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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第1章 貴族令嬢 クラリス

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第6話 若様、ダンスレッスンは恋腹地獄

今回は舞踏会に向けた“特訓回”。

ライがクラリスにダンスを教えるのですが……真剣すぎる顔と恋腹発動で、場の空気は何度もカオスに。

ミーナの巨大メトロノームとモフドラのスモーク演出も加わり、舞踏室はほとんどサーカス状態です。

それでもクラリスの一歩一歩は確実に上達していて、甘酸っぱさとドタバタが同居する回になりました。


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ライはグランツ邸の舞踏室に立っていた。

普段は使用人の訓練や来客用に使われる広めの部屋だが、今日は特別に「ダンスレッスン会場」となっている。床は磨かれた木材で滑りにくく、壁には大きな鏡がはめこまれている。


問題は――床に貼られた大量の青い足跡テープだった。

「ほら見てくださいライ様! 矢印と足跡をたどるだけで絶対に成功します!」

と胸を張るのは侍女のミーナ。彼女の仕業だった。


だが、テープは部屋じゅうをぐるぐると回り、迷路のようになっている。まるで市場の行列待ちレーン。

「……これではダンスというより迷路脱出ゲームだな」

ライは静かにテープを半分以上はがしていった。


そこへ、クラリスが到着した。

やわらかいドレスを着こなし、少し緊張した面持ちで部屋に入る。

ライは軽く頭を下げる。

「本日は、基本の三つだけに絞りましょう。姿勢、歩き方、そしてボックスステップです」

「はい、お願いします」

クラリスは真剣にうなずいた。


そのとき、部屋の隅で控えていた執事バルドがぼそっとつぶやく。

「若様、授業の構成は大学講義級でございますな。女子の心得講座にしては厳しすぎるかと」

「余計なことを言わない」


ライは軽く眉を寄せたが、クラリスは少し笑った。


ライは指をひらりと動かし、魔法を発動させた。

床に淡く光る足跡が次々と浮かぶ。

まるで光るゲームのガイドライン。

クラリスが一歩足をのせると、ふわっと光が強まり「正解!」と言わんばかりに弾ける。


「まあ! 遊びみたいで分かりやすいですね」

クラリスは目を輝かせた。


まずは姿勢の確認。ライが手を背に組み、模範を示す。

「頭は天井から糸でつられているイメージです。肩の力を抜いて、背筋をまっすぐに」

クラリスは鏡を見ながら試す。最初は少し猫背だったが、ライが「そう、耳と肩を一直線に」と助言すると、すぐに形が整った。


ライは次にクラリスの手に軽く触れて位置を直す。

――その瞬間、銀の懐中時計の針が「ピクリ」と跳ねた。

“恋心針”だ。ライの腹に“むずっ”とした違和感が走る。

すぐにモフドラがひょいと飛び乗り、ライの腹に着地。「ぷしゅ~」と湯気を出して温める。


「うわっ、スモーク演出入りましたか!?」

ミーナが大はしゃぎで窓を閉めてしまう。

結果、部屋の中はもくもくの煙状態に。

「換気!」

ライが叫び、全員で慌てて窓を開けた。

クラリスは袖口で口元を押さえながら笑いをこらえている。


一息ついてから、ライは歩き方の指導へ移った。

「歩くときはかかとから静かに。足音を立てない……そう、忍者のように」

「忍者、ですか?」クラリスが小声で笑う。

「はい。気配を消すように」

クラリスは真剣に忍者歩きを試し、足跡ガイドが“ピッ”と光る。成功だ。


「すごい! 本当にゲームみたい!」

クラリスが楽しそうに声をあげると、ライも少し口元を緩めた。


その頃、ミーナは巨大な手作りメトロノームを持ち出してきていた。高さは人の胸くらいもある。

「はい! リズムはこれでバッチリです!」

カコン、カコン、と音を立てる振り子は大きすぎて視界の邪魔。

「……手拍子で十分だ」

ライがあきれた声で言い、軽く手を打ってリズムをとると、クラリスは自然に合わせることができた。


少し休憩。ミーナがお盆にミント水と焼き菓子を運んでくる。

クラリスがひと口食べると

「とても爽やかでおいしいです」と笑顔を見せた。

ライは淡々と告げる。

「姿勢だけで、もう半分はできています。今日の進みは良好です」

クラリスは照れながらも「ありがとうございます」と答えた。


舞踏会に向けた本番のレッスンはまだまだこれからだが、部屋の空気はすっかり明るくなっていた。



