第28話 ギャル、消えゆく線と残したい気持ち
王都の朝は静かに始まったはずなのに……またも侯爵家の面々はドタバタ大騒ぎ!
今回はカレンの「透け現象」が本格化してしまいます。
笑いあり、不安あり、そして少し切ない雰囲気も混じる回です。
「彼女はどうなってしまうのか?」と気になる方は、どうぞ最後までお付き合いください!
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王都の朝。
侯爵家の中庭はひんやりと静かで、噴水の水音がやさしく響いていた。
その中心で、みんなが集まっていた。
「よし、チェックするわよ」
ルチアが胸を張って取り出したのは、白と黒の縞模様が描かれた板。
「影チェック板」と自作の名前まで付けている。
カレンがその前に手をかざすと――。
「……あ」
縞模様が、指のすき間からうっすら透けて見えた。
「これ……まじで透けてる?」
カレンは自分の手をじっと見つめ、ふざける余裕もなくなっていた。
ルチアはきゅっと唇を結ぶ。
「段階一ね。輪郭が薄くなり始めてる。でも声や動きにズレはないから、まだ初期段階よ」
モフドラがカレンの手にちょこんと乗った。
「ぷしゅ〜」と湯気を吹くと、カレンの指先で湯気がちょっと揺れ、向こう側に抜けた。
「おお……湯気スルー現象!」
ミーナが目を輝かせて叫んだ。すぐにノートを取り出し、勝手に「湯気かわいいメーター」と書き込んでいる。
「ふざけてる場合じゃない」
ライは渋い顔でミーナの額を軽く小突いた。
「……進行はまだ浅い。だが、早めに手を打たねばならない。学園の古文書を調べに行く」
「了解です!」
ミーナは敬礼。だが手元のノートには「レベル1:うす透け、レベル2:おばけ、レベル3:透明人間」とふざけた図が描いてあった。
バルドは咳払いして一歩前に出る。
「若、冗談はさておき準備は整えてございます。埃よけのマスク、ランタン、胃薬……そして、万が一に備えて毛布も」
「……ありがとう」
ライは小さくうなずいた。
その時だった。
カレンのスマホが「ピコッ」と鳴り、画面のアンテナが一瞬だけ立った。
……すぐに「圏外」に戻る。
「ん? 今、電波立ったくない?」
カレンが目を丸くする。
ルチアはすぐに手帳に時刻を記録した。
「二度目……やっぱり偶然じゃない」
ライは言葉を少し飲み込み、それでも短く言った。
「急ぐぞ。図書塔だ」
◆
王立学園の奥にそびえる図書塔。
禁書区に入るため、分厚い扉の前で彼らを待っていたのはアグネス老魔女だった。
白髪を後ろでまとめ、細い杖をついた姿は、まるで歩く歴史そのもの。
「ふん……黒魔術の妹君が連れてきたと聞いて来てみれば。若いのに顔がやたら怖い坊っちゃんまでいるとはねえ」
「……仕様です」
ライが深くため息をつくと、ルチアは
「兄上の顔はさておき、中をお願いします」
とぴしゃり。
アグネスは小さく笑い、杖で地を叩く。
重厚な扉がギギギと開き、埃の匂いとともに冷たい空気が流れ出た。
棚には革の装丁の本がぎっしり。蜘蛛の巣の張った巻物も並んでいる。
ミーナは「うわ、アレルギー出そう!」とマスクを二枚重ね。
モフドラは「ぷしゅっ」とくしゃみして湯気を飛ばした。
「……本に湯気は敵でございます」
バルドが静かにハンカチで本を拭う。
◆
アグネスが分厚い古文書を開き、黄ばんだ紙に指を走らせる。
「おや、こんな記録があるよ」
ライとルチアが横から覗き込む。
「“線は太ければ太いほど、戻しの力も強い”」
ルチアが読み上げた。
「線……?」
カレンが首をかしげると、アグネスは机の上に紙コップを二つ置き、糸でつなげた。
「世界と世界のつながりは、この糸電話の糸みたいなものさ」
アグネスは糸をピンと張り、コップを揺らす。
「糸が太ければ、引っぱる力も強い。召喚の時に光が強すぎた……つまり線が太かったんだろうねえ」
「だから、あーしのスマホがたまに“圏内”になるのか」
カレンが手を打つ。
「そう。向こうの世界の信号が“こぼれ出す”現象だろう」
ライは真剣にうなずいた。
さらにルチアが次の行を読み上げる。
「……『薄くなる時、からだより先に“魂”が向こうへふらつく』」
カレンの笑顔が、少しだけ止まった。
「え、魂だけ戻るとか……ホラーじゃん」
アグネスは眉をひそめて続ける。
「ただし、完全に消える前に“送り環”を開けば、体も魂も一緒に帰れる。昔の術者はそうやって安全に帰していたそうだ」
