第39話 雪女、氷槍は星を貫き心を照らす
雪原に静けさが戻り、氷と風がひとつになる瞬間が訪れました。
ライとユキノが生み出した“氷槍”は、まるで夜空を切り裂く流星のよう。巨大な雪獣を前にした二人の呼吸はぴたりと重なり、恐怖すら超えて信頼へと変わります。
そして響いた「僕は完璧だ。——恋以外はね」という名言(迷言?)。誠実すぎるゆえの腹痛は絶好調で、モフドラの“ぷしゅ〜”も全力稼働。
戦いのクライマックスと同時に、心の距離も一気に縮まる大切な回です。
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雪原は、しんと静まり返っていた。
さっきまで吹き荒れていた吹雪は影を潜め、まるで世界そのものが息をひそめているようだった。
氷でできた六角の壁は淡く光を帯び、ひとつひとつが小さな星を閉じ込めているように輝いている。夜の闇に浮かぶその光景は、戦場であることを忘れさせるほど幻想的だった。
ライは氷壁に背を預け、長い腕をゆっくりと前へ差し出す。
手のひらに集まった風は、渦を巻いて震えながら槍の芯へと流れこんでいく。
その隣では、ユキノが氷の糸を編み、空中に槍の骨格を描き出していた。白い息が小さな花びらになって散り、すぐに夜空に溶けて消える。
二人の距離は半歩。
触れれば溶けてしまう——けれど、触れなくても伝わるものがあった。
呼吸。鼓動。わずかな体温。
そのすべてが拍子を合わせるように重なり、一本の見えない糸で結ばれていく。
「三拍子。……吸う、ためる、放つ」
ライの低い声が氷壁に反響して、鐘の音のように響いた。ユキノは頷き、彼の指先と呼吸の動きを目で追う。氷の設計図はわずかに震えたが、崩れはしない。むしろ彼の声を受けて透明度を増し、芯の風を受け止める準備を整えていった。
その横顔を見ながら、ユキノはふと気づく。
——この人、どうしてこんなに、安心するんだろう。
針が跳ねるような音が響いた。
ライの銀の懐中時計だ。
針がひと目盛り上がり、腹の奥に重い痛みが走る。ライはほんの一瞬、息を詰まらせたが、それを押し殺すように視線を前に向け直す。
モフドラが彼のお腹に張りつき、「ぷしゅ〜」と控えめに湯気を吐いた。湯気が白い膜になって渦を包み、偶然にも氷槍の滑りを良くしていく。
「君の魔力は冷たくて、優しい」
ライがぽつりとつぶやく。
「冷たさは切り捨てるためじゃない。守るための温度だ」
その言葉に、ユキノの指が小さく震えた。
だが設計図は揺るがない。むしろ芯を受け止める柱となり、雪の花の紋様を細かく刻みはじめる。
小さな雪の花は風を導き、氷槍の先端を鋭く整えていった。
前方では、雪獣が静かに身を沈める。
巨大な影が月光を遮り、尾が雪面をはらって円を描いた。跳ぶ前の沈黙。空気はさらに重くなる。
「来るよ」
ロイスが短く言った。
その声もまた、氷壁に飲み込まれて消えていく。
ミーナは毛布にくるまり、息を止めすぎて「ひゅるるっ」と情けない音を出した。
緊張はすぐに戻る。
氷槍は、完成に近づいていた。
半透明の槍の中では風の芯が細い竜巻となり、先端に力をためている。雪原全体が青白い光で染まり、夜空さえも槍の一部になったかのように見えた。
「君が、いるから」
ライは前だけを見つめたまま、低く告げる。
「僕は怖くない」
それは告白ではない。
けれど、告白の扉の取っ手に触れたような言葉だった。
ユキノの喉が小さく鳴り、吐息が白い花びらになって砕ける。胸の奥に熱が広がり、雪よりも早く、彼女自身が溶けてしまいそうだった。
三拍子。吸う——ためる——。
雪獣の筋肉がはじける直前、世界は一瞬だけ止まった。
全ての光と音が凍りつき、残されたのは二人の心臓の音だけ。
その瞬間、氷槍は放たれるための臨界点に達した——。
