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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第8章 孫娘侍女 フローラ

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76/100

第76話 おばあちゃん、アメちゃん作る!?

王都の名門・侯爵家に届いたのは、やたらフレンドリーな「子ども祭り」のお知らせ。そこから、剣のようにオタマを握るライの“理論全振りアメ作り”が始まります。

砂糖は理屈だけじゃ言うことを聞かない。焦げる、固まりすぎる、床が飴田になる――そしてフローラの手の温もりと、小さな“秘密”の気配。笑いと甘さの奥で、彼らの関係も少しずつ溶けて形を変えていきます。


今回の見どころは、ライの「完璧宣言」とミーナ&ルチアの全力ツッコミ、そしてフローラのさりげない導き。ラストの「恋腹」まで、軽やかに味わっていただければ嬉しいです。

物語が「ちょっとおいしい」と感じていただけたら、続き読み忘れ防止にブックマークをそっと置いていってください。次回の子ども祭り本番、黄金色の“奇跡の味”がどんな騒ぎを呼ぶか、一緒に見届けてもらえたら心強いです。


王都の侯爵家に、ちょっとしたお知らせが届いた。

それは町内会の回覧板みたいな紙で、しかし侯爵家の当主に対しても容赦なく「今年もよろしく!」と書かれている。


内容は——「子ども祭り」。

王都の子どもたちが楽しみにしている、毎年恒例のお祭りだ。

屋台や遊びの出し物が立ち並び、最後には花火まで上がる、わくわくが詰まった一大イベントである。


そして今年も、侯爵家に出店の要請が来ていた。

注文はずばり——「手作りのアメを出してほしい」。


「……アメ、か」

紙を読み上げたライは、静かに考え込む。


「はい! ライ様が作りましょう!」

間髪入れずにミーナが声をあげた。

目がキラキラしている。


「僕が……?」

ライは眉をひそめる。


「確かに兄様の“誠実な味”をみんなに広めるチャンスですね!」

ルチアは胸を張った。


「……誠実な味、か」

ライは腕を組み、うなずく。

彼の頭の中では「アメ=砂糖を煮詰めて固めるだけの簡単なお菓子」という数式が成立していた。

(僕にできぬはずがない。火加減も時間も理論で割り出せば、すぐ完成するだろう)


