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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第6章 聖職者 セラフィーナ

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第57話 シスター、と港倉庫への道

子どもたちを救うために集まった仲間たち。

港の倉庫へと歩を進めるライたちの前に、いよいよ黒幕の影が立ちはだかろうとしています。

物語は佳境へ――ぜひ一緒に見届けてください。


もし「続きが気になる!」と感じていただけたら、ブックマークを押していただけると励みになります。次の展開を一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです!

トマの小さな体は、まだ震えていた。


だが、その震えの合間からしぼり出すような声がもれた。


「……ほかにも、いるんだ……港の倉庫に……」


その言葉に、場の空気が一瞬で変わった。

ただのいたずらや迷子ではない。もっと大きな悪意が動いている。


ライはトマの肩に手を置き、低い声で答えた。


「よく話してくれた。大丈夫、君はもう安全だ」


子どもの肩にそっと添えられた大きな手。

その指は固く鍛えられているのに、驚くほど優しい。

トマは涙をにじませながらも、やっとのことで小さくうなずいた。


モフドラが「プシュー」と湯気を吐きながらトマの肩へ乗る。

温かな熱が広がり、こわばっていた顔が少しだけ緩む。

それを見て、セラフィーナが胸に手を当てて祈るように息をついた。


 


――詰め所。


ほどなく一行は衛兵の詰め所へと足を運んでいた。

石造りの建物の中は、松明の光が壁にゆらめき、夜の寒気をわずかに押し返している。

トマは毛布にくるまれて椅子に座らされ、熱いスープを差し出されていた。


「……で、こちらが今回の経緯でございます」


きびきびと説明をまとめるのは執事バルド。

ライが持ち帰った証拠品を机に並べていく。


赤い布片。

青い麻縄の繊維。

片輪の欠けた荷車の跡を写し取った紙。


「若様の顔面は迫力が過ぎますが、申している内容は筋が通っております」


と、バルドは相変わらずの毒舌を挟む。

だが、そのおかげで最初はライの“鋭い顔”にひるんでいた衛兵たちも、少しずつ肩の力を抜いた。


「整容師ギルド……だと?」

「まさか、子どもの誘拐にまで……」


低いざわめきが広がる。

港で権力を持つギルドの名が出たことに、衛兵たちは驚きを隠せなかった。


 


トマは震えながらも、再び小さな声を上げた。


「みんな……まだ、船に……」


ライはその声にうなずき、膝を折って目線を合わせる。トマが泣きそうになるのをこらえているのが分かる。


「安心しろ。必ず助け出す。だから今は休め」


その約束を聞いたトマの瞳が、ようやく少しだけ光を取り戻した。

衛兵が「責任をもって保護する」と言い、少年を抱きかかえるようにして奥へ運んでいく。

その背中を見送りながら、セラフィーナが両手を胸に重ねた。


「……必ず、助け出しましょう」


詰め所を出たのはそれからすぐのことだった。

石畳の道を歩きながら、ロイスが隣で腕を組み、低くつぶやく。


「港の倉庫……国外へ逃がすつもりだな。奴らの動きは早い」


「ええ、現場で証拠を押さえれば、言い逃れはできません」

とバルドが応じる。


その横で、ミーナが拳を握りしめた。

「よーし! あたしも一緒に戦います!」


元気いっぱいの声。

だがバルドが無言で後頭部を軽くはたき、「戦うのは若様の専売特許でございます」と冷静に返す。


「い、いたっ……! でも応援はしますからねっ!」

とミーナが涙目で言い張るのに、ロイスもセラフィーナも思わず口元を和ませる。


 


