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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第5章 恋看板娘 マリエ

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第41話 看板娘、朝市とすれ違う恋!?

花祭り直前の王都は大混雑。

ライ(名門グランツ家の若様)は、石畳に魔法の矢印を描いて人の流れを整えます。

舞台はパン屋「麦のひかり」と花屋「青い温室」。

パン屋の娘マリエと、花屋の青年エミルのやり取りは、パンの香りと花の匂いみたいに自然にまざっていきます。

そして、ライの**銀の懐中時計(心拍に反応して針が揺れる魔具)**が、ほんの少しピクリ——。

行列はそろう。でも、恋心は並ばない。そんな朝の一幕です。


(※面白いと思っていただけたら、ぜひブックマークで応援してもらえると嬉しいです!)

王都の朝市は、いつもよりずっと騒がしかった。


花祭りが数日後に迫っているせいで、通りには人、人、人。荷車はギュウギュウ、子どもが走れば大人がよけきれず、老人は押されてよろめく。花屋の苗トレイと、パン屋の籠が交差するあたりは、とくに危ない。


ライオネル・フォン・グランツは、そのど真ん中に立っていた。

黒いマントを翻し、石畳に指で小さな魔法符を刻んでいく。淡い光の矢印が浮かび、列の進む方向を示す。人の流れが、少しずつ整理されていった。


「おっけーです! パンはこっち、花はあっち!」

侍女のミーナが掲げた板には「←パン列」「→花列」と書かれている。……が、左右逆だった。

案の定、人々は混乱。パンを求める客が花屋に突撃し、花を買いたい客がパン屋に雪崩れこむ。


「……逆だ」

ライは短くそう言って板を直す。市場のざわめきが、再び落ち着きを取り戻す。


「す、すみませんライ様!」

ミーナは頭を下げるが、次の瞬間にはもう笑顔に戻っていた。彼女は失敗してもめげない。


そのパン屋「麦のひかり」からは、焼きたての香ばしい匂いが漂ってきた。

店先に立つのは、娘のマリエ。

麦色の髪を後ろでひとつに結び、白い粉がついた頬をぬぐいもせず働いている。明るい笑顔は町の人気で、声をかけられるたびに元気に返事をしていた。


彼女の視線が向くのは、隣の花屋「青い温室」。

そこに立つ青年――エミルが、花束を手際よくまとめていた。やさしい顔立ちで、客のおばあさんに笑顔を見せては「まいったなあ……」と頭をかいている。


「エミルさん、これ、よかったら……」

マリエは、パンの端っこを差し出した。焼きたてで香りが強く、ほんのり湯気をのぼらせている。


「まいったなあ……ありがとう、助かるよ」

エミルは受け取り、花びらを一枚添えて返した。

マリエは胸の奥がきゅっとして、小さくつぶやく。

「……ドキドキする……」


ライは、そのやり取りを横目に見た。

パンの匂いと花の香りが交ざるなかで、二人の雰囲気は自然にひとつの絵になっている。

胸の奥で、銀の懐中時計の針が一瞬ピクリと動いた。――だがライは「寒気のせいだ」と言い聞かせる。



---


「若様、原因は三つですな」

バルドがロープと杭を持ってきながら言う。

「列が交差、歩幅が不揃い、そして受け渡し口の狭さ。すべて改善の余地あり」


「なら、受け渡し口を二つに増やそう」

ライは即座に答えた。

「列は色分けした札で分ける。茶がパン、緑が花。見本札で予約をとれば、花の痛みも防げる」


「いいですね!」とミーナは拍手。だが看板の字がまた逆向きで、ライが無言で直した。


