第81話 ドジかわ天使、落とし物する!?
作者のヨーヨーです。
このお話は、「恋愛するとお腹が痛くなる完璧侯爵様」が、毎回まっすぐに恋しては失敗していくコメディです。
笑って、ちょっと切なくて、でも最後には「誠実ってかっこいいな」と思えるような物語を目指しています!
今日から新しい幕の連載スタートです。
もし「面白そうかも」「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、ぜひブックマークしていただけると嬉しいです✨
あなたの一つのブクマが、ライの胃痛よりも効く元気の源になります。
それでは――どうぞ、お楽しみください!
王都の大通りは、朝からにぎやかだった。
行商人の声が飛び交い、パンの焼ける匂いと馬車の音が入り混じる。
その喧騒の中を、背の高い青年がゆったりと歩いていた。
名門・グランツ侯爵家の跡取り、ライオネル・フォン・グランツである。
黒いマントを翻し、通りすがりの商人から次々と相談を受ける。
「若様、この帳簿、計算が合わないんですが……」
「ここを銀貨十二枚に直せば収支は合う」
「ひぇ、即答……!」
その誠実な対応に人々は感心するが、同時にこそこそと囁く。
「やっぱり顔こわいな……」
「でも有能すぎるんだよな……」
完璧な仕事ぶりと、顔の怖さ。
このギャップが、ライの日常には常に付きまとっていた。
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そんなときだった。
「にゃあああああ!」
「きゃあああああ!」
大通りの奥、細い路地裏から妙な叫び声が響いた。
猫の鳴き声と女の子の悲鳴が重なっている。
ライは迷わず駆け出した。
「助けを呼ぶ声だ」
路地裏に飛び込むと、そこには――。
地面に転がり、野良猫とパンの切れ端を奪い合っている少女がいた。
小柄な体にボロボロのワンピース。
背中からは確かに白い羽が生えている……が、羽毛は抜け落ちてあちこちスカスカ、今にもハリネズミになりそうな状態だった。
少女は必死にパンを抱きしめ、「これはわたしの昼ご飯だもん!」と叫んでいるが、猫にあっさり押し負けて「にゃああ!」と一緒に鳴いていた。
ライは素早く猫を追い払い、少女を抱き起こす。
「怪我はないか?」
少女はきょとんとした瞳でライを見上げた。
青空をそのまま閉じ込めたような、大きな水色の目。
その中に涙が浮かび、さらにお腹がぐぅぅぅぅ、と鳴った。
「……わたしは……セラ。天使……のはず、なの。でも……」
言いかけて、少女はポケットをごそごそと探る。
出てきたのは――
・干からびたパンくず
・ボタンが3つ
・なぜか小魚の干物
・そして半分溶けた飴玉。
「う、うわぁ……ポケット、カオスすぎません!?」
思わず声が出る。
セラは顔を真っ赤にし、「ち、違うの!わたし、天界から降りてきたときに……その……寄り道して……」とごにょごにょ。
さらに羽をぱたぱた動かして飛ぼうとするが――
「よいしょっ!」→バサッ!→ドサァッ!
見事に石畳に転んで膝をぶつける。
「いたた……!……でも、これくらい天使は平気だから!」と強がる姿は、どう見てもドジっ子そのもの。
ライは呆れ半分、心配半分で手を差し伸べた。
「……とにかく、立てるか」
セラはぎこちなく笑ってうなずくと、小さな声でつぶやいた。
「……あのね……大事なもの、なくしちゃったの。天使の輪……頭にあったはずなのに」
彼女の頭には、確かに光る輪などない。
あるのは少し乱れた髪だけだ。
セラはしょんぼりとうつむき、再びお腹がぐぅぅと鳴る。
そして小声で「これは……BGMだから……」と無理やり誤魔化した。
ライは静かにため息をつき、彼女の肩を支えた。
「事情は分からないが、放っておけないな」
その瞬間、セラは目を輝かせた。
「ほんとに!?助けてくれるの!?」
ライの懐中時計の針が「カチッ」と揺れ――。
「……ぐっ……」
鋭い腹痛が彼を襲った。
セラは慌てて両手をぶんぶん振る。
「やっぱり!わたし呪われ天使なんだぁぁぁ!!」
ライは顔をしかめながらも答える。
「……いや、これは僕の……持病だ……」
その場に、なんとも言えない沈黙が広がった。
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ライがセラを連れて屋敷へ戻ると、ちょうど庭先でミーナが洗濯物を干していた。
「ライ様!お帰りなさ……えぇぇぇぇぇ!?な、なんですかその子!!」
目を丸くして指差すミーナ。
そこには、ボロワンピースの少女がライのマントにくるまれてちょこんと座っていた。
羽はぼさぼさ、顔はパンくずまみれ、手にはまだ野良猫に奪われかけた残飯を握りしめている。
「ああ……この子はセラ。天使……らしい」
ライが淡々と説明する。
「天使!?ぜっんぜん神々しくないんですけどぉぉ!」
ミーナが頭を抱える。
セラは「むっ!」と頬をふくらませ、ぐっと羽を広げた。
「わたしは天使だもん!……ただ、天使の輪を落としちゃっただけ……」
羽ばたこうとしたが――バサッ、ゴンッ!
