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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第5章 恋看板娘 マリエ

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45/100

第45話 看板娘、人波の中での練習

市場は今日もごった返し。串焼きの煙と太鼓の音、そして——緊張でカチコチのマリエ。

ライは“護衛モード”で人波を割り、パンとかごと気持ちを運ぶ練習に付き合います。鶏は暴れるし、鳩は飛ぶし、腹からは湯気(※モフドラ)まで出るカオス回。

もし「続き、明日もすぐ読みたいな」と思ったら、パンくず代わりにブックマークをひと粒置いていってください。花祭りまで、迷わず一直線です。


王都の大通りは、昼になると戦場のようになる。


肉の串焼きの煙、果物を切る包丁の音、太鼓を叩く大道芸人のリズム。人、人、人でぎゅうぎゅう詰め。


今日は、その人混みの中での“練習”だ。


マリエは肩に小さな布かごを掛けて立っていた。昨夜、ライが補強した持ち手がぴんと張っている。中には彼女が特訓して作った特別なパン。明日、想いを伝えるために渡す大事な一品だった。


「目線はやや上。進路は斜めに切る。歩幅は僕に合わせて」

ライが淡々と説明する。その声はやさしいのに、顔が怖いせいで周囲の客がびくっとして、自然に道を開けていく。


マリエはこくりとうなずき、深呼吸した。

「は、はいっ……!」


先導役を買って出たのはミーナだ。だが手に持っているのは旗とラッパ。

「さぁさぁー!道を開けてー!」

「やめなさい」

バルドが一瞬で没収し、冷静に一言。

「ここは戦場ではなく市場でございます」


人の波が揺れ、空気が押し寄せる。マリエはかごを抱えて歩き出した。


最初の難関は香辛料屋の前だった。粉が舞い、くしゃみをする客が連鎖する。マリエは思わず目をつぶり、体勢を崩しそうになる。


その肩を、ライがさりげなく支えた。

「大丈夫」

短く、それだけ。


マリエは驚いたように彼を見上げ、また前を向く。パンは無事だ。モフドラがライの胸元から顔を出し、「ぷしゅ」と低い湯気を吹いて粉を散らしてくれる。


小さな達成感が胸に広がった。

「い、今の……うまくいきました!」

「うん」ライの返事はぶっきらぼうだが、時計の針はほんの少し揺れていた。


──だが、その直後。


八百屋の見切りタイムが始まり、群衆の流れが一気に荒れる。鶏が荷車から飛び出し、叫び声と笑い声が混ざった。


「わ、わっ……!」

マリエの足元に鶏が突っ込み、体が傾く。かごが斜めになり、パンが今にも飛び出しそうだった。


瞬間、ライの手が伸びた。

マリエの手首をつかみ、彼女の肩を自分の胸側へ入れて守るように抱え込む。


ぐっと距離が近づいた。

マリエの鼓動が速くなる。

(ラ、ライ様、近い……!驚いちゃった……!)


ライはその表情を見て、内心で早合点。

(動揺している……僕が落ち着かせねば)


懐中時計の針が跳ね上がる。次の瞬間、ライの腹を激しい痛みが襲った。

「……っ!」


モフドラが即座に腹へ飛び乗り、「ぷしゅーー!」と蒸気を吹き出す。近くの子どもが指をさして叫んだ。

「ドラゴン蒸し器だー!」

親に頭を軽くはたかれて黙る。


ライは痛みに顔をゆがめながらも、声は一定だった。

「歩幅合わせて。三歩で抜ける」


「は、はい!」

マリエは必死に返事し、二人は人波を切るように進んだ。肩と手首はまだつながれたまま。


野次馬の声がひそひそ聞こえる。

「あの怖い顔の兄ちゃん、動きはすごいな」

「護衛なのか?」

「腹から湯気が出てたけど……」


──最後のは聞かなかったことにする。


ようやく広場に抜けたとき、マリエはパンを確認した。形も香りもそのまま。

「……よかったぁ」


ライはミント水を一口だけ飲み、痛みをごまかす。表情は変えずに言った。

「手首を守る姿勢は良かった。次は、袖口でかごの角を固定するともっと安定する」


マリエは素直にうなずき、笑顔を見せた。

「ライさん、ありがとうございます!これなら……明日、エミルさんにもちゃんと渡せます!」


その名前が出た瞬間、ライの心臓が一拍遅れる。懐中時計の針がわずかに震えて、止まった。

(そうだ。僕は応援に来ただけだ。忘れるな)


ライは小さくうなずき、「ああ……。君ならできる」とだけ答えた。





人混みを抜け、広場に出たときだった。

マリエとライはまだ手をつないだまま立ち止まっていた。


「あっ……」


マリエが気づいて慌てて離そうとする。だが、その瞬間また後ろから人波が押してきて、二人の手は再び絡んでしまった。

周囲の屋台の兄ちゃん達が「おお、息ぴったりだな」「護衛スキル高ぇ」と茶化すようにひそひそ声をあげる。


モフドラまで胸元から顔を出し、「ぷしゅ」と小さく湯気を吹いた。

なぜかそれが合図になったように、屋台の兄ちゃん達が「なんだ今の!?」とさらにざわつく。


「若様」

後ろから、バルドの低い声。

「応援とはスキンシップ競技ではございませんぞ」


「……わかっている」


ライは表情を整えると、マリエに向き直った。

「ここからは“模擬渡し”をやろう。実戦の前に体で覚える」


「も、模擬渡し……?」


マリエが首をかしげると、ミーナが満面の笑みで出てきた。

「任せてください! エミルさん(仮)をご用意しました!」


どこから持ってきたのか、帽子掛けにマントをかけ、紙に描いた笑顔の顔を貼りつけたものを運んでくる。胸には手書きで「エミルさん(仮)」の札。


「……これで練習するんですか」

「はいっ!」

マリエは顔を引きつらせながらも、「た、助かります……」と小声で答えた。


 


