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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第3章 召喚少女 島津カレン

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第29話 ギャル、透けゆく手!?

学園の一室で始まった、ルチア主導の古文書実験。

「名前を呼ぶだけで魂が引き寄せられる」――その危うさが、ついにカレンの体を透かせてしまいます。

けれど、どんな状況でもボケたりツッコんだりする仲間たち。真剣さと笑いが入り混じる時間が、むしろ彼らの絆を強くしていくのかもしれません。


今回も笑って、でもちょっと切なく。ぜひお楽しみください!

(ブックマークで応援していただけると、作者も透けかけずに済みます!)


学園の一室。


分厚い古い本が机いっぱいに広がっていた。

ルチアは真剣な表情でページを繰り、指先で文字を追っている。窓の外から差し込む光が彼女の横顔を照らし、重い空気をさらに強調していた。


「……見つけました」


ルチアが顔を上げると、全員の視線が集まる。ライも背筋を正し、息をのんだ。


「まず、“アンテナが立つ”というのは、あちらの世界から引っ張られている証拠です。カレン様の身体が透けていくのも、その力が強まっているから」


その言葉に、カレンは思わず自分の手を広げた。指先が薄く、光を通している。彼女の口からは、乾いた笑いがこぼれた。


「……あーし、ホラー映画の幽霊役いけるんじゃない?」


けれど誰も笑わなかった。

場の空気は重く、全員の心に不安が広がる。


ルチアは続ける。

「完全に消える前に“送り返せば”元の姿で戻れる。けれど、間に合わなければ――魂だけが戻る可能性があると書かれています」


沈黙が落ちる。

その一言は、部屋の空気を一層冷たくした。


バルドが小さく咳払いをして口を開く。

「……つまりは、消える前に決断を下す必要がある、ということですな」


ライは拳を握り、眉をひそめた。彼の胸元では銀の懐中時計の針がじりじりと跳ねている。心のざわめきがそのまま刻まれていた。


「……だが、戻せばまた会えるのだろう?」

ライが問う。


しかしルチアは首を振った。

「そこが問題です。召喚は完全にランダム。次に誰が呼ばれるかは誰にも分かりません。再びカレン様を呼べる保証はないのです」


カレンは大げさに両手を広げた。

「えー、私ってレアキャラってこと? ガチャでSSRみたいな?」


冗談めいた口ぶりだったが、その声はどこか震えていた。


ミーナがぽつりと言った。

「次に呼ばれるのが……大根農家のおじさんとかだったら嫌ですね」


場の空気が一瞬だけ崩れた。だがすぐにまた静まり返る。

ライの横顔は真剣そのもので、誰も軽口を続けられなかった。


「……つまり」ライが低い声で言う。

「ここで消えれば、二度と会えない可能性が高い。そういうことだな」


ルチアは静かに頷いた。


沈黙の中、カレンが明るく声を張った。

「ま、でもさ。ランダムでも、また引き当てればいいじゃん! 私、運だけは強いから!」


彼女は笑顔を作ったが、透けた指先はかすかに震えている。


ライは懐中時計を見下ろす。針が一気に跳ね上がり、胸が苦しくなった。恋腹の痛みが走る。それでも彼は顔を上げ、言葉を絞り出す。


「……カレンにとって最良の方法を取る、時間は少ない……」


その声はいつになく強く、まっすぐだった。


カレンは一瞬だけ言葉を失い、頬を赤らめた。

「……やば、かっこいいこと言うなよ」


目をそらしながら小さくつぶやく。


バルドは静かにまとめに入る。

「ランダムゆえに、一期一会……。若様、顔はランダムで外れておりますが、行動はSSRでございます」


その皮肉に、わずかに笑いがこぼれる。

だが誰も油断してはいなかった。

この先に待つのは、決断と別れの可能性――その重さを、全員が胸に抱えていた。



古文書の実験が始まった。


