第72話 おばあちゃん、食器を割る!?
こんにちは、作者のヨーヨーです!
今回は「フローラ(中身はシエラおばあちゃん)」が本格的に侯爵家で働き始める回です。
新人侍女らしからぬ熟練っぷりに、ミーナやルチアはてんやわんや。
そしてライはいつものごとく誠実で腹痛気味で……。
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ブクマが増えると「よし、次もドタバタ書こう!」と作者のやる気がモリモリ湧いてきますので、よろしくお願いします!
王都の朝。
グランツ侯爵家の屋敷は、夜明けと同時に慌ただしく動き出していた。
庭では兵士たちが剣を振るい、訓練の掛け声が響く。
奥の執務室では、山のように積まれた帳簿を前にライオネルが黙々と計算を続けている。
その合間にも「井戸の水質が悪い」「倉庫の屋根が破れている」といった報告が次々と舞い込み、ライは眉ひとつ動かさず指示を出していった。
「倉庫の修理は職人を三人。費用は前期の剰余から回せば足りる。井戸は……新しい濾過石を商会から仕入れるように」
その落ち着きぶりに、兵士も使用人も思わず見とれてしまう。
だが最後には必ず、誰かがぽつりと漏らすのだ。
「やっぱり、顔こわいよな……」
完璧すぎる所作と怖い顔。そのギャップが、いつも屋敷に小さなざわめきを残すのだった。
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そんな“完璧若様”の足元で。
新米侍女――フローラが、廊下で黙々と雑巾がけをしていた。
(※フローラ=本当は若返ったシエラ。ライ本人だけが気づいていない)
「雑巾はこうじゃ。八の字にかけて、力を均等にするんじゃぞ」
床をピカピカに磨き上げながら、気づけば口から出ているのは人生経験あふれるアドバイス。
「フローラさん!?」
ミーナが慌てて横から飛んできた。
「新人なのに、なんでそんな熟練っぽいこと言うんですかぁ!?」
「はっ……い、いや、その……祖母の教えじゃ!」
フローラはごまかすように笑ったが、動きは相変わらずベテラン主婦のそれ。
雑巾を絞る音まで無駄に豪快で、周りの使用人が「新人……だよな?」と首をかしげる始末である。
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さらにやって来たのは、黒髪の少女ルチア。
柱の影から覗き込むと、フローラに口パクで警告した。
「――孫娘キャラを忘れないように!」
「わ、わかっとる!」とフローラは返すが、つい語尾に「〜じゃ」をつけてしまう。
「だからその“じゃ”がダメなんですって!」
ミーナは頭を抱え、バタバタと両手を振り回す。
「孫娘って設定なんですから!年寄りみたいな口調やめてくださいぃ!」
フローラは咳払いをして姿勢を正した。
「ごほっ……わ、わたしはまだまだ若い娘ですからのっ……」
「の、って言っちゃったぁぁ!」
ミーナの悲鳴が廊下に響く。
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ほどなくして、朝食の準備が始まった。
長い食堂のテーブルに、白い布がかけられ、銀の食器が並べられていく。
フローラはその作業を担当することになった。
一枚一枚、食器を磨き、ナイフやスプーンを角度までピタリと揃えていく。
「よし……完璧じゃ」
「完璧すぎますぅ!」
横で見ていたミーナが、今にも泣きそうな声を上げた。
「新人なのに、なんで軍隊式に並べるんですか!?普通はちょっとズレてるとか、フォークを落とすとか……そういうドジっ子枠でいいんですよ!」
「ふん……わ、わたしは几帳面な性格じゃからの」
フローラは胸を張る。が、つい「じゃから」と言ってしまい、ルチアに肘で小突かれた。
「ほらまたバレそうになってるじゃないですか!」
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そこへ、背の高い影が食堂に入ってきた。
ライオネルである。
黒いマントを翻し、整然と並んだ食器をじっと見つめた。
「……整いすぎていて、逆に食べにくいな」
その真顔の一言に、場の空気が固まる。
フローラは思わず背筋をしゃんと伸ばし、口を引きつらせて答えた。
「そ、それも祖母の……えっと、教えでございます!」
「祖母の教えか」
ライは納得したようにうなずく。
ルチアとミーナは、心の中で同時に叫んだ。
(苦しいぃぃ!設定がどんどん苦しくなってるぅ!)