最初の練習。

マリエは距離を詰めようとしてつまずき、パンを差し出す角度が高くなりすぎて――。


「んぐっ!? エミルさん(仮)の鼻に直撃!?」


ミーナが大げさに叫ぶ。

マリエは慌てて頭を下げた。

「ご、ごめんなさいっ!」


「両手は胸の高さ。相手の視線より少し下だ」

ライが静かに修正を加える。

「言葉はいつものトーンで」


懐中時計の針がわずかに跳ねたが、腹痛は軽い。まだ「エミル」という名を口にしていないからだ。



二度目の練習。

今度は腰が引けすぎて、差し出したパンが遠すぎる。相手は受け取りにくそうだ。


「……ここだ」

ライがマリエの手首に触れて位置を直す。


「ひっ!?」

マリエは反射的に肩をすくめた。顔が赤い。

「す、すみません。ちょっとびっくりしただけで……」


「気にしなくていい。驚かせた」

ライはすぐに手を離した。余計な空気を作らず、練習を続ける。

 


三度目の練習。

角度も距離も声量も、ほぼ合格。

屋台の兄ちゃんが思わず「おお」と小さく拍手した。


「いけますね!」

ミーナがラッパを取り出しかける。

しかしバルドの冷たい視線に射抜かれ、そっとしまった。



「最後に“目線”だ」

ライが言った。

「相手の目を見すぎると、自分が固まる。眉と口元の間あたりに視線を置くといい」


「なるほど……それなら……できそうです」

マリエの声に自信が少し混ざる。


 



 


「ここからは実地ルートの再現だ」


ライは広場から衛兵詰所までの最短ルートを確認する。障害物は多い。樽の段差、子どもが転がすフープ、香辛料の粉、そして鳩の群れ。


「護衛の三つのルールを覚えておけ」

ライが簡潔に伝える。

「片手は荷を守り、もう片手で道を作る。目は進路、耳は人の足音。危なくなったら合図は“今”だ。これで僕が前に出る」


マリエは深呼吸してうなずいた。

「……はい!」



走り出す。段差を越えるとき、マリエの足がもつれた。

ライが即座に手を取って引き上げる。再び“手つなぎ”状態になった。


「っ……」

マリエの頬が赤く染まる。

「……手、離しても大丈夫です」


だが人混みの流れが荒く、離すタイミングを失った。

結局十数秒、そのまま走ることに。妙に長い。鳩が頭上をバサバサと飛び立ち、さらに気まずい雰囲気に。


ライの腹に「キリッ」と痛みが走る。モフドラが腹に乗り、「ぷしゅ」と湯気を吹いて温めた。


「……若様」

バルドが後ろから低声で突っ込む。

「長距離の手つなぎは作戦に含まれておりません」


「了解した。……離すよ」

ライは冷静に言い、そっと手を放した。

「……ありがとうございます」

マリエも小さく頭を下げた。二人のやり取りは必要最小限。雰囲気は落ち着いた。


 


香辛料ゾーンに入ると、粉が舞い、くしゃみが連鎖する。

モフドラが「ぷしゅー!」と湯気を噴き、粉を散らした。

ライは黒マントの端をマリエのかごにかけ、防護する。


「……ここまで付き合ってくれて、助かります。私、怖がりで」

マリエが小声で漏らす。


「怖がることは悪くない。準備で埋めればいい」

ライの答えは短く、それでいて温かかった。彼が“恋以外は完璧”であることが、そこにはっきり表れていた。


 

広場の鐘が午後を告げ、人混みのざわめきが少し落ち着きを見せていた。

マリエは胸にかごを抱いたまま、静かに深呼吸をする。パンの香りが、まだしっかりとそこにある。


「……明日、必ず渡します」

その声は、自分に言い聞かせるように小さく、けれど確かな決意がこもっていた。


ライは隣でわずかに目を細め、うなずいた。

だが心の奥では、懐中時計の針がまた小さく震えている。痛みではなく、熱に近いものとして。


モフドラが「ぷしゅ〜」と穏やかな湯気を吐き、空気を和ませた。

まるで「大丈夫」と背中を押すように。


──もうすぐ、花祭り。

パンと花と、そしてそれぞれの想いが交わる日が、もう目の前まで迫っていた。


人混みはミスが出やすい場所。だからこそ、ライの「準備で埋めればいい」の一言が効きましたね。

手首を守る角度、目線の置き方、そして“手を離すタイミング”。どれも明日への布石。マリエの「渡します」という小さな決意が、いちばん大きな前進でした。

次はいよいよ花祭り本番。パンと花と、心の合図。ライの懐中時計は——果たして静かに時を刻めるのか。

「ここで止まりたくない!」と思ったら、本棚の端っこにそっと栞を挟む感じでブックマークしておいてください。あなたの帰り道が、ちゃんと残ります。


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楽しんでいただけましたか?

ぜひ☆評価で作者のやる気が上がります!

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