第59話 シスター、と戦いの決着
港での決戦の余韻が残る今回。
緊張と安堵が入り混じる中、それぞれのキャラクターが少しずつ笑顔を取り戻していきます。
物語もいよいよ大きな節目に近づいてきました。
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物語を紡ぐ力になりますので、どうぞよろしくお願いします!
倉庫の喧騒が収まったあと、港の夜には妙な静けさが戻っていた。
倒れた男たちは衛兵によって次々と縄で縛られ、倉庫の隅に座らされていく。
子どもたちは怯えた顔で固まっていたが、泣き声はもう小さくなっていた。
ライオネルは剣を納め、深く息を吐いた。
額に浮かぶ汗を拭うと、黒いマントの裾がわずかに潮風に揺れる。
その背中を見て、ミーナが小声でつぶやいた。
「……ライ様、戦ってるときは顔が怖いけど、今はさらに怖いです」
「ミーナ、若様がほめ言葉と受け取ってしまいますぞ」
バルドが涼しい顔で返す。
子どもたちのひとりがその会話に吹き出し、周囲の空気が少しだけ和らいだ。
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「押収品をこちらへ」
執事らしくきびきびと声を上げるバルド。
衛兵が運んできたのは、赤布の束、青い麻縄、そして古びた帳簿と伝票の束だった。
机代わりの木箱の上に並べられると、バルドは懐から取り出した紙切れをペタペタと貼りつけていく。
「一、赤布。二、青縄。三、帳簿。四、銀貨小箱。五……」
「五ってなに?」とミーナが首をかしげると、バルドは涼しい顔で指を伸ばした。
「若様の顔面。威圧証拠としては一級品」
「項目に入れるな!」
ライが低くツッコむと、子どもたちがクスクス笑い、緊張がまた少し解けた。
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その時、倉庫に新しい足音が響いた。
甲冑の鳴る音と共に現れたのは、港詰所の隊長グレッグだった。
無骨な体つきに古傷が走る、いかにも現場たたき上げの男だ。
「おぉ……本当に現行犯で押さえたのか。やってくれるな、侯爵家の若様」
「記録はあなたに任せます。こちらは証拠を整えてありますので」
ライが簡潔に答えると、グレッグは机を見て唸った。
「ふむ……これだけ揃えば、上に出すには十分だ。あとは署名をもらうだけだな」
バルドがすかさず銀貨小箱を指し、「ついでに賄賂未遂も追加でございます」と淡々と告げる。
すると近くの子どもが目を丸くして、「わいろってなに?」と尋ねた。
「……悪い大人が“お菓子あげるから見なかったことにして”ってやつです」
ミーナがわかりやすく説明すると、子どもたちが一斉に「最低だー!」と声を上げる。
倉庫の中に、少しだけ明るい笑い声が響いた。
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ライはその様子を見守りながらも、証拠品の帳簿を手に取った。
紙は粗悪でインクはにじんでいたが、記載の数字に不自然な飛びがある。
「ここだ……積荷番号の欠落。貨物に子どもを紛れ込ませた証拠だ」
ロイスが横から覗き込み、すぐに頷いた。
「なるほど、そしてこっちの赤布の染料番号と、帳簿にある“鏡薔薇”の印……一致しているな」
二人の冷静な分析に、グレッグも目を細める。
「これなら確実に裁ける。……港に巣食っていた影は、ここで断ち切れた」
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子どもたちはセラフィーナの周りに集まり、温かい薄荷湯を飲んでいた。
ミーナがせっせと湯を注いで回るが、ひとりが「苦い!」と顔をしかめる。
「効くんだから我慢しなさい!」
そう言いながら自分の分を飲もうとした瞬間、ミーナのカップをモフドラが横取り。
「ぷしゅー」と湯気を出しながら、どや顔で飲み干す。
「モフドラ!? あたしの分飲んだの!?」
「……味は関係なく、温かさが増しただけでございますな」
バルドが冷静に指摘し、また子どもたちの笑い声が広がった。
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ライは笑いの中で、ひとり膝をつき、子どもたちに目線を合わせた。
「君たちは、もう大丈夫だ。ここからは修道院に戻ろう。……灯りのある場所へ」
子どもたちの瞳が、不安から少しずつ安心の色へと変わっていった。
