第30話 ギャル、光に消える笑顔!?
お読みいただきありがとうございます!
今回はついに、物語が大きく動きます。
ここまでドタバタと笑ってきた皆さんも、もしかしたら胸がぎゅっとなるかもしれません。
ですがご安心を――この作品は“笑って泣ける連敗物語”を目指しています。
ぜひ最後まで読んでいただければ嬉しいです!
夜明け前の屋敷。
外はまだ暗く、風もないのに、空気だけがざわざわと揺れていた。
カレンの姿は、とうとうガラスみたいに透けはじめていた。後ろの壁の模様が、かすかに見えてしまう。
「……ライ。あたし、消えちゃうのかな」
彼女の声も、どこか遠くから響くように聞こえる。
ライは深く息を吸い、まっすぐ答えた。
「消えはしない。君は帰る。必ずだ」
ルチアが古びた本を閉じ、落ち着いた声でまとめた。
「大事なのは、今のうちに返すことです。完全に薄くなる前なら、普通に戻れるはず。でも……次に呼べるかは分かりません」
短い言葉なのに、みんなの心臓を強く叩いた。
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場所を移し、一行は屋敷の温室に集まった。
ガラスの天井から、かすかな朝の光が差し込んでいる。
「これから陽キャ返還の儀式を構築します」
ルチアの指示により、全員が動き出す。
ライは床に白いチョークで大きな円を描き、その中にカレンを座らせた。四方には水を入れた器を置き、空気を落ち着かせる。
「……転んだら笑い話にもなりませぬぞ」
バルドがマットを敷きながらぼそり。
場が少しだけやわらいだ。
カレンには、“こちらの思い出”を渡した。
みんなで書いた寄せ書きノート。透けかけた手形ポスター。ミーナが縫った小さな赤いリボン。モフドラが首輪にしていた予備の鈴。
カレンはそれを胸に抱きしめると、震える声で笑った。
「ありがとう……こんなに、ここでの思い出ができるなんて」
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その時――。
温室のガラスが「キン」と鳴った。
風はないのに、空気だけが震える。
カレンのスマホが「ピッ」と音を立て、一瞬だけ“圏内”の表示を灯す。
すぐに消えるが、確かに今、境目が近づいた。
カレンの体がユラリと歪み、輪郭が薄れる。影さえ軽くなっていく。
「……あたし、ここ忘れたくない」
ライは膝をつき、カレンの手を強く握った。
「大丈夫だ。君は帰る。ちゃんと君の体で。――そして、忘れない」
カレンの瞳に涙がにじみ、こぼれる。
「……覚えてる。全部」
その一言が、温室の空気を温めた。
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懐中時計の針が大きく跳ねる。
スマホが「圏内」を示す。
カレンの輪郭がギュッと縮む。
「……ねえ、ライ」
光に包まれながら、カレンはかすかに笑った。けれど、その笑みはどこか震えていた。
「もし……あたしがいなくなったら……」
彼女の声は小さく、けれど胸の奥にずしりと響く。
「ライの毎日の中から、あたしのことも消えていっちゃうのかな……? あたしがいた証拠も、思い出も……まるで最初からいなかったみたいに」
透けていく指先を見つめながら、カレンは言葉を重ねる。
「ここに来られたのは楽しかった。でも……怖いんだ。戻ったら、誰の心にも残れない気がして……」
ライは強く首を振った。
「違う!」
その声には、必死さと切なさが混じっていた。
「君が笑ったことも、怒ったことも、全部、僕の中に残ってる。忘れるなんてありえない! 僕の人生に……君はもう刻まれてるんだ!」
懐中時計の針が、キリキリと悲鳴のように揺れた。
ライのお腹は激しく痛み、膝が震える。
それでも彼はカレンの手を握り続けた。
「僕は完璧じゃない。恋では何度も失敗して、何回だって負けてきた」
ライは苦しげに笑いながら言った。
「でも――君だけは、負けじゃない」
カレンの目から涙がこぼれた。
「……そんなの、ずるいよ」
震える声が、温室の中に響いた。
ライは必死に答える。
「ずるくても構わない! 俺は、君が生きてくれるなら……それでいい!」
その瞬間、光がいっそう強まり、カレンの姿が淡く溶けていった。
残された時間は、もうほんのわずかしかなかった。
「……そんなこと言うなんて、ずるい」
