第75話 おばあちゃん、買い物に行く!?
こんにちは、作者のヨーヨーです!
今回は「市場でのおつかい回」。ライ様の誠実さ、フローラ(中身はおばあちゃん)のうっかり口調、そしてミーナの全力ツッコミ……読んでいてクスッと笑える一幕になったと思います。
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王都の朝はにぎやかだった。
パンの焼ける匂いと、馬車の車輪のきしむ音が石畳に響いている。
その日の侯爵家では、買い物当番が決まっていた。
執事バルドが木製の板に書かれた買い物リストを差し出す。
「若、干し肉に豆、それから保存壺と香辛料、包帯も。腹痛薬は……本日は見送りでよろしいですな」
ライはこほんと咳払いし、視線をそらす。
「……無駄遣いはよくないからな」
ミーナが布袋を両手で抱え、元気よく声をあげる。
「はいっ!小銭と注文票は全部この中に入れてあります!」
そしてもうひとり――フローラ。
“孫娘”として屋敷に入ったばかりの彼女が、今日は買い物カゴ担当だ。
大きな柳のかごを抱えながら、ぎこちない笑みを浮かべる。
「ま、参りましょうかの……じゃ、じゃなくて。参りましょう」
おばあちゃんのような口ぶりが出そうになり、あわてて言い直す。
ミーナがこっそり肘でつつき、「今の“かの”はアウトですよ」と小声で注意した。
フローラは「わかっとる、わかっとる……いや、わかっております」とごまかす。
三人は石畳を歩き、王都の大市場へと向かった。
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市場は朝から人でいっぱいだった。
パン屋の前では焼き立てを買い求める人々が列をなし、布屋の軒先には鮮やかな布が風にはためいている。
魚屋からは潮の匂いが漂い、果物屋の籠には赤いリンゴが山のように積まれていた。
そんな中で、行き交う人たちがふと足を止め、フローラを見てひそひそ声を交わす。
「……あれ、“アメ配りおばあちゃん”に似てないか?」
「そっくりだな。若い頃って感じだ」
フローラは耳に届いた言葉に、思わず腰のポケットへ手を伸ばしそうになる。
――だが、そこに入っているはずのアメはない。出発前にミーナに預けてきたのだ。
「……ふう、今日は“孫娘”じゃから……いや、孫娘“ですから”」
小さくつぶやいて自分を落ち着かせる。
「フローラさん、落ち着いて!“ばあちゃん口調”が出てますよ!」
ミーナがあわててフォローするが、横でライは気にも留めていない。
人混みを真剣に観察していた。
「今日は豆の入荷が多いな。価格が少し下がっているはずだ」
ライが目を細めると、ミーナは「すごい!」と素直に感心した。
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一行は最初の目的地――豆屋へ入った。
木桶いっぱいに積まれた乾燥豆の山が、店の奥までずらりと並んでいる。
しかし店主は困ったように頭をかいていた。
「どうしたのですか?」ライが尋ねる。
「へえ、今週は入荷が多すぎて……在庫が減らねえんです。値を下げりゃ損になるし、積んどきゃ虫が湧くし」
ライはすぐに状況を読み取る。
「なるほど。まとめ買いと分割納入を組み合わせればいい」
そう言って、顎に手を当てた。
「こちらで数袋まとめて買い、残りは来週と再来週に分けて受け取る。そのかわり、保存袋を付けてくれれば店にも利益が出る」
店主の目が見開かれる。
「なるほど、そいつぁいい!」
フローラは横でそっとつぶやく。
「信用は……育つもんじゃ。今日の一袋より、来週の約束を太く……いえ、太く“していきましょう”」
思わずおばあちゃん口調が出てしまい、慌てて直す。
ミーナは苦笑しながら帳簿に印をつけた。
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取引が成立すると、店主の子どもが駆け寄ってきた。
手にしていたのは木で作ったおもちゃのアメ玉。
「おねえちゃん、これあげる!」
フローラは受け取って、にっこり笑う。
「ほっ……ほ、本当にありがとう」
ライはその横顔を見て、胸がほんのり熱くなる。
