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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第8章 孫娘侍女 フローラ

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80/100

第80話 おばあちゃん、告白!?

今回のお話は、祭りの余韻の中で描かれる「別れ」と「余韻」の物語です。

ライの誠実さ、フローラの決断、そしてほんのり残る“甘くてほろ苦い後味”を楽しんでいただければ嬉しいです。


もし少しでも「続きが気になるな」「ライの恋を見届けたい」と思っていただけましたら、ぜひ ブックマーク をして応援していただけると励みになります!

朝日が差し込む侯爵家の屋敷は、昨夜の祭りの余韻を残していた。

中庭の片隅にはまだ屋台の木箱が積まれ、甘い匂いがふわりと漂っている。

けれど、そこに立つフローラの顔は、少し寂しげだった。


「ミーナ、ちょいと来ておくれ」


フローラは、まだ若い娘の姿のままミーナを部屋へ呼び込んだ。

侍女のミーナは「はい!」と元気に返事しながら、ドアを勢いよく閉めた。


「……な、なんですか? もしかして兄様に告白の返事を……!」

「違うわ! わしは……いや、わたしは……ここからいなくなる」


ミーナの目がまん丸になった。


「えぇ!? どこへですか!? 旅!? 修行!? それとも駆け落ちですか!?」

「そんなに盛らんでいい! ただ……“いなくなったことにしてくれ”」


フローラは両手をぎゅっと組み、視線を落とした。

手袋の下の指が、わずかに震えている。

その震えが魔法の限界を示していることを、フローラ自身が一番よく分かっていた。


「で、でも兄様、きっと泣きますよ! あの人、すぐお腹痛くなるくせに、心はすっごく繊細なんですから!」


ミーナは鼻をすすりながら必死に訴える。

するとフローラは小さく笑い、ミーナの頭をぽんと撫でた。


「それでも……これがわしの道じゃ。ライ様の心を縛るわけにはいかんのよ」

「フローラさん……」


ミーナは泣きそうになりながらも、ぐっと唇をかんだ。

 そして意を決したように頷く。


「わ、分かりました! みんなには“フローラさんは旅に出た”って言っときます! 兄様には……うまく誤魔化しておきます!」

「頼んだぞ、ミーナ」


フローラは笑ってみせたが、その目にはほんのわずかな翳りがあった。


***


しばらくして。


屋敷の廊下で、ライはミーナから説明を受けていた。

 背筋をぴんと伸ばし、真剣な顔で話を聞いている。


「フローラ様は……旅に出られたんです!」


やけに力強く言うミーナ。

その裏に隠された秘密をライは知る由もない。


「……そうか。彼女が選んだ道なら、僕は尊重する」


ライは静かに頷いた。

その姿は立派そのものだったが、懐中時計の針はググッと跳ね上がり、お腹はキリキリと痛み始めている。


「(ああ……また来たな、この痛み……)」


けれどライの表情は崩れない。

彼は胸に残る温かさを噛みしめるように、静かに言葉をつづけた。


「不思議だ。失ったはずなのに……まだ灯りが心に残っている」


その横で、ルチアとミーナは思わず目を潤ませる。

「兄様……!」

「フローラさんぁぁぁ……!」


感極まる二人。

しかし背後でバルドが腕を組み、冷静に毒を吐いた。


「誠実とは筋肉と同じでございますな。負荷をかけすぎれば、翌日しっかり痛みます」


「バルドさん、真面目に聞いてください!」

「兄様のお腹、筋肉痛みたいに言わないでください!」


ルチアとミーナが同時に突っ込むと、バルドは「ほほう」と肩をすくめるだけだった。


***


そのころ。

屋敷の門をそっと抜け出し、フードを深くかぶった老婆の影が一人、街道へと歩いていった。

誰もそれをフローラだとは気づかない。


窓際に立つミーナだけが、小さく呟いた。

「いってらっしゃい……フローラさん」


そして屋敷の中では――。

ライが机に広げた書類に目を落としながら、胸の痛みをこらえ、ひとりごとのように呟いた。


「……誠実とは、時に手放すことでもあるのかもしれない」



昼下がりの街道は、祭りの後らしいざわめきがまだ残っていた。

屋台を片づける商人や、買い食いでベタベタになった手を拭いている子どもたち。

人々はどこか満ち足りた顔をしていて、昨夜の光景をまだ夢のように引きずっていた。


その道を歩くライの姿は、やや重々しい。

 黒いマントを翻しながらも、足取りは決して軽くない。


「……フローラ。君は本当にいなくなってしまったんだな」


胸の奥がチクリと痛む。

いや、チクリどころか、お腹までぐるぐる痛い。

懐中時計の針はさっきから落ち着かず、ちょっと動いては戻り、戻ってはまた進む――もはや不安定なワイパーである。


「誠実とは、相手の決断を尊重すること……分かっている。分かってはいるんだが……」


ライは深く息を吐き、首を振った。


そのとき。

「おやまあ、ライ様じゃないかい」


不意に聞き慣れた声が耳に届いた。

顔を上げると、道端に腰を下ろした一人の老婆――シエラが、にこにこと笑っていた。

近所で子どもたちに飴を配っていた“アメばあさん”である。


「シエラ殿……!」


思わず駆け寄るライ。

だが彼女の手元を見た瞬間、彼の心臓がドクンと跳ねた。

老婆の手のひらには、見覚えのある小さな包み紙。


「ほれ、今日はこれをあげようと思ってな」


そう言って差し出されたのは、一粒の飴玉だった。

包みを開けば、ほんのり緑がかった透明の粒。

ミントとハチミツ、そしてほろ苦い薬草の香り――。


「……っ!」


ライは思わず目を見開いた。

昨夜、フローラと一緒に作り、二人で食べた“妙な味の飴”とまったく同じだったのだ。


「これは特別な味じゃ。甘いだけじゃなく、ちいと苦くて……でも、忘れられん。ライ様の心にも残ればええ」


シエラはそう言い、皺だらけの笑顔を浮かべた。

その言葉は、昨夜フローラが語った言葉と重なって聞こえる。


ライは飴を胸元にそっとしまい、しばらく無言で立ち尽くした。

やがて、かすれた声でつぶやく。


「……フローラとシエラ。まさか……いや、まさかな」


その横顔は真剣なのに、お腹を押さえて少し前かがみ――切なさと腹痛のミックスだ。


***


遠巻きに様子を見ていたバルドは、ふっと口の端を上げて言った。


「若様。“まさか”こそが恋の後味でございますな」


それを聞いたルチアは「兄様、また包み紙ごと噛んませんでしょうね!」と大慌て。

ミーナは「わ、わたしもその飴ほしいですー!」と騒ぎ、モフドラはライのお腹の上でプシューと湯気を噴き出した。


――こうして、甘くてほろ苦い“恋のアメ騒動”は幕を閉じるのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

フローラの選んだ道と、ライの誠実な受け止め方――そして一粒の飴に込められた想いを描きながら、私自身も胸がきゅっとなる回でした。


「ここが面白かった」「このシーンが好きだった」と感じたところがあれば、ぜひ 評価や感想 で教えていただけると嬉しいです。みなさんの一言が、物語を進める大きな力になります!

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