第66話 悪役令嬢、剣技で悲鳴を上げる!?
ようこそ、悪役令嬢クラウディアの世界へ!
今回はついに学園の「剣術実技の日」――攻略対象がカッコよく剣を振るう、あの“王道イベント”が始まります。
でも、クラウディアは転生者。彼女にとっては「恋愛イベント」じゃなく「断罪フラグ乱立会場」!
果たしてフラグ管理はうまくいくのでしょうか?
読みながら「この後どうなるの!?」と気になったら、ぜひブックマークして続きをお楽しみくださいね。
ブックマークがあるとクラウディアが少し元気になって、断罪フラグを避けやすくなるかもしれませんわ!
学園の広い訓練場は、朝から熱気に包まれていた。
今日は「剣術実技の日」と呼ばれる特別授業。
男子生徒が模範演技や試合形式で技を披露し、女子は観覧席からそれを見守るのが決まりだった。
石畳の舞台の周囲には高い観覧席が設けられ、白い天幕が張られている。
扇や日傘を手にした令嬢たちがずらりと並び、紅茶の入ったカップを手にしながら「誰が一番凛々しいか」などと盛り上がっていた。
……言ってしまえば、剣の試合というより貴族令嬢たちの社交場。
もちろん、私――クラウディアも席についていた。
表向きは涼やかな顔をしているけれど、内心は大忙しである。
(これは……完全に“戦闘イベント”ですわ!恋愛ゲームでは、攻略対象の男子が華麗に剣を振るい、ヒロインが見惚れて好感度が上がる大切な場面!)
そう、私は知っている。この世界はただの現実ではない。
かつて私が遊んだ乙女ゲームと酷似した運命が流れている。
そして、私はそのゲームで必ず悪役として断罪される立場――悪役令嬢クラウディアに転生してしまったのだ。
つまり今日ここでの私の立ち回りひとつで、「断罪フラグが立つかどうか」が決まってしまう。
観覧席からあがるキャーキャーという黄色い声を聞きながら、私はそっと扇子で口元を隠した。
(うかつに声援を送れば、“ヒロインを押しのけて出しゃばった悪役令嬢”と糾弾される未来が……! ここはひたすら無表情で観察するに限りますわ!)
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やがて教官が声を張り上げた。
「これより模範演技を示してもらう! グランツ侯爵家のご子息、ライオネル!」
観覧席がざわめき、一瞬で空気が変わった。
背の高い青年――ライオネルが、ゆったりと舞台に上がる。
黒い制服が風に揺れ、立ち姿は絵画の騎士のよう。
その凛とした雰囲気に、令嬢たちが一斉に息を呑むのが分かった。
私も思わず背筋を伸ばし、心臓がどきりと跳ねる。
(ちょ、ちょっと待ってくださいまし! この空気……まさか恋愛CG発生の瞬間!? ライ様の立ち絵が変わって見えるのですけれど!?)
ライは静かに剣を抜いた。
余計な動きは一切ない。けれど、その一歩、その振り下ろしに至るまでが美しく、重みを感じさせる。
剣が空を切る音は鋭く、同時に舞台全体を支配するような迫力を放っていた。
「す、すごい……」
観覧席のあちこちで令嬢たちがため息をもらす。
そして――
「若様、かっこいいーーーっ!!!」
ひときわ大きな声が響いた。
声の主は、よりによってミーナだった。
ライの侍女である彼女は、観覧席で人一倍大きく両手を振りながら叫んでいる。
「が、顔を赤らめてどうなさいますの!? ここは社交の場ですわよ!!」
私は思わず椅子から転げ落ちそうになった。
周囲の令嬢たちが一斉に振り返り、ざわざわとした視線をミーナに注ぐ。
「誰? あの子……」
「侍女なのに、なんてはしたない!」
私は心の中で頭を抱えた。
(やめてーーー! 庶民的ノリで叫んだら、私まで同類に見られるではありませんか! これでは“悪役令嬢が庶民とつるんでいる”という新しい断罪フラグが追加されてしまいますわ!)
おまけに、ミーナの膝の上にちょこんと座っていたモフドラまで「ぷしゅー」と湯気を吐きながら首を伸ばし、まるで一緒に応援しているかのように見える。
会場の空気が妙に和らぎ、笑いが漏れ始めた。
(やめなさいモフドラ! あなたの癒しオーラで場を丸め込むのは確かに助かりますけれど、今は余計に目立つのですわ!)
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模範演技を終え、ライが剣を納めると、観覧席全体に拍手が湧いた。
彼は観客に一礼し、静かにこちらへ戻ってくる。
その瞬間――ほんの一瞬だけ、彼の視線が私に向けられた。
鋭いはずの瞳が、なぜか柔らかく見えた。
まるで「そこに君がいるのを知っている」と言っているような……そんな気がした。
(え、え、今のは……攻略対象が“特別な視線”を向ける時に流れる合図では!? 効果音が聞こえた気がしましたわ! 完全にフラグ! フラグ立ちましたわーーー!)
