第58話 シスター、と夜の倉庫戦
港の夜に潜む影――そして倉庫の奥で動き出す整容師ギルド。
ライたちの奮闘が、子どもたちを救えるのか、それとも……?
緊迫の展開が続きますので、ぜひページを進めてご覧ください。
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港の夜は、昼間とはまるで別の顔を見せていた。
昼間は魚を積んだ荷車や行き交う人々で賑わう石畳の道も、今は人影がなく、波の音と風に揺れるランタンの明かりだけが頼りだった。潮の匂いが濃く、油を染み込ませた木材の匂いが倉庫群から立ちのぼる。
ライオネルたちは、倉庫街の陰に身を潜めていた。
ロイスは剣の柄に手を置き、セラフィーナは両手を胸に組んで祈るように息を整えている。
バルドは救急箱を抱えたまま無表情に前を見つめ、ミーナは「役に立たなきゃ」と自分に言い聞かせるように拳を握りしめていた。
「作戦を確認する」
低く響く声が静寂を切り裂く。ライの言葉に全員が顔を上げた。
「まず、倉庫の中を確かめる。子どもを見つけたら救出を最優先。敵が動けば衛兵と僕たちで押さえる。……証拠は必ず確保すること」
衛兵の一人がうなずいた。甲冑の音を立てぬよう気を張り詰めている。
その緊張を和らげるように、バルドがぼそりとつぶやいた。
「若、くれぐれもお顔で威嚇なさいませぬよう」
小さく笑いが漏れ、張りつめていた空気が少しだけやわらいだ。
倉庫の木の壁には細い隙間があり、中の様子をのぞくことができた。
ライはしゃがみこみ、灯りの向こうを見据える。
そこには、黒い前掛けをした男たちが数人。
髪を赤い布で束ね、いかにもギルドの印と分かる格好だった。
彼らは縄で縛られた子どもたちを荷車に乗せ、船へ運ぼうとしている。
子どもたちの小さな目は恐怖で濡れ、口には布が当てられ、声にならない呻きが漏れていた。
「……やはり整容師ギルドか」
ライの声は低く、怒りを押し殺していた。
セラフィーナが小さく息をのむ。目の前で泣く子どもを見て、体が震えている。
「ライ様……」と声を出しそうになったその瞬間、ライの手がすっと伸び、制止の合図を送った。
彼女は唇を噛み、祈りの言葉を胸の奥に閉じ込める。
ロイスが小声で言った。
「動くなら今だ。子どもを船に乗せられたら、手遅れになる」
「まだだ」
ライの目は倉庫の奥をとらえていた。
積まれた木箱、その上に散らばる紙束。貨物の伝票か、帳簿かもしれない。
「奴らの悪事を根から断つには、証拠が要る」
短い言葉に、衛兵たちも息をのんだ。
だが、その慎重さが裏目に出る。
倉庫の中で、ひとりの男が子どもを引きずり、粗暴に手を振り上げた。
思わず、セラフィーナの唇から祈りの声が洩れる。
「神よ――」
かすかな響きだった。けれど静まり返った倉庫には十分すぎる音だった。
「誰だ!」
怒声が飛び、松明が外へ向けられる。足音が近づき、扉が乱暴に開かれた。
ライは剣を抜いた。
刃が月明かりを反射し、鋭い光を放つ。
「――突入だ!」
短い言葉に、衛兵たちが剣を抜き、ロイスが一歩前へ出る。
バルドは肩をすくめて「やれやれ」と呟き、ミーナはモフドラを抱きかかえて慌てて後を追った。
夜の倉庫に、決戦の気配が満ちていく。
倉庫の扉が開かれると同時に、冷たい夜気が中へ流れ込んだ。
整容師ギルドの男たちは一瞬だけ目を細めたが、すぐに剣や棍棒を手にし、こちらに構えを取った。
その背後にはまだ縄で縛られた子どもたちが数人、荷車の脇で身を縮めている。恐怖で声を出せず、ただ必死に目を見開いていた。
ライは一歩前へ出て、声を張り上げた。
「子どもを解放しろ! さもなくば――」
