第29話 ギャル、透けゆく手!?
学園の一室で始まった、ルチア主導の古文書実験。
「名前を呼ぶだけで魂が引き寄せられる」――その危うさが、ついにカレンの体を透かせてしまいます。
けれど、どんな状況でもボケたりツッコんだりする仲間たち。真剣さと笑いが入り混じる時間が、むしろ彼らの絆を強くしていくのかもしれません。
今回も笑って、でもちょっと切なく。ぜひお楽しみください!
(ブックマークで応援していただけると、作者も透けかけずに済みます!)
学園の一室。
分厚い古い本が机いっぱいに広がっていた。
ルチアは真剣な表情でページを繰り、指先で文字を追っている。窓の外から差し込む光が彼女の横顔を照らし、重い空気をさらに強調していた。
「……見つけました」
ルチアが顔を上げると、全員の視線が集まる。ライも背筋を正し、息をのんだ。
「まず、“アンテナが立つ”というのは、あちらの世界から引っ張られている証拠です。カレン様の身体が透けていくのも、その力が強まっているから」
その言葉に、カレンは思わず自分の手を広げた。指先が薄く、光を通している。彼女の口からは、乾いた笑いがこぼれた。
「……あーし、ホラー映画の幽霊役いけるんじゃない?」
けれど誰も笑わなかった。
場の空気は重く、全員の心に不安が広がる。
ルチアは続ける。
「完全に消える前に“送り返せば”元の姿で戻れる。けれど、間に合わなければ――魂だけが戻る可能性があると書かれています」
沈黙が落ちる。
その一言は、部屋の空気を一層冷たくした。
バルドが小さく咳払いをして口を開く。
「……つまりは、消える前に決断を下す必要がある、ということですな」
ライは拳を握り、眉をひそめた。彼の胸元では銀の懐中時計の針がじりじりと跳ねている。心のざわめきがそのまま刻まれていた。
「……だが、戻せばまた会えるのだろう?」
ライが問う。
しかしルチアは首を振った。
「そこが問題です。召喚は完全にランダム。次に誰が呼ばれるかは誰にも分かりません。再びカレン様を呼べる保証はないのです」
カレンは大げさに両手を広げた。
「えー、私ってレアキャラってこと? ガチャでSSRみたいな?」
冗談めいた口ぶりだったが、その声はどこか震えていた。
ミーナがぽつりと言った。
「次に呼ばれるのが……大根農家のおじさんとかだったら嫌ですね」
場の空気が一瞬だけ崩れた。だがすぐにまた静まり返る。
ライの横顔は真剣そのもので、誰も軽口を続けられなかった。
「……つまり」ライが低い声で言う。
「ここで消えれば、二度と会えない可能性が高い。そういうことだな」
ルチアは静かに頷いた。
沈黙の中、カレンが明るく声を張った。
「ま、でもさ。ランダムでも、また引き当てればいいじゃん! 私、運だけは強いから!」
彼女は笑顔を作ったが、透けた指先はかすかに震えている。
ライは懐中時計を見下ろす。針が一気に跳ね上がり、胸が苦しくなった。恋腹の痛みが走る。それでも彼は顔を上げ、言葉を絞り出す。
「……カレンにとって最良の方法を取る、時間は少ない……」
その声はいつになく強く、まっすぐだった。
カレンは一瞬だけ言葉を失い、頬を赤らめた。
「……やば、かっこいいこと言うなよ」
目をそらしながら小さくつぶやく。
バルドは静かにまとめに入る。
「ランダムゆえに、一期一会……。若様、顔はランダムで外れておりますが、行動はSSRでございます」
その皮肉に、わずかに笑いがこぼれる。
だが誰も油断してはいなかった。
この先に待つのは、決断と別れの可能性――その重さを、全員が胸に抱えていた。
古文書の実験が始まった。
ルチアが机いっぱいに羊皮紙を広げ、カレンは椅子に腰掛けて待っている。その横でライは腕を組み、いつものように真剣すぎる顔で観察していた。
「では、まず名前を呼んでみましょう」
ルチアが言うと、ライは深く息を吸い込む。
「カレン」
呼ばれた少女は、にっこり笑って手を振った――が、その輪郭がふっと揺らぐ。まるで映像のピントが外れるように、肩のあたりがぼやけている。
「わ、私……なんか、薄くなってない?」
カレンが自分の腕を見下ろす。指先が透けかけていて、後ろの壁がかすかに見えていた。
ライは慌てて駆け寄り、ぐっとその手を握る。
「大丈夫だ、僕がいる。……でも、これは」
その瞬間、ルチアが羊皮紙を指で叩いた。
「やっぱり出ましたね。古文書によると、“名前を呼ばれると繋がりが強まるが、長く続けると魂だけになりかける”とあります」
「おい、それ危ない実験じゃないのか!」
ライが眉を吊り上げると、妹は肩をすくめた。
「だから記録を取っているんです。安心してください、今ならまだ戻せますから」
モフドラが「プシュー」と小さく鳴き、カレンの膝に飛び乗る。温かさが伝わったのか、彼女の輪郭は少しはっきりした。
「ありがと、モフドラ……。あったかい……」
部屋の空気が重くなりすぎたので、ミーナが唐突に大きなボードを持ち込んだ。
「はい! 実験の記念に『思い出ポスター』を作りましょう! 手形をペタペタ押して、未来に残すんです!」
「……ミーナ、空気を読め」
ライの低い声が飛ぶが、彼女はまったく気にしない。インク壺を開けて、カレンの手を掴んだ。
「え、ちょ、ちょっと!? まだ薄いんだけど!?」
「逆にレアですよ! “消えかけの手形”なんて、世界にひとつです!」
インクまみれの半透明な手が、ポスターに押しつけられる。ぼんやりとした跡が残り、全員が一瞬黙り込む。
「……なんか、幽霊の落書きみたいだな」
ライがぽつりと呟き、部屋に微妙な笑いが広がった。
その後も、ノートに寄せ書きをしたり、小さな首飾りを渡したりと、「残すもの」づくりが続いた。
「これで、少しは忘れられないだろう」
ライはノートをカレンに手渡す。真剣な瞳が揺れていた。
カレンは受け取り、胸にぎゅっと抱きしめる。
「……ありがとう、ライ」
その声に、ライの懐中時計の針がぐん、と跳ね上がる。腹にずしんと痛みが走り、思わず顔をしかめた。
「うぐっ……!」
「兄上、ここで恋腹ですか。タイミングが悪すぎますね」
ルチアの冷たいツッコミが飛ぶ。
「ち、違う! これは……科学的な……いや、なんでもない!」
必死にごまかすライを見て、カレンがくすっと笑った。透けかけていた体が、ほんの少し濃く戻ったように見えた。
その小さな変化に、全員がほっと息をついた。
――だが、古文書の最後の一文が頭に残っている。
「消える前に必ず送り返すこと。そうでなければ、二度と会えない」
ライは胸の奥で、重くその言葉を反芻していた。
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次の瞬間に向けて、場面はゆっくりと幕を閉じていく。
今回はシリアス一歩手前のコメディ回でした。
「消えゆく手形を残す」なんて一見ふざけた演出ですが、実はカレンの存在そのものを繋ぎ止めようとする、彼らなりの必死さを込めています。
ライの「恋腹」のタイミングが悪すぎるのも、この作品らしいところですね(笑)
次回はいよいよ決断に近づいていきます。
どうぞ彼らの行く末を、最後まで見守ってください!
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