第32話 雪女、雪山の影と不思議な歌声
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いよいよ雪山編が本格的に動き出しました。ライたちの遠征は、雪に埋もれながらも笑いとドタバタに満ちています。ですが同時に、不気味な白い影と歌声という、ただのコメディでは終わらない展開も……。
「次はどうなるんだろう?」と感じてくださった方は、ぜひブックマークをしてお待ちください!応援がとても励みになります✨
朝。
雪はやんだが、王都の街はまだ白く埋もれていた。通りも市場も静まり返り、人々は家にこもったまま。外に出ているのは、遠征へと向かうライたちだけだった。
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宿の土間で、ライは旅支度を確認していた。
雪靴、命綱ロープ、毛布、薬草入りの救急袋。並べられた装備は無駄がなく、まるで兵士の行軍準備のようだ。
「完璧だ」
低い声で言い切るライ。だがその顔があまりにも真剣すぎて、横にいたミーナがぴょんと跳ねた。
「若様! その顔、雪より冷たいです!」
「……黙ってろ」
バルドはヒゲをひねりながら、隣の荷物を確認してぼそり。
「若様、燃料オイルに混じって……ピクルスの瓶が入っておりますな」
「えっ!? あ、それ、私が!」
ミーナが慌てて取り出した。黄色いラベルにはしっかり“ピクルス”の文字。
「……栄養にはなりますが、燃えはしませんぞ」
淡々と突っ込む執事。ミーナは赤くなって「えへへ」と笑うしかなかった。
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「準備はできた」
ロイスが外套を翻し、氷対策の短剣を見せびらかす。金の髪に雪を散らしながら、キラキラと決めポーズ。
「雪だろうが氷だろうが、僕の敵ではない」
……が。
ズボッ!
外へ一歩踏み出した瞬間、ロイスの足が腰まで雪に埋まった。
「なっ……!?」
優雅な姿勢のまま必死にもがくロイス。
「ロイス様! 雪柱貴族だー!」
ミーナは大爆笑。
「誰が柱だ!」
ロイスは顔を真っ赤にして叫ぶ。
バルドは無言でロープを引いて助け出し、冷静にひと言。
「お見事。埋まり方まで貴族的でございますな」
「誉めてないだろ!」
ロイスが声を張り上げ、再びミーナが笑い転げた。
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街道を抜け、林の中へ。
枝から落ちる雪にびくつくミーナ、前を歩くライは地図を広げ、杖で雪面を確認しながら進む。
「足場の硬さに注意しろ。誤差は一刻以内に抑える」
ライの指示は簡潔で頼もしい。
……が、その真顔はやっぱり怖い。
「ライ様! 顔が冷たい! 氷より冷たい!」
「ミーナ、黙って歩け」
その直後。
「わああああ!」
ミーナが勢いよく雪に沈み込んだ。頭だけ出して、まるで雪まんじゅう。
「雪まんじゅう! 私が具になったー!」
ロイスが命綱を引いて引き上げると、ミーナは満面の笑み。
「命綱って、イケメン機能ですね!」
「……用意したのはライだけどね……」
ロイスが小声でつぶやいたが、誰も気づいていなかった。
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さらに進むと、凍った木橋に差しかかる。
表面は鏡みたいにツルツル。
ライは砂袋を出し、雪の上に撒いてすべり止めラインを作った。
「これで安全だ。順番に渡れ」
「はいっ!」ミーナが元気よく先頭へ。
……ツルンッ!