氷と風の魔力が合わさり、夜空を照らすほど巨大な氷槍が形をととのえていく。
鋭い先端は星の光を映し込み、まるで空から落ちてきた流星をつかみ取ったかのようだった。
「……できた」
ユキノが小さく息をのむ。その肩はまだ震えていたが、その瞳は決意に満ちていた。
ライはちらりと彼女を見た。
怖い顔のまま、真剣な視線を向ける。その迫力にユキノの胸は一瞬びくっとしたが、すぐに気づく。
――これは威圧じゃない。
ただ、全力で信じている目だ。
頬が熱くなる。けれど彼女は視線をそらさず、ライと同じ方向を見据えた。
「恋愛合体技、発動だぁぁぁぁ!!」
空気を読まないミーナの絶叫が、静寂をぶち壊す。
ロイスが顔をしかめ「うるさいよ……でも確かに合体技かもね」口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。
モフドラは「ぷしゅーっ!」と腹から全力で湯気を噴き、なぜかエフェクト係のように参加する。
バルドは両手を組んで、しみじみと言った。
「これはもう、恋の共同作業でございますな」
地鳴りのような咆哮が響く。
雪獣が巨体を揺らし、氷の角を振りかざして突進してきた。雪原が裂け、白い壁が迫りくる。
「今だ!」
ライが短く叫び、二人の手の動きが重なる。
氷槍が音を立てて解き放たれた。
空を裂く閃光、雷鳴のような轟音。氷の破片が花びらのように舞い散り、夜空が一瞬で白銀に染まる。
槍は一直線に雪獣の胸を貫いた。
巨体がのけぞり、耳をつんざくような咆哮が響く。風が最後の抵抗のように吹き荒れたが、槍は砕けなかった。
ユキノの長い髪が宙に舞い、ライの黒マントが大きくはためく。
二人は揺れる星空を背に、ただ立ち尽くしていた。
「ぷしゅーー!」
モフドラの追加演出が戦場を飾り、ミーナがすかさず叫ぶ。
「出ました!必殺モフエフェクト!」
ロイスが即座に手で口をふさぎ、「黙っててね」と言った。
やがて雪獣の動きは鈍り、ずしん、と大地を揺らして倒れ込む。
吹雪はぴたりと止み、空には澄んだ星々が瞬いていた。
しんとした静寂。
ユキノはその横顔を見つめ、思わず呟いた。
「……本当に、怖い顔じゃないんだ」
ライは一切の照れもなく答える。
「僕は完璧だ。――恋以外はね」
その言葉にユキノの顔は真っ赤になった。
でも同時に、胸の奥に小さな光がともる。
――ガクン。
懐中時計の針が大きく跳ね上がった。
ライは「ぐっ」と腹を押さえ、そのまま雪に崩れ落ちる。
「ら、ライさん!?」
ユキノは慌てて駆け寄り、必死に声をかける。
「だ、大丈夫だ……これは……誠実の代償だ……」
苦笑しながら、顔をしかめるライ。
「若様、恋の痛みは万能薬でも治せませんな」
バルドが落ち着いた声で締め、雪原に小さな笑いが広がる。
しかしその一方で、ユキノの胸には言葉にできない予感が芽生えていた。
――この温かさは、いつまでも続かないのではないか、と。
ついに氷槍が完成しました。氷と風の魔力を組み合わせるシーンは、書いている自分も息を合わせるような気持ちになりました。
ライとユキノの“半歩の距離”が、この戦いを通じてどんどん近づいていきます。怖い顔でも、誠実さは隠せない。むしろその真剣さが、ユキノの氷を支える力になりました。
ただし安心してばかりはいられません。恋腹の針は限界を突破しつつあり、この先どうなるのか……。雪の花の約束、そして別れの予感が、物語をより切なく彩っていきます。
次回もどうぞお楽しみに。そして、もし「面白かった!」と思っていただけたら、感想やブックマークをいただけると本当に励みになります。
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