第33話 雪女、白の渦で出会った名前
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王都を出たライたちは、真っ白な渦みたいな吹雪の中で“白い影”と遭遇。そう、今回のキーパーソンは氷色の瞳をもつ少女――ユキノ。ドジっ子ムーブ全開だけど、住処を奪われた本気の理由も判明して、物語はコメディから一歩シリアスへ。
「続き、絶対見逃したくない!」と思ったら、ブックマークしてくれると超うれしいです。君の一押しが、次の展開の燃料になります!
山は一面、真っ白だった。
雪は空から降るだけでなく、地面からも舞い上がってくる。吹きつける風が細かい雪の粒を巻き上げ、前も横も上も下も、すべてが真っ白な渦に飲まれていた。視界はぼやけ、足元さえ見えにくい。
ライはそんな状況でも歩幅を崩さなかった。
長い足を一定に動かし、深い雪に沈みこまないよう足を抜く角度まで正確に計算して進んでいく。頼りない足場の上でも、まるで道が見えているように迷わない。
「……ただ事じゃない気配だな」
ロイスが剣に手をかける。彼の金髪は雪を受けて光を失い、顔の横にへばりついていた。
「出会いイベント来たー!」
そんな緊張を吹き飛ばすように、ミーナが大声で叫び、背中のかばんからノートを取り出す。
ページには「恋愛フラグ」だの「ヒロイン候補」だの、怪しい単語がずらりと並んでいた。
「若様、怖いのは吹雪でしょうか。それとも、いつものご尊顔でしょうか」
バルドが目を細めて、いつも通り毒を吐く。ライは聞こえなかったことにして歩を進める。
そのときだ。
吹雪の向こうから、ゆらりと“白い人影”が浮かび上がった。
髪は雪のように白く、よく見ると淡い水色が混じっている。
瞳は氷の欠片みたいに澄んだ青。
肌は白磁のように透き通り、冷たい空気をまとった姿は本当に伝説にある「雪女」そのものだった。
肩までの毛皮のショールが風にひるがえり、淡い水色の外套は光を反射して輝いて見える。
「本当に……雪女みたいだね」
ロイスが思わずつぶやき、剣を抜き放つ。
その瞬間だった。
「わ、わわっ……きゃあぁぁぁっ!?」
神秘的な雰囲気は一瞬で吹き飛んだ。雪女は自分の裾を踏んで派手に前のめりに転倒。そのままゴロゴロと斜面を転がり、雪に顔から突っ込んだ。
ズボッ。
雪面にきれいな人型の穴が空き、両足だけがひくひく動いている。
「……」
「ドジっ子確定!」
ミーナが大喜びでノートに大きく丸を書き込んだ。
「雪よりも重いのは……お約束ですな」
バルドが冷静にまとめる。
やがて、雪の中から顔を出した少女があたふたと叫んだ。
「み、見なかったことにしてくださいっ!」
慌てて立ち上がった少女は、両手に青白い光を集めた。
「こ、これでもう油断はさせないんだから! 氷よ……えいっ!」
次の瞬間。
「わわわっ!?」
飛んだ氷の矢は、なぜかUターンし、見事に自分の髪の毛に直撃。バキンッと音を立てて髪がガチガチに凍り、氷柱のように硬く固まってしまった。
「セルフ氷漬けヒロイン誕生!」
ミーナが腹を抱えて笑い転げる。
「見た目は美しいのに……どうしてこうなるんだ」
ロイスも剣を納め、ため息交じりに肩をすくめる。
ライはじっとその姿を観察していた。吹雪の流れ、魔力の波、動作の癖——すべてを見極めると、ひとつの答えが出る。
「……彼女は敵ではない」
冷静に言い切った。
「若様にとって危険なのは、むしろそのお顔と“恋腹”でございますな」
バルドが淡々と毒を添える。
「ぐぅ……!」
ライはお腹を押さえて顔をしかめた。銀の懐中時計の針は、じわりと大きく跳ね上がっていた。小さなモフドラが腹の上に乗って「ぷしゅ〜」と湯気を吐き、温め始める。
氷の髪を揺らしながら、少女は真っ赤になって頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! 私、びっくりして攻撃しちゃった……あわわ」
彼女は名を名乗った。
「わ、私はユキノ。この山のふもとの氷の洞窟に住んでいました。でも……山の主に住処を奪われちゃって……」
ユキノの瞳に涙がにじむ。
「だから、取り返したいんです。あそこは……私の居場所だから!」
「おおっ、これは恋愛フラグじゃなくて住処フラグ!」
ミーナはまたノートに勢いよく書き込み、ページがビリッと破れそうになった。
ライは真顔でうなずく。
「なるほど……理由は理解した。誠実に協力していこう」
その瞬間、時計の針がまた跳ね上がり、ライの腹がきりきりと悲鳴をあげた。
「住処を奪う魔物よりも、心を奪う乙女のほうがよほど恐ろしいですな」
バルドが締めの一言を放ち、雪混じりの風にその声が溶けていった。
吹雪の勢いは弱まったものの、雪の斜面はまだ白く煙っていた。
ライは腕を組み、冷静に言った。
「目的は二つだ。ユキノの住処の確認と、“山の主”の痕跡を押さえる。最初は交戦は避ける」
そのきっぱりした声に、ユキノは「は、はいっ!」と背筋を伸ばした。が、次の瞬間――。
「こ、この辺りが近道で……あわっ!」
彼女は自分の袖を踏んでズコッと前のめり。雪に顔を突っ込んだ。
ロイスが慌てて腕を引き上げる。
「もっと、自分の足元をみたほうがいいよ」
「み、見なかったことにしてくださいっ……!」
バルドはため息をつきながら首を振る。
