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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第5章 恋看板娘 マリエ

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第49話 看板娘、紙灯の夜背中に届く灯り

花祭り前夜。

侯爵家の一室は“布とリボンの戦場”に、庭は“願いを乗せる紙灯”の川に。

からかわれ、照れ、でも前を向くマリエ。

影で腹痛を抱えつつも、灯りで道を照らすライ。

にぎやかさと静けさが交互に来る一夜の物語です。笑って、最後だけ少しだけしんみりしてください。


※この先も読んでみたいと思っていただけたら、ぜひブックマークで応援してもらえると嬉しいです!


侯爵家の一室は、今や戦場だった。


敵は布とリボン、そして大量の花飾り。

仕掛け人は、妹ルチアと侍女ミーナである。


「マリエさん、これを羽織ってください!」

「待ちなさい、ミーナ。肩のラインが甘いわ。ここはもっと――ふわりと!」


二人は息ぴったりなのか、ぐちゃぐちゃなのか、とにかく賑やかにマリエを中央へ立たせ、ドレス風の衣装を仕立て上げていった。


祭り用に簡易に作られたドレスは、本物ほど豪華ではない。けれど色とりどりの布が重なり、花の髪飾りが光を反射するだけで、マリエの姿はまるで別人のように見えた。



マリエは鏡の前に立ち、自分の姿をまじまじと見つめる。

胸の奥が、妙にざわざわする。


「……ドキドキする……」


思わずこぼれた小さな声。

しかし、それを聞き逃す二人ではなかった。


「き、き、きましたーっ!」

「フラグですわ! これは明らかに恋の前触れですわ!」


ミーナとルチアが両側から飛び跳ねる。

マリエは真っ赤になって両手を振った。


「ち、ちがうんです! ただ、初めてだから緊張して――!」

「初めてだから、ですって! うわぁぁぁ!」

「落ち着きなさいミーナ! ……でも、まあ、青春ですわね」


二人にからかわれながら、マリエの耳まで赤く染まっていく。


 

ふとマリエは鏡に映る自分に問いかけるように、ぽつりと呟いた。


「……でも、誰かに見てもらいたいって思うの、変かな?」


その言葉に、ルチアは妙に大人ぶった顔でうなずいた。

「それが青春ですわ。兄上よりはマシな顔ですし」


「ライ様に見てもらうのもアリじゃないですか!?」

「な、な、なにを言ってるんですか!」


マリエが慌てふためき、ルチアはあきれ顔、ミーナは満面の笑み。

三人の声は、部屋中を明るく揺らした。


 


――そんな騒ぎを、廊下の暗がりから静かに聞いている影があった。


ライオネル。


懐中時計の針は、今にも飛び出しそうなくらい大きく揺れている。

腹の奥はきりきりと締めつけられ、モフドラを抱えて「ぷしゅ〜」と湯気を浴びながら、彼は深呼吸した。


「……いや、もういい。僕は応援するだけだ」


声は誰にも届かない。

ただ、廊下に一人残った大きな影が、かすかに揺れただけだった。


部屋の中から「告白フラグMAXです!」というミーナの叫びが響き渡る。

ライは目を閉じ、わずかに口元を引き結んだ。


「フラグか……なら、折らずに守ってみせよう」


そう呟いた彼の顔は、誇らしげであり、そして少しだけ寂しかった。



夕暮れの庭に、小さな灯りが点されていく。

花祭りの前夜には、紙で作られた灯り――紙灯を家族ごとに並べるのが習わしだ。中には一つだけ願いを書き入れる。それは、どんなに小さな願いでもいい。


ライは剣を軽く振っていた。

稽古というより、心を落ち着けるための動きだ。鋭い斬撃音が夜風に混ざるたび、銀の懐中時計がわずかに揺れる。針は落ち着かず、時おり「グッ」と跳ねた。


剣は真っすぐ。けれど、心は曲がる。曲がった先が、どうしても彼女の方角に向かってしまうのを、ライ自身が一番よく知っていた。


そこへ、バルドが湯気の立つ薄荷茶を盆に載せてやってきた。

「お顔は鍛えられませんが、胸の内は磨けます。――ですが今夜は、磨くより置く時でございましょうな」

 ライは小さく笑い、剣を下ろす。

「置く、か。……そうだな。僕は、応援するだけだ」

 バルドは深く頭を下げた。

「見守るのも、立派なお役目です。殿の“誠実”は、時に背中の働きとなりますゆえ」


モフドラがライの腹にちょこんと乗り、「ぷしゅ〜」と湯気を吐いた。時計の針はほんの少し下がる。温かさは痛みを消さない。けれど、その輪郭を丸くしてくれる。今夜は、それで十分だった。


