第7話 若様、子犬と恋腹とリード騒動
今回はクラリスに頼まれて、ライが子犬のお世話に挑戦します。
洗い場での奮闘、広場での大騒ぎ、そして「恋も犬もリードが大事」という迷言まで飛び出し、ドタバタ続きの一日。
それでも子犬ポテトが二人の距離をほんの少し近づけてくれる……そんな回になりました。
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ライの屋敷に、朝早く一通の小さな手紙が届いた。
封を切ると、クラリスの丁寧な字でこう書かれていた。
「昨日拾った子犬を保護小屋に連れていきます。お手伝いお願いできますか?」
「子犬……」
ライは思わずつぶやいた。剣術も魔法も政務も完璧にこなす彼だが、動物と一緒に何かをする経験はそう多くない。
だが「頼られた」という事実が胸を温め、
すぐに「もちろん伺います」と返事を出した。
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教会の裏にある「保護小屋」に到着すると、すでにクラリスが待っていた。
そこへ出迎えてくれたのは、エプロン姿のふくよかなおばさん。
「私はマルタ。ここでは迷子や捨てられた動物の世話をしてるんだよ。よろしくね」
マルタが抱いていたのは、小さな茶色の子犬だった。泥で毛がかたまり、体はプルプル震えている。
尻尾はちょっと振っているが、
目は「こわいけど気になる」みたいに泳いでいた。
「名前はまだないんだ、なんて名前にするかな」
マルタがそう言いながら、リードを手渡した。金具が二つついた、長さを調整できるタイプだ。
「まずは匂いを覚えさせてね。いきなり抱っこはダメ。驚かせちゃうから」
ライは大きな体をできるだけ小さく折り曲げ、膝をついて視線を下げた。
威圧感のある顔をできるだけ柔らかくしながら、そっと手の甲を差し出す。
「……大丈夫」
子犬はくんくん匂いをかいで、ぺろっとライの手をなめた。
その瞬間、クラリスがぱっと笑顔になった。
「もう安心したみたい。すごいですね、ライ様」
ライの胸が“むずっ”と痛む。懐中時計の針が少しだけ跳ね上がった。
慌ててお腹にモフドラを乗せると、
小さな竜が「ぷしゅ~」と湯気を出して温めてくれる。
バルドがぼそりとつぶやく。
「若様、目線を下げるとお顔の圧が三割減でございますな」
その横でミーナが元気よくハート柄のバンダナを取り出した。
「応援のためにリボンを持ってきました! ほら、これを!」
「まだ早い!もう少し慣れてからだ!」
ライが即座にツッコミを入れると、ミーナは「えへへ」と舌を出した。
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こうして、子犬のお世話が始まった。
まずやることは三つ。
①体をきれいにする
②ごはんで体力をつける
③庭で短い散歩をする
マルタが説明すると、ライが真面目にうなずいた。
「了解しました。まずは洗い場ですね」
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洗い場に移動し、ライは手際よく準備を整える。
「子犬のお湯はぬるめ。手で触って“風呂より少し冷たい”くらいがちょうどいい」
新しい石けんを取り出すと、ふわっとカモミールの香りが広がった。
「これは目や耳に入れないように。耳は軽く折って守るといい」
クラリスがライの真似をして優しくマッサージを始める。
子犬は気持ちよさそうに目を細めていたが、突然――
ぶるぶるぶるっ!
