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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第3章 召喚少女 島津カレン

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30/100

第30話 ギャル、光に消える笑顔!?

お読みいただきありがとうございます!

今回はついに、物語が大きく動きます。

ここまでドタバタと笑ってきた皆さんも、もしかしたら胸がぎゅっとなるかもしれません。

ですがご安心を――この作品は“笑って泣ける連敗物語”を目指しています。

ぜひ最後まで読んでいただければ嬉しいです!


夜明け前の屋敷。


外はまだ暗く、風もないのに、空気だけがざわざわと揺れていた。

 カレンの姿は、とうとうガラスみたいに透けはじめていた。後ろの壁の模様が、かすかに見えてしまう。


「……ライ。あたし、消えちゃうのかな」


 彼女の声も、どこか遠くから響くように聞こえる。

 ライは深く息を吸い、まっすぐ答えた。


「消えはしない。君は帰る。必ずだ」


 ルチアが古びた本を閉じ、落ち着いた声でまとめた。

「大事なのは、今のうちに返すことです。完全に薄くなる前なら、普通に戻れるはず。でも……次に呼べるかは分かりません」


 短い言葉なのに、みんなの心臓を強く叩いた。


---


 場所を移し、一行は屋敷の温室に集まった。

 ガラスの天井から、かすかな朝の光が差し込んでいる。


「これから陽キャ返還の儀式を構築します」

ルチアの指示により、全員が動き出す。


 ライは床に白いチョークで大きな円を描き、その中にカレンを座らせた。四方には水を入れた器を置き、空気を落ち着かせる。


「……転んだら笑い話にもなりませぬぞ」

 バルドがマットを敷きながらぼそり。

場が少しだけやわらいだ。


 カレンには、“こちらの思い出”を渡した。

 みんなで書いた寄せ書きノート。透けかけた手形ポスター。ミーナが縫った小さな赤いリボン。モフドラが首輪にしていた予備の鈴。

 カレンはそれを胸に抱きしめると、震える声で笑った。


「ありがとう……こんなに、ここでの思い出ができるなんて」



---


 その時――。


 温室のガラスが「キン」と鳴った。

 風はないのに、空気だけが震える。


 カレンのスマホが「ピッ」と音を立て、一瞬だけ“圏内”の表示を灯す。

 すぐに消えるが、確かに今、境目が近づいた。


 カレンの体がユラリと歪み、輪郭が薄れる。影さえ軽くなっていく。

「……あたし、ここ忘れたくない」


 ライは膝をつき、カレンの手を強く握った。

「大丈夫だ。君は帰る。ちゃんと君の体で。――そして、忘れない」


 カレンの瞳に涙がにじみ、こぼれる。

「……覚えてる。全部」


 その一言が、温室の空気を温めた。



---


 懐中時計の針が大きく跳ねる。

 スマホが「圏内」を示す。

 カレンの輪郭がギュッと縮む。


「……ねえ、ライ」

光に包まれながら、カレンはかすかに笑った。けれど、その笑みはどこか震えていた。


「もし……あたしがいなくなったら……」

彼女の声は小さく、けれど胸の奥にずしりと響く。


「ライの毎日の中から、あたしのことも消えていっちゃうのかな……? あたしがいた証拠も、思い出も……まるで最初からいなかったみたいに」


透けていく指先を見つめながら、カレンは言葉を重ねる。

「ここに来られたのは楽しかった。でも……怖いんだ。戻ったら、誰の心にも残れない気がして……」


ライは強く首を振った。

「違う!」


その声には、必死さと切なさが混じっていた。


「君が笑ったことも、怒ったことも、全部、僕の中に残ってる。忘れるなんてありえない! 僕の人生に……君はもう刻まれてるんだ!」


懐中時計の針が、キリキリと悲鳴のように揺れた。

ライのお腹は激しく痛み、膝が震える。

それでも彼はカレンの手を握り続けた。


「僕は完璧じゃない。恋では何度も失敗して、何回だって負けてきた」


ライは苦しげに笑いながら言った。

「でも――君だけは、負けじゃない」


カレンの目から涙がこぼれた。

「……そんなの、ずるいよ」

震える声が、温室の中に響いた。


ライは必死に答える。

「ずるくても構わない! 俺は、君が生きてくれるなら……それでいい!」


その瞬間、光がいっそう強まり、カレンの姿が淡く溶けていった。

残された時間は、もうほんのわずかしかなかった。


「……そんなこと言うなんて、ずるい」

涙をこぼしながら、彼女は最後の言葉を残した。

「でも……ありがとう、ライ」


ルチアが声を張る。

「今です!」


黒いリボンがほどけ、彼女の髪がふわりと揺れる。

ルチアの足元に、複雑な魔方陣が光を帯びて浮かび上がった。彼女は両手を広げ、凛とした声で唱える。


