第8話 若様、ケーキと恋腹の大作戦
今回はライが“料理男子”に挑戦!
クラリスのために厨房に立ち、真剣そのものの表情でケーキ作りに奮闘します。
ただし、横ではミーナの暴走演出、モフドラのチョコまみれ事件、そしてバルドの毒舌が炸裂。
せっかくの甘い雰囲気は、毎度のごとくドタバタ喜劇へ……。
それでも「ありがとう」と込められたケーキの一文字は、ライの想いを確かに映しているのです。
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王都の朝、グランツ邸の厨房から甘い香りが漂っていた。
「若、今日はやけに気合が入っておられますな」
執事バルドがひょっこり顔を出す。鍋をかき混ぜているのは、ライオネル・フォン・グランツ――通称ライ。侯爵家の嫡男にして、何でもできる完璧人間……ただし、顔が怖い。
「今回は失敗できない。クラリス嬢に渡すケーキだ。甘いものがお好きと聞いた」
ライは真剣な目で卵を割る。
片手でトンッとやると、黄身と白身がきれいにボウルに落ちた。手つきは完璧。
「恋に勝つには胃袋から、ですな」
バルドは腕を組んでニヤリ。
「なら横断幕も必要ですね!“甘さは愛の証!”って文字を金粉で描いて――」
横で侍女ミーナが勝手に段ボールを広げている。
「やめろ、それは胃袋より重い…!」
ライは即座にツッコミを入れるが、ミーナはどこ吹く風。
その時、棚の上から小さな影が飛び出した。
掌サイズの小竜、モフドラだ。
「ぷしゅー!」
ちょこんと台の上に乗り、口から小さな炎を吐いてチョコを溶かし始める。
「よし、その温度だ。…って、強すぎる!焦げる!」
次の瞬間、チョコが黒い塊に変身。
ライは慌てて木べらでかき回す。
「これではビターチョコを超えて炭だ!」
モフドラは「きゅうぅ」と情けない声を上げて頭を下げた。
それでもライの腕前は確かで、スポンジはふっくら焼き上がった。
「さすが若。見た目は完璧でございます」
「見た目は、か…」
バルドの一言が胸に刺さる。
ライは気を取り直し、チョコペンをとった。
そして「ありがとう」と書こうとした瞬間、懐中時計の針がグッと上がる。恋腹の前兆――腹の奥がムズムズする。手が小刻みに震え、文字がグニャリ。
「私が代わりに!」
ミーナが飛び込み、サッと書き込む。
「ありが豆腐!」
「なぜ豆腐なんだ!?」
ライの怒声が響き、慌ててクリームで消す羽目になった。
やり直した結果、震えた字で「ありがとう」と完成。少し歪んでいるが、気持ちはこもっている。
「……まぁ、読めますな」
バルドの評価は相変わらず辛口だ。
その横で、モフドラがイチゴをパクッ。口のまわりを真っ赤に染めて「きゅぅ」と鳴いた。
「お前は飾りを食べるな!」
極めつけに、ミーナの仕掛けた紙吹雪が途中で爆発。厨房に舞う白い紙片。
「若、まるで結婚式場のようでございますな」
「まだ始まってもいない!」
ライは鏡に映る自分を見て深呼吸した。
「僕は完璧だ。——恋以外はね」
だが懐中時計の針は“むずっ”レベルで震えている。嫌な予兆を残したまま、クラリスを迎える準備が整った。
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その日、クラリスがグランツ邸に到着する。
「まあ…いい香りがしますね」
ドアを開けた瞬間、甘い匂いに目を輝かせるクラリス。
ライは堂々と銀のトレイを差し出した。
「手作りのモンブランです。ぜひ召し上がってください」
クラリスは驚き、そして一口。
「こんな味、初めてです」
ふわりと笑う彼女に、ライの胸がドクンと跳ねる。
懐中時計の針がさらに上がり、“きりきり”の手前。
腹を押さえながらも、ライは必死に笑顔を保った。
その裏で――
「紙吹雪いまだ!」
ミーナが再びトリガーを引こうとした瞬間、バルドの杖がスパーンとその手を弾いた。
「若、演出は控えめに。味で勝負でございます」
クラリスは微笑んだまま、もう一口モンブランを食べる。
ライは内心(よし…今回は順調だ)とガッツポーズを取った――もちろん顔は怖いままだったが。
大きなケーキを両手で抱え、ライはクラリスの前にそっと置いた。
上にはチョコで「ありがとう」と書かれたプレート。真面目な字で、飾り気はないけど不思議と力強い。
「まぁ……!」
クラリスは目を丸くして、思わず手を口にあてた。
「こんなに立派なケーキを、一人で作られたのですか?」
ライはうなずき、真剣な顔で答える。
「はい。材料の配合は領地の商会から取り寄せ、焼き加減は農家の竈を観察して研究しました。温度管理も——」
「いや、ケーキってもっと気軽に作るもんじゃないの!?」
横でミーナが思わずつっこんだ。
クラリスはクスッと笑う。
「本当に…研究熱心な方なのですね」
ライは少し頬を赤らめながらケーキを切り分けた。
クラリスが一口食べる。
「……とってもおいしいです」
その言葉に、ライの胸の奥で何かが跳ねる。懐中時計の針が「ググッ」と大きく動き、腹が“キリキリ”と痛み出した。
「っ……」思わず腹を押さえるライ。
「今です、告白です!」
耳元でミーナがささやく。
「お待ちください、先に胃腸薬を」
冷静に薬を差し出すのはバルドだ。
ライは深呼吸し、なんとか声を出そうとする。
クラリスも不思議そうにこちらを見ている。
──その瞬間だった。
机の端にいたモフドラ(手のひらサイズの小竜)が、甘い匂いに釣られてチョコソースの器へダイブ!
「ぷしゅぅぅ!」と湯気を出しながら、全身チョコまみれに。
「うわっ!」ライが驚いてのけぞった拍子に、ケーキのクリームが顔面にベチャッ。
鼻から顎まで白一色。
「ふ……ふふっ……!」
クラリスがこらえきれず吹き出した。ついには大笑いしてしまう。
「ごめんなさい…!でも、こんなに楽しいお菓子パーティーは初めてです」
ライは必死で顔を拭きながら、真面目に言う。
「い、いまのは完全に計算外で……!」
場の空気は完全にコメディ。
告白のタイミングなど跡形もなく消え去っていた。
クラリスは笑顔で立ち上がり、スカートの裾を整える。
「ライ様、本当に面白い方ですね。今日は素敵な時間をありがとうございました」
ライは深く頭を下げ、「…また必ず挑戦します」と心の中で誓った。
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その夜。鏡の前で、ライはひとり呟く。
「甘さは伝わった。けれど……想いはまた届かなかった」
懐中時計の針はまだ高いまま。腹はじんわりと痛む。
背後でバルドが静かに一礼し、毒舌を放った。
「若様、甘さは十分。苦みは若の胸中だけでございます」
ライはため息をつき、ぽつりとつぶやく。
「……僕は完璧だ。恋以外はね」
お読みいただきありがとうございました!
今回の執筆で意識したのは、「甘い恋」と「苦い失敗」を同時に描くこと。
ライは完璧に見えても、恋心の前ではどうしても腹痛やドジに振り回されてしまう。
でもクラリスが心から笑ってくれた瞬間、彼の努力はちゃんと報われている気がします。
次こそは告白……できるのか? それともまたモフドラの“ぷしゅ〜”で台無しになるのか?
どうぞ続きも楽しみにしていてください。
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