第31話 雪女、雪の王都と“山の主”討伐隊
お読みいただきありがとうございます!
今回から新しい大きなエピソードに突入します。
王都を襲う異常な吹雪、そして噂に出てきた“山の主”。ライと仲間たちは雪山へ向かうことになります。
ただし本作はあくまで「恋して腹痛コメディ」!
果たして雪山で待ち受けるのは、恐ろしい魔物か、それともまたしても恋腹か……!?
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王都は一面の雪に覆われていた。
屋根から屋根へ真っ白に積もり、道はすべて氷の坂道みたいになっている。
市場の人々は荷車を押そうとしては転び、商人たちは店先で「こんな日に客が来るか!」と頭を抱えていた。
「順番を守れ!」
「押すな押すな!」
怒鳴り声や悲鳴まで混じって、王都はまるで戦場だった。
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そんな混乱の中で、たった一人だけ冷静に動いている人物がいた。
侯爵家の跡取り、ライオネル・フォン・グランツ――通称ライ。
彼は大きなスコップを持ち、黙々と雪をかいている。動きは無駄がなく、雪は見事な直線で積み上がり、まるで氷の城壁のようになっていく。
通りの人々は思わず見惚れた。
「さすが侯爵家の若様!」
「動きが早い!」
拍手と歓声が上がる。
……が。
ライが顔を上げ、ちらっと人々を見た瞬間。
子どもが「ぎゃああっ!」と泣き出し、母親が「ありがたいけど怖い!」と頭を下げながら走って逃げていった。
「……まただ」
ライは小さくため息をつく。
その横で、侍女ミーナがキラキラした目で叫んだ。
「若様! 今こそ告白チャンスです!」
「告白とは……誰にだ」
ライの顔がさらに険しくなる。
「周囲の女性、全員です! こんな大活躍を見て、心はもうメロメロです!」
「ミーナ、口を閉じろ」
冷たく言われ、ミーナは「ひゃいっ」と口を押さえた。
執事のバルドは、ひげをいじりながらぼそり。
「若様の雪かきは芸術的。しかしお顔は……吹雪以上に人を凍らせておりますな」
「……努力で直せるものなら、とっくにしている」
ライはまたもため息。
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そこへ――。
「やあ、朝から派手に働いているじゃないか」
澄んだ声とともに、雪の中を颯爽と歩いてきた青年がいた。
金の髪が光を反射し、青い瞳は空よりも鮮やか。誰が見ても「王子様だ」と思うような完璧な容姿。
ロイス・フォン・アルベルト。王国でも名高い公爵家の息子で、ライの友人でありライバルでもある青年だ。
通りの女性たちが一斉に黄色い声をあげた。
「キャー! ロイス様だ!」
「雪でも輝いてる〜!」
その反応を見て、ライは少しだけ眉をひそめる。
並んで立つ二人。
――顔怖いライと、顔キラキラのロイス。
民衆はすぐに対比をつけてざわついた。
「あれ? 一緒にいるとライ様が余計怖く見える……」
「うぐぐ……イケメンは嫌いだ……!」
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ロイスは笑みを浮かべながら、しかし声は真剣だった。
「冗談を言っている場合じゃない。王都のこの異常な吹雪……原因は“山の主”だ」
「山の主?」とミーナが首をかしげる。
ロイスはうなずいた。
「古くから雪山に棲みついている巨大な魔物だ。今までは山奥にいたが、力が暴走して王都に影響を及ぼしはじめた」
「放っておけば、王都は雪が積もるばかり。これでは民衆も困るだろう?腕試しに我々で討伐に向かわないか?」
彼の目は真剣そのもの。
ライはすぐに理解し、短く返す。
「なるほど……、この雪には困ってたところだ。それに、山の主なら相手にとって不足はない」
ミーナがすぐさまノートを取り出し、でかでかと書き込んだ。
『共同ミッション=共同恋愛チャンス!』
「今こそ、雪山で愛を叫ぶ展開です!」
「……ミーナ」ライの目が細くなる。
「ひゃいっ」またも口を押さえるミーナ。
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そのやりとりを冷めた目で見ていたのは、妹のルチアだった。
黒い髪に大きなリボンをつけた少女は、呆れ顔で言う。
「兄上は雪山などより、婚約者探しに登った方が効率的ですわ」
「雪が積もりすぎると危険だ。領民の安全が優先だ」
ライはきっぱり言い切る。
ルチアは肩をすくめて冷ややかに返した。
「……また失恋街道ですわね」
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ルチアは腕を組んで、つんとそっぽを向いた。
「私は行きませんわ。雪で髪が乱れるなんて、ぜったいにイヤですもの」
