第34話 雪女、手袋五秒 心は一瞬
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吹雪がやんだ雪山の朝、ライとユキノは「ふれたら溶ける」問題に正面から挑みます。二重手袋で3秒→5秒の接触テスト、氷の“お魚ハート”プレゼント、合図の袖つかみ練習でまさかの転倒イベント、そして黒マントをそっとかける名場面まで。懐中時計の針(=恋腹メーター)は跳ねっぱなし。
「続きも追うぞ!」と思ったら、ブックマークよろしく! 君の一押しが物語の火を守ってくれる。
雪山の朝は、思った以上に静かだった。
昨日まで吹き荒れていた吹雪はやみ、空気は冷たいが、澄んだ青が広がっている。
窪地に作った焚き火は、炭の赤がまだ残っており、かすかに煙を立てていた。
ロイスは崖の上で見張りをしている。
金髪をなびかせ、剣の柄に手を置いた姿はやけに絵になる。
バルドは落ち着いた手つきで装備の確認を続けていた。
一方、ミーナは寝袋の中から親指だけを出して
「がんばれー」とサインを送ってくる。
空気を読んだつもりなのかもしれないが、寝袋の中でガサガサ動いているせいで逆に目立っていた。
ライはユキノの方へと歩み寄る。
「昨日は三秒だけ触れられた。今日はもう少し試してみよう」
ライは冷静にそう言い、手袋を外し代わりに重ねた厚手の手袋をはめる。さらに懐から布を取り出して、接触面を二重にカバーした。
「……え? また試すの……?」
ユキノは目を丸くした。雪のように白い頬がほんのり赤く染まる。
「で、でも……失敗したら、溶けちゃうかも……あわわ」
「問題ない。段階を踏めばいい」
ライは落ち着いた声で言い、手を差し出す。
ユキノは小さく息をのみ、勇気を振り絞って指先を重ねた。
——三秒。
手袋の表面が白く曇ったが、無事だった。
「……!」ユキノの瞳がぱっと明るくなる。
「できた……!」
「次は五秒だ」
ライが小さくうなずく。ユキノは深呼吸をして、再び手を重ねる。
今度は曇りがじゅわっと広がった。だが崩れることはない。ユキノの唇が震えた。
「わ、私、本当に……!」
そのときだった。
ライの銀の懐中時計の針がぐぐっと跳ね上がる。
「ぐっ……!」
お腹を押さえて前屈みになる。
すかさずモフドラが飛び乗り、「ぷしゅ〜」と湯気を吐き出した。
「大丈夫?」ユキノが慌てる。
「……問題ない。君の成長は確かだ」
苦しそうな表情を浮かべながらも、ライは真剣に言い切った。
だが次の瞬間、事件は起きた。
ユキノが焦って手を離そうとした拍子に、間違えてライの手袋の端をつまんだまま引いてしまったのだ。
二人の距離は一気に縮まり、顔が至近距離に迫る。
「ち、近い……!」
「ひゃ、ひゃいっ!? あわわっ!」
互いに硬直。モフドラまで「ぷしゅ〜!?」と驚いた声を上げる。
寝袋の中のミーナがバサッと動いたが、今度はさすがに空気を読んで声を飲み込んだ。
バルドだけが遠くから冷静に言う。
「若様、距離感の管理は剣術にも恋愛にも必須でございます」
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ユキノは顔を真っ赤にしながら、気をそらすように手を振った。
「わ、私……お礼に氷で何か作ります!」
彼女は両手に冷気を集め、キュッと集中する。
「……えいっ!」
できあがったのは——丸っこい、ハートのはずが横に伸びてしまった氷のかたまり。
「……お、お魚になっちゃった……あわわ」
ユキノがしょんぼりとうなだれる。
「ナイス!かわいい!」
ミーナが親指を立て、記録ノートに「氷魚(?)プレゼント」と書き込む。
ロイスは肩をすくめてため息をつく。
「芸術は爆発じゃなくて……凍結だな」
ユキノは慌てて氷の像を隠そうとしたが、ライはそのまま受け取り、そっと掌に置いた。
「ありがとう。形ではなく、気持ちが伝わる。それで十分だ」
その言葉にユキノの胸がどきんと鳴る。
耳まで赤くなり、俯いてしまった。
懐中時計の針は再び上昇。
ライはお腹を押さえてうずくまり、モフドラが定位置で湯気を吐く。
「……なんで私、こんなにドジなのに……ライさん、ちゃんと見てくれるんだろ」
ユキノの小さなつぶやきが、冷たい空気に溶けていった。
焚き火の炎がゆらめき、雪洞の中にオレンジの光を投げていた。
ユキノは炎に手をかざしながら、小さな声でつぶやいた。
「わ、私……もっと普通に、人と接したいんです。転んだり、冷気を出しちゃったりして……迷惑ばかりで」
その言葉に、ライはすぐさま答えた。
「なら、一緒に練習しよう」
「え、練習……?」
「呼吸を合わせるんだ。まずは息を吸って、吐く」
ライが背筋を伸ばし、堂々と息を吸い込む。
ユキノも真似して胸をふくらませ、勢いよく「ふーっ」と吐いた。
――ボフッ!
