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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第4章 氷花雪女 ユキノ

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第32話 雪女、雪山の影と不思議な歌声

ご覧いただきありがとうございます!

いよいよ雪山編が本格的に動き出しました。ライたちの遠征は、雪に埋もれながらも笑いとドタバタに満ちています。ですが同時に、不気味な白い影と歌声という、ただのコメディでは終わらない展開も……。


「次はどうなるんだろう?」と感じてくださった方は、ぜひブックマークをしてお待ちください!応援がとても励みになります✨

朝。

雪はやんだが、王都の街はまだ白く埋もれていた。通りも市場も静まり返り、人々は家にこもったまま。外に出ているのは、遠征へと向かうライたちだけだった。


---


宿の土間で、ライは旅支度を確認していた。

雪靴、命綱ロープ、毛布、薬草入りの救急袋。並べられた装備は無駄がなく、まるで兵士の行軍準備のようだ。


「完璧だ」

低い声で言い切るライ。だがその顔があまりにも真剣すぎて、横にいたミーナがぴょんと跳ねた。


「若様! その顔、雪より冷たいです!」


「……黙ってろ」


バルドはヒゲをひねりながら、隣の荷物を確認してぼそり。

「若様、燃料オイルに混じって……ピクルスの瓶が入っておりますな」


「えっ!? あ、それ、私が!」

ミーナが慌てて取り出した。黄色いラベルにはしっかり“ピクルス”の文字。


「……栄養にはなりますが、燃えはしませんぞ」

淡々と突っ込む執事。ミーナは赤くなって「えへへ」と笑うしかなかった。



---


「準備はできた」

ロイスが外套を翻し、氷対策の短剣を見せびらかす。金の髪に雪を散らしながら、キラキラと決めポーズ。


「雪だろうが氷だろうが、僕の敵ではない」


……が。


ズボッ!


外へ一歩踏み出した瞬間、ロイスの足が腰まで雪に埋まった。


「なっ……!?」

優雅な姿勢のまま必死にもがくロイス。


「ロイス様! 雪柱貴族だー!」

ミーナは大爆笑。


「誰が柱だ!」

ロイスは顔を真っ赤にして叫ぶ。

バルドは無言でロープを引いて助け出し、冷静にひと言。

「お見事。埋まり方まで貴族的でございますな」


「誉めてないだろ!」

ロイスが声を張り上げ、再びミーナが笑い転げた。



---


街道を抜け、林の中へ。

枝から落ちる雪にびくつくミーナ、前を歩くライは地図を広げ、杖で雪面を確認しながら進む。


「足場の硬さに注意しろ。誤差は一刻以内に抑える」

ライの指示は簡潔で頼もしい。

……が、その真顔はやっぱり怖い。


「ライ様! 顔が冷たい! 氷より冷たい!」

「ミーナ、黙って歩け」


その直後。


「わああああ!」


ミーナが勢いよく雪に沈み込んだ。頭だけ出して、まるで雪まんじゅう。

「雪まんじゅう! 私が具になったー!」


ロイスが命綱を引いて引き上げると、ミーナは満面の笑み。

「命綱って、イケメン機能ですね!」


「……用意したのはライだけどね……」

ロイスが小声でつぶやいたが、誰も気づいていなかった。



---


さらに進むと、凍った木橋に差しかかる。

表面は鏡みたいにツルツル。


ライは砂袋を出し、雪の上に撒いてすべり止めラインを作った。

「これで安全だ。順番に渡れ」


「はいっ!」ミーナが元気よく先頭へ。


……ツルンッ!