あまりにも正直すぎる理由に、その場の空気が一瞬止まる。
「……自己中心的すぎる」ライが額を押さえた。
バルドがすかさずヒゲをひねり、淡々とまとめる。
「では、雪山へ向かうのは若様とロイス様、侍女殿にこの老骨ということで」
「よーし! 恋愛応援のために全力でついていきます!」ミーナが意味不明なガッツポーズをする。
「……戦闘応援だろ」ライは低く突っ込むが、誰も気にしていなかった。
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旅支度が始まる。
ライは魔法道具をきっちり整備。
ロイスは氷対策の剣を持ち、颯爽と準備を整える。
ミーナは「恋愛応援グッズ」と書かれた怪しいポーチを抱え、「これで絶対成功です!」と胸を張る。
バルドは胃薬、毛布、非常食……と全員分の装備を冷静に揃えていた。
その横で、手のひらサイズの小竜モフドラが雪を見て大はしゃぎ。
「ぷしゅ〜!」と湯気を吐き、せっかく作られた雪だるまを溶かしてしまう。子どもが泣き笑いする大惨事。
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「では出発する」
ライが凛々しく宣言した。
……その直後。
懐中時計の針がピクリと跳ね、ライは腹を押さえる。
「ぐっ……」
ミーナが大声をあげた。
「もう恋腹ですか!? 誰に!?」
バルドはため息をつき、冷静に毒舌を落とす。
「若様。雪山より前に、ご自身のお腹を討伐なさいませ」
庭にいた使用人たちがクスクス笑う中、ライは顔を真っ赤にして出発した。
屋敷を出ると、白い世界がどこまでも広がっていた。
王都の街道はすでに雪で埋まり、道かどうかすら分からない。吐く息は白く、頬を刺す冷気はまるで小さな針みたいだ。
「進行方向を確認する」
地図を広げて真剣に言うライ。姿勢は完璧で、声も頼もしい。
……はずなのに、あまりに真面目すぎる顔つきが怖すぎる。
「ライ様! その顔、雪より冷たいですよ!」
侍女のミーナがすかさず突っ込む。
ロイスはといえば、優雅に歩こうと前へ出た瞬間――。
ズボッ!
足が雪に深々と沈み、腰まで埋まってしまった。
「……おかしいな。雪の上でも足さばきが大事だと思ったんだけど……」
必死に格好つけるが、動きはもがくカエルにしか見えない。
「雪だるま貴族!」
ミーナが腹を抱えて笑い転げる。
「誰が雪だるまだ!」
と赤面するロイスを、執事バルドが無言で引き上げる。
「若様と違って、見た目が麗しく、ユーモアもあるご様子ですな」
「誰がユーモアセンス抜群だ!」
「そんなことは言っておりません」
とバルドは呆れ顔。
笑い声と怒号の中で、モフドラがライの肩に乗り、ぷしゅーと湯気を吐いた。場の空気がほんのり温まる。
やがて一行は凍った小川に差しかかった。
「私が先導します!」と元気よく飛び出したミーナ。
ツルンッ!
そのまま氷の上で大スピン。
「危ない!」
ロイスが飛び込んでキャッチ――したはずが、二人まとめてくるくる回転し、バシャーン!と雪水に突っ込んだ。
「……なにをしている」
呆れた声を残し、ライが魔法で乾かそうと風を吹かせる。
しかし風は強すぎ、ロイスの髪が爆発ヘアに。
「ロイス様のライオンヘッド面白いー!」
ミーナが涙目で笑い転げる。
「髪型より冷えにお気をつけを」
バルドは毛布を差し出し、火にかけた湯をすっと置く。その落ち着きぶりに、誰も逆らえなかった。
夕方、ようやく山のふもとにたどり着く。
見つけたのは古びた宿屋。木の壁はギシギシ鳴り、屋根からは雪がつららみたいにぶら下がっている。
出迎えた老婆が囲炉裏の火をくべながら言った。
「こんな吹雪は、“山の主”のせいだろうねえ」
さらに声をひそめる。
「それに……真っ白な娘の影を見たって話もあるんだよ」
「雪女!?」ミーナの目が輝いた。
「たとえ相手が雪女でも、誠実に向き合えばいい」
ライが真顔で答え、場が凍る。
「いやいやいや!」
ロイスとミーナが同時にツッコミを入れる。
バルドは茶をすする音を立てながら、ぼそりと落とす。
「雪も恋も、降れば積もる……若様の連敗記録のように」
「……勝手に積もらせるな」
ライが苦い顔をしたところで、囲炉裏の火がパチッと弾けた。
笑いと不安が入り混じる夜が、静かに更けていった。
いかがでしたか?
ライの雪かきがまるで芸術品みたいだったり、ロイスが早速「雪だるま」扱いされたりと、今回もお腹を抱えて笑える場面を詰め込みました。
でも笑いの裏では、「山の主」という新たな強敵が待っています。
さらに「真っ白な娘の影」の噂まで出てきて……雪女の登場を予感させますね。
ここから物語は大きく動き出します。
次回も楽しみにしていただければ幸いです!
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