水しぶきがライの顔に直撃。濡れたライの顔は迫力が増してしまい、クラリスが「ひっ」と小さく肩を震わせる。
ミーナが慌ててフォローしようと叫ぶ。
「こ、こわ……じゃなくて! かわいいです! はい!」
空回りである。
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乾かすときもライは抜かりない。
「直接温風は皮ふを傷める。壁に風を当てて、反射で乾かすんだ」
理屈っぽい説明にクラリスは感心して頷く。
モフドラが「ぷしゅ~」と加勢したせいで、洗い場はちょっとしたサウナに。
マルタが「あれ、ここはいつから蒸し風呂に?」と突っ込む。
子犬は気持ちよさそうにだら~んと目を閉じた。
ブラッシングも終え、仕上げにライは古布で腹巻をさっと縫い上げた。
「冷え防止だ。これで夜も安心だろう」
針をさばく速さに、ミーナが思わず見とれる。
「……職人すぎる」
バルドは肩をすくめて一言。
「若様、顔面以外は万能でございますな」
クラリスは笑いをこらえきれず、小さく吹き出した。
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「よし。次はごはんだ」
ライの声に、子犬が元気に「わん!」と吠える。
懐中時計の針がまた少し上がった。
クラリスと子犬の両方から信頼されて、ライのお腹は――また“むずっ”。
子犬の世話どころか、自分の恋腹の世話で忙しいのであった。
ライとクラリスは、保護したばかりの子犬を連れて広場へ向かっていた。
子犬の名前は「ポテト」にした。
見た目はころころした茶色い毛玉で、目がまん丸。
動くたびに尻尾がブンブン振れていて、見ているだけで癒される存在だ。
ただし——リードが問題だった。
ミーナが張り切って用意したリードには、
なぜか「恋愛成就」のお守りや、やたらと大きな鈴が10個以上ぶら下がっている。
歩くたびに「ガチャガチャ! ジャラジャラ!」とお祭りみたいな音が響く。
「ちょ、ちょっとこれは派手すぎないか?」
ライは額に手を当てた。
「いいえ、若様!これでクラリス様に恋が成就間違いなしです!」ミーナは胸を張る。
「いや、これは犬用だろう!?」
「恋も犬もリードが大事ですから!」
そんなやり取りの最中、広場に着くと周りの人々がざわつき始めた。
「おい、あれ見ろ! なんか祝い事か?」
「いや、婚約のお披露目行列じゃないのか?」
人々は勝手に盛り上がる。
ライは慌てて「誤解だ!」と説明したが、顔が怖いせいで逆効果。
「ひぃっ、脅された!」
「やっぱり婚約強制か!?」
広場はカオス状態になった。
そんな中、クラリスが小さく笑った。
「でも、ポテトは楽しそうですよ」
見ると、ポテトがガチャガチャ鳴るリードを引っ張りながら元気に走り回っていた。
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そのとき、ポテトが道端のパン屋の前で立ち止まったかと思うと、突然ダッシュ!
「待て、ポテト!」
ライは咄嗟にリードを引き、クラリスを庇いながら見事に制御。人混みの中で一切ぶつからず、動きは騎士団顔負けの完璧さだった。
「おおー!」
見ていた人々から拍手が沸き起こる。クラリスも「本当に頼りになりますね」と微笑んだ。
その微笑みにライの胸が「ズキュン」と鳴る。
懐中時計の針が「グググッ」と跳ね上がり、恋腹発動。
「……む、むずっ……!」ライは腹を押さえた。
すかさずモフドラが飛び乗り、ライのお腹の上で
「ぷしゅ〜」と湯気を出す。
その様子を見て、周囲の子どもたちが歓声を上げた。
「わー! あのお兄ちゃん、蒸気機関だ!」
「すげー! 煙出てる!」
大人たちも「新しい発明品か!?」と勘違いして拍手。
「ち、違う! 僕は人間だ!」ライは必死に否定したが、もう誰も聞いていなかった。
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やっとのことで広場のベンチに腰を下ろすと、ポテトはクラリスの膝の上でぐっすり眠り始めた。
「あなたと一緒だと、不思議と安心できるんです」
クラリスは小さな声でそう言った。
ライの胸に熱いものが広がる。告白したい気持ちが込み上げてきたが、同時に恋腹は“キリキリ”警報レベル。必死に深呼吸してごまかすしかない。
「犬がもう少し慣れたら、またご一緒しましょう」
クラリスはにっこり笑い、ライは静かにうなずいた。
「もちろんです。あなたの笑顔を守れるなら、何度でも」
帰り道、バルドが肩をすくめながら言った。
「若様、犬は正直でございます。寄ってくるか、吠えるか。つまり本日の結論——恋より犬のほうが一歩リードでございますな」
「うまいこと言いましたね!」とミーナが拍手。
ライは天を仰ぎながら、腹の上でまだ湯気を出しているモフドラをそっと撫でた。
お読みいただきありがとうございます!
子犬が加わると、それだけで場が一気に賑やかになりますね。
ライの完璧さと不器用さ、クラリスのやわらかい笑顔、そして犬の無邪気さが混ざり合って、温かくも笑える場面になったと思います。
それにしてもバルドの「犬のほうが一歩リード」は、書いていて私もニヤッとしてしまいました。
次回もライの恋腹は健在です。どうぞお楽しみに!
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