ライとクラリスのダンスレッスンは、いよいよ本番さながらのペアホールドに突入していた。

ライが差し出した大きな手にクラリスがそっと手を重ねる。さらに背中に添えられるライの手。

距離が一気に縮まった瞬間――。


懐中時計の針が「コキン」と音を立てて跳ね上がる。

恋心を測るこの時計は、ライの胸の動揺に正直すぎる魔法の道具だ。もちろん例によって腹の中も“むずっ”と悲鳴を上げる。


「ふぅ……大丈夫だ、僕は完璧だ。――恋以外はね」

自分に言い聞かせるライ。だが上半身がガチガチに固まってしまい、石像のようになっている。


ここで小竜モフドラが空気を読んだようにライのお腹にぴとっと乗り、「ぷしゅ~」と控えめに湯気を出す。だがその湯気が床の光る足跡ガイドに反応して、突然フロアがピカピカと全点灯。

まるで舞踏会場がディスコになったみたいだ。


「えっ!? なんかピカピカしてきました!」

クラリスが思わず目を見張る。


さらに追い打ちをかけるように、ミーナが

「応援ですっ!」と叫びながら巨大メトロノームをカンカン鳴らし、テンポ旗をぶんぶん振りはじめた。

「♩=120です! いやいや、♩=90です!」

「本番で旗振りは出禁でございます」バルドが冷静にツッコミを入れるが、ミーナは「今だけですから!」とやめない。


混乱の中でもライは誠実にクラリスへ声をかける。

「四拍子。いち、に、さん、し。歩幅は半足分で」

クラリスはその言葉を信じて動き出す。最初はうまくいった。だが――。


ターンのタイミングで事件が起きた。

ミーナの旗がメトロノームに当たって「カコン!」と大音量。クラリスがビクッと反応して半歩ズレ、ライのかかとが床のテープにひっかかる。

しかもその瞬間、恋腹が“きりきり”と痛みを強め、ライの集中力が一気に崩れた。


「しまっ――」

二人はそのままバランスを失い、床へと倒れこむ。


だがさすが戦場仕込みのライ。クラリスを守るように体を入れ替え、後頭部を庇いながら倒れた。

クラリスにケガはなし。むしろ顔の距離がやけに近くなってしまい、単行本一冊分くらいの距離に。


懐中時計の針がギュンと跳ね上がる。

「……っ!」

ライの腹は悲鳴を上げ、モフドラが慌てて「ぷしゅ~~~!」と湯気を吹き出す。

フロアはさらに曇り、ミーナは

「きゃー!ドラマのワンシーン!」と勝手に花びらをばらまいた。


必死に体を起こしたライは、早口でクラリスを確認する。

「失礼しました! 頭部異常なし、足首異常なし、呼吸問題なし……」

「えっと……大丈夫です。お気遣いなく」

クラリスは顔を赤くしながら笑った。


空気を取り戻そうと、ライは先生らしく淡々と提案する。

「ターンは一度リセットしましょう。浅めに、目線は肩越しに」

その真面目すぎる雰囲気に、

クラリスは“怒られてる気分”になり、ピキッと固まった。


一旦休憩。

ミーナがミント水を配り、モフドラも湯気を弱める。

ライは深呼吸で恋腹をなだめ、懐中時計の針を少し下げた。ここで勇気を出すべきだ――そう感じた。


「クラリス。君のステップはもう十分に綺麗だ。本番、もしよかったら……一曲だけ、僕と踊ってくれないか」

言葉に想いを込めるライ。針が再び“グイッ”と跳ね、腹がきりきりと痛む。


クラリスはしばし黙り、やわらかく答える。

「うれしいです。でも……本番は、緊張しない相手と踊りたいんです。今日は本当に助かりました。先生として最高でした」


ライは姿勢を正し、深くうなずいた。

「あなたの決断を尊重します。僕の好意は、あなたの自由の敵ではない」

その一言に、クラリスはほっとした笑顔を見せた。


片付けが終わるとき、執事バルドがぼそり。

「若様、技術は百点。……しかし“真剣顔”が色気をすべて蒸発させておりますな」

「蒸発はモフドラの湯気だ」

「いえ、色気でございます」


ライは小さく苦笑するしかなかった。


夜、ライはひとりで窓の外を見つめ、心の中でつぶやく。

「今日も、上達は彼女のため。僕の恋は、その横で静かに痛むだけだ」



読んでくださりありがとうございます!

今回は「緊張感と笑いのバランス」を意識して書きました。

ライの真面目さは頼もしさと同時に“怖い顔”にも映り、クラリスとの距離を縮めきれないのが切ないところ。

それでも最後の「先生としては最高でした」という言葉は、ライにとって大きな救いです。

次こそは“恋腹”より先に気持ちを伝えられるのか……どうぞ続きもお楽しみに!

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