――一方そのころ。


客用台所では、マリエがパンを包んでいた。薄い布には花模様のスタンプが押されている。ミーナが「告白パン包み」と名付けたそれは、明日エミルに渡すためのものだ。


マリエは布を結びながら、胸に手を当てた。

心臓の音は、怖さと楽しみを同じリズムで鳴らす。どっちの音なのか、自分でも聞き分けられない。


「……明日、渡せるかな」


小さく漏らした声に、ルチアがすぐ返す。

「告白って“正解をもらう”ことじゃないわ。自分の気持ちを、きれいに並べることよ」

「並べる……わたし、いつも分量を間違えるから」

「大丈夫。心は焦げないわ」

 マリエは少し笑った。怖さは消えない。でも、怖さに持ち手がついたような気がした。


その横で、ミーナが「三角関係退散リボン!」と書かれた謎のリボンを量産していた。

「これで恋の交通整理は完璧です!」

ルチアが冷ややかに言う。

「標識を立てすぎると、道は見えなくなるものよ」

「えっ!? じゃあ私はどっちに行けば……」

「――黙って見守ればいいのです」

マリエは思わず吹き出し、肩の力が抜けた。


包みを結ぶ手は震えていたけれど、その結び目は固く、ほどけそうにない。


――夜。


廊下を歩くマリエはふと立ち止まった。外から、剣の音が聞こえる。

まっすぐで強いのに、どこか優しい音。パンを焼くときの“膨らむ音”に似ている気がした。


扉越しに声をかける。

「……ライ様、夜風、冷たいですよ」

低い声がすぐ返ってきた。

「ありがとう。君も、無理はしないで」


顔は見えない。けれど、言葉だけがやさしく行き来した。見えないから言えることがある。見えないのに、分かることもある。


マリエの足音が遠ざかると、ライの腹に再び痛みが走る。懐中時計の針が大きく跳ね、息を止めそうになる。

「……大丈夫。僕は完璧だ。――恋以外はね」

モフドラが「ぷしゅ〜」と最大出力で湯気を吐いた。


バルドが紙灯の火を強め、静かに告げる。

「殿。灯りは道を照らすだけでなく、人の背中も温めるものです」

ライは目を細める。

「なら、僕の灯りは……彼女の背中に」

「ええ。殿の灯りは、まっすぐでございます」


そのころ、マリエはベッドの上でパン包みを胸に抱いていた。

「エミルさん……明日、ちゃんと言えるかな。わたしのパン、あなたに似合うといいな」


窓の外では、花祭りの準備の灯りが一つ、また一つ増えていく。


ライは自分の紙灯をそっと水際に置いた。

「どうか、彼女の勇気が実りますように」――墨の跡はもう乾いている。指先から離れた灯りは、静かに、他の光の列へと溶け込んだ。


「……あれ?」


背後で小さな声。振り向くと、マリエが両手で紙灯を抱えて立っていた。花模様の包みは胸の前、頬は少し赤い。


「今、隣に置いてもいいですか」

「もちろんだ」


マリエは膝をつき、火を移した。炎がゆらりと生まれ、薄い紙にやさしい色をまとわせる。彼女は迷い、そして小さく笑ってから、池にそっと滑らせた。


「願いごと、上手くできたか?」

ライの問いに、マリエはうなずく。

「はい。……“うまく言えますように”って。パンのことも、気持ちのことも」


それ以上、彼は聞かなかった。

聞けないのではなく、聞かないと決めたからだ。池の光だけが、二人の横顔を同じ色に染める。


「ライ様」

「ん」

「いつも、ありがとうございます。……明日、背中を押してくれた人のこと、ちゃんと覚えていられるように、私、うまく笑います」


懐中時計が胸の内で“コツ”と一度だけ跳ね、すぐ静まった。

モフドラが気を利かせたのか、腹の上で小さく丸くなり、今度は控えめな湯気だけを吐く。――空気は読めるらしい。


「それで十分だ」

ライは短く答え、池へ目を戻した。灯りは列になり、細い道のように夜の中へ伸びている。


しばらく並んで見つめ、それから二人は同時に立ち上がった。

廊下へ戻る角で、マリエがふいに振り返る。


「……ライ様の願い、叶いますように」

「君の願いが先だ」


マリエはくすっと笑い、花模様の包みを抱き直して小走りに去っていった。足音が遠のくたび、池の灯りだけが近くなる。


バルドがいつの間にか背後に立ち、低く囁いた。

「殿、良い灯りでしたな」

「……ああ。道が、見えた」


ルチアが門のところで手を振る。「兄様、寝坊は厳禁ですわよ。明日は“並走”ですから」

ミーナは袖の陰で親指を立て、「紙灯の数だけ幸せ来ます!」と小声で盛大にフラグを立て、すぐにルチアに扇子で小突かれていた。


夜気は少し冷たい。だが池の橙は、背中まであたためる。

ライはマントの襟を整え、ゆっくり歩き出した。


――明日、彼女が前を向くなら。

僕の名前は、やっぱり余白に残らないだろう。

それでもいい。余白がきれいなら、読みやすいから。


胸の奥で、針は静かに黄へ。

モフドラが「ぷしゅ」と一度だけ鳴き、星のない空に、紙灯の道が長く長く続いていった。


今日は「告白前夜」の支度回。ミーナの暴走、ルチアのブレーキ、そしてライの“腹痛と誠実”。

紙灯は、願いを空に投げるんじゃなくて「背中を温める道具」なんだな、とライが気づく回でもありました。


次回はいよいよ花祭り当日。パンは焼けるのか、言葉は出るのか、そしてライの腹は持つのか――続きも見守ってください。


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