涙をこぼしながら、彼女は最後の言葉を残した。
「でも……ありがとう、ライ」
ルチアが声を張る。
「今です!」
黒いリボンがほどけ、彼女の髪がふわりと揺れる。
ルチアの足元に、複雑な魔方陣が光を帯びて浮かび上がった。彼女は両手を広げ、凛とした声で唱える。
「“陽キャ召喚”の逆式――《返還ノ環》! ノリの火種を、元の世界へ送り届けよ!」
まばゆい光の柱が立ちのぼり、カレンの身体を包み込む。
その輝きは、笑い声や軽口の残響までいっしょに吸い上げるかのようだった。
ライは迷わなかった。
「君の決断を尊重する。僕の好意は、君の自由の敵じゃない。――帰って、息をしてこい」
カレンは涙でにじんだ顔を笑みに変えた。
「ライ……ありが――」
その声が途切れると同時に、光が強く脈動する。
ルチアは杖をぎゅっと握りしめ、最後の詠唱を叫んだ。
「――“陽キャ返還”!」
空気が“カチッ”と噛み合い、スマホの画面には鮮やかに「圏内」の文字。
カレンの姿が、光でも風でもなく、“音もなく”ふっと持ち上がるように消えかけていった――。
残ったのは、手のひらに残る微かな温もりだけ。
ライは膝をつき、ただそこにいた空間を見つめ続けた。
懐中時計の針は静かに落ち着きを取り戻し、淡々と時を刻んでいた。――彼女の鼓動が遠ざかったことを告げるように。
「……また、会えるかな……」
かすれた声が漏れる。
だがその顔には、不思議と安らぎがあった。
「君のことを、僕は一生忘れない」
夜風が温室を通り抜け、散った光の粒を外の空へと運んでいった。
そして、背後から控えめな声。
「若様……」
バルドが静かに歩み寄り、肩にそっと手を置いた。
「その誠実さこそが、若様の勝利でございます」
ライは答えられなかった。ただ唇を結び、光の消えた空間を見つめ続けた。
けれど、胸の奥では確かに分かっていた。
――彼女の存在は、消えてなどいない。
陽キャ返還から数日……
王都の朝は、いつもと同じように始まった。
商人たちは荷車を押し、子どもたちは笑いながら走り回る。
けれどライにとっては、すべてが少し色あせて見えた。
温室で消えていったカレンのことを思い出すたび、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
彼女が残した笑顔も、涙も、最後の「ありがとう」も。
どれひとつ欠けさせまいと、彼は心に刻み込んでいた。
懐中時計を取り出す。
針は穏やかに時を刻んでいる。
もう暴れることはない。
だが、それがかえって寂しさを教えてくる。
「……必ず、また会える」
誰にともなくつぶやいた。
それがただの願いだとしても、誠実な彼には誓いと同じだった。
◆
日常は戻ってくる。
ミーナは「次こそ理想の見合い相手を!」と相変わらず騒ぎ、
ルチアは「兄上、また連敗ですわね」と冷たくも励まし、
モフドラは湯気をぷしゅーっと出して腹の上で丸くなる。
そしてバルドはいつもの調子で毒舌を吐いた。
「若様。またの敗北、まことにおめでとうございます」
「……祝うことじゃない」
ライはため息をつきながらも、わずかに笑みをこぼす。
「ですが」
バルドは背筋を正し、静かに言葉を続けた。
「何回振られてもなお、相手を傷つけぬ恋など、誰にでもできることではございません。
誠実を貫くお姿は、すでに勝利にございます」
ライは答えなかった。
ただ、窓の外に広がる空を見つめる。
いつかまた、あの光の向こうでカレンと出会えるだろうか。
それは誰にも分からない。
だが、彼の中にある想いは決して消えなかった。
「……連敗の先に、勝利はある」
小さくつぶやき、彼は歩き出す。
次の恋が、またどんな結末を迎えるとしても。
彼は誠実に挑み続けるだろう。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
ライの誠実さ、カレンの眩しさ、そして仲間たちの支え――どれも欠けていたら成立しなかった回でした。
作者自身、書きながら何度も「お腹がキリキリ」しました(笑)
もし少しでも心に残ったシーンがありましたら、ブックマークや感想をいただけると励みになります!
連敗物語はまだまだ続きます。次のヒロインとの新たな騒動も、ぜひ楽しみにしていてください!
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