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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第6章 聖職者 セラフィーナ

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第53話 シスター、と腹痛の文字授業

修道院の講堂での授業回。

子どもたちに文字を教えるはずが、なぜか恋と腹痛の実技授業になってしまいます。

いつもどおり笑いあり、ほんのりドキドキありの回になっていますので、最後まで楽しんでいただけると嬉しいです!


もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、ブックマークで応援していただけると励みになります。

修道院の講堂は、朝からざわざわしていた。


いつもは祈りや歌声が響く場所だが、今日は黒板と机が並べられ、まるで学校の教室みたいだ。


「静かにしてくださいね。今日はライ様が文字を教えてくださいますわ」


白い修道服をまとったシスター・セラフィーナが、にこやかにそう告げる。

彼女はこの修道院で子どもたちの世話をしている女性で、長い金髪を後ろにまとめている。

そのやわらかい雰囲気は、子どもたちから“おっとりシスター”と呼ばれて慕われている。


けれど、その隣に立つ人物を見た瞬間、子どもたちは一斉に口を閉ざした。


黒いマントを肩にかけた長身の青年――ライオネル・フォン・グランツ。

侯爵家の嫡男であり、戦も学問も経済もすべて首席級の完璧超人……ただし、顔だけが怖い。


「……よろしく頼む」


低い声と鋭い目に、子どもたちは一瞬ひるんだが、「でもライ様なら安心だ!」と小声で盛り上がる。


 


ライはチョークを手に取り、黒板にさらさらと字を書いた。

姿勢は完璧。動きも滑らか。

だが、板書された文字は――美しすぎて逆に読めない。


「……なんて書いてあるの?」

「魔法の呪文?」


子どもたちは首をかしげ、ざわざわと騒ぎ出す。


 


そのとき、侍女のミーナが飛び出してきた。

「じゃーん!今日のお題は“恋”です!」


黒板に大きく「恋」と殴り書き。

子どもたちから「キャー!」と黄色い声が上がる。


「ラブラブの字だ!」

「告白のやつだ!」


ライは一瞬固まり、腹の奥がきゅるると痛む。

銀の懐中時計の針が小刻みに震え始めた。――これは“恋腹”。彼が恋や愛に触れると必ず起こる、謎の腹痛だ。


「……なぜ“恋”なんだ」

「だって楽しいじゃないですか!」

とミーナは悪びれない。


 


子どもたちの一人が手を挙げた。

「ライ様、“恋”ってどういう意味ですか?」


その瞬間、ライの表情がピクリと動いた。

「……恋とは、人を思いやる心……だ」

必死に答えるが、腹を押さえる手が震えている。


「殿、恋を語るよりも腹痛を語る授業になっておりますぞ」

背後から執事バルドの毒舌が飛ぶ。


「ち、違う……」


 


そんな中、セラフィーナが微笑みながら前に出た。

「恋とは、神様がくださるご褒美のようなものですわ」


その言葉に子どもたちが一斉に目を丸くする。

「ご褒美!?」

「じゃあ祈ったらモテる!?」


ざわざわと広がる誤解。


「ち、違う。祈っても……」とライが訂正しようとしたその時、ミーナがさらに追い打ち。

「ライ様、今ここで“好きです”って言ったら実演になります!」


「なっ……!」

ライの顔が一気に赤くなり、恋腹が「ズキュン!」と炸裂。

お腹に鋭い痛みが走り、思わず前のめりになる。


その瞬間、モフドラがぴょこんと飛び出してライのお腹に着地。

「ぷしゅ〜」と湯気を吐き出す。


「わぁ!煙が出た!」

「恋って爆発するんだ!」


子どもたちは大混乱。

机を叩いて笑う子、真剣に祈り出す子まで現れた。


 


やっとのことで場を落ち着けたのは、やっぱりセラフィーナだった。

彼女は黒板に「祈り」と文字を書き、優しい声で言う。


「文字は神様へのお手紙にもなりますの。だから大切に覚えてくださいね」


子どもたちはしんと静まり返り、真剣に板書を見つめた。


ライは腹を押さえながら、その光景を眺める。

(知識も、信仰も……人を守る力になる)


子どもたちは「ライ様、かっこいい……でも顔こわい!」と小声で笑ったが、セラフィーナがふんわり笑って一言。

「怖い顔でも、言葉は優しいのですわ」


その瞬間、場が柔らかい空気に包まれた。


 


