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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第8章 孫娘侍女 フローラ

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77/100

第77話 おばあちゃん、ほろ苦味のアメ!?

侯爵家の台所に響くのは、剣戟ではなく砂糖を煮詰める音。

今回のエピソードは、ライとフローラが挑んだ“飴作りバトル”です。理論派のライが全力で挑むも、焦げる・固まる・床はベタベタ……とドタバタの連続。でもその中に、不思議な甘さとほろ苦さが混ざり、キャラクターたちの距離感も少しずつ変化していきます。


読んでいて「お腹が痛くなるほど笑った!」とか「この味、気になる!」と思っていただけたら、ぜひブックマークをぽちっとお願いします。次回以降も、この“誠実すぎる侯爵様”と仲間たちのドタバタを一緒に楽しんでいただけると嬉しいです。

侯爵邸の台所は、今日も朝から湯気でもうもうとしていた。


使用人たちがせわしなく行き交い、大鍋の中ではスープがぐつぐつと音を立てている。香ばしいパンの匂いと、炒められた肉の香りが混じり、思わず腹が鳴りそうになる空気だ。


その隅で、やたらと真剣な顔をした二人が、なぜか鍋の前に並んで立っていた。


ライオネル・フォン・グランツと――フローラ。


侯爵家の跡取りと、新しく屋敷に入った“孫娘”の少女。

だが二人の目の前にあるのは豪華な料理ではなく、小さな鍋に入った――砂糖水。


そう、二人は今、「飴作り」に挑んでいた。


「……温度はいい具合。ここからが勝負だ」

ライは額に汗を浮かべながら、真剣に温度計を見つめている。


一見すると立派な研究か戦術会議のようだが、実際はただの砂糖煮。

緊張感だけが無駄に高い。


「兄様、そんな顔をしてるけど……結局は“お菓子作り”なんですけどね」

後ろで腕を組んでいるのは妹のルチアだ。冷ややかな視線を隠そうともしない。


「バルド様、これ……失敗する予感しかしないんですけど……」

侍女のミーナも、半分呆れたように見ていた。


そんな中、フローラがにこりと笑って、ライに声をかけた。

「ライ殿、普通の甘い飴もええけど……少し変わった味にしてみんかの?」


「変わった味?」

ライが顔を上げると、フローラは手元の小瓶を取り出した。


「わしが昔、いや……昔、祖母から習ったんじゃが。ミントにハチミツ、そこにちぃと薬草を混ぜると、妙に苦くて癖になるんじゃよ」


「……苦い飴!? そんなの子どもが泣きますって!」

ミーナがすぐさま大声をあげた。


「兄様、やめてくださいませ。お祭りで配るのに、誰も食べてくれませんわ」

ルチアも渋い顔で反対する。


だが、ライの目はきらりと光った。

「挑戦こそ誠実だ。――やろう、フローラ」


その言葉に、フローラは思わず目を丸くする。

(この子……いや、この若者、変なところで頑固じゃな)


こうして、怪しい“変わり種飴作り”が始まった。



---


だが、現実は甘くなかった。


「……っ、なぜだ。焦げてしまう」

ライが慌てて鍋をかき混ぜると、底から黒い煙が上がる。


「兄様、煙が! これもう飴じゃなくて炭ですわ!」

ルチアが鼻をつまみながら叫ぶ。


「うわぁ! 兄様、止めて! このままじゃ台所の人に怒られます!」

ミーナが慌てて水を持って走り回る。


そんな中、フローラがすっと鍋を引き取った。

「ほれ、火は強すぎるんじゃ。弱めて……あとは焦らず、ゆっくり混ぜるんよ」


ライの大きな手の上に、フローラの手が重なる。

「こうやって……な」

年季の入ったしなやかな動きに導かれ、焦げかけた鍋の中身が落ち着きを取り戻していく。


ライは驚いたようにフローラを見た。

「すごいな……まるで熟練の……」


「ふふ、少しばかり慣れてるだけじゃ」

フローラは咳払いしてごまかすが、頬がほんのり赤い。


「……ほほう。若様の飴作りは“戦”ですな。敵は温度計。結果は胃痛」

後ろでバルドが腕を組んでうなる。


「バルド様、それ皮肉になってますよ!?」

ミーナが突っ込んだところで――。


鍋の中から、ふわりした香りが立ちのぼった。


「……できたかもしれん」

ライとフローラが顔を見合わせ、同時に小さくうなずいた。


鍋の中で黄金色に光る液体は、湯気を立てながら艶やかに揺れていた。

砂糖の甘い香りに、ミントの爽やかさ、そしてほんのり薬草の苦みが混じっている。


「……できたな」

ライは深呼吸をして、慎重に液体を型に流し込む。


冷めて固まるまでの時間が、妙に長く感じられた。

待っている間も、ライの心臓の音がやけに大きく響く。


(ただの飴作りなのに……なぜだ。僕はまるで戦の前夜のように緊張している……!)


