第4話 若様、馬車で揺れる恋心
今回はライがクラリスを馬車で送るお話です。
剣も魔法も一流なのに、恋心が高まるとお腹が暴走するライ。そこへバルドの皮肉とミーナの暴走演出が重なり、馬車は揺れるわ心も揺れるわ……。ドタバタ恋路を楽しんでください!
ミーナが『★【ブックマーク】★100件で結婚一直線!』と騒いでます。どうかブクマしてあげて!
その日の午後、ライはついにクラリスを馬車で送ることになった。
彼女を迎える前から、執事バルドと侍女ミーナは大騒ぎだ。
「若様、馬車はすでに磨き上げております。まるで鏡のようにピカピカでございます。……お顔と違って」
「おい」
ライがにらむと、バルドは知らんぷりでひげを整えた。
一方のミーナは、また妙な小道具を用意していた。
「ハート型の紙ふぶきマシンです! 並木道に入ったらこれで一気にロマンチックに!」
「やめろ」
「若様のお顔とハート型紙ふぶきの組み合わせ……うーん、たしかにホラー寄りですね」
「おまえもだ、バルド!」
ドタバタしているうちに、クラリスが登場した。
落ち着いた笑顔を見せる彼女に、ライは背筋をぴんと伸ばし、恭しく手を差し出す。
クラリスは軽やかに馬車へ乗り込んだ。
ライは御者台に腰を下ろし、黒マントをなびかせながら手綱を鳴らす。二頭の栗毛馬が力強く地面を蹴り、馬車が石畳を走り出した。
走りは安定していた。
さすが王立学園で首席を取っただけある。
剣も魔法も強いが、実は馬術もトップクラス。
彼が手綱を握ると、馬は落ち着いて進み、石畳のガタガタすら小さく感じられる。
「わあ……すごく乗り心地がいいですね」
クラリスが小さく感嘆の声を漏らす。
その瞬間、ライの懐中時計がカチリと音を立てた。針がほんの少しだけ上へ。
(まずい……“ムズッ”の段階だ)
ライはさりげなくモフドラを腹に乗せる。
小竜は「ぷしゅ〜」と湯気を吹き、腹をじんわり温める。
「まあ、小竜さんは今日も元気ですね」
クラリスは微笑む。ライは「助かった」と心の中でつぶやいた。
会話も順調だった。
「クラリス様はどんな楽器がお好きですか?」
「竪琴が好きです。母がよく弾いてくれたので」
「いいですね。僕はリュートを少し。……いつかお聞かせします」
「ふふ、楽しみにしています」
さらにクラリスはお菓子の話を始めた。
「ケーキが好きなんです。シナモンが効いていると最高で」
ライの脳内に巨大なメモ帳が出現し、
「ケーキ、シナモン多め」と書き込まれた。
(必ず作って届けよう……! いや、その前に告白だ!)
そんな決意をしたところで、ミーナがやらかす。
「クラリス様! この馬車、もうすぐ“恋が実る並木道”に入りますよ!」
「えっ!?」クラリスが目を丸くする。
「ちょっ、ミーナ!」ライが慌てて声を上げる。
バルドがすかさず皮肉を放った。
「若様、恋が実る前に馬車が蛇行しませんよう」
懐中時計の針がピクリと跳ねる。恋腹がムズムズし始め、ライは必死に腹を押さえながら手綱を握りしめた。
「……落ち着け、僕。直進あるのみだ」
馬は真っすぐ進んでいるのに、ライの心臓とお腹だけが全力で蛇行していた。
クラリスは外を見て風を感じながら、くすっと笑った。
「でも……なんだか楽しいです」
ライは腹を押さえながら必死に笑顔を作る。
だがその顔は――やはり怖かった。
馬車は王都の外れにある並木道へと入った。
両側の木々は高く伸び、葉の隙間からこぼれる光が、まるで舞台のスポットライトみたいに揺れていた。
小鳥の声まで加わり、雰囲気は最高だ。
「ここ、素敵ですね」
クラリスが小さく笑った。
ライの胸はドクンと高鳴る。懐中時計の針がジワリと上がり、腹の奥がむずむずしてきた。
「む、むずっ……」
ライが腹を押さえると、肩の上からモフドラがぴょこんと飛び降り、ライのお腹に着地。
「ぷしゅ〜」と湯気を吹き、温め始める。
クラリスは目を丸くしてから、ぷっと笑った。
「まあ……小さな温泉みたい」
空気が少し和んだ、そのとき。
「ライ様! ここは勝負どころです!」
後方からミーナの声。なんと、彼女は馬車を必死に追いかけながら、袋いっぱいのバラの花びらをつかんでいた。
「ロマンチック演出です!」
勢いよく撒いた瞬間、風が逆方向に吹き、花びらはすべて彼女自身に降り注ぐ。
赤とピンクの花びらまみれになったミーナが「キャー!」と叫びながら転んでいくのが見えた。
クラリスは口元を押さえ「お茶目な方ですね」と笑った。ライは心の中で(加点要素はゼロだ……!)と頭を抱える。
並木道の中央、木漏れ日が一段ときれいに差し込む。ライはクラリスの横顔に見とれた。次の瞬間——。
ビクンッ。懐中時計の針が跳ね上がる。
「……きりきりっ」
腹がギュルルと鳴った。ライの手から手綱がわずかにぶれ、馬たちが驚いて左右に蛇行しはじめた。
「きゃっ!」
クラリスがシートにしがみつく。
馬車は右へ、左へとフラフラ。
「大丈夫! 僕に任せて!」
ライは必死に叫ぶが、その真剣な顔が怖すぎてクラリスは「た、頼もしい……ですけど……」と声を震わせる。
後部座席のバルドが冷静に一言。
「若様、恋心は蛇行しても結構ですが、馬車は直進してくださいませ」
「そんな場合じゃない!」
ライは深呼吸し、両腕に力を込めて手綱を引き直す。やがて馬たちは落ち着きを取り戻し、揺れる馬車は真っすぐに戻った。クラリスも胸を撫で下ろす。
そして馬車は、彼女の屋敷の前に無事到着した。
クラリスは乱れた髪を整え、少し照れたように笑った。
「今日は本当に楽しかったです。……でも、スリルはほどほどにお願いしますね」
「……次は、もっと穏やかに」
ライは必死に微笑もうとしたが、やっぱり顔はホラー寄り。クラリスは丁寧に会釈し、屋敷へと入っていった。
残されたライは腹を押さえながら懐中時計の針を見つめる。針は高い位置で小刻みに震えている。
「あと一歩……だったのに」
すると、バルドの締めのツッコミが飛んだ。
「若様、恋路に蛇行は禁物でございます。……ついでにお顔も直進で」
ライは天を仰ぎ、「顔まで直せと言うのか……」と小さくつぶやいた。
モフドラは「ぷしゅ〜」と湯気でオチをつけ、馬車の周囲はまた笑いに包まれた。
読んでくださりありがとうございます!
今回のお気に入りは、やはりバルドの「顔も直進で」。
ライの真剣さとコメディが同居するのがこのシリーズの面白さだと思っています。次回もぜひお楽しみに!
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