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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第3章 召喚少女 島津カレン

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第27話 ギャル、透けて危機一髪!

おはようございます!

侯爵家の朝はいつもなら優雅で整然……のはずが、今日はなぜか「透けギャル」現象で大騒ぎ。

パンは宙を舞い、粉糖は指にふりかかり、モフドラは湯気で大忙し。

シリアスになるかと思いきや、やっぱり笑いに持っていかれるのがこの作品らしさです。

今回もぜひ、肩の力を抜いて楽しんでください!


侯爵家の朝は、いつもは規則正しく、そして静かだった。


大きな窓から射し込む光が、白いクロスを敷いた長いテーブルを照らし、銀の食器はそれを受けてきらりと輝く。

焼き立てのパンからは香ばしい匂いが漂い、スープの湯気はふわりと立ち上り、ゆるやかな朝の空気を作っていた。


 ——普段なら。


「いただきまーす!」

その静けさを打ち破ったのは、元気すぎるギャル声だった。

カレンがパンを豪快にちぎり、遠慮なく口に押し込む。

「んまっ! これ、優勝!」と、いつもの調子で親指を立てる。


だが次の瞬間、その親指が……すっと透けた。

まるで光を取り込んだガラスのように、輪郭がぼやけ、パンの影が向こうに見えてしまう。


「……あれ?」

カレンは目を瞬かせ、自分の手を振って確かめる。振るたびに残像のような透明感が揺れる。

「ちょ、ちょっと! あーし、透けてんだけど!?」


彼女の叫びが響くと同時に、落としたパンが床に転がった。

ルチアは椅子を倒さんばかりに立ち上がり、顔から血の気が引く。


「……やっぱり……」

ルチアの声はかすれていた。

「陽キャ召喚は、呼び出された者の“ノリ”を燃料に維持される術式なんです。

長くこちらに留めておけば、燃料切れで存在そのものが薄れて……やがて……」


言葉の先は飲み込まれた。

説明はいらなかった。カレンの指先は確かに、少しずつ消えかけている。


「大丈夫大丈夫! スケルトンってことでしょ! 流行りじゃん!」

カレンは無理やり笑顔を作り、軽口でごまかす。

けれど、その指は小さく震えていた。


「痛みは? 寒気や眩暈はないか?」

ライは即座に問いかけた。声は冷静だが、瞳は鋭く彼女を見ている。


「んー、ゼロ! ただ……なんかWi-Fi弱めって感じ?」

カレンは軽い調子で答える。

意味不明な比喩に、ルチアもミーナも「?」を浮かべたまま固まった。


そんな中、老執事バルドがひと呼吸置いて口を開く。

「……冗談を薄めるより、今はお心を濃くなさいますように」

穏やかな声が場を落ち着ける。彼なりのユーモアを含ませながらも、そこに滲むのは確かな重みだった。



---


重くなりかけた空気をぶち壊したのは、やっぱりこの人だった。

「見えにくいなら縁取りしましょう!」

ミーナが台所から勢いよく飛び出してきた。両手には粉糖。


「ほらっ!」

カレンの透けた指先に粉をぱらぱらとふりかける。


すると——。

「ドーナツシュガーかーい!」

指先は確かにくっきり見えたが、完全にお菓子化。

「やめて!? あーし、ティータイムのおやつじゃないんだけど!」

全員が思わず吹き出し、張りつめた空気が少し緩んだ。


「次は赤糸です!」ミーナは裁縫箱から赤い糸を取り出すと、指に巻きつけ始める。

「これで輪郭がはっきり!」

「いや、病院プレイ!?」

カレンの全力ツッコミが炸裂する。


笑いと騒ぎの隙間から、小さな竜モフドラがひょいと顔を出す。

「プシュー」

彼はカレンの手の上で小さく湯気を吐き出した。

すると、不思議なことに透けた輪郭がほんの少し濃くなり、全員が「おっ!」と声を上げた。


嬉しくなったカレンは、至近距離でライにサムズアップ。

その瞬間、ライの懐中時計の針がぐぐっと跳ね上がった。

「……ぐっ、キリ……!」

 ライが腹を押さえ、苦悶の声をもらす。


「ちょっと! そこで恋腹!? ノっていいとこじゃん!」

カレンのツッコミが再び響く。モフドラは慌ててもう一度「プシュー」と湯気を吐き、ライのお腹を温めた。

すっかりお腹ホッカホカ作戦である。



---


そんなドタバタの最中。

カレンのスマホ画面に、一瞬だけアンテナがピッと立った。

たった1本。すぐに消える。通知音は鳴らなかった。


「今、電波ワンチャンした!?」

カレンが目を丸くする。


「……反射だろう」

ライは短く答え、窓の外に視線を投げた。

普段ならもっと説明を添える彼が、それ以上言葉を重ねなかったことが逆に胸をざわつかせた。


ルチアは小さく口を開くが、何も言えずに唇を噛む。

バルドは場を読むように、静かに言葉を落とした。


「アンテナも、人の心も、揺れるもの。……ただ、火加減さえ誤らなければ、焦げつくこともありますまい」


その一言に、全員の肩の力が少し抜けた。笑いは消えていない。だが、そこにわずかな重さが加わっていた。



---


「記録を始める」

 ライが早口にならないように区切って指示を出す。

「透けの変化を時間ごとに。ルチアは術式の再点検。ミーナは安全な補助策だけ選べ。バルド、記録と観察を」


