第36話 雪女、雪の中の約束
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回のお話では、雪原の休憩地でのひとときが描かれています。ライの誠実さと不器用さ、ユキノの不安と勇気、そして小さなやり取りの中に芽生えていく信頼。寒さと温かさが交錯する場面で、二人が少しずつ近づいていく姿を書きました。
特に「氷の花を一緒に見る約束」や「布バンドの合図」は、二人の絆を象徴する大切な要素です。少しでも胸が熱くなったら、ぜひブックマークで応援していただけると嬉しいです!
雪原の風はやや弱まり、真っ白な景色の中に小さな休憩場所ができあがっていた。
氷で作った壁を風よけにし、その前で焚き火がぱちぱちと音を立てる。炎の色が雪面に映って、あたりはほんのり赤く染まっていた。
ライはいつものように懐中時計を取り出した。銀の針が、ぐぐっと上に振れる。
「……む」
腹に走る痛みを押さえ、彼は思わずしゃがみこむ。
その瞬間、モフドラが「きゅっ」と鳴きながらライのお腹に飛び乗った。
「ぷしゅ〜!」
小竜の口から、湯気が勢いよく吐き出される。
「出た! モフドラの“天然湯たんぽモード”!」
ミーナが両手を合わせて大喜びする。
ライの顔は苦悶そのものだが、腹の上にちょこんと座る小竜は幸せそうに目を細めていた。
ロイスは枝を折って火にくべながら、くすっと笑う。
「ライは慕われてるな……よかった」
その声はどこか優しかった。
バルドはマントを肩からすっとかけてやりながら、ぼそり。
「恋も冷えも、急に襲うものですな」
休憩をととのえたライは、焚き火の位置を見直し、ユキノのために氷を固めて椅子を作った。座面はつるつる滑らないよう、表面をさっと加工してある。
「冷えたら、ここに。……無理に近づかなくていい。火が小さくなると、君が気にするから」
ライの低い声が、彼女の心を見透かすように響く。
ユキノは驚いたように目を丸くして、それから小さくうなずいた。けれど、指先をもじもじといじっているのを、ライは見逃さない。
彼はあえて視線を外し、彼女に余計な負担をかけぬよう静かに振る舞った。
「よし!じゃあ、ここを“恋の安全地帯”って名前にします!」
ミーナが雪の上に大きく文字を書き始める。
だがライがすぐにブーツで踏んで消した。
「……寒さで固まるのは雪だけにしておけ」
ミーナは頬をふくらませる。
そんなやり取りを横目に、ユキノがぽつりと声を出した。
「……あの。もし、“山の主”を倒せたら……氷の花を、一緒に見ませんか」
“氷の花”とは、夜明け前の雪原に星型の結晶が一斉に咲く現象だという。触れると一瞬で砕けてしまうほど繊細で、幻のように一瞬しか見られない、とユキノは説明した。
ライは少し間を置いて、彼女をまっすぐ見る。
「返事が遅れると、君をもっと恥ずかしくさせるだろう。だから先に言う。——嬉しい」
言葉とともに、彼の銀の懐中時計が大きく震え、針が一気に跳ね上がる。
ユキノはぱっと頬を赤く染め、慌ててうつむいた。
「で、デート確定!?」
ミーナが大声をあげると、ユキノはさらに真っ赤に。
「静かに、今いいところなんだから……」
ロイスがフードを直しながら苦笑する。
「氷の花は一瞬……ゆえにこそ、誰と見るかで値打ちが変わりますな」
バルドのしわがれ声が、妙に重みをもって響いた。
ライは腹をおさえながらも、胸に手を当てて小さくつぶやいた。
「約束する。君と、必ず」
その言葉を受け、ユキノは氷の上に指で星の形を描き、そっと微笑んだ。
雪原に夕暮れの光が落ちていた。
冷たい空気の中で、吐く息は白く、たき火の炎が頼りなく揺れている。
その横で、ライとユキノは布バンドを手首に引っ掛け、向かい合っていた。
「この布に魔法をかける。軽く引けば、僕に合図が届く。君が不安になったら、すぐ駆けつける」
ライは低い声でそう言いながら、細工した刻印を布に刻み込んだ。風魔法で小さな符を入れて、互いに感じ取れるようにしたのだ。
ユキノは少し驚いた顔をしたが、氷の欠片を手に取り、小さな雪の飾りを作り出した。それをライの手袋の甲に結ぶ。
「これ……お返しです……」
ライの懐中時計の針が、ガクン!と一気に跳ね上がった。
「っぐ……」
彼は思わずお腹を押さえる。恋腹が暴走する。
すかさずモフドラが飛んできて、ライの腹の上で「ぷしゅ〜」と最大出力の湯気を噴きだした。
「わ、若様……副作用出ましたな」
バルドが苦々しい顔をしつつも、どこか楽しそうにメモを取る。
ミーナは「プレゼント交換イベント、発生〜!」とこっそり盛り上がっていた。
ロイスはただ、にこやかに頷き、
「……いいじゃないか。似合ってるね」
と静かに言った。
その言葉に、ユキノの頬がぱっと赤く染まる。
炎の揺らぎがライの鋭い顔立ちを柔らかく照らし、怖さよりも頼もしさを浮かび上がらせていた。
「……顔が怖いとか、もう、どうでもいい」
ユキノは胸の奥で小さくつぶやいた。
その時だった。
たき火の真上の雪庇から、でっかいツララがポキリと音を立てて落ちてきた。しかも、なぜかハート型に見える。
「危ない!」
ライは咄嗟に風のシールドを張り、ユキノを抱える形で覆いかぶさる。マントの端がユキノの頬に触れ、息と息が白く混ざった。
至近距離。目が合う。心拍数が爆発。
懐中時計:グルグルグル!
「……っ、こ、これは……想定外だ……!」
ライは必死に腹を押さえる。モフドラがさらに「ぷしゅ〜〜!」と白煙を吹きだし、あたりがもう蒸気サウナ状態になった。
「心の距離、ゼロメートルぅぅ!」
ミーナが大声で叫び、ロイスが苦笑して「よく守ったよ、ライ」と肩を軽く叩いた。
「……ああ、ありがとう」
ライは苦しみながらも、わずかに笑みを浮かべる。
その笑顔はぎこちないが、真剣だった。
ユキノは勇気を出して、布バンドを小さく引いた。
それは「そばにいて」の合図。
ライは一瞬驚いたが、すぐにうなずき、自分のマントの端をユキノの肩にかけた。
「寒さなら、僕が調整する。……君の隣で」
ユキノの目が揺れ、口元にかすかな笑みが浮かぶ。
たき火の炎と雪の冷気。その間に二人が座り、呼吸のリズムが重なっていった。
バルドは遠くから観察日記を閉じ、ぽつりと一言。
「若様、顔は城壁でございます。ですが——その中で焚かれた火に、招かれる者は必ずおりますな」
雪原の夜は冷たい。だが、そこに灯った火は、確かに温かかった。
今回のエピソードは、戦いに向かう前の“心の準備”のような時間になりました。
氷の花という儚い景色を一緒に見たいと願うユキノ。その願いに真っ直ぐ応えるライ。二人の間に漂う距離感や、触れられないもどかしさを、焚き火の炎と雪の冷たさで対比させています。
そして最後の「布バンドの合図」は、ただの作戦道具ではなく「そばにいてほしい」という気持ちの形。こうした積み重ねが、やがて訪れるクライマックスにつながっていきます。
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