やがて、小さな粒が固まりとなり、つやつやとした飴玉が出来上がった。


「……では、いただいてみようか」

ライが一粒をつまみ上げ、フローラに手渡す。


フローラもおそるおそる口に入れた。

カリッ、と噛まずに転がすと、ほんのり甘さが広がり、すぐにミントの涼しさが追いかけてくる。

そして最後に、不思議なほろ苦さがじんわり残った。


「……ああ、これじゃ」

フローラは目を細めて微笑んだ。

「甘いだけじゃなくて、ちぃと苦い。けど、その苦さが後からもう一粒食べたくなるんじゃ」


ライも飴を口に含み、眉を上げる。

「……本当に、不思議な味だな。甘いのに、胸の奥に少ししみるような……」


「人生と同じよ。甘いだけじゃ、飽きるんじゃ」

フローラは、まるで長い歳月を見てきたかのように、さらりとそう言った。


ライは思わず見とれてしまう。

年下の少女のはずなのに、その言葉には大人の重みがあった。


――次の瞬間。


「……ッぐ……!」

ライの腹に鋭い痛みが走る。懐中時計の針がぐぐっと跳ね上がり、彼はうずくまった。


「兄様、またですの!? さっきまで普通だったのに!」

ルチアが慌てて駆け寄る。


「わ、若様! やっぱり薬草を入れたから毒に……!」

ミーナが大声をあげる。


「違う、これは……これは……!」

ライは苦しげに腹を押さえるが、心のどこかでは分かっていた。

――これは毒ではなく、“恋腹”だ。


フローラに視線を向けると、彼女が心配そうに手を伸ばしてきた。

だが、その指先を見て、ライは一瞬まばたきをした。


白く透き通るような若い手に、わずかな皺が浮かんでいたのだ。


(……今のは……?)


「ライ様! しっかりなさい!」

フローラはすぐに手袋を引き直し、笑顔を取り戻す。

「これは……熱でただれただけじゃ。いや、わたし、少し火傷しただけで!」


「そ、そうですわ兄様!」

ルチアがすぐさま割り込んでごまかす。

「料理のときに熱で……そう、そういうことですの!」


「……そうか。ならよかった」

ライはまだ痛みに顔を歪めながらも、疑うことなくうなずいた。


そして、苦しい笑みを浮かべながら言った。

「フローラ……君の言葉は、なぜか心に残る。飴もそうだ。甘さの中に、ほろ苦さがあるから……僕は忘れられない」


フローラは一瞬だけ黙り、やがて穏やかな笑顔を浮かべた。

「……そりゃあ、ええことじゃ」


バルドが腕を組み、ぼそりとつぶやく。

「若様、甘いものは腹に残り、恋は胃に残りますな」


「バルド様、それ胃薬のCMみたいです!」

ミーナが突っ込み、ルチアがため息をついた。


こうして、妙に大人びた味の飴は完成し、侯爵邸の一同に強烈な印象を残すこととなった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回の飴作りシーンは、作者自身が実際に砂糖を焦がして黒煙を出した経験がベースになっています……(台所がしばらく甘苦い匂いで大変でした)。ライが理屈で挑み、フローラが“感覚”で支える対比は、この二人の関係性を象徴的に描きたいと思って入れました。


もし少しでも「面白かった」「この二人の掛け合いが好きだ」と感じていただけたら、評価(★)や感想で応援してもらえると本当に励みになります。特に「ミント飴食べてみたい!」「恋腹の痛みってどんな味?」など、自由な一言でも嬉しいです。


次回も侯爵家の面々が、甘くて苦い騒動を巻き起こしますので、お楽しみに!

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楽しんでいただけましたか?

ぜひ☆評価で作者のやる気が上がります!

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まとめサイトはこちら!

https://lit.link/yoyo_hpcom

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