ルチアが机いっぱいに羊皮紙を広げ、カレンは椅子に腰掛けて待っている。その横でライは腕を組み、いつものように真剣すぎる顔で観察していた。


「では、まず名前を呼んでみましょう」

ルチアが言うと、ライは深く息を吸い込む。


「カレン」


呼ばれた少女は、にっこり笑って手を振った――が、その輪郭がふっと揺らぐ。まるで映像のピントが外れるように、肩のあたりがぼやけている。


「わ、私……なんか、薄くなってない?」

カレンが自分の腕を見下ろす。指先が透けかけていて、後ろの壁がかすかに見えていた。


ライは慌てて駆け寄り、ぐっとその手を握る。

「大丈夫だ、僕がいる。……でも、これは」


その瞬間、ルチアが羊皮紙を指で叩いた。

「やっぱり出ましたね。古文書によると、“名前を呼ばれると繋がりが強まるが、長く続けると魂だけになりかける”とあります」


「おい、それ危ない実験じゃないのか!」

ライが眉を吊り上げると、妹は肩をすくめた。

「だから記録を取っているんです。安心してください、今ならまだ戻せますから」


モフドラが「プシュー」と小さく鳴き、カレンの膝に飛び乗る。温かさが伝わったのか、彼女の輪郭は少しはっきりした。


「ありがと、モフドラ……。あったかい……」


部屋の空気が重くなりすぎたので、ミーナが唐突に大きなボードを持ち込んだ。

「はい! 実験の記念に『思い出ポスター』を作りましょう! 手形をペタペタ押して、未来に残すんです!」


「……ミーナ、空気を読め」

ライの低い声が飛ぶが、彼女はまったく気にしない。インク壺を開けて、カレンの手を掴んだ。


「え、ちょ、ちょっと!? まだ薄いんだけど!?」

「逆にレアですよ! “消えかけの手形”なんて、世界にひとつです!」


インクまみれの半透明な手が、ポスターに押しつけられる。ぼんやりとした跡が残り、全員が一瞬黙り込む。


「……なんか、幽霊の落書きみたいだな」

ライがぽつりと呟き、部屋に微妙な笑いが広がった。


その後も、ノートに寄せ書きをしたり、小さな首飾りを渡したりと、「残すもの」づくりが続いた。


「これで、少しは忘れられないだろう」

ライはノートをカレンに手渡す。真剣な瞳が揺れていた。


カレンは受け取り、胸にぎゅっと抱きしめる。

「……ありがとう、ライ」


その声に、ライの懐中時計の針がぐん、と跳ね上がる。腹にずしんと痛みが走り、思わず顔をしかめた。


「うぐっ……!」


「兄上、ここで恋腹ですか。タイミングが悪すぎますね」

ルチアの冷たいツッコミが飛ぶ。


「ち、違う! これは……科学的な……いや、なんでもない!」

必死にごまかすライを見て、カレンがくすっと笑った。透けかけていた体が、ほんの少し濃く戻ったように見えた。


その小さな変化に、全員がほっと息をついた。


――だが、古文書の最後の一文が頭に残っている。

「消える前に必ず送り返すこと。そうでなければ、二度と会えない」


ライは胸の奥で、重くその言葉を反芻していた。



---


次の瞬間に向けて、場面はゆっくりと幕を閉じていく。


今回はシリアス一歩手前のコメディ回でした。

「消えゆく手形を残す」なんて一見ふざけた演出ですが、実はカレンの存在そのものを繋ぎ止めようとする、彼らなりの必死さを込めています。

ライの「恋腹」のタイミングが悪すぎるのも、この作品らしいところですね(笑)


次回はいよいよ決断に近づいていきます。

どうぞ彼らの行く末を、最後まで見守ってください!


ブックマーク&感想が、作者の心の「アンテナ」をビシッと立ててくれます!

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楽しんでいただけましたか?

ぜひ☆評価で作者のやる気が上がります!

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まとめサイトはこちら!

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