勢い余って干してあったシーツに突っ込み、ぐるぐる巻きになって転がった。
「ひゃぁぁ!ミイラになった天使がいるー!」
ミーナが悲鳴をあげる。
ライは黙って彼女を助け起こし、シーツを外す。
セラは顔を赤くして「今のはウォーミングアップだから!」と必死に言い訳した。
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そこへ、執事バルドが登場。
手にはティーポットを持ち、落ち着いた声で告げる。
「若様……また珍客を拾ってこられましたな」
「……またって言うな」
ライが眉をひそめる。
バルドはじろりとセラを一瞥し、ひげをなでながら毒舌を放った。
「輪を落とした天使など、ただの羽付き娘でございますな」
「ひ、ひどいっ!ちゃんと本物だもん!」
セラは涙目で抗議。
その隣でミーナがうんうんとうなずく。
「そうですよ!バルドさん!見てください、このポンコツ具合!絶対本物です!」
「ポンコツ言うなぁぁ!」
セラが床をばたばた叩いて抗議。
ライは小さくため息をつきつつも、膝を折って彼女の目線に合わせる。
「セラ。輪は僕たちも一緒に探そう。君一人では大変だろう」
その誠実な言葉に、セラの顔が一気にぱぁっと輝いた。
「……ほんとに!?助けてくれるの!?」
ぱちん、とライの懐中時計が音を立て、針がぐぐっと跳ね上がる。
「……っ……!」
ライは腹を押さえ、しゃがみ込む。
「ら、ライ様!?また恋腹ですかぁぁ!?」
ミーナが大慌てで駆け寄る。
セラは両手をわたわた振って涙目。
「やっぱりだ!わたし、呪われ天使なんだぁぁぁ!」
その場に変な空気が広がったところで――。
「ピュイ!」
可愛らしい鳴き声が響いた。
小さな影がぴょん、と机の上から飛び降りる。
手のひらサイズの小竜――モフドラだ。
ふわふわの毛に包まれたその小竜は、ライのお腹にぺたりと乗り、
「ぷしゅー」と湯気を吐きながら温め始めた。
セラは目をまんまるにして叫ぶ。
「ちっちゃいドラゴン!?しかも湯たんぽ機能付き!?かわいすぎるぅぅ!」
ミーナは胸を張って説明する。
「これがモフドラです!ライ様専属の腹痛ケア担当ですよ!」
セラはうっとりしながらモフドラをなで、羽をばさばさ揺らして大興奮。
「天界にもこんなかわいい子いないよ!すごい……癒しパワー……!」
ライは腹を押さえながらも苦笑し、立ち上がった。
「……とにかく、しばらくは屋敷で保護するしかないな」
「やったー!ご飯つき宿屋ゲットだぁ!」
セラが飛び跳ねる。
……が、頭を天井の梁にぶつけて「いたぁぁ!」と泣き出す。
バルドはティーカップを置き、しみじみとつぶやいた。
「天使とは……かように不器用でも愛される存在。若様、また胃痛の日々が始まりますな」
ライは顔をしかめ、セラはおでこをさすり、ミーナは「大丈夫ですかー!」と大騒ぎ。
こうして、路地裏で拾った“ドジかわ天使”セラが、グランツ侯爵家に加わることとなったのだった。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
完璧すぎるのに恋愛だけポンコツなライと、ドジかわ天使セラ。
この二人の出会いから、すべての“百連敗物語”が始まります。
「ちょっと笑えた!」「ライ、がんばれ!」と思っていただけたら、
ぜひ**⭐評価や感想**で応援してもらえると嬉しいです!
作者の胃も、若様の腹痛も、それで少しは楽になります(たぶん)。
次回――天使と侯爵の、予想外に騒がしい共同生活が始まります!
どうぞお楽しみに!




