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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第4章 氷花雪女 ユキノ

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第35話 雪女、溶けない握手

いつも読んでくださりありがとうございます。

今回のお話では、雪崩という大きな試練の中でユキノが自分の力を信じ、仲間と共に立ち向かう姿を描きました。


冷たい雪の中でも、人のひと言が氷を強さに変えていく――そんな瞬間をお届けできたらと思っています。そして、二重手袋での“溶けない握手”や、ユキノが差し出した涙型の御守りは、彼女の不器用だけれどまっすぐな想いそのものです。少しでも心に残ったら、ぜひブックマークをして次の物語を一緒に見届けてくださいね。

山道はどこまでも白く続いていた。


一歩進むたびに足首まで雪に沈み、冷気が靴の隙間から忍び込んでくる。


「足の角度は四十五度、体重は均等に……」

ライは落ち着いた声で歩き方を示し、実際に雪面を正確に踏み抜いていく。

その姿はまるで雪山の指南書のようで、ロイスも感心して頷いた。


だが、後ろでは別のドラマが展開されていた。


「じゃあ私もプロっぽく!」

ミーナが拾った枝で雪を突き、真似をしようとする。

――ぐさっ。

見事に自分の足を突いて「いったーいっ!」と飛び上がった。


「お前が雪崩のきっかけになるぞ」

ライが即座にツッコむ。

「失礼な! 私の可愛さで山は崩れません!」

「いや、うるささで崩れる」


軽口を交わす一方で、ユキノは必死に裾を持ち上げて歩いていた。

それでも足がもつれ、「わ、わわっ!」と前のめりに。


「危ない!」

ライが咄嗟に手を差し伸べる。


けれど、ユキノは触れる寸前で固まった。

「で、でも……私、人に触れると溶けちゃう……」

不安そうに震える指先。


ライは一瞬も迷わず、腰の袋から厚手の布を取り出した。

「実験しただろう、布を重ねればいい。二重の手袋なら問題ないはずだ」


すぐにバルドが包帯をくるくる巻き、手袋を二重に仕立てて差し出す。

「冷気も恋も、重ね着が肝心でございますな」


おそるおそる、ユキノの指先がライの手袋に触れる。

――しゅうっ。

白く曇るが、溶け落ちはしない。


「……大丈夫そう」

ユキノは目を丸くし、やがて小さく微笑んだ。

その笑顔に、ライの懐中時計の針がガツンと跳ね上がる。


「ぐぅっ……!」

ライは腹を押さえてうずくまった。すぐさまモフドラが飛び乗り、「ぷしゅ〜」と湯気を吐く。


「若様、恋腹は山より先に崩れますな」

バルドが涼しい声で締めた。



---


その時だった。

ゴゴゴゴ……と山が鳴動し、上方から雪煙が立ちのぼった。


「雪崩だ!」

ロイスが剣を抜く。


ライは風魔法を展開しようとしたが、また腹痛で「キリキリ……!」と顔をゆがめた。

「ここで温泉掘れば助かります!」

ミーナがスコップを取り出して雪を掘り始める。


「温泉なんか出ないよ!」

ロイスが頭を抱える。

「信じる心が大事なんです!」

「信じる方向がおかしいよ!?」


雪崩の轟音が迫る中、ユキノが前へ進み出た。

「私が……守る!」


彼女の両手から青白い光が迸り、氷の壁がせり上がる。

しかし雪の重みに押され、壁はすぐにヒビだらけに。


「ま、負けたら……また全部、失っちゃう……!」

ユキノは必死に声を震わせる。


その肩に、ライが手を添えた。

「大丈夫だ。君はひとりじゃない。誠実に共に立てば、崩れることはない」


その言葉にユキノの目が潤み、氷壁がさらに分厚く強固になる。

雪の奔流は壁を越えられず、横へそれて流れ落ちていった。


――やがて静寂。


「私……役に立てた……?」

ユキノは息を切らしながら、恐る恐る問う。


ライは真剣にうなずいた。

「君がいたから、守れた」


その瞬間、時計の針がまたぐぐっと跳ね上がる。

「ぐぅっ……!」とライが崩れ落ちると同時に、モフドラが再び「ぷしゅ〜」と湯気を吐いた。


「雪崩より恐ろしいのは、若様の恋腹でございますな」

バルドが冷静に締めると、一行の疲労と笑いが混ざったため息が雪山にこだました



雪崩をしのいだ一行は、風下の岩陰に身を寄せていた。

雪面は白い筋を描き、さっきまで荒れ狂っていた雪の流れが、まるで怪物の通り道みたいに残っている。

空は雲の切れ間から少しだけ光が差し込み、白銀の世界をほんのり紫色に照らしていた。

吐く息は白く重く、音まで凍りついたように静かだ。


「温かいものをどうぞ」

バルドが小さな鍋を取り出し、ベリーを浮かべた温スープを配る。

