第85話 ドジかわ天使、お祈りする!?
おはようございます!
今回の物語は、王都の静かな教会から始まります。
天使セラが“天使の輪”を失ったまま祈る姿は、ちょっと切なくて、でもどこか笑えて温かいお話です。
ライの誠実な言葉、バルドの渋い一言、ミーナの必死のフォロー、
そして……恒例の“恋腹”ももちろん登場します。笑
もし「この続きも気になる」「セラ、がんばれ!」と思っていただけたら、
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あなたのひと押しが、ライの“胃薬”になります✨
王都の古い教会は、外のざわめきが嘘のように静かだった。
高い天井からは色とりどりの光が差し込み、床に小さな虹を落としている。蝋燭の炎はゆらめき、空気はどこか澄んでいるように思えた。
その祭壇の前で、白い羽を持つ少女が両手を合わせていた。
セラだ。頭上にあるはずの天使の輪を失ったまま、必死に祈っている。
「……神様。どうかお願いします。私、どこに落としたか忘れちゃったんです。輪です。大事な輪なんです。だから……場所を教えてください!」
あまりに素直すぎる願いに、その場にいた神父が目を丸くした。
銀髪の老神父は、普段は穏やかな笑みを浮かべる人物だが、今はただ口を半開きにして沈黙している。
「……祈りで落とし物の場所を申告されたのは、神父になって五十年、初めてですな」
低くもれてきたつぶやきに、礼拝堂の奥で遊んでいた子どもたちが反応した。
「えっ、天使なのに輪をなくしたの?」
「すごいドジじゃん!」
「ドジ天使だー!」
小さな笑い声が重なり、セラはびくりと肩を震わせた。
頬を赤くし、うつむいた彼女の羽はしゅんと小さく縮んでいく。
「ち、違うもん……! 私、本気で探してるんだよ……!」
声は震え、今にも涙がこぼれそうだった。
その横で、慌てて前に出たのは侍女のミーナだ。
「ちょっと、みんな!セラさんは立派な天使なんです! 輪をなくしたって、心はちゃんと天使なんだから!」
必死のフォローだったが、子どもたちは「でも輪がないー!」と追い打ちをかけるように笑う。
セラの目尻に、とうとう涙がにじんだ。
そこで、一歩進み出たのは執事のバルドだった。
深く刻まれた皺の奥の瞳は、穏やかで、それでいて鋭さを失っていない。
「子どもたち」
その声に、笑い声がぴたりと止まる。
「信仰とは形ではなく心です。輪がなくとも、誰かに笑顔を与えられるなら、それもまた天使の務めでしょう」
静かに放たれた言葉は、石の壁に反響して、教会全体を満たした。
子どもたちは目を丸くして顔を見合わせ、「……なんか、かっこいい」とつぶやく子さえいた。
セラは涙をぬぐい、バルドを見上げる。
その瞳は、まだ不安げだったが、ほんの少しだけ光を取り戻していた。
「……ありがとう。私、もう少し……頑張れるかも」
教会の中に、蝋燭の炎がまたやわらかく揺れた。
セラの小さな祈りは失敗に終わったけれど、その場にいた全員の心に、ほんのり温かい灯りを残していた。
礼拝堂のざわめきが静まり、空気が落ち着きを取り戻していった。
セラはベンチに腰を下ろし、まだ少し赤い目で床を見つめている。羽はしゅんと垂れたままで、光も弱々しい。
その横に立つライは、しばらく黙って彼女を見つめていた。
表情は鋭いのに、心の奥ではどう声をかければいいか迷っている。
「……セラ」
低い声が、そっと彼女を呼んだ。
セラが顔を上げると、ライは少しぎこちない笑みを浮かべていた。
「君は、天使だ。輪がなくても、君の真っ直ぐな心は、誰よりも……天使らしい」
その言葉は、まるで彼の胸の奥からしぼり出されたように響いた。
セラの目が大きく見開かれ、頬がほんのり赤く染まる。
――が。
「……ぐっ!」
ライは突然お腹を押さえて前かがみになった。
銀の懐中時計がぶるぶると震え、針がぐんと振れ上がっている。
毎度おなじみ、恋愛に不器用な彼だけが発症する“恋腹”だ。
「ら、ライ!? わ、私のせい!? 呪われてるの!? 私、また何かやっちゃったの!?」
セラは大慌てで立ち上がり、ライの肩を揺さぶる。羽をばさばささせながら、涙目で叫んだ。
「お、落ち着いて……。これは……僕の……いつものこと……」
ライは必死に笑顔を作るが、額には冷や汗が流れている。
見かねたミーナが飛んできて、セラの手を取った。
「セラ様! 大丈夫です! ライ様はこういうとき、モフドラと温湯があれば乗り越えられるんです!」
その声に反応するように、小竜モフドラが「ピュイ!」と鳴いてライのお腹にぴょんと飛び乗った。
ふわふわの毛並みからじんわりと温もりが広がり、ライの表情が少し和らいでいく。
「……ふぅ……助かる、モフドラ」
深く息をついたライは、ようやく体を起こした。
バルドは腕を組み、静かに口を開く。
「若様。恋とは胃に響く劇薬。ですが、それを服用せねば誠実とは申せません」
「そ、そんな劇薬いやです……!」
セラはぶんぶん首を振りながらも、ライを心配そうに見つめ続けた。
しばらくして、ライはまっすぐ彼女を見た。
「……君の輪は、必ず見つかる。僕たちみんなで、もう一度調べ直そう」
セラはきゅっと唇をかみ、そして小さくうなずいた。
「……うん。私、諦めない。ライやみんなと一緒なら、きっと大丈夫」
窓から射す光が、セラの羽をほんのり照らした。
輪はまだ見つからない。けれど、その場の空気はどこか温かく、確かな決意が生まれていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
今回は少ししっとりとした回でしたね。
セラの祈り、バルドの言葉、そしてライの不器用な優しさ……
静かな教会の中で、それぞれの“誠実”がきらりと光るシーンでした。
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次回は――失くした輪に、少しだけ“奇跡”が近づくかも?
どうぞお楽しみに!