その自信たっぷりの横顔を見て、フローラは目を細めた。

若い娘の姿をしているが、中身はおばあちゃんなのだから口調も落ち着いている。

「アメはな、思うよりむずかしいんじゃ。火の強さひとつで、味も固さも、全部変わってしまうんよ。わし……いや、わたしが、手ほどきしてやろうかの」


ライは真剣に答える。

「心配いらない。僕は完璧だ」

胸を張り、堂々と言い切った。


「兄様! 今のは完全にフラグです!」

ミーナが慌ててツッコミを入れる。

だが誰も止められないまま、挑戦は始まった。



---


侯爵家の厨房に、大きな鍋と砂糖の袋が並べられる。

いつもは肉の煮込みやスープの香りが漂う場所だが、今日はやけに甘い匂いが充満していた。


ライは剣を構えるときと同じ顔でオタマを握る。

「まずは砂糖を水に溶かして……温度は九十度前後か。理論的にはこれでいいはずだ」


ぐつぐつと沸き立つ鍋を前に、ライは真剣そのものだった。

しかし数分後——。


「……む? 黒い?」

鍋の中の砂糖液が、みるみるうちに黒焦げになっていった。

煙まで出て、鼻をつんと刺す。


「兄様! それアメじゃなくて炭ですよ!」

ミーナが悲鳴をあげる。


「いや、もはやコーヒーじゃな……」

フローラがぼそりと言い、厨房はどっと笑いに包まれた。


二度目の挑戦。

ライはさらに慎重になり、温度計まで持ち込んで計測した。

だが結果は——。


「……固い。いや、固すぎる」

できあがったのは石のようなアメ。

木の台に叩きつけてもビクともしない。まるで武器である。


「兄様! これじゃ武器庫に並べるしかありません!」

ルチアが頭を抱え、ミーナが大爆笑。


三度目。

今度は焦らず慎重に……と思ったライだったが、鍋を持ち上げた拍子に液体を盛大に床へこぼしてしまう。

床は一瞬でベタベタの飴地獄に変わった。


「うわっ! すべる!」

ミーナがツルンと滑って尻もちをつく。

侍女たちが悲鳴をあげ、バルドはため息をついた。


ライは深々と息を吐き、オタマを見つめる。

「……簡単に見えたのに、なんと難しい菓子だ。かくも繊細なものなのか」


するとフローラが、すっとライの隣に立った。

そして、そっと彼の手に自分の手を重ねる。

「力を入れすぎじゃ。アメはな、ゆっくり練ってこそ光るんじゃよ」


ライは驚いて振り返る。

「……ゆっくり、か」


フローラの手は不思議なほどあたたかかった。

まるで彼女の指先から、安心が伝わってくるかのようだ。


その瞬間、ライの懐中時計がチチ、と音を立てて針を跳ねた。

胸の奥で、いつものようにキリキリとした痛みが走る。


「……ぐっ」

ライは腹を押さえて顔をゆがめる。


「ライ様!? またお腹が!」

ミーナが慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫だ……これは……修行の一環だ……!」

ライは必死に顔を保とうとするが、声が震えていた。


 そんな様子を見て、フローラは口元をほころばせる。

「真面目すぎるんじゃ、おぬしは。アメも心も、余白を作らんと割れてしまうぞ」


その言葉に、ライはなぜか胸が熱くなった。

そして痛みに顔を歪めながらも、ほんの少しだけ笑った。


フローラの助けを借りて、ライの手つきはようやく落ち着いてきた。

今までは剣を振るうように力強く混ぜていたが、フローラの言葉を思い出し、そっと手首を返す。


「……こうか?」

「そうじゃ、その調子じゃ。ほら、泡がきめ細かくなってきたじゃろ?」


鍋の中で、透き通る黄金色の液体が、まるで宝石みたいに揺れていた。

甘い匂いが立ちのぼり、厨房の空気が一気にやわらぐ。


ミーナが覗き込んで声を上げた。

「わっ、きれい! 兄様、今度こそ本物のアメっぽいです!」


「“っぽい”とは何だ、ミーナ」

ライが渋い顔をすると、フローラがくすっと笑う。


「本物になるかどうかは、ここからじゃ。火から下ろすタイミング、気を抜くでないぞ」


ライは真剣に鍋を見つめ、そして慎重に火を止めた。

その瞬間、黄金色の液体はとろりとした糸を引き、冷えた台の上に落ちて広がっていく。


しばらくして、飴が固まった。

つやつやした表面は、まるでガラス細工のよう。


「……できた」

ライが静かに言った。


フローラは割って一つをつまみ、口に入れる。

「ん……甘い。ちぃと香ばしいが、それもよい。よくやったの」


ミーナもおそるおそるかじってみて、目を丸くした。

「わ、ほんとにおいしい! 最初は甘いけど、後からほんのり……何だろう、焼き芋みたいな味がします!」


「焼き芋味……?」

ライは眉をひそめた。

「僕はそんなつもりでは……」


「ふふ、アメ作りはな、失敗も混ざってこそ味になるんじゃよ」

フローラは楽しそうに笑った。



---


そのとき、ライはふとフローラの手元に目をとめた。

いつも白い手袋をしていたはずの指先が、今日は熱さのせいで外されていた。


そこには、ほんのかすかだが、皺が刻まれていた。

若い娘の姿をしているのに、不思議と年輪のような線が浮かんでいる。


「……フローラ、その手……」

思わず口にしかけたライを、フローラは慌てて遮った。


「こ、これはな……砂糖で火傷しただけじゃ! じゃなくて、しました! だから手袋を戻せば問題ないんよ!」


慌てて手袋をはめ直すフローラ。

ライはじっと見つめたが、それ以上追及はしなかった。


「そうか……なら、気をつけてくれ」


その誠実すぎる一言に、フローラは胸をつかれる。

(ああ……この子はほんに……)


そのとき、ライが懐中時計を取り出した。

針はぐん、と大きく跳ねていた。


「う……」

ライは腹を押さえて苦しむ。


「兄様!? アメでお腹こわしたんですか!?」

ミーナが慌てて叫ぶ。


「違う……これは……恋腹だ」

ライは苦しみながらも真剣な顔で答えた。


「まさか……アメにまで嫉妬してるんじゃないでしょうね」

ルチアが冷ややかに突っ込み、厨房はまた笑いに包まれた。



---


飴作りは一応の成功をおさめ、侯爵家は子ども祭りに出す準備を整えた。

そして黄金色のアメは、ほんのり焼き芋の風味がする「奇跡の味」として、次の舞台へ持ち越されることになる。


その横でフローラは、手袋をぎゅっと握りしめていた。

魔法の切れ目が、確実に近づいているのを知っているのは、彼女だけだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

アメ作りの描写は、作者の台所実体験(数回焦がして床をベタベタにした黒歴史)をもとにしました。砂糖って、ほんの少しの火加減で「香ばしさ」と「炭」の境界線を軽々と跨いできますよね……。ライが理論で挑み、フローラが“手の感覚”で支える対比は、二人の距離感を書きたくて入れた要素です。チラッと見えたフローラの“年輪”も、今後の伏線。彼女の時間と魔法、そしてライの“誠実な味”がどこで交わるのか、次回以降で深めていきます。


もし少しでも「甘かった」「笑った」「気になる」があれば、**評価(★)**を一つでもいただけると、とても励みになります。

そして、あなたのお気に入りのシーンや気づいた点、フローラの手袋についての予想など、感想で教えてください。読者さんの一言が、次の話の火加減をちょうどよくしてくれます。

それでは、次回「子ども祭り・屋台編」でお会いしましょう。黄金色のアメが、花火の夜にどんな約束を照らすのか――お楽しみに。

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楽しんでいただけましたか?

ぜひ☆評価で作者のやる気が上がります!

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まとめサイトはこちら!

https://lit.link/yoyo_hpcom

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