勢い余ってすぐ転倒。命綱にぶら下がり、ブランブランと宙づり状態に。

「わー! 自動巻き戻しだー!」


「遊具ではないんだが……」

ライが真顔で言うと、橋の上の全員が吹き出した。



---


休憩の時間。

携帯かまどで雪を溶かし、温かい生姜湯を作る。

ミーナが粉をどばっと入れすぎて、甘ったるい匂いが立ち込めた。


「……蜂が寄ってきそうでございますな」

バルドの淡々コメントに、ロイスが

「飲めるのかなこれ」と顔をしかめる。


ライは黙って一口。

「……甘すぎる」

しかし湯気と熱で頬が少し赤くなり、腹の痛みが和らいでいるのをモフドラが「ぷしゅ〜」と湯気で知らせていた。


「やっぱり温泉があれば最強なんですよ!」

ミーナは雪の上に棒で落書きを始め、「雪山温泉ツアー計画」を描いてニヤニヤ。


「遊びではないんだぞ」

ライの冷たい突っ込みで、また場が笑いに包まれた。



---


夕方近く、稜線の手前にさしかかる。

風は強まり、雪面がギュムッと重く沈む。


そのときロイスが小型の望遠具を取り出し、前方をのぞいた。

「……白い影が、一瞬見えた気がする」


「雪女!?」ミーナが目を輝かせる。


「断定は早い」ライは短く返す。

「まずは安全。接触は会話からだ」


言い切ったその瞬間、風にまぎれて、かすかな歌声のようなものが流れた。

全員が一瞬だけ足を止める。

……が、すぐに消える。


「稜線下の岩陰まで移動するぞ」

ライの判断で隊は進み、白い世界の中に小さな足跡の列を残した。


その背後に、もうひとつ細い足跡が並んでいることに、まだ誰も気づいていなかった――。



雪山のふもとに着いた一行は、岩陰を見つけて野営を始めた。

風が冷たく、吐く息はすぐに白く広がって消える。


「火を起こす。薪は濡れているが、魔法で乾かせば使える」

ライは手際よく枝を集め、炎の魔法で焚き火を整えた。

ぱちぱちと火花がはじけ、冷え切った空気に少しずつ温もりが広がっていく。


「さすが若様! 氷点下でも完璧ですね!」

ミーナが目を輝かせる。


「……顔は怖いですが」

バルドがひげを撫でながらぼそり。


「努力で直せるものなら、とっくにしている」

ライはため息をついて返した。



---


やがて夕食の準備が始まる。

「任せてください! 今度こそ侍女の腕を見せます!」

ミーナは雪を鍋に入れ、野菜と乾燥肉をざくざく投入した。


ところが――。

「うわ、甘いのと!? しょっぱいのが!?」

ロイスが一口すすって眉をひそめる。


「……砂糖と塩、両方大量に入れたな」

ライが冷静に指摘。


「これは新ジャンルです! “ミーナ特製スイートしょっぱスープ”です!」

ミーナが胸を張る。


「舌が迷子になりますな」

バルドが冷静に言い、全員がうなだれた。


そこへモフドラが鍋にぽちゃん。

「ぷしゅ〜!」と湯気を吐きながら浮かぶ姿は、まるでミニ温泉。

「モフドラ温泉だ!」ミーナが大喜びするが、ライは真顔で鍋をかき回した。

「食材で遊ぶな」



---


食後、雪がやみ、月が青白く照らしていた。

そのとき――。


「見て! あそこ!」

ミーナが指を差した。森の中で、白い影が揺れていた。


「……雪煙かもしれないね」

ロイスは冷静を装いながらも、肩に力が入っている。


「未知の存在なら、誠実に対話を」

ライが真顔で言い切ると――。


「出た! 恋愛フラグ!」

ミーナがノートに大きく書き込み、ライがじろりとにらむ。

「違う」


そのとき、風にまぎれて歌声のような音が聞こえた。

高く、かすかで、耳に残る不思議な声。


「きゃー! ロマンチック!」

ミーナが両手を合わせる。


「いや、不気味だろう」

ロイスが冷や汗をかきながら反論する。


「恋も幽霊も、現れては消えるもの……若様の縁談のように」

バルドが茶をすする音とともに毒舌を落とした。


「……勝手にまとめるな」

ライがまたもため息。



---


やがて就寝の時間になった。

「私が見張りをします!」

ミーナが胸を張ったが――五分でコテン。いびきまでかきはじめた。


「はやっ!」

ロイスが思わず突っ込む。


その直後、テントの入口がふわっと白く光った。

「出た! 雪女のお見合い訪問!?」

ミーナが飛び起きて叫び、全員が外へ飛び出す。


だがそこにあったのは、雪に揺れる木立と、小さな人の足跡だけ。


「足跡からすると……、人型……いや、少女かもしれん」

ライが真剣に調べる。

しかしその顔があまりに怖く、ミーナは震えながら叫んだ。

「完全にホラー推理番組!」


バルドがぼそりと締める。

「雪も恋も、降れば積もる……若様の連敗記録のように」


「……やめろ」

ライは苦い顔をしながら焚き火を見つめた。


そのころ、岩陰の上から白い影が一行をじっと見つめていた。

月光に照らされ、風に消えそうなほど淡い姿で――。 

今回は雪山での遠征初日でした。

ピクルス入りの荷物チェックに始まり、ロイスの雪柱事件、ミーナの雪まんじゅう化……と、笑えるシーンを詰め込みつつも、最後には白い影が登場。物語は少しずつシリアスに近づいてきています。


この「笑い」と「不思議」の両方が、次回以降どう絡んでいくのか……ぜひ見守ってください!

続きが気になった方はブックマークをポチッと押していただけると、作者は雪山でも心がポカポカになります⛄️


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