マリエは目を丸くしてライを見た。

「すごい……人の流れが一気に整ってきました」


だが彼女の笑顔は、すぐ隣のエミルに向けられる。

エミルが落としたエンピツを拾い、差し出したときだ。

「ありがとう」

「……ドキドキする……」

マリエの小さな声は、ライには届かない。



---


そこへ、通りをひょいと横切る黒い影。

ライの妹ルチアだ。黒いリボンを揺らしながらパンの列に並び、ふと兄に目をやる。


「兄様、列は整っても、恋心は並びませんのね。ふふ」

それだけ言い、アンパンを一つ買って去っていった。


「……あいつ何やってんだ?」

ライは低くつぶやく。


「きっとかまってほしいんですよ、ライ様」

ミーナがけろっと言った。


こうして準備は整った。花祭りに向けた混雑対策――試運転の始まりだ。



昼を少し過ぎた王都の朝市は、まだまだ熱気を失わなかった。パン屋「麦のひかり」と花屋「青い温室」の前は、人波が絶えない。

花祭りを控えた週末、皆が「特別な品」を求めているのだ。


ライは石畳に描いた簡易の魔法符をじっと見つめていた。矢印や足形、点線。それが通りの流れを「川」のように整え、客たちをパン屋と花屋へ自然と吸い込ませていた。


「よし、今のところは順調だな」


小声でつぶやき、再び符の角度を直す。

隣ではミーナが茶色と緑の整理札を手渡しながら元気に叫んでいる。


「茶色はパン色! 緑は葉っぱ色! 迷ったら色で覚えてね!」


子どもでも分かる説明に、大人の客までつられて笑う。

バルドは荷車の位置を整え、逆走を防ぐために石止めを置いた。

「車は前から。愚痴は後ろから」などと、しれっと冗談を挟んで周囲の空気をやわらげる。



---


突然、小さな悲鳴が響いた。

列を横切ろうとした子どもがパンの香りに気を取られ、石畳に足を取られて転びそうになったのだ。


ライは迷わず片膝をつき、その子を腕で支えた。

「大丈夫か」


怖い顔で見下ろされ、子どもは一瞬びくっとしたが、すぐに安心したようにうなずいた。

ミーナが飴を手渡して「はい、こっちの道だよ」と誘導し、バルドは母親に木箱を差し出して「ここで休むとよろしい」と落ち着かせる。

母子は深く頭を下げ、ライの「大丈夫」の一言に安堵した。顔は怖くても、声がやさしいとすぐ伝わるのだ。



---


パン屋の娘マリエは、焼きたてのハーフサイズを切り分け、花屋の青年エミルに差し出した。

「これにハーブを添えたら……」


エミルはローズマリーを一枝取って、パンに添えた。香りがふわっと広がり、客の反応がぱっと明るくなる。

ライは即座に「焼成と入荷の時間を合わせてピークをずらそう」と提案し、ミーナが砂時計を逆さにして「焼き上がりコール」を担当することに。


試食した客が笑顔になり、場がいっそう和む。

エミルは頬をかすかに赤らめ「助かったよ」と礼を言い、マリエは照れ笑いで「どういたしまして」と答える。

その瞬間、マリエの胸の奥に小さな鼓動が生まれる。ほんのりとした温かいものが胸を覆った。



---


列の後方では、強面のおじさんが声を荒らげていた。

「並んだのに全然進まんじゃないか!」


空気が一瞬、ぴりつく。

ライは符を追加し、足形を狭めて「進んでいる感」を演出。ミーナは「ここまであと三歩!」と札を掲げて小さなゴールを作る。


不思議なことに、それだけでおじさんの眉間は少しゆるむ。最後にマリエが焼き端のパンを差し出すと、噛みしめながら「やっぱ端っこ、うまいな」と笑って去った。周囲にくすくすと笑いが広がり、空気はまた温かくなった。



