第35話 雪女、溶けない握手
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回のお話では、雪崩という大きな試練の中でユキノが自分の力を信じ、仲間と共に立ち向かう姿を描きました。
冷たい雪の中でも、人のひと言が氷を強さに変えていく――そんな瞬間をお届けできたらと思っています。そして、二重手袋での“溶けない握手”や、ユキノが差し出した涙型の御守りは、彼女の不器用だけれどまっすぐな想いそのものです。少しでも心に残ったら、ぜひブックマークをして次の物語を一緒に見届けてくださいね。
山道はどこまでも白く続いていた。
一歩進むたびに足首まで雪に沈み、冷気が靴の隙間から忍び込んでくる。
「足の角度は四十五度、体重は均等に……」
ライは落ち着いた声で歩き方を示し、実際に雪面を正確に踏み抜いていく。
その姿はまるで雪山の指南書のようで、ロイスも感心して頷いた。
だが、後ろでは別のドラマが展開されていた。
「じゃあ私もプロっぽく!」
ミーナが拾った枝で雪を突き、真似をしようとする。
――ぐさっ。
見事に自分の足を突いて「いったーいっ!」と飛び上がった。
「お前が雪崩のきっかけになるぞ」
ライが即座にツッコむ。
「失礼な! 私の可愛さで山は崩れません!」
「いや、うるささで崩れる」
軽口を交わす一方で、ユキノは必死に裾を持ち上げて歩いていた。
それでも足がもつれ、「わ、わわっ!」と前のめりに。
「危ない!」
ライが咄嗟に手を差し伸べる。
けれど、ユキノは触れる寸前で固まった。
「で、でも……私、人に触れると溶けちゃう……」
不安そうに震える指先。
ライは一瞬も迷わず、腰の袋から厚手の布を取り出した。
「実験しただろう、布を重ねればいい。二重の手袋なら問題ないはずだ」
すぐにバルドが包帯をくるくる巻き、手袋を二重に仕立てて差し出す。
「冷気も恋も、重ね着が肝心でございますな」
おそるおそる、ユキノの指先がライの手袋に触れる。
――しゅうっ。
白く曇るが、溶け落ちはしない。
「……大丈夫そう」
ユキノは目を丸くし、やがて小さく微笑んだ。
その笑顔に、ライの懐中時計の針がガツンと跳ね上がる。
「ぐぅっ……!」
ライは腹を押さえてうずくまった。すぐさまモフドラが飛び乗り、「ぷしゅ〜」と湯気を吐く。
「若様、恋腹は山より先に崩れますな」
バルドが涼しい声で締めた。
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その時だった。
ゴゴゴゴ……と山が鳴動し、上方から雪煙が立ちのぼった。
「雪崩だ!」
ロイスが剣を抜く。
ライは風魔法を展開しようとしたが、また腹痛で「キリキリ……!」と顔をゆがめた。
「ここで温泉掘れば助かります!」
ミーナがスコップを取り出して雪を掘り始める。
「温泉なんか出ないよ!」
ロイスが頭を抱える。
「信じる心が大事なんです!」
「信じる方向がおかしいよ!?」
雪崩の轟音が迫る中、ユキノが前へ進み出た。
「私が……守る!」
彼女の両手から青白い光が迸り、氷の壁がせり上がる。
しかし雪の重みに押され、壁はすぐにヒビだらけに。
「ま、負けたら……また全部、失っちゃう……!」
ユキノは必死に声を震わせる。
その肩に、ライが手を添えた。
「大丈夫だ。君はひとりじゃない。誠実に共に立てば、崩れることはない」
その言葉にユキノの目が潤み、氷壁がさらに分厚く強固になる。
雪の奔流は壁を越えられず、横へそれて流れ落ちていった。
――やがて静寂。
「私……役に立てた……?」
ユキノは息を切らしながら、恐る恐る問う。
ライは真剣にうなずいた。
「君がいたから、守れた」
その瞬間、時計の針がまたぐぐっと跳ね上がる。
「ぐぅっ……!」とライが崩れ落ちると同時に、モフドラが再び「ぷしゅ〜」と湯気を吐いた。
「雪崩より恐ろしいのは、若様の恋腹でございますな」
バルドが冷静に締めると、一行の疲労と笑いが混ざったため息が雪山にこだました
雪崩をしのいだ一行は、風下の岩陰に身を寄せていた。
雪面は白い筋を描き、さっきまで荒れ狂っていた雪の流れが、まるで怪物の通り道みたいに残っている。
空は雲の切れ間から少しだけ光が差し込み、白銀の世界をほんのり紫色に照らしていた。
吐く息は白く重く、音まで凍りついたように静かだ。
「温かいものをどうぞ」
バルドが小さな鍋を取り出し、ベリーを浮かべた温スープを配る。
赤い果実が湯気の中でゆらゆら揺れ、甘酸っぱい香りが漂った。
ところが、ユキノが鍋の近くに座ると——湯気がしゅんと縮んだ。
逆にユキノが離れると、モワッと復活する。
「人間冷蔵庫と湯気の押し相撲〜!」
ミーナが実況し、両手で湯気の勝敗を判定するように振り回す。
「……ユニークすぎるね」
ロイスが額に手を当てるが、口元はかすかに笑っていた。