倉庫の外に出ると、潮風が一気に吹きつけてきた。
子どもたちは怯えた表情をしていたが、港の空気を吸い込むと少しだけ顔を上げた。
夜の港はまだ暗く、ランタンの明かりが心細く揺れている。だが、彼らを守る大人たちがすぐそばに立っている。その安心感が、小さな背中を少しずつ伸ばしていった。
「列を乱さず、二人一組で」
ライオネルが短く指示すると、子どもたちは互いに手を握り合い、小さく頷いた。
その様子は、戦場の行進というよりも遠足の帰り道に近い。
バルドは救急箱を抱えたまま、いつもの無表情で歩く。だが口から出てくるのは容赦ない。
「転ぶ子どもは十秒以内に立ち上がるように。……若様のようにお腹を押さえてはおりませんな?」
「余計なお世話だ」
ライは低く返したが、子どもたちからは「お腹痛いの?」と素直すぎる質問が飛ぶ。
顔をしかめるライを見て、笑いが起こる。
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やがて、港詰所の衛兵たちが前に出て、護送の隊列を整え始めた。
縄で縛られた犯人たちは、荷車に押し込まれるようにして運ばれていく。
呻き声や罵声を上げていたが、グレッグ隊長の怒声ひとつで静かになった。
「こいつらは牢へ直行だ。……ライ様達のおかげで街が救われた」
グレッグの言葉に、衛兵たちが深く頭を下げる。
ライは首を横に振り、冷静に答えた。
「功績はみなで分けるものだ。僕一人では子どもを救えなかった」
その横で、ロイスがさらりと笑う。
「それでも、あの剣筋は誰にでもできることではない。……少し嫉妬するな」
「嫉妬する暇があれば、君ももっと汗をかくべきだ」
二人のやりとりに、衛兵のひとりが苦笑し、場の空気がまた和らいだ。
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セラフィーナは最後尾で歩きながら、子どもたち一人ひとりの背に手を添えていた。
「怖い夢は、もう終わったのよ」
そう繰り返す声は、夜風に消えそうに小さかったが、確かに届いていた。
小さな手が彼女の外衣をぎゅっと握りしめ、離さなかった。
モフドラはというと、子どもたちの肩や頭にぴょんぴょん飛び乗り、「ぷしゅー」と湯気を撒き散らしていた。
それが温かい湯たんぽのようになり、凍えた心を少しずつ解かしていく。
「モフドラ、あったかい!」
「でもちょっとくさい!」
「くさくない!」とミーナが必死に弁解するが、モフドラ本人(?)は誇らしげに胸を張り、さらに「ぷしゅー」と盛大に湯気を吐いた。
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やがて、修道院へとつながる街道に出た。
石畳を歩く一行の影が、月明かりに長く伸びる。
子どもたちは疲れて足を引きずっていたが、前へ進む足は止まらなかった。
ライは静かに懐中時計を開いた。
針はゆっくりと進み、腹の痛みも落ち着いている。
「もう少しで、灯りのある場所へ着く」
そう呟くと、隣を歩くセラフィーナが小さく頷いた。
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その時、背後から声が飛んだ。
「若様! ご報告です!」
ミーナが慌てて駆け寄り、何やら紙切れを差し出した。
「倉庫の帳簿を一部、モフドラが勝手にくわえてきてました!」
紙には噛み跡がしっかり残っている。
「……証拠が台無しではないか」
ライが低くため息をつくと、ミーナは「逆にかわいい証拠です!」と胸を張った。
「……それは裁判所で通用するのか?」
ロイスの冷静な突っ込みに、再び笑いが広がった。
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子どもたちを連れた隊列は、夜明けに向かって歩を進める。
空はすでに白みはじめ、港に差す光が影を薄くしていった。
誘拐という暗い影は取り除かれた。
あとは修道院へ、無事に帰るだけだ。
ライは歩きながら心の中でつぶやいた。
――今日守れたものを、決して忘れない。
そう決意を新たにした時、修道院の鐘が遠くで鳴りはじめた。
朝が近づいていた。
倉庫での戦いが終わり、子どもたちを救い出すことができました。
ただ剣で勝っただけでなく、仲間とのやり取りや小さな笑いがあったからこそ、この一行らしい夜になったと思います。
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