く。
「……ありがとう」
セラはグラスを受け取り、ちゅっとストローを吸う。けれどその表情は浮かない。
「私……天使なのに、輪っかひとつ守れなかったんだよ。
“落とし物係”とか言われても仕方ないよね……」
その声はまるで小雨みたいに弱々しかった。
ミーナは目をぱちくりとさせ、急に真面目な顔になる。
「えっ!? そんなことないですって!」
「でも……」
「でもじゃないです!」
ミーナは腰に手を当て、びしっと指を立てた。
「天使の輪がなくても、セラさんは天使です! ――たぶん!」
「たぶん!? 今すっごい不安な言い方したよね!?」
「うっ……でも、ライ様も言ってましたよ!」
「ライ様が……?」
「“天使っていうのは、輪がなくても光る人のことだ”って!」
セラは驚いたように目を見開く。
その言葉をゆっくり胸の中で繰り返した。
「……そんなふうに言ってくれたんだ」
「はい! あと“彼女は頑張り屋だ”とも!」
「頑張り屋……」
「そうです! お腹が痛くなるくらい誠実なライ様が言うんですから、絶対本当です!」
セラは思わず笑ってしまう。
「お腹が痛くなるくらい誠実って、変な褒め方だね」
「変ですけど、ライ様ですから!」
ふたりの笑い声が重なり、庭に小さく広がった。
その時――。
「……何が“変”なんだ?」
静かな声が背後から響いた。
振り向くと、花壇の前にスコップを手にしたライが立っていた。
シャツの袖をまくり、淡い光を受けて汗が光っている。
「わっ、若様! 完璧です! 働く貴族の見本です!」
「……褒める方向がずれているぞ、ミーナ」
「ずれてません! 鉢植えが感動してます!」
「鉢植えはしゃべらない」
「そういう比喩です!」
セラの口元にようやく笑みが戻る。
ライはそんなふたりを見て、少しだけ表情をゆるめた。
彼はしゃがみ込み、花壇のつぼみをそっと整える。
「セラ。花は、風で折れても、また咲こうとする」
「……え?」
「折れても、立ち上がるたびに強くなる。
君も、そういう力を持っているはずだ」
静かな声だった。
だけど、不思議と胸の奥が温かくなる響きだった。
夕方。庭の空がオレンジに染まり始めていた。
噴水の水しぶきが夕陽を受けて光り、モフドラがその上でぷかぷかと浮かんでいる。
「ぷしゅぅ〜、あったかい〜」
モフドラの小さな湯気が、ふわっと立ちのぼる。
「こらモフドラ! それ噴水の上だよ!? 温泉じゃないからね!」
セラが慌ててつっこむ。
「ぷしゅぅ(だって気持ちいいんだもん)」
小竜は悪びれもせず、さらにごろりと寝転んだ。
その様子にライは苦笑をこぼしながら、ベンチに腰を下ろす。
「……モフドラは自由だな」
「はい! でもああいうの見てると、ちょっと元気出ますよね」
ミーナが頷く。
セラもふっと笑って、羽をぱたぱたと揺らした。
「私もあんなふうにのんきでいられたらいいなぁ。
でも、輪っかもないし……羽もボロボロだし……」
「セラさん!」ミーナが身を乗り出した。
「落ち込むな禁止です! そういうときこそ、笑顔ですよ!」
「笑顔かぁ……そんな簡単に言われても……」
「笑ってたら、きっと輪っかも寄ってきます!」
「え、そんな虫寄せみたいな理屈ある!?」
「え、ないですけど!」
きっぱり即答するミーナに、セラは「やっぱりないんじゃん!」と肩を落とす。
そのやり取りを聞きながら、ライは静かに立ち上がった。
「セラ」
「う、うん?」
「さっき言ってた件……。輪っかがなくても天使かどうかってやつ」
セラはきょとんとライを見る。
ライは少しだけ言葉を選ぶようにして、まっすぐ続けた。
「俺から見たら……君はもう、十分“天使”だよ」
「え……」
「誰かのために一生懸命動いて、困ってる人を放っておけない。それは、もう天使そのものだ」
「……っ」
「だから、自分を責めるのはやめるんだ」
ライの言葉に、セラはしばらく何も言えなかった。
羽の先が小さく震えて、頬がほんのり赤く染まる。
「……ライって、優しいんだね」
「っ!? い、いや……普通に言っただけだ」
「顔まっかだよ!」ミーナが指差す。
「出た、“恋腹”警報〜!!」
「ち、違うっ!今日は調子がいいんた!恋腹じゃ――」
その瞬間、懐中時計が「チチッ」と鳴る。
針がぐいっと跳ね上がった。
「ぐぅぅっ……!?」
「出たぁぁーー!!」
ミーナとセラが同時に叫ぶ。
モフドラが慌てて飛んできて、ライのお腹にぺたりとくっついた。
「ぷしゅ〜」
「モフドラありがとう……」
「わあっ、湯気出てるよ!?蒸気機関車みたい!」
「セラ、たとえが雑っ!」
「ぷしゅ〜〜!」
「こらモフドラ、もうちょっと静かに温めなさい!」
わちゃわちゃと賑やかに騒ぐ3人と1匹。
夕陽の中、庭には楽しそうな声が響き続けた。
――そんな中、屋敷の陰からそっと様子をうかがっていたバルドは、ひとりで紅茶をすする。
「……若様。恋腹は一向に治らずとも、心の痛みは少しずつやわらいでおられるようで」
小さく笑って、ひとことつぶやいた。
「誠実とは、痛みを抱えたままでも人を笑わせられる力――でございますな」
その言葉が、静かな風に溶けていった。
セラは小さく息を吸い、つぼみを見つめる。
「……私も、もう一度咲けるかな」
「もちろん」
ライが微笑んだその瞬間――懐中時計が“チチッ”と鳴った。
針がぐいっと跳ね上がる。
「……ぐっ……!」
ライは腹を押さえ、よろめいた。
「わ、若様ぁ!? 出ました、“恋腹アラーム”です!」
「……ミーナ、そのネーミングはやめろ……っ」
セラは慌てて駆け寄る。
「ま、また私のせい!? ごめんなさい、絶対呪われてる!」
「ち、違う……これは……平常運転……だ……」
苦しみながらも笑顔を作るライ。
そんな中、絶妙なタイミングでバルドが紅茶を持って現れた。
「若様。恋は盲目と申しますが――
胃薬を片手に続ける恋は、もはや修行でございますな」
「バルド、それは……慰めのつもりか……」
「いえ、観察です」
「観察!?」とミーナが突っ込み、セラは涙目で「やっぱり病気なんだよ!」と騒ぐ。
――だがその喧騒の中、ライはほんの少しだけ笑っていた。
腹は痛い。けれど、不思議と胸の奥が温かかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は「静けさの中の優しさ」をテーマに描きました。
ライの言葉やミーナのツッコミ、セラの不器用な笑顔――
どれかひとつでも、あなたの心に残ってくれたなら最高に嬉しいです。
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ライ様の恋腹も、作者のモチベーションも、みなさんの一言で回復します!
それでは――また次の話でお会いしましょう!




