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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第6章 聖職者 セラフィーナ

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第51話 シスター、風鈴の庭と井戸の神様

読んでいただき、ありがとうございます!

今回のお話は、朝の井戸トラブルからスタート。詰まった井戸、のんびりシスター・セラフィーナ、そして怖い顔だけど頼れるライが大活躍する一日です。

途中で幕の大穴をマントで修理したり、粉が爆発して“雪の王さま”誕生したり、眠れない少年トマのための即席風鈴や、献金箱で遊ぶ子猫まで登場。最後は、風鈴の音と一緒に、ちょっとだけ心があたたかくなるはず。


「続きも読んでみようかな」と思ったら、ブックマークをしていただけるととても嬉しいです!

あなたの一押しが、ライの“誠実”をさらに輝かせます。


朝の修道院は、いつもよりにぎやかだった。


小さな子どもたちが井戸の周りに集まり、覗き込んでは「でない!」「水がない!」と騒いでいる。

バケツを下ろしても、縄はするすると空を切り、からんと音を立てるだけ。

どうやら何かが詰まって水が出ないらしい。


 


そこへ、白い修道服に身を包んだ一人の女性が現れた。

セラフィーナ――この修道院で子どもたちの世話をしているシスターだ。

長い金髪を後ろでまとめ、いつもにこにこと柔らかい笑顔を浮かべている。

その雰囲気はまるで“おっとり”の化身のようで、子どもたちはすぐに集まってくる。


 


「まあ……井戸の神様が休憩しているのですわ」


セラフィーナは井戸を覗き込み、両手を胸の前で合わせた。

子どもたちは目を丸くし、「神様が寝てるの!?」とざわつく。

「ええ、きっと昼寝ですわ」

にこにこ顔で答えるシスターに、子どもたちは「へぇー」と納得したり、「起きてくれなきゃ!」と泣き出したり、反応はてんでバラバラ。


 


そんな混乱の中、黒マントを肩にかけた大きな影が現れた。

ライオネル・フォン・グランツ。

侯爵家の嫡男であり、王都でも知らぬ者はいない完璧超人……ただし、顔が怖い。


 


「井戸が詰まっていると聞いた」

低い声と鋭い目に、子どもたちは一瞬で黙り込む。

「ひぃっ……」と後ずさる子も出たが、ライが淡々と「直そう」と言った瞬間、ざわつきは安心の声に変わった。


「ライ様だ!」

「これで水が出る!」


彼は井戸に近づき、縄を手に取りながら冷静に観察する。

セラフィーナはきらきらした瞳で見上げ、ぽつりと口にした。


「井戸の神様を起こしてくださるのですね?」


「いや。落ち葉を取り除くだけだ」


真面目なツッコミに、近くの子どもたちが「ぶっ」と吹き出した。

セラフィーナは首をかしげ、「まあ……頼もしいですわ」とにこやかにうなずく。


 


ロープを井戸に結び、ライは中を覗き込む。

深い穴の中には、確かに枯れ葉や小石が溜まり、水をせき止めているのが見えた。


その瞬間、子どもが叫んだ。

「ライ様の顔が映ってる! こわっ!」


「……」


井戸の水面に逆さに映るライの鋭い顔は、確かに怪談話の怪物に見えなくもない。

バルドがすかさず口を開いた。


「若様のお顔は水面に脅威を与えますな」


ライはぐっと言葉を飲み込み、ただ深呼吸した。

懐中時計の針がほんの少し跳ねる。――まだ大丈夫だ。


 


一方のミーナはというと、なぜか旗を持ち出してきていた。

「ライ様井戸掃除応援フラッグ!」と叫び、全力で振り回す。

次の瞬間、勢い余って旗が井戸の中へひゅるると落下。


「わぁぁぁ!」

「……」


ライは眉をひそめ、ただロープを握り直した。

セラフィーナは「井戸に捧げ物ですの?」と無邪気に首をかしげる。


 


