第73話 おばあちゃん、縫い物がお上手!?
こんにちは、作者のヨーヨーです!
今回のお話は「裁縫」から始まるドタバタ劇です。新人侍女(中身はおばあちゃん)のフローラが、見事すぎる裁縫スキルを披露してしまい……そこから恋腹の発動までつながるとは、ライも想定外だったでしょう。
物語はまだまだ続きますので、「面白そうだな」と思っていただけたらぜひブックマークして読んでいただけると嬉しいです! ブクマが次のお話を書く大きな力になりますので、どうぞよろしくお願いします!
王都・グランツ侯爵家の執務室。
昼下がりの光が差し込む中、若き跡取り――ライオネルは分厚い報告書に目を走らせていた。
「……ここ、数字が違うな。銅貨百二十枚でなく、銀貨十二枚だ」
たった一瞬で誤りを見抜き、さらさらと書き直す。
兵士あがりの書記官たちは「ひえぇ……」「また一瞬で……」と顔を見合わせる。
完璧。
――そう、顔以外は。
ライがほんの少し微笑むと、全員が同時に背筋を伸ばし、カタカタ震える。
「ひぃっ、怒ってるようにしか見えねぇ!」と勘違いされ、場は変な緊張感でいっぱいになった。
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一方そのころ、侍女部屋では別の騒動が起きていた。
大きなテーブルの上に積まれたのは、古くなったクロスや破れたシーツの山。
「今日中に直せって言われても……」
ミーナが弱音を吐いた瞬間。
「裁縫なら、わしに任せるんじゃ!」
元気よく名乗りをあげたのは、新しく侍女として迎え入れられた娘――フローラ。
見た目は若々しい十八歳前後の娘だが、その口調にはどこか“おばあちゃんっぽさ”が混ざっている。
ミーナは目を丸くする。
「フローラさんって裁縫できるんですか?」
フローラは得意げに針を手に取る。
「できるどころか、縫い物は朝飯前じゃ。昔から……い、いや、若いころからずっと得意での」
「昔からって言っちゃってますよ!」
すかさずルチアが小声で突っ込む。
だがフローラはお構いなし。
針をスッスッと進めていき、みるみるうちに破れがふさがっていく。
その手さばきの速さと正確さに、ミーナは目を輝かせた。
「わぁ! 新品みたいになってる!」
「ほっほ、まだまだいけるぞい」
フローラは調子に乗って次々と縫い直していく。
確かに技術は本物――だが、口から漏れるのはどう聞いても“老成した掛け声”だった。
ルチアは机に突っ伏しそうになりながら、必死に制止する。
「フローラ!お願いですから“じゃ”とか“わし”とか言わないで!若い侍女なんだから!」
「お、おお……そうじゃった、いや、そうだったわ」
フローラは慌てて言い直すが、遅い。
ミーナは「やっぱりどこかおばあちゃんぽい……」と首をかしげている。
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数刻後。
フローラが仕上げたテーブルクロスを見て、周囲の使用人たちは大喜びした。
「縫い目がそろってる……!職人みたいだ!」
「新人なのにすごいな!」
場がわっと盛り上がる中、執務室から戻ってきたライが姿を現す。
「何の騒ぎだ?」
フローラが完成したクロスを掲げ、にこりと笑って差し出す。
「これ、わたしが縫ったんです」
ライは一歩近づき、じっと針目を見つめた。
「……見事だ。糸の締め具合、端の折り方……ん?昔見たシエラ殿の縫い方に、よく似ている」
ルチアの顔から血の気が引いた。
「そ、それは! そうです!おばあさまから教わったに決まってます!」
フローラも慌てて口を合わせる。
「う、うむ、その通り……いや、そうです!」
しかし、その語尾にほんのり“おばあちゃん臭”が混ざり、場の空気がピキリと凍る。
ミーナは慌てて笑顔を作った。
「フローラさんってすごいですよね!おばあちゃん直伝の技なんて、もう安心感ハンパないです!」
「お、おばあちゃん直伝……」
フローラは内心「わしがそのおばあちゃんじゃ!」と叫びながら、ぎこちなく笑った。
ライは裁縫の仕上がりをじっと見つめていた。
その眼差しは鋭いはずなのに、不思議と温かさを含んでいる。
「この縫い方……ただの技術ではないな」
フローラは内心で冷や汗をかいた。
(あ、あかん……バレる……!これは完全に“わしの昔の縫い方”じゃ!)
