第65話 悪役令嬢、秘密帳簿に怯える!?
ようこそお越しくださいました!
今回のクラウディアは、まさかの“秘密帳簿”イベントに巻き込まれてしまいます。
もちろん普通に進むはずもなく……例によってコメディと胃痛が全力で押し寄せてきますわ!
物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークで応援していただけると励みになります。
クラウディアの断罪回避ライフ、これからも一緒に見届けてくださいませ!
学園の廊下を歩いていると、耳に飛び込んできたのは妙な噂だった。
「ねえ知ってる? 誰かが“秘密帳簿”を持ってるらしいわよ」
「なにそれ? 怪しい〜」
「侯爵家のご令嬢たちに関わる内容とか……」
ざわざわと広がる生徒たちの声。
私はその場に立ち尽くした。
(で、出ましたわね……これは悪役令嬢が陥れられる“定番のイベント”! 帳簿、証拠、冤罪、そして断罪ルート直行!)
脳裏に蘇るのは、かつてプレイした“断罪シーン”。華やかな舞踏会の場で王子に糾弾され、「あなたの悪事はすべて記録されている!」と帳簿を突きつけられる。観客は一斉に「最低だわ!」と叫び、私はバッドエンド……。
(いやあああ! わたくしまだ舞踏会にも出ていないのに! ゲーム進行が早すぎますわ!)
慌てて廊下を振り返ると、少し離れた場所でロイスが真剣な顔をしていた。
金髪の彼は、学園内での人望も厚い公爵家の御曹司。しかもこの乙女ゲームの“攻略対象”の一人。
(ふむ……なるほど。ロイス様はイベントに巻き込まれる“王道ポジション”。帳簿の存在を探り、真実を明かす役割ですわね!やっぱりきた……!)
私はドキドキしながらその場を離れた。
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学園の帰り道。石畳の上を歩いていると、偶然、隣を歩いていたミーナが紙切れをひらひらと落とした。
彼女は庶民出身で、今はライ様付きの侍女をしている少女。ハツラツとしていて、いつも笑顔。
私はすかさずその紙を拾い上げた。
「ミーナ、落としましたわよ」
差し出そうとして……私は固まった。
紙には大きな文字でこう書かれていたのだ。
――卵十個、牛乳二本、クッキー。
(な、なにこれ!? 暗号文!? いえ、これは……! “秘密帳簿”に違いありませんわ!)
脳内で鐘が鳴り響く。
(卵十個=処刑フラグ十本、牛乳二本=二重の陰謀、クッキー=甘い罠! なんという……完璧なコードネーム!)
震える私の手元を、バルドがすっと覗き込んだ。
彼はライ様に仕える執事で、常に無表情で毒を吐く皮肉屋。
「……卵十個とクッキー。断罪の証拠としては実においしそうでございますな」
「バ、バルド!」
彼の冷静すぎる一言に、私は顔を青くした。まさか……もう正体を気づかれて?
「クラウディア様、ありがとうございます!それ、わたしの買い物メモです!」
ミーナがひょいと紙を受け取り、にこにこと笑った。
(し、シラを切る気ね!? “これはただのメモです”と装う……さすが庶民派ヒロイン、やることが一枚上手!)
私は背筋をピンと伸ばし、胸の奥で固く決意した。
(こうなったら……こちらも対抗策を練らねばなりませんわ! 次に帳簿を突きつけられた時、反論できるように証拠を用意しておくべき!)
つまり――。
「わたくしも“対抗ノート”を作りますわ!」
誰も聞いていないのに、私は一人で拳を握った。
遠くでロイスがこちらをちらりと見て首を傾げたが……その視線すら、私にはフラグに見えていた。
(ライ様……どうか私を信じてくださいませ。このノートで必ず運命をねじ曲げてみせますわ!)