私は心臓を押さえて、必死に顔を取り繕った。
周囲に気取られてはいけない。ここで浮かれて笑えば「悪役令嬢、殿方を誘惑して調子に乗っている」と囁かれるのがオチだ。
そんな私の背後で、ひときわ冷たい声が響いた。
「若様が視線をお向けになったのは、最近練習しておられる“顔の角度調整”の成果でございましょう」
……バルドだった。
彼の毒舌は、こういう場面で絶対に外さない。
私は振り返りざまに扇子で口元を隠しながら、内心で叫ぶ。
(やめなさい!今のはロマンティックイベントですわ! それを実用訓練の成果みたいに言わないで! 恋愛フラグを台無しにする天才ですの!?)
私は心の中で机を叩く勢いでツッコミを入れながら、なおも高鳴る鼓動を抑えることができなかった。
模範演技が終わり、訓練場はしばらく拍手と歓声でざわついていた。
ライが剣を納め、ゆっくりと振り返った瞬間――観客席にいた令嬢たちは一斉に息をのんだ。
「……っ!」
その顔立ちは整っている。整っているのだが。
そう、表情が少し動いただけで“鬼気迫る恐怖顔”に見えてしまうのだ。
「きゃー! すごく強そう!でも…怖い……」
「でも……なんか睨まれてるみたい……」
黄色い声援と小声の悲鳴が入り交じる。
(そうですわ。これが噂の“顔が怖い問題”! 彼は学園一の実力者なのに、どうしても悪役のボスキャラにしか見えない! ……あっ、待って? 私だって悪役令嬢ポジションなのですから、並んで歩いたら“ラスボス夫妻”確定ではありませんの!?)
私は想像しただけで頭を抱えた。
黒いオーラをまとった二人が並んで歩き、BGMはラスボス戦……。
「だめですわ! そんなエンディングは絶対に見たくありませんわ!」
思わず声に出してしまった。
「えっ?」
隣でミーナが目を丸くする。
「クラウディア様?いま“ラスボス”って……?」
「き、気にしないでください!」
慌てて取り繕ったが、すでに遅かった。
背後から低い声が聞こえてきた。
「……クラウディア様」
振り返ると、バルドが静かに立っていた。
相変わらず完璧な所作だが、目が鋭く光っている。
「転生者用語が、また口から漏れておりますな」
「ひぃっ……!」
私は慌てて扇で口を塞いだ。
けれどバルドの表情は微動だにしない。
冷ややかに一礼して去っていく背中を見送りながら、私は背筋を凍らせた。
(完全にバレてますわ……! 彼はもう確信している顔でしたわ!)
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ざわつく中、ライがこちらへ歩いてくる。
人ごみを割るその歩みは堂々としていて、しかも背が高い。
ただし。
近づいてきた彼の顔をまともに見た瞬間、私は思わず腰を浮かしかけた。
(ひぃっ……! 目が鋭すぎて、処刑執行人にしか見えませんわ! 誰か! 背景にギロチンを描き足した人、今すぐ消してください!)
令嬢たちの一部は「怖い……」と小さく震え、また別の一部は「その迫力が素敵!」と酔いしれている。
なんという二極化。
ライは私の前で足を止めた。
静かに口を開く。
「クラウディア。君は……笑っている方が似合う」
――心臓が爆発するかと思った。
(な、なんですの!? その顔でそんなセリフを!? 怖い顔で言うから逆に破壊力がすごすぎますわ! いや、違う意味で心臓が持ちませんわ!!)
周囲から「キャー!」と悲鳴が上がる。
けれど私には、それが恐怖の悲鳴なのか羨望の歓声なのか判別できなかった。
私は震える手で扇を持ち上げ、必死に返す。
「ご、ご親切にどうも……」
……だが。
心の中では、ひとつ確信していた。
(あああ! これは確実に“恋愛フラグ発生音”ですわ! ピロンって鳴りましたわ今! でも同時に、処刑フラグも積み重なっている気がしてならないんですのーーっ!!)
私は懐中時計をぎゅっと握った。
針が震え、腹の奥がきりきりと痛む。
まるで私の運命を笑うかのように。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
剣術実技シーン、ライオネルの“顔が怖い問題”やミーナ&モフドラの自由すぎる応援など、クラウディアが胃痛に耐えながら頑張る姿を少しでも楽しんでいただけたでしょうか?
もし「面白かった!」「クラウディアがんばれ!」と思っていただけたら、評価や感想をぜひお願いします。
みなさんのひとことが、この物語をさらににぎやかに、そしてクラウディアを断罪から救う大きな力になりますわ!
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