井戸の中へロープを伝って降りていくライ。

狭い空間の中で小石や枯れ葉を取り除いていく。

その上でセラフィーナは井戸の縁に手を当て、真剣な顔で祈りを捧げていた。


「まるで、神様へのお祈りの舞をしているみたいですわ」


「……掃除だ」


ライは小さく返すが、祈りの声が子どもたちを静かにさせる。

それは儀式めいた、不思議な空気を生んでいた。


 


井戸の上ではモフドラが縁にちょこんと座り、「ぷしゅ〜」と湯気を吐いた。

子どもたちは「スチーム魔法だ!」「井戸の神様に煙のお供え!」と大はしゃぎ。


「違う。ただの湯気だ」

ライはため息をついたが、その声は子どもの歓声にかき消された。


 


やがて詰まりを取り除いた瞬間、井戸の底から冷たい水が勢いよくあふれ出した。

バケツに水がじゃばっと溜まり、子どもたちが一斉に拍手する。


「井戸が目を覚ましたー!」


セラフィーナは両手を胸に当て、にっこりと微笑んだ。

「ライ様は神様のお弟子様になられたのですわ」


「……僕はただ掃除をしただけだ」


そう言いつつも、胸の奥がわずかにきりきりする。

銀の懐中時計の針が小さく揺れ、モフドラが「ぷしゅ」と控えめに湯気を吐いた。


 


子どもたちが「ライ様ばんざーい!」と取り囲む。

だが次の瞬間、彼の顔を見上げて「やっぱちょっとこわい!」と散り散りに逃げていった。

修道院の庭に小さな笑い声が広がる。


 


セラフィーナはそんな子どもたちを見守りながら、ゆっくりと口を開いた。

「でも……怖いものって、慣れると安心になるのですわ」


その言葉に、ライの胸はちくりと痛み、同時にほんのり温かさが広がった。


 


バルドが隣に立ち、低い声で囁く。

「若様。井戸の水は澄みましたが、殿の恋腹はまだ濁っておりますな」


「ぐっ……」


ライは小さくうめき、腹を押さえた。

庭にはまだ笑い声が響いていたが、その中心に立つ彼の顔は、ほんの少しだけ柔らかく見えた。




修道院の夕暮れは、パンの香りと子どもたちの声でにぎやかだった。

昼の間に片づけた小さな問題たち――粉の在庫整理やオーブンの調整――で、みんなの顔にも少しずつ笑顔が戻っている。けれど、まだやることは山ほどあった。


講堂の奥では、大きな布が広げられていた。

明日の発表会で使う舞台幕だ。けれど、中央に大きな破れ目が走っている。まるで巨人が引き裂いたみたいに。


「困ったわぁ……」とシスター・セラフィーナが肩を落とす。

彼女は優しいけれど、こういう段取りはあまり得意じゃない。


ライは黙って黒マントを外した。裏地は深紅。舞台幕と同じ色に近い。

「これを使おう」

彼はあっさりと言い切った。


「若様、マントを脱いで助けるなんてまるでヒーローです!」

とミーナが目を輝かせる。

すかさずバルドが毒舌を落とす。

「顔はアレでございますがな」


幕の修理はライが考えた“縫い方レーン”方式で進んだ。

子どもたちは役割分担され、縫う子、糸を渡す子、仕上げを確認する子と、まるで冒険パーティーのよう。失敗しても「×印スタンプ」を押されるだけで、逆に“苦労賞バッジ”がもらえる。