しかし同時に、懐中時計の針がぐぐっと動き、腹に鈍い痛みが走った。
「……む、またか……」
モフドラが彼の肩からするりと下り、ちょこんとお腹に乗る。
プシューと小さな湯気を吐き、温めてくれる。
フローラはその様子を見て、ふっと笑った。
「便利な子ですのう……じゃなくて。かわいい竜ですわね」
ミーナは「はい!モフドラは兄様専属の腹痛ケア担当ですから!」と胸を張る。
ライは少し赤い顔でうなずいた。
「……まあ、助かっているよ」
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こうして一行の買い物は、まだ始まったばかりだった。
豆屋を後にして、三人と一匹は市場の奥へと進んだ。
今度は魚屋の前で人だかりができている。
桶には新鮮な川魚がびっしり並んでいたが、店主の顔は冴えない。
「今朝は冷たい風が弱くてよ。氷も足りねぇし、このままじゃ魚が悪くなっちまう……」
ミーナが心配そうに小声でつぶやく。
「せっかく新鮮なのに……」
ライはじっと桶を見つめた。魚の鱗の色や、桶の中の水の温度まで確かめる。
「なるほど。氷が不足しているのか」
フローラも横からのぞきこみ、ぽつりと言った。
「昔は井戸の底に麻袋で魚を沈めておいたもんじゃ。水は冷たいし、陽に当たらんで長持ちする」
「あっ!おばあちゃん口調!」
ミーナが慌てて指さす。
「……わ、わたしが聞いたことがある話、です!」
フローラは顔を真っ赤にしながら取り繕った。
ライはそんな二人のやり取りを気に留めず、すぐに案を出す。
「井戸を使うのも悪くない。だが、市場の客に持ち帰らせるには工夫がいるな」
彼は鞄から紙とペンを取り出し、さらさらと絵を描く。
「藁と布を二重にして袋を作り、中に魚を入れて井戸水で冷やす。客にはそのまま持ち帰ってもらう。数日は持つはずだ」
店主は目を丸くする。
「そんなやり方があるとは……!ありがてぇ、ありがてぇ!」
フローラはうなずきながら、ぽそりと本音をもらす。
「ほんに……あの子は昔から頭が回る子で……」
「だから!おばあちゃんみたいな言い方はやめてくださいってば!」
ミーナがすかさずツッコミを入れる。
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買い物を済ませ、三人は市場を歩いて屋敷へ戻った。
夕方の風は心地よく、街路樹の葉がかさりと揺れる。
フローラはカゴを抱えながら、少し柔らかい笑みを浮かべた。
「市場の人らは、よう働いておるの……いや、働いていますね」
ライは歩調を崩さず、静かに返す。
「彼らの暮らしが王都を支えている。僕はその営みを守らなくてはならない」
その誠実な横顔に、フローラの胸がちくりと痛んだ。
正体を隠している自分が、ほんの少し後ろめたくなる。
そのとき、ライの懐中時計がかすかに音を立て、針が揺れた。
彼は立ち止まり、腹を押さえる。
「う……っ……」
すぐにモフドラが駆け寄り、彼のお腹にぴたりと張りつく。
プシューと湯気が立ち、温かい空気が流れた。
「兄様、またですか!」ミーナが慌てる。
ライは顔をしかめつつも、かろうじて笑みを作った。
「……大丈夫だ。誠実に……歩けば、腹も落ち着く」
フローラはそんな彼を見つめ、思わず口の端をほころばせた。
「無理をする子じゃのう……あっ、無理をする方ですわね」
ミーナが「今のはセーフです!」と笑い、ライは「何がだ?」と首をかしげる。
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こうして、にぎやかだった市場でのおつかいは無事に終わり、夕暮れの光の中を三人と一匹は屋敷へ帰っていった。
その背中はどこか温かく、まるで小さな家族のように見えた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ライ様の“誠実トラブル解決”と、フローラの“口調事故”は書いていて楽しくて、つい筆が進みました。市場の人々とのやり取りが少しでも温かく伝われば嬉しいです。
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