赤い果実が湯気の中でゆらゆら揺れ、甘酸っぱい香りが漂った。


ところが、ユキノが鍋の近くに座ると——湯気がしゅんと縮んだ。

逆にユキノが離れると、モワッと復活する。


「人間冷蔵庫と湯気の押し相撲〜!」

ミーナが実況し、両手で湯気の勝敗を判定するように振り回す。


「……ユニークすぎるね」

ロイスが額に手を当てるが、口元はかすかに笑っていた。


ライはスープを受け取りながら、モフドラをお腹に乗せる。小竜は「ぷしゅ〜」と湯気を吐き、なぜかハート型に見えた。

「若様、心拍針が恋愛上昇トレンド入りでございますな」

ミーナがノートに矢印を書き込み、バルドは「本日も好調な恋腹市場」と毒を添えた。



---


温かさに少し落ち着いたところで、ライはユキノに手袋越しのスープを差し出した。

二重にした手袋の表面で、彼女の指先がそっと触れる。氷の糸のような髪が光を反射してきらめいた。


「君の冷気は弱点じゃない」

ライは短く言った。

「さっき、みんなを守った。強さだ」


「……あ、あわわ……」

ユキノは耳まで真っ赤にし、目を伏せる。

その瞬間、ライの懐中時計の針がぐぐっと跳ね上がった。

「っ……!」と腹を押さえるライ。


「恋腹、軽度の発作。温スープと小竜での対処を推奨いたします」

バルドが医者みたいに言い、ミーナは「トレンド継続中!」とさらに矢印を描いた。



---


「一帯は静かだ」

ロイスが周囲を確認して戻ってくる。

「主はまだ遠い」


「なら、今のうちに接近ルートを探る」

ライが雪に小枝で地図を描く。

直線は危険、尾根を巻く細道が安全。

「風で吹き溜まりを払う。ユキノは足場を固めてくれ」


「は、はいっ!」

ユキノは胸を張るが、足元の雪にズボッと埋まって転びそうになる。

「……まずは地面に勝ちましょうな」

バルドが淡々と締めると、ミーナが

「フラグどんどん立ってるよ!」とメモを取った。



---


稜線の上は、風に削られた雪面が波みたいに連なっていた。靴底がキュッと鳴り、木々は霧氷でトゲトゲに光っている。


「氷を張って、滑走路に」

ライが指示すると、ユキノは「やってみます!」と両手を広げた。

次の瞬間——ピッカピカの氷面が完成。


「キャーッ!」

ミーナが勢いよく滑っていき、ロイスが慌ててロープで確保。ズザザッと雪煙を上げて停止。


「磨きすぎは床も評判も滑りますな」

バルドが首を振り、ユキノは真っ赤になって肩を落とす。


だがライは「段をつければ止まれる」と具体的に助言し、二人で微調整を繰り返す。

やがて“止まれる滑走路”が完成した。



---


 夕暮れが近づき、雪面は紫色に染まる。氷壁は星みたいに光り、風はやんで静まり返っていた。


 作戦の復習が終わり、皆が散ったあと。

 ユキノがライに近づき、二重手袋をじっと見つめる。

「さっき……守ってくれて、ありがとう」


「当然だ。仲間だから。君の居場所を取り返すのは、君の誇りだ」


 ユキノは小さな氷の欠片を差し出した。淡い青色、涙の形をした“解けにくい御守り”。

「これ……私が一人だった時に作ったもの。もし……明日もそばにいてくれたら……あわわ……」


 ライはゆっくり受け取り、手袋ごしにユキノの指先をほんの一瞬だけ挟んだ。

「いるよ。——約束する」


 その瞬間、懐中時計の針が限界まで跳ね上がる。

「ぐ……っ!」とライが膝をつくと、モフドラが「ぷしゅーー!」とダイブし、お腹を温めた。


「誓いは熱く、腹は冷静に——両立が肝心でございます」

 バルドが毛布を肩にかけながらまとめた。



---


夜の冷えが戻り、星が瞬き始める。

遠くの洞窟から低い唸り声が一度だけ響いた。

ライは御守りを胸ポケットにしまい、雪に描いた地図を見直す。


「明日、迎え撃つ。無理はしない。誠実に勝つ」


ユキノはこくりと頷き、二重手袋の上から自分の指をぎゅっと握った。

“溶けない握手”のリハーサル。


「住処の鍵は見つかりましたな」

バルドが最後に言う。

「扉を開ける合鍵は——信頼でございます」


今回のエピソードは、雪山の厳しさの中で仲間との信頼を確かめ合う回になりました。

ユキノの「役に立ちたい」という必死の思いと、ライの「誠実に支える」という姿勢が、ようやくかたちになって結ばれたように思います。

氷の御守りは小さなものですが、それは彼女にとって「失わないでいたい居場所」の象徴であり、ライにとっては守るべき誓いの証でもあります。

物語はまだ続きます。次はいよいよ“山の主”との決戦。ここまで読んでくださったあなたのブックマークや感想が、作者にとって本当に大きな力になります。どうかこれからも、物語の旅を一緒に歩んでいただければ嬉しいです。



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