ライは深く息を吸った。
「つまり――まだ間に合うということだな」
「おお、まとめ方うまい!」
カレンが軽く親指を立てるが、すぐに
「でも、あーしまだ帰りたくないんだよね……」
と小さくつぶやいた。
ライは視線を落とし、懐中時計を軽く握る。
針がほんのわずか震えた。
バルドが小声で呟く。
「若……笑顔と涙は、保存がきかぬものでございます」
ライは顔を上げ、短く答えた。
「必ず、普通の状態で帰れるようにする。……その上で、残る方法も探す」
アグネスは杖をつき、にやりと笑った。
「ならば、急いで調べるんだね。線は、待ってはくれないよ」
こうして一行は、図書塔の奥で“薄くなる”正体を知り、次なる行動を決めたのだった。
中庭の石畳に、黒い線で描かれた魔法陣が浮かび上がった。
描いたのはルチアだ。彼女は長い髪をかき上げ、小さく深呼吸をしてから呪文を唱える。
「……これで“線”の力を抑えられるはず」
カレンの手の甲がゆっくりと黒い光に包まれる。
透けかけていた指が、わずかに色を取り戻した。
「……お?」
カレンが自分の手を眺める。
ライも見守る。
息をのむように、光の変化を目で追った。
だが、ほんの数秒後。
すっと黒い光が弱まり、指先はまた淡く透けていく。
「……やっぱり長くは持たないか」
ルチアが肩を落とした。
「でも、一瞬は戻ったよな!」
カレンは強引に笑顔をつくった。
けれどその声の奥に、かすかな不安がにじむのを、ライは見逃さなかった。
---
そのときだ。
カレンの膝に置かれたスマホが「ピコッ」と音を立てた。
画面に、一瞬だけ“圏内”の文字。
「きた! 今度こそ!」
カレンが慌てて画面をスクロールしようとするが、二秒もたたないうちに“圏外”に戻ってしまう。
「……」
ルチアは表情を引き締める。
「線が強まっている証拠。長く続けば続くほど……魂の方が先に引っぱられる危険が高まる」
「魂か……」
ライは低い声で問い返した。
「もし……魂だけが先に戻れば、肉体はこの世界に取り残される。器だけの抜け殻になる」
重たい沈黙が降りる。
ミーナも口をつぐみ、バルドはひげを指先でなでながら壁の時計を見上げた。
カレンは一瞬だけ目を伏せたが、すぐに顔を上げ、明るく言った。
「ま、ゾンビ系女子とかウケるんじゃね?」
その無理やりな冗談に、みんなが少しだけ笑った。
だがライの目は笑っていない。
「……必ずこちらに残れる方法を見つける」
短く、強い声だった。
その言葉に、カレンの耳まで赤く染まった。
モフドラが「ぷしゅ〜」と湯気を吐き、まるで空気を和ませるようにライの肩にすり寄った。
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やがて場は落ち着きを取り戻し、全員で作戦を練り直すことになった。
ルチアは術式の再調整を担当。
ライは学園の禁書区で追加の古文書を調べる。
ミーナはカレンの体調を記録し、日常の支えをする。
バルドは安全管理と薬の準備だ。
「……でも、あーし、ほんとまだ帰りたくないんだよね」
カレンが小さな声で本音をもらす。
「ライやみんなと過ごすの、マジ楽しいし」
その言葉にライは一瞬ためらったが、真剣な顔で答える。
「残る方法を……探す。必ずだ」
ルチアは小声で
「兄様、顔が怖いと誓いが台無し」とつぶやく。
バルドは「若、心は百点。お顔は……いつもどおりでございます」と穏やかに締めた。
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その夜。
塔の鐘が遠くで鳴り響く。
月明かりに照らされた回廊で、カレンのスマホが再び「ピコッ」と光った。
“圏内”。
ほんの一瞬。
誰も声を出さず、ただカレンがその光を見つめて、静かに笑った。
不安と希望を同時に抱えたまま、夜はゆっくりと更けていった。
今回はコメディの中にシリアスを混ぜてみました。
カレンの軽口が空気を救う一方で、少しずつ深まる“不安”も描いています。
「透ける」というギャグっぽい現象を、仲間たちが本気で受け止める――そこに彼らの絆を入れたかったんです。
次回はさらに核心へと近づきます!どうか見届けてくださいね。
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