「案内人の最低条件は、まず転ばないことですな」
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彼らは雪を踏みしめて進んだ。
斜面は青白く光り、枝に積もった氷が風で鳴り、低い音を響かせる。
ライは雪の硬さを確認しながら歩幅を調整。風魔法で吹き溜まりを払い、先頭を進んだ。
ミーナがユキノに縄を結んで“転倒防止”を用意するが、なぜか自分の腰にくくりつけて二人三脚状態に。
「いっしょに転んだらもっと危ないだろ!」
「わ、わわっ、ごめんなさい!」
結び目をほどき、再出発。
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やがて岩肌がのぞき、洞窟の口が現れた。
氷が青白く輝き、周りの雪面には巨大な爪痕や押しつぶされた跡。吹きだす冷気は生き物の息のように重い。
「大きな獣が出入りしてるようだね」
ロイスが眉をひそめる。
ライは氷面に指をあて、魔力の流れを読む。
「強い冷気が内側から押し出された跡だ。今は不在だが、寝床として使われている可能性が高い」
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ライは氷面から目を離し、静かにユキノの方へ向き直った。
そして、ためらいなく片手を差し出す。
「危険でも、君ひとりに背負わせはしない」
伸ばされた手を見たユキノは、ぱっと顔を赤くして身をすくめる。
「で、でも……」
ユキノは小さく手を握りしめた。
「私、人に触れると溶けちゃうんです。転んでぶつかったら……」
ライは落ち着いて布を取り出した。
「なら布を重ねるんだ。二重の手袋越しなら大丈夫なはずだ」
バルドがすばやく包帯を巻き、厚手の手袋を二枚重ねにして渡す。
「恋も冷気も、“重ね着”が肝心ですな」
ユキノは恐る恐る、ライの手袋に指先をちょんと触れる。
手袋の表が白く曇るが、溶け落ちはしない。
「……大丈夫、みたい」
ユキノは安堵の笑みを浮かべた。
「成功! 二重手袋は愛と安全の架け橋!」
ミーナがノートに書き込み、ロイスがすぐ突っ込む。
「その名前はやめろ」
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洞窟の中は、外とは別世界だった。
氷の壁は薄青く光り、閉じ込められた気泡が星みたいにきらめく。
足音が低く響き、冷気が肌を刺す。
「こ、ここ……私が磨いた壁です。あの角でよく足をぶつけて“ヒーッ”て叫んで……あわわ」
ユキノは真っ赤になって口を押さえる。
ミーナは「“ヒー現場”確認!」とメモを取った。
ロイスは「何でそんなの記録してるのかな……」と呆れた。
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洞窟の奥には大きな足跡、引きずられた獲物の跡。鼻を突く獣臭。
そして、小さな空間に氷の棚と椅子、欠けた氷のカップ。
ユキノは震える手でそのカップを拾い、胸に抱いた。
「絶対、取り返す……ここは、私の居場所だから」
ライは静かにうなずいた。
「その意思を守ろう」
その一言で、懐中時計の針がぐぐっと跳ね上がる。
「ぐっ……!」ライは腹を押さえた。
即座にミーナがモフドラをお腹に乗せる。「ぷしゅ〜」と湯気が上がり、腹痛が落ち着く。
「恋腹は早期消火が肝心ですな」
バルドが涼しい顔で言い、ロイスが「火事じゃないだろ」と突っ込む。
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その夜、彼らは洞窟から少し離れた窪地で焚き火を囲んだ。
雪上に描かれた作戦図。分岐、崩落地点、“主”の寝床らしき広場。
「明日、ここで迎え撃つ。まずは様子見だ」
ライの声に、全員がうなずいた。
「みんなが一緒なら……あわわ、がんばれる!」
ユキノが立ち上がるが、裾を踏んで再び転倒。
ミーナのロープに救われた。
「結束、物理的にも強まったな」
ロイスが皮肉を言い、バルドがまとめる。
「信頼とは、ほどよい締め具合が大事でございます」
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遠くで、低い唸り声が響いた。山肌がわずかに震える。
冷たい風が方向を変え、獣の匂いが濃くなる。
「戻ってくるな……」ライは焚き火を見つめ、静かに言った。
ユキノは氷のカップを胸に抱きしめながら、眠りにつく。
その様子を見届けたバルドが、小声でささやいた。
「若様、住処は取り返せましょう。しかし、奪われた心まで取り返すのは……腹のご覚悟を」
吹雪の中でも歩幅を崩さないライ、雪柱になるロイス、全力でフラグを立てるミーナ、安定の毒舌バルド――おなじみの面々に、ユキノが加わりました。
彼女は笑って転ぶ“日常”を持ちながら、奪われた住処という“理由”も持っている。ライが差し出した手は、二重手袋越しでもちゃんと届いたはず。ここからは「取り返す物」と「守りたい心」が、同じ場所でぶつかります。
次回は洞窟の奥、そして“山の主”の痕跡へ。ライの懐中時計の針は上がりっぱなし、恋腹は大丈夫なのか!?
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