ライはスープを受け取りながら、モフドラをお腹に乗せる。小竜は「ぷしゅ〜」と湯気を吐き、なぜかハート型に見えた。
「若様、心拍針が恋愛上昇トレンド入りでございますな」
ミーナがノートに矢印を書き込み、バルドは「本日も好調な恋腹市場」と毒を添えた。
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温かさに少し落ち着いたところで、ライはユキノに手袋越しのスープを差し出した。
二重にした手袋の表面で、彼女の指先がそっと触れる。氷の糸のような髪が光を反射してきらめいた。
「君の冷気は弱点じゃない」
ライは短く言った。
「さっき、みんなを守った。強さだ」
「……あ、あわわ……」
ユキノは耳まで真っ赤にし、目を伏せる。
その瞬間、ライの懐中時計の針がぐぐっと跳ね上がった。
「っ……!」と腹を押さえるライ。
「恋腹、軽度の発作。温スープと小竜での対処を推奨いたします」
バルドが医者みたいに言い、ミーナは「トレンド継続中!」とさらに矢印を描いた。
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「一帯は静かだ」
ロイスが周囲を確認して戻ってくる。
「主はまだ遠い」
「なら、今のうちに接近ルートを探る」
ライが雪に小枝で地図を描く。
直線は危険、尾根を巻く細道が安全。
「風で吹き溜まりを払う。ユキノは足場を固めてくれ」
「は、はいっ!」
ユキノは胸を張るが、足元の雪にズボッと埋まって転びそうになる。
「……まずは地面に勝ちましょうな」
バルドが淡々と締めると、ミーナが
「フラグどんどん立ってるよ!」とメモを取った。
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稜線の上は、風に削られた雪面が波みたいに連なっていた。靴底がキュッと鳴り、木々は霧氷でトゲトゲに光っている。
「氷を張って、滑走路に」
ライが指示すると、ユキノは「やってみます!」と両手を広げた。
次の瞬間——ピッカピカの氷面が完成。
「キャーッ!」
ミーナが勢いよく滑っていき、ロイスが慌ててロープで確保。ズザザッと雪煙を上げて停止。
「磨きすぎは床も評判も滑りますな」
バルドが首を振り、ユキノは真っ赤になって肩を落とす。
だがライは「段をつければ止まれる」と具体的に助言し、二人で微調整を繰り返す。
やがて“止まれる滑走路”が完成した。
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夕暮れが近づき、雪面は紫色に染まる。氷壁は星みたいに光り、風はやんで静まり返っていた。
作戦の復習が終わり、皆が散ったあと。
ユキノがライに近づき、二重手袋をじっと見つめる。
「さっき……守ってくれて、ありがとう」
「当然だ。仲間だから。君の居場所を取り返すのは、君の誇りだ」
ユキノは小さな氷の欠片を差し出した。淡い青色、涙の形をした“解けにくい御守り”。
「これ……私が一人だった時に作ったもの。もし……明日もそばにいてくれたら……あわわ……」
ライはゆっくり受け取り、手袋ごしにユキノの指先をほんの一瞬だけ挟んだ。
「いるよ。——約束する」
その瞬間、懐中時計の針が限界まで跳ね上がる。
「ぐ……っ!」とライが膝をつくと、モフドラが「ぷしゅーー!」とダイブし、お腹を温めた。
「誓いは熱く、腹は冷静に——両立が肝心でございます」
バルドが毛布を肩にかけながらまとめた。
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夜の冷えが戻り、星が瞬き始める。
遠くの洞窟から低い唸り声が一度だけ響いた。
ライは御守りを胸ポケットにしまい、雪に描いた地図を見直す。
「明日、迎え撃つ。無理はしない。誠実に勝つ」
ユキノはこくりと頷き、二重手袋の上から自分の指をぎゅっと握った。
“溶けない握手”のリハーサル。
「住処の鍵は見つかりましたな」
バルドが最後に言う。
「扉を開ける合鍵は——信頼でございます」
今回のエピソードは、雪山の厳しさの中で仲間との信頼を確かめ合う回になりました。
ユキノの「役に立ちたい」という必死の思いと、ライの「誠実に支える」という姿勢が、ようやくかたちになって結ばれたように思います。
氷の御守りは小さなものですが、それは彼女にとって「失わないでいたい居場所」の象徴であり、ライにとっては守るべき誓いの証でもあります。
物語はまだ続きます。次はいよいよ“山の主”との決戦。ここまで読んでくださったあなたのブックマークや感想が、作者にとって本当に大きな力になります。どうかこれからも、物語の旅を一緒に歩んでいただければ嬉しいです。
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