続く言葉は刃の閃きに遮られる。
ギルドの男が短剣を抜き、先に斬りかかってきたのだ。
鋭い音が夜に響き、火花が散った。ライの剣は正確に相手の刃を弾き返す。重心のぶれない踏み込みに、周囲の衛兵たちが一瞬息をのんだ。
ロイスもすでに動いていた。
月明かりを受けた金髪が揺れ、剣先が水面のようにしなやかに舞う。彼の剣は速く、力強い。だがそれ以上に、誰かを守ろうとする意思が込められていた。
「子どもを下がらせろ!」
鋭い声が倉庫の中を突き抜け、衛兵たちが応じて子どもたちを抱えに走る。
しかし、抵抗は容易ではなかった。
男たちはただの力任せのならず者ではなく、髪を結ぶ赤い布の下から魔法の光をにじませている。
手にした小刀が青白い光をまとい、床に振り下ろされると、石畳が小さく爆ぜて破片が飛び散った。
衛兵のひとりが腕をかばいながら後ろへ下がり、思わず呻き声をあげる。
セラフィーナが駆け寄ろうとしたが、ライが素早く手で制した。
「下がれ! まだ安全じゃない!」
彼女は唇を噛みしめ、必死に祈る声を胸に押しとどめる。
モフドラが小さく「ぷしゅう」と息を吐き、緊張に耐えきれずライの肩へしがみついた。
戦いは一進一退となり、倉庫の中は混乱の渦に包まれていく。
木箱が倒れ、縄が切れ、積まれた荷物が崩れ落ちる。その音がまるで大きな太鼓のように夜の空気を震わせた。
ライは鋭い剣筋で攻撃を受け流しながら、低くロイスに呼びかける。
「押し返せ! ここで逃がせば、港全体が危険にさらされる!」
「分かっている!」
ロイスは短く返し、敵の剣を弾き飛ばす。その動きに一瞬の隙が生まれ、衛兵が男の腕をつかんでねじ伏せた。
残った者たちはなおも子どもを奪い返そうと動いたが、ライの剣が光を描き、彼らの前に立ちふさがる。
その姿は炎の灯りを背にして影となり、恐怖を映し出す城壁のように見えた。
やがて、倉庫の奥で赤い布を巻いた頭領らしき男が声を上げた。
「退け! ここは一旦引け!」
しかし、出口はすでに衛兵に塞がれていた。
彼らは逃げ道を失い、怒声をあげながら最後の抵抗を見せる。
だが、その剣は次々と払い落とされ、体は地面へと押さえ込まれていった。
短く、重い沈黙が訪れる。
縛られた子どもたちが恐る恐る顔を上げ、泣き声が少しずつ広がっていった。それは戦いの終わりを告げる、小さな安堵の証だった。
ライは剣を下ろし、深く息を吐いた。
月光が彼の額を照らし、冷たい汗を淡く光らせる。
「……子どもたちを安全な場所へ。証拠も忘れるな」
衛兵たちが動き、
倒れた男たちを次々と拘束していく。
セラフィーナは膝をつき、子どもたちの手を優しくほどいた。
「もう大丈夫……怖い夢は終わったわ」
その声に、子どもたちは泣きながら彼女の腕にすがりつく。
その姿を見て、ライは一瞬だけ表情をやわらげた。けれどすぐに引き締め、再び倉庫の奥へ視線を向ける。
――こうして港の誘拐騒動は幕を閉じた。
整容師ギルドの暗い影も、衛兵たちの手で完全に断たれたのだった。
セラフィーナは胸元のベルを強く握りしめ、祈るように空を見上げた。
夜風が静かに吹き抜け、鐘の音なき鐘がそこに鳴った気がした。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
今回は夜の倉庫での突入戦。子どもたちを守るために全員が力を合わせる場面を書けて、とても熱が入りました。
戦いはひと段落しましたが、整容師ギルドの闇はまだ深いまま。次回以降もどうぞご期待ください。
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