ライはさらに言葉を続ける。
「布に“人を大事にする気持ち”が込められている。……まるで、祖母の仕事を見ているようだ」
「ひ、ひぃっ!!」
ルチアが青ざめて声を上げる。
ミーナも慌てて笑顔を作り、手をぶんぶん振った。
「そ、それは!そうです!フローラさんは“おばあさま直伝”なんですよ!ね、フローラさん!」
「そ、そうじゃ、いや、そうです!祖母に叩き込まれましてな!」
フローラは慌てて言い直すが、つい語尾に「じゃ」が混ざってしまう。
ライは小さく首を傾げた。
「……やはりどこか懐かしい響きがあるな」
その一言にフローラの心臓が跳ね上がる。
(や、やばい!もっと自然に若者っぽく振る舞わねば!)
フローラはぎこちなく微笑んだ。
「わ、わたしは……若いんです!まだまだこれから、青春まっさかりなんです!」
「……青春まっさかり?」
ライが真剣な顔でつぶやいた瞬間――
ぐぎゅるるるるるっ!
ライのお腹が鳴った。
いや、正確には“鳴った”のではない。
例の――“恋腹”が発動したのである。
「っ……! く、苦しい……!」
ライは腹を押さえ、顔を歪めた。
「兄様ーーー!!」
ルチアが悲鳴を上げる。
「で、出たぁぁぁ!恋腹だぁぁぁ!」
ミーナが半泣きで駆け寄る。
フローラはパニックに陥った。
「な、なにゆえ!?わしが……いや、わたしが縫い物を褒められたくらいで!?そ、そんなことで恋腹が!?」
ライは息を荒げながら苦笑する。
「……心を込めた手仕事を前にすると……胸が、締めつけられるんだ……!」
「恋腹の発動条件が細かすぎますよ兄様ぁぁぁ!」
ルチアが机をバンバン叩く。
その時、テーブルの上から小さな影がぴょこんと飛び降りた。
手のひらサイズの小竜――モフドラだ。
「ピュイ!」
モフドラはお腹にドスンと飛び乗り、ライの腹を温める。
じわじわと湯気が立ちのぼり、苦しむライの顔が少しずつ和らいでいく。
「……ふぅ、助かった」
ライは額の汗を拭い、深く息を吐いた。
フローラは胸をなで下ろすが、その内心はぐらぐらだった。
(わしが若返ったせいで……まさか恋腹まで誘発してしまうとは……! 責任重大じゃ!)
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そんなドタバタ劇を、扉のそばでじっと眺めていた人物が一人。
執事バルドである。
彼は眼鏡をくいっと上げ、涼しい声で言い放った。
「若様。“恋に効く縫い針”……とでも名付けましょうか」
「誰がそんなものを望んだのですかぁぁぁ!!」
ルチアとミーナが同時に叫び、部屋の中は再び爆笑と混乱に包まれた。
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こうして、フローラの正体を隠したまま迎えた一日も――
騒がしく、そして妙に温かい空気で終わりを告げたのだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
「裁縫の腕前」で恋腹が発動するなんて、作者としても書きながら笑ってしまいました。フローラの“じゃ口調”も、ルチアとミーナのツッコミも、どんどんエスカレートしてきて楽しい回でした。
もし「クスッとした」「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひ評価や感想で教えてください! 皆さんの声が、ライやフローラたちをもっと活躍させる原動力になります。
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