冷気が巻き散り、焚き火が一瞬でしぼんだ。
「炎が消えたー! 恋の炎が吹き消されたー!」
ミーナがノートを振り回して大騒ぎ。
「……黙れ」
ロイスがノートごと彼女の頭を小突く。
ライは落ち着いて再点火すると、真剣な顔でユキノに向き直った。
「冷気もまた君の力だ。否定する必要はない」
その瞬間、懐中時計の針がビクンと跳ね上がる。
「ぐっ……キリキリ……!」
ライが腹を押さえた。
すかさずモフドラがちょこんと乗り、「ぷしゅ〜」と湯気を吐く。お腹がほんのり暖かくなる。
「若様の恋腹、もはや自動反応でございますな」
バルドが涼しい声でまとめた。
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ひと息ついたところで、ユキノはおずおずと切り出した。
「で、でも……転んだりしたら、きっとご迷惑を……」
「じゃあ、合図を決めよう」
ライは袖口を軽く持ち上げて見せた。
「危ない時は、僕の袖をつかめばいい」
「や、やってみます!」
ユキノが勢いよく袖をつかむ。――ぐいっ。
「おわっ!?」
ライの体が後ろに引っ張られ、そのまま雪に倒れ込む。
その上にユキノがバサッと倒れ込み、二人の顔が至近距離に。
雪と焚き火の光に包まれて、しばし沈黙。
「あ、あわゎゎ……ち、近すぎる……!」
ユキノの顔は真っ赤。
ライも真顔を装いつつ、耳まで赤く染まっていた。
「キターーーッ! これはヒロインルート直通イベント!」
ミーナが立ち上がって叫ぶ。
「うるさい!」
ライが雪玉を投げつけ、ミーナはノートごと雪に埋まった。
「若様、恋は受け身より、前受けが大事ですぞ」
バルドの意味深な助言に、ライは真っ赤になりながらユキノを起こした。
「……次は、軽く引くだけでいい」
冷静を装った声だったが、懐中時計の針はグルグル回り、腹痛が再び襲う。
「ぐぅっ……!」
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やがて焚き火が弱まり、冷たい風が洞窟に吹き込む。ユキノが肩を震わせたのを見て、ライは黙って黒いマントを外した。
「雪女でも寒いだろう。使え」
そう言って彼女の肩に掛けてやる。
黒地に深紅の裏地がちらりと見え、雪の白さの中で鮮やかに映えた。
ユキノの頬まで赤く染まり、俯いたまま小さく声を漏らす。
「……ありがとう。私なんかに、こんな……」
「完全に口説いてる……!」
ミーナがノートを開き何かを書いている。
「君はノートに何書いてるんだ……?」
ロイスがため息交じりに突っ込んだ。
バルドは焚き火を見つめながら、締めるように呟いた。
「若様、雪山の寒さは火で防げますが……胸の寒さは、恋でしか溶けませぬな」
ライは返事をせず、ただお腹を押さえてうつむいた。
懐中時計の針は、まだ小刻みに震えていた。
今日は“できない”を“できるかも”に変える回。
ユキノの「溶けるかも」という不安は、段階を踏むことで小さくなる。ライの「恋腹」という弱点は、誰かを大事に思うほど騒がしくなる。二人とも完璧じゃない。でも、手袋越しの五秒が、ちゃんと前へ進んだ印でした。
次回はいよいよ“山の主”が近い。練習でそろえた呼吸は、戦いでも役に立つのか? ライの黒マントは、今度は誰を守るのか?
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