ライの胸にまたズキリと痛みが走る。

だが、ほんの少しだけ温かい気持ちも広がっていた。


「若様、字も教え、腹痛も教え……これぞ“恋の実技授業”でございますな」

バルドの締めの一言に、ライは小さくため息をついた。


「……黙っててくれ」



修道院の教室は、まだ子どもたちの笑い声でにぎやかだった。

午前中の文字の授業はどうにか終わったものの、「字はむずかしい!」という不満が空気に残っている。


黒板の前に立つライオネルは、背筋をぴんと伸ばしたまま、子どもたちを見渡した。

そして、見事な書体で「剣」という文字を書き上げる。

鋭い筆の動きに、子どもたちは一瞬「おおー」と声をあげるが……すぐに「呪文みたい!」「怪物の名前かも!」と口々に笑い出した。


「……これは武器の剣だ」

真面目な声で説明しても、笑いは止まらない。ライはほんの少し肩を落とした。


そこでミーナが手をあげた。

「だったら! お絵描きにしちゃいましょう!」

言うが早いか、黒板に落書きを始める。ハートに剣、そして大きなパンの絵。


「これが恋! これが戦い! これが食料!」


あまりに雑な線に、子どもたちは腹を抱えて笑った。

「なにそれ!ハートが石ころに見える!」

「パンっていうよりレンガ!」


セラフィーナは苦笑しながらも、柔らかい声で言った。

「絵と文字を一緒に覚えれば、楽しいですわ」


ライも小さくうなずき、絵と文字を組み合わせて説明を始める。


短く、わかりやすく。すると子どもたちも、ふむふむと頷き出した。


「やっぱりライ様ってすごい!でも顔はこわい!」

――結局そこに落ち着くのか、とライは深呼吸した。



---


授業の終わりに、セラフィーナが提案した。

「今日覚えた文字を使って、“祈りの手紙”を書いてみましょう。小さな願いを文字にして、お祈りするのです」


子どもたちは小さな紙と筆を受け取り、思い思いに書き始める。

けれど、文字はぐちゃぐちゃだ。


「先生!これ“神”って書いたつもりだけど、“カニ”になった!」

「オレの“夢”が“栗”に見える!」


大笑いする教室。セラフィーナは「ふふ」と笑いながら見守り、ライは静かに手を添えて書き直しを助けていく。


そこへ、ミーナが自慢げに紙を持ってきた。

「ほら見てください!“恋”って書けました!」

だが、紙にはどう見ても“変”と書かれていた。


「侍女殿の恋は変質しておりますな」

バルドの毒舌に、またもや大爆笑。

ミーナが「違います!」と抗議しても、笑いは止まらない。


やがてセラフィーナが、そっとライに声をかけた。

「ライ様も、一枚書いてみませんか?」


一瞬、ライはためらった。

だが自分に言い聞かせる。

「誠実は、最短の近道じゃない。でも唯一の道だ」


彼は筆を取り、紙に一文字を記した。

――「誠」。


子どもたちはそれを覗き込み、目を丸くした。

「かっこいい!」

「でも顔はやっぱりこわい!」


三度目のツッコミに、ライは小さく眉をひそめた。

そのとき、腹がムズリと痛む。懐中時計の針が小さく跳ねる。


「……ぐ」


すぐさまモフドラが腹に飛び乗り、「ぷしゅ〜」と湯気を吐いた。

子どもたちは目を輝かせる。

「神の煙だー!」

場はまたもや爆笑の渦に包まれた。



---


授業が終わり、子どもたちは外へ駆け出していった。

教室に残ったのはライとセラフィーナ。机を片づけながら、彼女はふと笑みをこぼした。


「……ライ様がいてくださると、子どもたちが安心するのですわ」


その言葉に、ライの胸がドクンと跳ねた。懐中時計の針がピシリと動く。

彼は腹を押さえ、じっとこらえた。


そして口が勝手に動いていた。

「……僕にとって、あなたの笑顔が安心だ」


セラフィーナは一瞬驚き、それから頬をほんのり染めた。


――と、その瞬間。

「先生が恋に落ちる授業、最高ですね!」

ミーナが飛び込んできて爆弾発言。


ライは盛大に腹を押さえ、机に突っ伏した。

子どもたちが再び戻ってきて、

「ライ様のお腹が授業参観だー!」

と叫びながら走り回る。


バルドが静かにまとめる。

「殿、文字を教えても恋は未修得でございますな」


「……ううう…」


ライの小さな返事とともに、教室は今日も笑いでいっぱいになった。

ライ様の“文字授業”はいかがでしたでしょうか。

真剣に教えているのにコメディになるのは、もう彼の宿命ですね……。


「ここが面白かった!」「このキャラが好き!」など、どんな一言でも感想をいただけると作者の力になります。

そして、評価で星をポチッとしていただければ、さらに頑張れます!


次回もお楽しみに!

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