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こうして、フローラの侍女生活初日の朝は、開始早々ドタバタに包まれていったのだった。
昼下がり。
侯爵家の食堂では、昼食の準備が進んでいた。
フローラは緊張した面持ちで、大きな銀盆に茶器を並べていた。
ポット、カップ、砂糖壺、ミルク入れ。どれも高級な品で、庶民の生活ではまず触れることすらない代物だ。
「落としたら、首が飛ぶんじゃな……」
ぽつりと口を滑らせた瞬間、隣のミーナが飛び上がった。
「やめてくださいよぉ!物騒なこと言わないでぇ!孫娘っていう設定なんですからぁ!」
「おっと……し、失敬」
フローラは慌てて笑顔を作る。だが緊張のあまり、手元のポットがグラリと揺れた。
「きゃっ!」
――ガシャーン!
高級ポットが床に転がり、派手な音を立てて転がった。
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「どうした!」
その場に現れたのは、ちょうど通りかかったライだった。
長身の体をすぐさまかがめ、床に散らばった破片を確認する。
「怪我はないか?」
その真剣な声に、フローラの胸が一瞬だけ高鳴った。
「わ、わたしは大丈夫です……!」
「そうか……良かった」
ライはほっと息を吐くと、カップを拾い集めながら呟いた。
「器は替えがきく。だが、君の手はひとつしかない」
(――ああ、なんという誠実さ……!)
フローラの心臓は若い乙女のようにドキドキと跳ねた。
だが。
「兄様ぁぁぁ!!」
ルチアが猛ダッシュで駆け寄ってきて、ライの腕をガバッと掴んだ。
「そんな紳士的なこと言っちゃダメですわ!この人、アレなんですから、アレ!とにかく駄目ですの!」
「アレとはなんだ」
ライは首をかしげるが、フローラは「ぐふっ」と変な声を漏らして俯いた。
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ミーナはミーナで大慌て。
「も、もう!フローラさん!新人らしく“きゃー!助けてくださってありがとうございますぅ!”って言えばいいんですよ!」
「な、なんじゃ、その台本……!」
フローラは顔を真っ赤にして手を振った。
ルチアはルチアでさらに畳みかける。
「とにかく!兄様は顔が怖いだけで誤解されやすいんですから!変に惚れたりしないでくださいよ!」
「惚れ……!? わ、わしに!? ……じゃなくて、わたしに!?」
フローラは声を裏返し、慌てて口を押さえた。
「今、“わし”って言いましたよねぇぇ!」
ミーナが飛び跳ね、ルチアが頭を抱える。
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一連の騒ぎを横目で見ていた執事バルドが、すっと前に出て眼鏡を押し上げた。
「……若様」
「なんだ、バルド」
「どうやらこの屋敷には、新たな役割が生まれたようですな」
「役割?」
「はい。お顔で威圧し、誠実で惚れさせ、そして腹痛で倒れる――」
バルドは淡々と告げた。
「若様こそ“恋と胃薬を配る男”でございます」
「誰が胃薬だ!!」
ライが真顔でツッコミを入れると、ルチアとミーナは「ぶはっ!」と吹き出した。
フローラはというと、口元を両手で必死に押さえながら――
(……若い体で、笑いをこらえるのもしんどいわい……!)
と、老獪なおばあちゃんの心でうめいていたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
「新人なのに熟練すぎる侍女フローラ」という矛盾が、書いていてとても楽しかった回でした。
バルドの毒舌、ルチアとミーナの慌てっぷり……作者としてもニヤニヤしながら仕上げました。
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