第83話 ドジかわ天使、市場で大暴れ!?
王都の朝は今日もにぎやか!
……そして、グランツ侯爵家の胃薬在庫が減る音が、またひとつ。
今回はついに、ドジかわ天使セラの「天使の輪探し」が本格スタート!
市場で大暴れ(!?)のセラと、胃痛に耐えるライのコンビが、いつも以上に騒がしくも楽しい一話になっています。
もし読んで「クスッ」と笑えたら——
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次回のドタバタも一緒に見守ってくれると嬉しいです✨
王都の大市場は、朝から人でごった返していた。
石畳の道いっぱいに並んだ露店、威勢のいい呼び込みの声、焼き立てのパンや香辛料の匂いが風に混ざって流れてくる。
侯爵家の跡取りライオネルは、そんな喧噪の中でも背筋を伸ばし、冷静に歩いていた。
その隣には侍女のミーナ、そして——翼をパタパタ揺らしながら元気にきょろきょろしている少女、天使セラがいた。
「わあぁぁ!すごい!こんなにたくさんのお店、初めて見た!」
セラは目を輝かせて、果物屋やお菓子屋に首をぐるぐると回している。羽がばさばさと動いて、通行人が「うわ、なんだ!?」とびっくりするほどだった。
「セラさん、落ち着いてください!人にぶつかりますよ!」
ミーナが慌てて引っ張るが、セラは聞いていない。
ライはそんな二人を横目で見ながら、静かに呟いた。
「今日の豆の入荷量は多いな。値段は昨日より下がっているはずだ」
「……ライ様、やっぱり観察してるところが渋すぎます!」
ミーナが感心して手を叩く。
一方セラはといえば——。
「見つけた!これだーっ!」
突然、屋台の前で叫んだ。
そこは甘い香りを漂わせるパン屋。店先には砂糖をまぶした丸いドーナツが山盛りに並んでいた。
「この丸い形、間違いない!私の輪だ!」
セラはドーナツをひとつ掴むと、そのまま頭にちょこんと乗せてポーズを取った。
……砂糖がぽろぽろ落ち、金色の髪に白い粉が積もっていく。
「セラさん!それお菓子です!天使の輪じゃありません!」
ミーナが慌てて叫ぶ。
「えっ……そ、そうなの?」
セラは目をぱちぱちさせた後、恥ずかしそうにうつむいた。だが次の瞬間、もぐもぐとそれをかじり、頬をふくらませる。
「……でも美味しいから、これはこれでアリ!」
にっこりと笑ったセラに、通りすがりの人々が思わず吹き出す。
「天使なのに食いしん坊だぞ」
「かわいいけど、ただのドーナツ娘じゃねぇか!」
ライは小さくため息をついた。だがその口元は、ほんの少しだけ柔らかかった。
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「次こそは本物を見つけてみせる!」
セラが気合いを入れ直したその先にあったのは、鍛冶屋の店。
店先には樽を締めるための鉄輪が何十個も積まれている。
どれも太くて重く、どう見ても天使の輪とは違う。
だがセラは目を輝かせた。
「見て見て!あれ、絶対私の輪だ!」
「ちょ、セラさん!?違う違う違う!」
ミーナが止めるより早く、セラは鉄輪に両手をかけてぐいっと引っ張った。
ガシャーン!!
バランスを崩した鉄輪の山が、雪崩のように崩れ落ちる。
通りに響き渡る金属音。周囲の人が「うおおっ!?」と避けて大騒ぎになる。
「なに勝手に触ってんだ小娘ぇぇ!!」
鍛冶屋の親父が真っ赤な顔で飛び出してきた。
「ひぃぃっ!?」
セラは尻もちをついて涙目に。
ここで一歩前に出たのはライだった。
「彼女は……天界から来た天使なんだ…。見習い中に少し勘違いを……」
「どんな実習だ!?」と親父が怒鳴るが、ライの落ち着いた声と真剣な目に圧され、しぶしぶ引き下がる。
結局、ライが代金を払ってなんとか場は収まった。
セラはしょんぼり肩を落とし、尻尾のように羽もしゅんと下がっている。
「……ごめんなさい。私、また失敗しちゃった」
ミーナが慌てて笑顔を作り、セラの背中をぽんと叩いた。
「だ、大丈夫です!次はもっとちゃんと見極めましょうね!」
「……うん」
セラの返事は弱々しかったが、その頬にはまだドーナツの砂糖がついたままだった。
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鍛冶屋での大騒ぎをなんとか収めた一行は、少し人通りの少ない広場に出た。
石畳の真ん中には噴水があり、その周りをぐるりと囲むように露店が立ち並んでいる。
首飾りやブレスレット、髪飾りなどの小物を売る店が多く、見ているだけでも楽しい雰囲気だった。
「わぁぁ!キラキラしてる!」
セラは目を輝かせ、走り出す。羽がばさばさ動き、通りすがりの人々が「うおっ、羽だ!?」とよける。
露店の一つで、真鍮の輪っかを飾っている店主が声を張り上げた。
「ほら見ておくれ!新作の装飾輪だよ!頭にのせれば光り輝く未来が見える!」