勢い余ってすぐ転倒。命綱にぶら下がり、ブランブランと宙づり状態に。
「わー! 自動巻き戻しだー!」
「遊具ではないんだが……」
ライが真顔で言うと、橋の上の全員が吹き出した。
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休憩の時間。
携帯かまどで雪を溶かし、温かい生姜湯を作る。
ミーナが粉をどばっと入れすぎて、甘ったるい匂いが立ち込めた。
「……蜂が寄ってきそうでございますな」
バルドの淡々コメントに、ロイスが
「飲めるのかなこれ」と顔をしかめる。
ライは黙って一口。
「……甘すぎる」
しかし湯気と熱で頬が少し赤くなり、腹の痛みが和らいでいるのをモフドラが「ぷしゅ〜」と湯気で知らせていた。
「やっぱり温泉があれば最強なんですよ!」
ミーナは雪の上に棒で落書きを始め、「雪山温泉ツアー計画」を描いてニヤニヤ。
「遊びではないんだぞ」
ライの冷たい突っ込みで、また場が笑いに包まれた。
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夕方近く、稜線の手前にさしかかる。
風は強まり、雪面がギュムッと重く沈む。
そのときロイスが小型の望遠具を取り出し、前方をのぞいた。
「……白い影が、一瞬見えた気がする」
「雪女!?」ミーナが目を輝かせる。
「断定は早い」ライは短く返す。
「まずは安全。接触は会話からだ」
言い切ったその瞬間、風にまぎれて、かすかな歌声のようなものが流れた。
全員が一瞬だけ足を止める。
……が、すぐに消える。
「稜線下の岩陰まで移動するぞ」
ライの判断で隊は進み、白い世界の中に小さな足跡の列を残した。
その背後に、もうひとつ細い足跡が並んでいることに、まだ誰も気づいていなかった――。
雪山のふもとに着いた一行は、岩陰を見つけて野営を始めた。
風が冷たく、吐く息はすぐに白く広がって消える。
「火を起こす。薪は濡れているが、魔法で乾かせば使える」
ライは手際よく枝を集め、炎の魔法で焚き火を整えた。
ぱちぱちと火花がはじけ、冷え切った空気に少しずつ温もりが広がっていく。
「さすが若様! 氷点下でも完璧ですね!」
ミーナが目を輝かせる。
「……顔は怖いですが」
バルドがひげを撫でながらぼそり。
「努力で直せるものなら、とっくにしている」
ライはため息をついて返した。
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やがて夕食の準備が始まる。
「任せてください! 今度こそ侍女の腕を見せます!」
ミーナは雪を鍋に入れ、野菜と乾燥肉をざくざく投入した。
ところが――。
「うわ、甘いのと!? しょっぱいのが!?」
ロイスが一口すすって眉をひそめる。
「……砂糖と塩、両方大量に入れたな」
ライが冷静に指摘。
「これは新ジャンルです! “ミーナ特製スイートしょっぱスープ”です!」
ミーナが胸を張る。
「舌が迷子になりますな」
バルドが冷静に言い、全員がうなだれた。
そこへモフドラが鍋にぽちゃん。
「ぷしゅ〜!」と湯気を吐きながら浮かぶ姿は、まるでミニ温泉。
「モフドラ温泉だ!」ミーナが大喜びするが、ライは真顔で鍋をかき回した。
「食材で遊ぶな」
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食後、雪がやみ、月が青白く照らしていた。
そのとき――。
「見て! あそこ!」
ミーナが指を差した。森の中で、白い影が揺れていた。
「……雪煙かもしれないね」
ロイスは冷静を装いながらも、肩に力が入っている。
「未知の存在なら、誠実に対話を」
ライが真顔で言い切ると――。
「出た! 恋愛フラグ!」
ミーナがノートに大きく書き込み、ライがじろりとにらむ。
「違う」
そのとき、風にまぎれて歌声のような音が聞こえた。
高く、かすかで、耳に残る不思議な声。
「きゃー! ロマンチック!」
ミーナが両手を合わせる。
「いや、不気味だろう」
ロイスが冷や汗をかきながら反論する。
「恋も幽霊も、現れては消えるもの……若様の縁談のように」
バルドが茶をすする音とともに毒舌を落とした。
「……勝手にまとめるな」
ライがまたもため息。
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やがて就寝の時間になった。
「私が見張りをします!」
ミーナが胸を張ったが――五分でコテン。いびきまでかきはじめた。
「はやっ!」
ロイスが思わず突っ込む。
その直後、テントの入口がふわっと白く光った。
「出た! 雪女のお見合い訪問!?」
ミーナが飛び起きて叫び、全員が外へ飛び出す。
だがそこにあったのは、雪に揺れる木立と、小さな人の足跡だけ。
「足跡からすると……、人型……いや、少女かもしれん」
ライが真剣に調べる。
しかしその顔があまりに怖く、ミーナは震えながら叫んだ。
「完全にホラー推理番組!」
バルドがぼそりと締める。
「雪も恋も、降れば積もる……若様の連敗記録のように」
「……やめろ」
ライは苦い顔をしながら焚き火を見つめた。
そのころ、岩陰の上から白い影が一行をじっと見つめていた。
月光に照らされ、風に消えそうなほど淡い姿で――。
今回は雪山での遠征初日でした。
ピクルス入りの荷物チェックに始まり、ロイスの雪柱事件、ミーナの雪まんじゅう化……と、笑えるシーンを詰め込みつつも、最後には白い影が登場。物語は少しずつシリアスに近づいてきています。
この「笑い」と「不思議」の両方が、次回以降どう絡んでいくのか……ぜひ見守ってください!
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