---


昼を越えて、流れは安定してきた。

ライは次の問題を予測して「機材か在庫だろう」と考える。銀の懐中時計が心拍に反応して針を小さく揺らしたが、彼はただ「緊張のせいだ」と思う。


その視界の端で、マリエがエミルに焼きたてを渡す。二人の指先が少し触れ、マリエの頬がわずかに赤く染まる。

ライは目をそらし、ただ符を直す。——仕事だ。そう、自分に言い聞かせながら。



---


だが運はすぐに試練をもたらす。

裏口で麻袋が裂け、小麦粉が爆発したように白煙をまき散らしたのだ。通りが一瞬で雪景色のようになる。


「うわ、なにこれ! 年取ったみたい!」

ミーナが自分の真っ白な髪を見て騒ぐ。

粉で咳き込む客も出て、放置は危険。


ライは風の魔法を使い、粉を通りの溝に集めて流し込む。バルドは濡れ布で吸着して回収。

「後で鶏小屋に回せますな」と淡々と処理する。

その間、粉まみれのライの顔はまるで雪像のようで、子どもが「怖い顔の雪だるま!」と親指を立てる。


怖い顔でも雪だるまと言われれば笑い話になる。

ライの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。



---


さらに隣の温室から悲鳴が上がった。

加温の魔道具が止まり、苗がしおれ始めていたのだ。花祭りを目前に控えてこれは致命的。

エミルは青ざめて駆け込み、マリエが心配そうに見送る。


ライは即断した。

「パン窯の余熱を回す」


布と木枠で簡易ダクトを組み、パン屋の煙突の暖気を風の魔法で温室へ送る。

ミーナは濡れ布で湿度を補い、バルドは入口に幕を張り、銀のスプーンを吊るして温度を測る。


即席の温室は息を吹き返し、苗は青さを取り戻した。

エミルは「助かったぁ」と短く言い、マリエはほっと息を吐いた。



---


やがて客足が落ち着き、夕暮れが通りを赤く染めていく。

バルドは簡易帳簿をめくり、売れ行きを読み上げる。パンは甘い系が早く、花は小ぶりの束が人気だった。ライは「明日は焼き時間を早め、花は小束を入口に見本として吊る」と提案する。


エミルは少し迷ってから「一日一束、花祭り用に予約を……」と言いかけ、黙る。

ライが背中を押すように「いい案だ」と断言すると、エミルははっきり「ありがとうございます」と答えた。マリエが嬉しそうに笑みを返す。



---


その横で、ライの懐中時計の針がまた少しだけ動いた。

モフドラが腹の上に丸まり、ぬるい湯気を吐く。

ライは自分に言い聞かせる。

「僕の役割は祭りを成功させることだ」


そう思いながらも、夕日の中で笑うマリエの横顔に、ほんの一瞬だけ視線が止まってしまう。

すぐに目をそらし、符を消しながら心に刻んだ。


——完璧でなくてもいい。誠実であればいい。


そうつぶやいたとき、針は静まり、痛みも消えた。

胸の奥だけが、ほんのり熱を残して。



---


最後にバルドがライの隣に立ち、低く言った。

「若様。道を作るのは得意でいらっしゃるが、ご自分の心の道は後回しにしがちですな。……せめて灯りだけは、消さずに」


ライは「わかっている」と短く答え、マントの襟を直した。

通りの先には、赤く光るパン窯と、淡い緑の温室の灯り。二つの光が、静かな夕暮れの中で並んでいた。



読了ありがとうございます!

今日は「問題を解いていくライ」と「心が勝手に動く二人」を、同じ画面に置いてみました。

パン窯の赤い灯りと温室の緑の灯り。

並ぶ二つの色は、マリエとエミルの距離であり、そこに道を作ってやさしく見守るライの姿でもあります。

バルドの言う通り、行列は札で揃えられても、恋は札では揃いません。

それでも——礼節と誠実だけは、最後まで並べておきたいね、若様。


バルドのワンポイント

「矢印は進む向きを示せますが、胸の向きは示せませんな。……ただし礼儀の向きは示せますぞ」


(※もし少しでも続きが気になったら、ブックマークで応援してくださると作者は全力で喜びます!)


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