その時。

セラフィーナが胸元の小さなベルを強く握りしめた。

修道院でライに渡された、合図用の真鍮のベルだ。


「……私も、行きます」


声は震えていたが、目はまっすぐだった。

ライは数秒だけ彼女を見つめそして深く息を吐いた。


「いいだろう。ただし――必ず僕の二歩後ろを守れ」

「はい」


 セラフィーナは強くうなずいた。 


夕暮れの鐘が遠くで鳴り響く。

港の方角からは潮のにおいが漂い、荷馬車のきしむ音が絶え間なく続いている。


ライは地図を広げ、指先で印をなぞった。

「赤い布も、青い縄も、片輪の跡も……すべて港へつながっている」


モフドラがクンクンと鼻を鳴らし、港の方角を指すように翼をぱたつかせる。

その仕草に、一同は静かにうなずいた。


次なる舞台は、港の倉庫。

夜の闇を前に、彼らは歩みを止めなかった。


港へ近づくにつれ、潮の匂いが濃くなっていった。

魚油を混ぜたような独特のにおいが鼻をつき、石畳は湿気を含んでぬるりと滑る。

昼間の喧噪はもうなく、木箱の積まれた倉庫街は赤黒い夕焼けに染められ、不気味な影を落としていた。


ロイスは剣の柄に手を置き、低くつぶやく。

「……やはり、ただの倉庫ではないな」


近くの扉の前に、不自然に靴跡が残っていた。

子どもの小さな足跡と、大人の重い足跡が重なり合い、やがて倉庫の方角へと続いている。


ライは腰を落として跡を指先でなぞった。

その顔に迷いはない。

「間違いない。ここに子どもたちを集めている」


その場に集まった衛兵たちが、緊張にごくりと喉を鳴らす。

倉庫街を封鎖するには人手が足りない。

しかし今すぐにでも動かねば、子どもたちが船に乗せられてしまうだろう。


ライは一同を見渡した。

黒いマントの裾が風に揺れ、その影はまるで壁のように大きく見えた。


「いいか。突入は一気に行う。だが合図は僕が出すまで待て。証拠を押さえることが最優先だ」


衛兵たちが深くうなずき、武器を構える。

セラフィーナは胸の前で両手を組み、震える息を静めるように祈っていた。

その姿を横目で見て、ライは小さく声を落とす。


「怖ければ、今のうちに戻ってもいい」

「いいえ」

 セラフィーナは即答した。

「子どもたちを助けるためなら、私も共にいます」


短い言葉。だがその瞳に宿る光は、ライの心に確かな熱を残した。


 

その瞬間。

バルドがひそやかに、しかし毒を含んだ声でつぶやいた。


「若様。こういう場面で見栄を張ってお腹を痛められては困りますぞ。モフドラの湯気も、燃料は無限ではございません」


モフドラが「ぷしゅー」と腹をふくらませて抗議する。

だが場の緊張が一瞬だけ緩み、衛兵たちの顔に小さな笑みが浮かんだ。


ライは苦笑をこらえ、マントを翻す。

「心配は不要だ。……今回は誠実に、完璧にやり遂げる」


空はすでに群青に沈みつつあった。

港の外れに停泊した船のマストが黒い影となり、倉庫の屋根の向こうに突き出している。

確かに子どもたちが運び込まれているのなら、時間はほとんど残されていない。


ライは懐中時計を取り出した。

秒針の代わりに刻まれる心拍の針が、わずかに速さを増している。

恋の痛みではない。これは怒りと焦燥の鼓動だ。


「行くぞ。これより作戦を開始する」


衛兵たちが息をのみ、剣を構え直す。

ロイスが隣でにやりと笑った。

「互いの腕前を確かめるには、悪くない舞台だ」


ライは彼に視線を送ったが、何も返さずに歩き出す。

背後でベルを握りしめるセラフィーナの祈りが、夜の闇に溶けていった。

 


――次なる戦場は港の倉庫。

すべては、これから始まる。


ここまでお読みいただきありがとうございました!

今回はトマの証言から、一気に物語が港へと動き出しました。小さな勇気が物語を大きく進める瞬間は、書いていても胸が熱くなります。


この先の戦いと、それぞれの想いがどんな結末を迎えるのか――どうぞ楽しみにしてください。

もし「面白かった」「続きが楽しみ」と思っていただけましたら、評価や感想をいただけると本当に励みになります!

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