「いっぱい失敗したほうがカッコいいじゃん!」と子どもたちは大はしゃぎ。修道院は笑い声でいっぱいになった。


次はパン作りだ。明日配る“祈りのパン”を大量に焼かねばならない。

ライは生地の分割をカードゲームみたいにした。ぴったりの重さに分けると「ピンポン!」と木片が鳴る。

子どもたちは夢中になって分け始め、パンはどんどん整っていった。


そのとき――。


「どふっ!」

袋をかついできた商人が、粉糖(さらさらの砂糖)と小麦粉の袋をドカッと乱暴に置いていった。

セラフィーナが袋をに取った瞬間、白い煙が「ボフッ!」と広がる。

修道院中が一瞬で真っ白。子どもも大人も雪男みたいになった。


ライだけは、怖い顔に真っ白な髪。

「雪の王さま来たー!」

子どもたちの声に、場が笑いに包まれる。


ライは怒らず、商人の名前を静かにメモしただけだった。

「次からは、必ず優しく置くようにさせよう」

その落ち着いた声に、セラフィーナはふっと安心して笑った。


片づけが終わると、子どもたちは眠る時間になった。

その中で、一人だけ布団に入れずに外を見ていた少年がいた。名前はトマ。無口で、少し影のある子だ。


「夜、音がないと眠れないんです……」

彼が小さな声で打ち明ける。


ライは庭に出て、枝と糸で即席の風鈴を作った。カランと優しい音が夜風に混ざる。

トマは安心したように布団に潜りこみ、すぐに寝息を立てた。


セラフィーナはその光景を見て、胸に手を当てた。

「……ありがとうございますわ」

彼女の笑顔は、ろうそくの火のようにやわらかかった。


ライの懐中時計の針が少しだけ跳ねる。

腹に乗ったモフドラが「ぷしゅ〜」と控えめな湯気を吐き、まるで「落ち着け」と言っているみたいだった。


夜も更け、修道院は静まり返った。

だが献金箱の近くで、カラカラと小銭の音がする。

「怪しいやつ!」ミーナが張り込みに挑む。犯人を捜したが三分で寝落ちした。


ライとバルドが探してみると――。

「にゃっ」

出てきたのは、かわいい子猫だった。箱の中の鈴にじゃれて、小銭が転がっていただけだったのだ。


セラフィーナは胸をなで下ろす。

「よかったわ……悪い人がいたわけじゃなくて」

ライは箱に薄布を敷き、鈴はおもちゃとして子猫に渡す。

「これで安心だ」


静かな解決に、修道院は再び平和を取り戻した。


そのとき、セラフィーナが少し恥ずかしそうに切り出した。

「……あの、最後にもうひとつだけ。鐘楼の鐘を鳴らしたいのですが、扉が古くて、開かなくて……」


ライは深くうなずく。

「分かった。僕が対応しよう」

セラフィーナはまっすぐに礼を言った。その笑顔に、ライの胸はまたわずかに熱を帯びた。


夜は静かだった。

子どもたちの寝息、風鈴の音、遠くの鐘。

ライは庭のベンチに座り、モフドラを腹に乗せて空を見上げた。


「きっと、今日も誰かの幸せの余白に、僕の名前は残らない」

そうつぶやいた顔には、ほんの少し笑みがあった。


バルドが月明かりの中で小声を落とす。

「殿。恋は段取りどおりには参りませぬが、段取りできる男は必ず好かれます。……顔面以外で」


「最後の一言はいらん」

ライの返事に、風鈴がコロンと鳴った。

その音に包まれて、修道院の夜はゆっくりと更けていった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今回のキーワードは「怖い=安心のはじまり」。最初は怖がられるライの顔も、やることはいつも丁寧で誠実。井戸の詰まりを外すみたいに、みんなの不安も少しずつ取り除いていく——そんな一話でした。


小ネタを振り返ると、


ミーナの応援フラッグは今日も事故寸前。


バルドの毒舌&神速お直しは相変わらず冴えてます。


モフドラの**「ぷしゅ〜」**は癒やしポイント。


セラフィーナのおっとり発言は場をほんわかさせてくれました。



そして、トマの風鈴が鳴るたびに、庭の空気がやさしくなるのが印象的でした。

もし少しでも「面白かった!」「よかった!」と感じてもらえたら、評価をポチッとしていただけると本当に励みになります。

感想ひとことでも大歓迎です!次回も笑って読める物語をお届けします。


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楽しんでいただけましたか?

ぜひ☆評価で作者のやる気が上がります!

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まとめサイトはこちら!

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