「“陽キャ召喚”の逆式――《返還ノ環》! ノリの火種を、元の世界へ送り届けよ!」


まばゆい光の柱が立ちのぼり、カレンの身体を包み込む。

その輝きは、笑い声や軽口の残響までいっしょに吸い上げるかのようだった。


ライは迷わなかった。

「君の決断を尊重する。僕の好意は、君の自由の敵じゃない。――帰って、息をしてこい」


カレンは涙でにじんだ顔を笑みに変えた。

「ライ……ありが――」


その声が途切れると同時に、光が強く脈動する。

ルチアは杖をぎゅっと握りしめ、最後の詠唱を叫んだ。

「――“陽キャ返還”!」


空気が“カチッ”と噛み合い、スマホの画面には鮮やかに「圏内」の文字。

カレンの姿が、光でも風でもなく、“音もなく”ふっと持ち上がるように消えかけていった――。



残ったのは、手のひらに残る微かな温もりだけ。


ライは膝をつき、ただそこにいた空間を見つめ続けた。


懐中時計の針は静かに落ち着きを取り戻し、淡々と時を刻んでいた。――彼女の鼓動が遠ざかったことを告げるように。


「……また、会えるかな……」

かすれた声が漏れる。

だがその顔には、不思議と安らぎがあった。


「君のことを、僕は一生忘れない」


夜風が温室を通り抜け、散った光の粒を外の空へと運んでいった。



そして、背後から控えめな声。

「若様……」

バルドが静かに歩み寄り、肩にそっと手を置いた。


「その誠実さこそが、若様の勝利でございます」


ライは答えられなかった。ただ唇を結び、光の消えた空間を見つめ続けた。


けれど、胸の奥では確かに分かっていた。

――彼女の存在は、消えてなどいない。



陽キャ返還から数日……


王都の朝は、いつもと同じように始まった。

商人たちは荷車を押し、子どもたちは笑いながら走り回る。

けれどライにとっては、すべてが少し色あせて見えた。


温室で消えていったカレンのことを思い出すたび、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

彼女が残した笑顔も、涙も、最後の「ありがとう」も。

どれひとつ欠けさせまいと、彼は心に刻み込んでいた。


懐中時計を取り出す。

針は穏やかに時を刻んでいる。

もう暴れることはない。

だが、それがかえって寂しさを教えてくる。


「……必ず、また会える」

誰にともなくつぶやいた。

それがただの願いだとしても、誠実な彼には誓いと同じだった。



日常は戻ってくる。

ミーナは「次こそ理想の見合い相手を!」と相変わらず騒ぎ、

ルチアは「兄上、また連敗ですわね」と冷たくも励まし、

モフドラは湯気をぷしゅーっと出して腹の上で丸くなる。


そしてバルドはいつもの調子で毒舌を吐いた。

「若様。またの敗北、まことにおめでとうございます」


「……祝うことじゃない」

ライはため息をつきながらも、わずかに笑みをこぼす。


「ですが」

バルドは背筋を正し、静かに言葉を続けた。

「何回振られてもなお、相手を傷つけぬ恋など、誰にでもできることではございません。

誠実を貫くお姿は、すでに勝利にございます」


ライは答えなかった。

ただ、窓の外に広がる空を見つめる。


いつかまた、あの光の向こうでカレンと出会えるだろうか。

それは誰にも分からない。

だが、彼の中にある想いは決して消えなかった。


「……連敗の先に、勝利はある」

小さくつぶやき、彼は歩き出す。


次の恋が、またどんな結末を迎えるとしても。

彼は誠実に挑み続けるだろう。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。

ライの誠実さ、カレンの眩しさ、そして仲間たちの支え――どれも欠けていたら成立しなかった回でした。

作者自身、書きながら何度も「お腹がキリキリ」しました(笑)


もし少しでも心に残ったシーンがありましたら、ブックマークや感想をいただけると励みになります!

連敗物語はまだまだ続きます。次のヒロインとの新たな騒動も、ぜひ楽しみにしていてください!


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楽しんでいただけましたか?

ぜひ☆評価で作者のやる気が上がります!

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まとめサイトはこちら!

https://lit.link/yoyo_hpcom

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― 新着の感想 ―
ライ優しすぎるんだよ。早く幸せになって。 でも、こうゆう人の関わりがライの幸せなのかな、と。
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