第3話 若様、庭園で花見と白鳥バトル!
舞踏会、お茶会に続く第3戦!
今度の舞台は王都でも人気の庭園です。
花やハーブの知識でライは大活躍――のはずが、花粉と恋腹がダブルで襲いかかる!?
果たしてライはクラリスに「誠実さ」を伝えられるのか、それともまた腹痛で退散か……。
★【ブックマーク】★してくれたら、ライの腹痛も少し和らぐ……かも?
王都の外れにある大きな庭園は、朝の光でキラキラしていた。
季節の花が並び、池の水面には白い鳥が浮かんでいる。今日は「学問庭園」の特別貸し切りの日。学園や貴族の若者が教養の一環で花を見たり、植物を学んだりする場所だ。
「見てください! じゃーん!」
門の前でミーナが得意げに取り出したのは、一枚の厚紙。
表にはでかでかとこう書いてある。
――『二人きりで静かに花見できます、これであなたも恋人ゲット券』。
「……名前が長い」
ライが顔をしかめる。
「字面がうるさい券ですな」バルドがすかさず切り捨てた。
「ちょっと! せっかく徹夜して作ったんですよ!」
門番がその券を見て目をぱちくり。
「ふ、二人きりで……んんっ??な、なんて書いてるんだ……?」
あまりに説明が長すぎて途中で詰まる。
ライが冷静に「許可証です」と言い直して、やっと通してもらえた。
クラリスは苦笑しながら「助かりました」と小声でお礼を言った。
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庭園に入ると、さっそくミーナが袋を広げた。
中にはピンク色の花びらがぎっしり。
「ここで花びらをまけば、ロマンチック度マックスです!」
「だめだ」
ライがすぐ止めると同時に、警備兵が飛んできた。
「花びらの持ち込みは禁止です! 植物に悪影響があります!」
「えっ!? 美は異物じゃないのに……」
「本日の最大の異物は、あなたの演出ですな」
バルドの一刀両断に、ミーナはしょんぼり肩を落とした。
クラリスはそんなドタバタを見て、クスクス笑っていた。
「にぎやかで楽しいです」
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花の小道を歩くと、白いバラが並んでいた。
「白いバラは“尊敬”という意味があります」ライが言う。
彼は実際に水差しを手に取り、根元へ少しずつ水を注いで見せた。
「葉っぱにかけすぎると弱るんです」
「へえ、知らなかったです」
クラリスが素直に驚く。
彼女が水差しを受け取ろうとすると、ライの手とほんの少し触れそうになった。
その瞬間――
懐中時計の針が、カツンと一目盛り上がった。
恋腹“ムズッ”。
ライはすかさず一歩引いて深呼吸。
服の中でモフドラが「ぷしゅ〜」と小さく湯気を吹く。
幸いクラリスは気づかず、楽しそうに水やりを続けた。
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次に立ち寄ったのはハーブ区画。
ライは葉を一枚摘み、クラリスに差し出した。
「これがミントです。僕の腹痛の……非常用の薬です」
クラリスは葉の香りをかいで微笑んだ。
「かわいい秘密ですね」
その言葉に、また針がカツンと跳ねた。
モフドラがあわててお腹を温める。
バルドはチラッとモフドラを睨んで
「出力を下げなさい」と無言の圧。
モフドラは「ぷしゅ…」と湯気を小さく絞った。
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温室の前に出ると、掲示板に大きな札が出ていた。
『本日、花粉多め。くしゃみに注意』。
ライは眉をひそめてつぶやく。
「風も出てきたな。気をつけよう」
「ロマンチックには、これ!」
ミーナがいきなりシャボン玉を吹き始めた。
庭園の係が飛んできて「割れると…床がすべります!」と怒られ、すぐにストップ。
バルドは小さくため息をついて
「ロマンは泡とともに消えましたな」。
クラリスは手で口を押さえ、笑いをこらえていた。
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小さなトラブルのあと、花壇の前で子どもが木札でできた名札を抜こうとしていた。
ライはしゃがんで優しく声をかけ、抜かれた木札をしっかり固定した。
そばで見ていたバルトが無言で親指を立てる。
クラリスはその光景を見て、静かに言った。
「子どもへの声のかけ方もやさしいんですね」
懐中時計の針がまたコツンと跳ねる。
ライは心の中で(落ち着け、僕は完璧だ。恋以外は…)と唱え、深呼吸した。
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一旦外に出て池の見えるベンチに腰を下ろすと、クラリスが隣に座った。
距離はほんのわずか。
ライのお腹はまた“ムズッ"と反応したが、ミントをかじってごまかす。
モフドラが控えめに「ぷしゅ」とお腹を温める。
通りすがりの少年がライの笑顔を見てビクッと固まる。
母親に手を引かれて逃げていった。
「すまない……」ライが小声で謝ると、クラリスは笑って首を振った。
「私は大丈夫ですよ」
その笑顔に、また針がひとつ上がった。
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ちょうどそのとき、風が強くなり、木に吊るされた「花粉多め」の旗がバタバタ揺れた。
「次は花のトンネルですよ!」
とミーナが張り切って先導する。
バルドは静かに一言。