学園の中庭は、午後の光でまぶしかった。
白い石畳の広場に、アイビーの絡まるベンチがいくつも並んでいる。
私はその一角に腰を下ろし、膝の上で一冊のノートを大事そうに開いた。
「……ふふふ。これで断罪イベントをひっくり返す切り札が完成しますわ」
羽ペンを構え、表紙に大きく書き込む。
《断罪対策ノート》
名付けて、私の未来を救うための秘密兵器。
ページを開くと、最初に並んだ文字は――
《ライ様と目が合った回数:二》
《ライ様の声の高さ:低音で安定》
《ライ様に支えられた回数:一(心臓破壊級)》
……うん、自分で書いておいてなんだが、これは研究というよりただの乙女心のメモ。
けれど、断罪イベントに突入した時、「ライ様は私を庇った!」と証拠を突き出せば勝てるかもしれない。
私は真剣にペンを走らせた。
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「クラウディア様、何を書いてるんですか?」
不意に背後から声がした。振り返ると、ミーナが大きな籠を抱えて立っていた。
その中にはパンや果物がぎゅうぎゅうに詰まっている。どうやら学園の購買から運んできたらしい。
私は慌ててノートを閉じたが、時すでに遅し。
ミーナはぱっと目を輝かせて、覗き込んでくる。
「わあ、かわいい落書きですね!“ライ様と目が合った回数”とか、“支えられた回数”とか!」
「ら、落書きではなくってよ!これは未来を変えるための聖なる記録ですの!」
必死に否定する私の膝の上に、今度はモフドラがぴょこんと飛び乗ってきた。
ふわふわの小さな竜は、ノートを見つけるや否や――
バリッ。
「ぎゃーーっ!? やめなさいモフドラ!そこは“ライ様の声質=尊い”のページ!」
ページの角を見事に食いちぎられ、私の命綱がボロボロに。
インクがにじみ、文字が歪み、ただの黒い染みに変わっていく。
ミーナは籠を置き、けらけら笑った。
「モフドラも応援してるんですよ!“証拠集めがんばれ”って!」
「これは応援ではなく妨害ですわ!」
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そんな騒ぎを、少し離れた場所から見守っていた人がいた。
侯爵家の嫡男、ライオネル様だ。
ベンチの背に片腕をかけ、無言のままクラウディアを見つめている。
その鋭い横顔に心臓が跳ね上がり、私は慌ててノートを背中に隠した。
(だ、だめですわ……! こんな羞恥ノートを見られたら、死ぬより恥ずかしい!)
そこへ、さらにもう一人。
執事バルドが涼しい顔で近づいてきた。
彼はちらりと私の隠すノートを見ただけで、口の端をほんの少しだけ持ち上げた。
「……実に興味深い記録でございますな。断罪対策ノート……いや、転生者の証拠日誌、と言った方が正しいやもしれません」
「!?」
私は息をのんだ。
背中に冷たい汗が流れる。
(ば、バレてる!? やっぱりこの人、気づいてますわね! なんでよりによって執事ポジがこんなに鋭いのよ!)
ライはそんな私をじっと見つめ、ただ一言。
「クラウディア、君は……本当に変わっているな」
それが好意なのか、呆れなのか、判断できない。
でも、その低く落ち着いた声が耳に残って離れなかった。
私は破れたノートを抱きしめ、心の中で強くつぶやいた。
(たとえバルドに見抜かれようとも、断罪イベントだけは絶対に回避してみせますわ!)
そして、インクの染みだらけのページをもう一度開いた。
未来はボロボロでも、まだ書き直せる――そう信じて。
お読みいただきありがとうございました!
“秘密帳簿”が買い物メモに化けたり、“断罪対策ノート”がただの恋バナメモになったり……クラウディアの悪役令嬢ライフはやっぱり一筋縄ではいきませんね。
もし「クスッときた!」「クラウディア頑張れ!」と思っていただけたら、評価や感想をいただけるととても嬉しいです。
みなさまの一言一言が、次のエピソードを書く大きな力になります!
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