「これだぁぁぁ!!」
セラは食いついた。
商品をぱっとつかみ、その場で自分の頭にのせる。
「どう?似合う?」
無邪気な笑顔。金色の髪に、安っぽい真鍮の輪っか。
まるで子どもの学芸会の冠のようで、通りの人たちが「ぷっ」と吹き出した。
「に、似合ってます!似合ってますけどぉ!」
ミーナは必死にフォローするが、肩は震えていた。笑いをこらえるのに必死だ。
ライは腕を組み、真顔で見つめる。
「……悪くはない。だが、少し安定感に欠けるな」
「え、えっ!?真剣に見ないでよ!?」
セラは真っ赤になって慌てて外すが、手がすべって輪っかがぽーんと宙を飛んだ。
「おっと」
ライが片手でキャッチする。すらりとした長身に、黒マントをひるがえしての動き。
……その姿は格好いいはずなのに、頭に乗った輪っかがあまりにもチープで、周りから「ぶはっ!」と爆笑が起こった。
「若様、さすがでございます。顔以外は完璧ですな」
執事バルドがいつの間にか背後に立っていて、さらりと毒を吐いた。
「バルド……」
ライは渋い顔で返す。だが、場の空気は完全にコメディだった。
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その後もセラは、宝石店の丸い飾り石を「これだ!」と叫んでは追い出され、
帽子屋のリング付きベルトを頭に巻いて「ぴったり!」とドヤ顔をしてミーナに「それ腰用ですぅ!」と突っ込まれる始末だった。
何度も何度も「これだ!」と騒いで、何度も間違えて、何度も恥をかいて。
広場の子どもたちは「ドジ天使だー!」と面白がり、後をついてきて笑っていた。
やがて、セラは小さな噴水の縁に腰を下ろし、ぐったりと肩を落とした。
羽もぺたりと垂れ下がり、元気が消えてしまったように見える。
「……私って、ほんとに役立たずの天使なのかも」
か細い声が、噴水の水音にまぎれて聞こえた。
ミーナは慌てて隣に座り込み、セラの手を取った。
「そんなことありません!セラさんはドジですけど……ちがう!ドジだからこそ、みんなを笑顔にしてくれるんです!」
「笑顔……」
セラは小さくつぶやき、目を伏せた。
その横で、ライがゆっくりと近づいてきた。
鋭い目つきのせいで周りからは怖がられる彼だが、その声は穏やかだった。
「セラ、君は役立たずなんかじゃない」
セラは驚いたように顔を上げる。
「君は、必死に探して、必死に考えている。……誠実だ。僕はそう思う」
その瞬間。
——カチリ。
ライの懐中時計の針がぐぐっと跳ね上がった。
同時に、腹の奥から「キリキリキリッ!」と痛みが走る。
「……っ!?」
ライは額に汗を浮かべ、腹を押さえてよろめいた。
「ライ様ぁぁ!?またですかぁぁ!」
ミーナが悲鳴を上げる。
セラは真っ青になって立ち上がり、羽をばたばたさせながら慌てふためいた。
「ちょ、ちょっと!今の私のせい!?私が呪われてるから!?ねぇ、ほんとに大丈夫!?」
「……違う、君のせいじゃ……」
ライは苦しそうに答えるが、その言葉すら誠実さがにじみ出ていて、余計に痛みが増す。
「ライ様、そんなかっこいいこと言わなくていいんですよ!今はお腹です、お腹!」
ミーナが大慌てでバッグを探りと、モフドラが飛び出してくる。
「ピュイ!」
手のひらサイズの小竜はすぐにライのお腹へぴょんと飛び乗った。
「ぷしゅーっ」と音を立てて蒸気のような温かさを放つ。
「ああ……助かる」
ライは目を細め、ようやく息を整えた。
セラは両手を胸に当て、ほっとしたように涙目で笑う。
「よ、よかったぁ……ほんとに、死んじゃうかと思った……」
「セラ様。若様は死にはしません。ただ恋をするたびに胃をやられるだけで」
バルドが静かに補足する。
「それって充分ヤバいじゃん!!」
セラとミーナが声を揃えて叫び、広場に爆笑が響いた。
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こうして「天使の輪探し大作戦」は、またしても波乱と笑いのうちに幕を閉じた。
ライは心の中で、そっと呟く。
(……賑やかすぎる。だが、不思議と悪くないな)
(……どうやら、この旅路も胃薬が必要そうだな)
セラが「これだ!」と叫ぶたびに、なぜか誰かの胃にダメージが入る回でしたね。
今回もドーナツに鉄輪、そしてまさかの安物輪っか……天界より賑やかな市場でした。
ライの“恋腹”が発動するたび、セラの天然ぶりが光っていく——
この二人の距離がどう変わっていくのか、作者としても楽しみです。
もし少しでも「面白かった!」「セラかわいい!」「ライお腹がんばれ!」と思っていただけたら、
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次回も、笑ってちょっとキュンとして、また笑えるお話をお届けします!