「若様、本日最大の敵は、恋でも顔でもなく、花粉でございます」
ライは腹当てを軽く叩き、立ち上がった。
次なる試練を前に、針はまだ静かに揺れていた。
王立庭園の奥は人が少なく、さっきまでの花粉まみれの空気よりは少し楽だった。
ライとクラリスはベンチに腰を下ろす。二人の距離は、ほんの少し近い。
横でミーナは、なぜか袋をゴソゴソしている。嫌な予感しかしない。
「風が気持ちいいですね」
クラリスがそう微笑んだときだった。突風がまた吹き、彼女の髪飾りが空へ舞い上がった。
「危ない!」
ライはすばやく立ち上がり、長い腕でひょいっとキャッチ。
おお、完璧に決まった。クラリスはぱちぱちと目を瞬かせ、にっこりと微笑む。
「ありがとうございます。落ちてしまうところでした」
バルドが小声でぼそっとつぶやく。
「若様、今のは百点満点でございますな」
ライの胸に、少しだけ自信が宿る。
だが、横でミーナが「今だ!」とばかりに奇妙な筒を取り出した。
「静音花火吹雪チューブです! 雰囲気作りに最適!」
シュボッ! と火花が走り、花びらが舞った。
いや、正確には花粉が巻き上がった。
ライの鼻がむずむず……そして――。
「へっくしょん!!」
強烈なくしゃみ一発。
花びらも花粉も一緒になって、まるで爆発のように散った。
ミーナのスカートがばさっと舞い上がり、
「ちょ、ちょっと!」と悲鳴をあげる。
通りかかった庭師がビクッと固まった。
「な、なにかの襲撃か……!?」
バルドが慌てて説明する。
「いえ、違います。ただの……仕様でございます」
クラリスは笑いをこらえ、ハンカチで口を押さえている。ライの顔は熱くなるばかりだった。
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そのとき、池から白鳥がすーっと近づいてきた。
純白の羽、長い首。美しい鳥だ……が、白鳥はライの黒マントの裏地の赤色に目を留めた。
「……」
白鳥のくちばしがマントをツンッ。さらにツンツン。
「なっ……やめっ……」
ライは反射的に体をひねり、クラリスを後ろにかばった。結果だけ見れば、完璧なナイトムーブだ。
クラリスは「まぁ……」と赤くなったが、白鳥はそんな空気を読まない。靴までペチペチ攻撃してきた。
ミーナが叫ぶ。
「白鳥さん! 空気読んで!」
「白鳥に空気は読めませぬ」
バルドが冷静にツッコむ。
結局、ライは池の周りを少し小走りで追いかけられる羽目になった。
モフドラは肩でぷしゅーっと湯気を吹き、さらに誤解を招く。遠目の子どもが叫んだ。
「ママみて! 火竜と白鳥が戦ってるー!」
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なんとか白鳥が去り、池のほとりに再び静けさが戻った。
クラリスが心配そうにのぞき込む。
「だ、大丈夫ですか?」
「ええ……少し、体調が……」
ライは深呼吸し、ポケットからミントの葉を取り出して口に含む。
さらに祖母の手縫いの腹当てを押さえると、モフドラがちょこんと乗ってじんわり温めてくれる。
しかし懐中時計の針は、ぐんと上がって「キリキリ」ゾーン。恋腹はごまかせない。
それでも、今がチャンスだとライは思った。
「クラリス様、もしよろしければ――」
だが声は震え、顔は“いつもの怖い顔”に固まっていた。
そのとき、近くの少年が「お兄ちゃん! 帽子が!」と叫んだ。
池に帽子が浮かんでいる。ライはすかさず糸の魔法を操り、帽子をスッとすくい上げて渡した。
「すげー!」少年は大喜び。
クラリスも目を細めて、「本当に頼りになるんですね」とつぶやいた。
……その言葉でまた恋心針が跳ね、ライのお腹は再びきりきり。
「きょ、今日は……案内できてよかった……」
クラリスは心配そうに首を振った。
「無理なさらないでください。お優しいのは伝わっていますから」
そのやさしさが胸に響く。だが、同時に胃も響いた。
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退場の前に、ミーナがクラリスへ小物を差し出した。
「これ、押し花のしおりです! 運命って書いてあります!」
ライがすぐ取り上げ、裏に「ありがとう」と小さく書き直して手渡した。
クラリスは柔らかく笑って受け取る。
「次は“運命(大)”で作ります!」ミーナは胸を張る。
「まずは空気の大きさを測るのが先でございますな」バルドの一言で空気は締まった。
帰り際、白鳥がもう一度近づいたが、ライがじっと目を合わせただけでスッと引いていった。
最後に「へくしょん!」ともう一発くしゃみ。
花壇が揺れた。
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夜、ライは独りつぶやいた。
「今日の花は散った。けれど、気づかいは残った」
バルドの声が背後から響く。
「若、花粉は敵。ですが“気づかい”は味方でございます」
ミーナが元気に言う。
「じゃあ次こそ、空気づくりで勝ちましょう!」
「まずは空気を読むところからでございますな」
バルドの落ち着いた声が、庭園の夜に響いた。
庭園デートはロマンチックどころか、くしゃみと白鳥のツンツン攻撃でまさかの大混乱。
それでもクラリスはライの優しさを確かに見てくれました。
ただし、恋腹の痛みは誤魔化せず……。
一歩進んだようで後退、でも誠実さだけはブレないのがライの強み。
次回はどんな試練が待つのか、お楽しみに!
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