「了解!」

 ミーナは粉糖と赤糸をそっと片づけ、メモ帳に「安全」の欄を二重丸で囲む。

 ルチアは頷き、術式の図面を広げる。

 バルドはペンを走らせながら、ひげを指で整えた。


カレンは指を握って開いて、もう一度、笑う。

「オッケー隊長。あーし、全力でノるからね。燃料は……気合で増やそ?」


「……頼もしい」

 ライの口元が、わずかにゆるむ。が、外から見るとやっぱり怖い顔なので、ミーナがあわててサインを出す。

「ライ様、優しい顔! 眉、もうちょい下!」

ライ、がんばって眉を下げる。たしかに下がる。

しかし怖い。


「若様」

バルドが小さく添えた。

「怖い顔であれ、頼れる顔でございます。本日はそれで十分に」


 カレンが吹き出す。

「それ、名言。スクショしたい……」

 笑いがこぼれ、朝の空気が少し温かくなる。


 テーブルには粉糖の白い指跡、赤糸の小さな輪っか、そしてモフドラの湯気のあと。

どれもただのドタバタに見えるのに、なぜか目が離せない。


 スマホの黒い画面が、窓の光を一瞬だけきらりと返した。

誰も何も言わない。次の作業へ動き出す音だけが、広間に広がった。



侯爵家の温室は、いつもよりにぎやかだった。

陽の光がガラス窓から差し込み、緑の葉がキラキラ揺れている。噴水の水音が心地よく響き、まるで王都の中に作られた小さな森だ。


だが、その穏やかな空間の真ん中で――


「……やば、手首が透けてきたっぽ?」


カレンが自分の腕を振って見せると、指先どころか、手首のあたりまで輪郭が曖昧になっていた。袖がちょっと浮いて見えるのが不気味だ。


「指輪サイズ無限対応、世界初ギャル降臨〜ってね!」

カレンは大げさに笑ったが、声が少しだけ震えていた。


ルチアは顔を青くして、ぶつぶつと呟く。

「やはり……“陽キャ召喚”は長時間持続しません。追加の調律が必要ですわ」



---


「なら実験です!」

ルチアはポン、と手を打つと、侍女のミーナに手鏡を数枚持たせた。


「兄様、カウントお願いします」


「……ワン、ツー、スリー、フォー」


ライが真顔でカウントすると、全員で手拍子。

パチン! パチン! パチン! パチン!


肩の上のモフドラまでノリノリで「ぷしゅっ、ぷしゅっ」と湯気をリズムに合わせて噴き出す。


次の瞬間、カレンの輪郭が七色に輝いた。まるでステンドグラス。


「なにこれ、フェス!? あたし今、アイドルデビュー!?」


キラキラは一瞬で消えた。ルチアが眉をひそめる。

「……持続が弱い。素材の格が足りませんわ」



---


「見た目は大事っすよ!」

ミーナは勢いよくオレンジ色のスカーフを取り出す。

「元気色! ビタミンカラー! 陽キャ爆上げアイテムです!」


首に巻かれた様子は、確かに一気にギャル感が増した。

「お、盛れてる! 盛れてる!」

しかし透け具合は変わらず。


「……中身が盛れてない」

ミーナががくっと肩を落とす。


温室に微妙な沈黙が広がる。空気がちょっと重くなりかけた、その時だった。


「焦りは光を曇らせます。ここは“笑って吸って吐く”、深呼吸でございましょう」


執事バルドの落ち着いた声が響いた。

全員で「すーっ、はーっ」。


「ヨガか!」

カレンが即座にツッコミ、場の空気がまた明るくなる。



---


温室から石の回廊へ出ると、夕方の光が差し込み、古いガラス窓に反射していた。


そこで、事件は起きた。


カレンのスマホ画面に、アンテナが――ピコッ。

一本だけ、立ったのだ。


「圏内」


……と思った瞬間、すぐ消える。通知音もなし。


「え、今たった!? 今立ったよね!?」

カレンはスマホをぶんぶん振るが、画面は無反応。


ルチアは慌てて手帳に書き込む。

「ガラス反射 × 陽キャ残響 × 距離……条件が複雑すぎますわ」



---


検証のため、もう一度ガラスに小さな光を作る術式を描く。

ミーナは手鏡を持って角度を調整。

ライは真顔で床をコツコツ歩きながら距離を測る。


「来い、電波ぁぁ!」

カレンがスマホを掲げるが――


……沈黙。


「ガセかーい!」

思いきり振り回すカレンに、ライが冷静に言った。

「機械を乱暴に扱うのは、推奨できない」


「ノリツッコミ無いんかい!」

カレンが叫び、場に笑いが広がる。


その直後、窓の外の街灯がふっと点いた。

スマホが――「ピコッ」。

一瞬だけ、アンテナが立った。


「……」

カレンは大はしゃぎするどころか、一瞬固まった。

ルチアは顔をこわばらせ、「……やっぱり繋がってる」と小さく呟く。


「……日暮れでございますな」

バルドが静かに時計を見上げる。

その声音は、あえてそれ以上を語らない優しさだった。



---


回廊の端の石の腰かけで一息つくと、カレンが膝にスマホを乗せて、力なく笑った。

「……透けてくの、正直ちょっと怖いけどさ。あーし、最後まで笑顔でいたいわけよ」


ライは短く、しかし強く言った。

「必ず、残す方法を見つける」


「……ッ!」

カレンの耳まで赤くなる。モフドラは「ぷしゅ〜」と湯気をいつもより多めに噴き出した。


役割も決まる。

ルチアは術式の見直し。ライは学園図書室へ。ミーナはカレンのサポート。バルドは胃薬補充。


「……笑顔は、最高の保温でございます」

バルドの言葉に、みんながふっと笑った。


その時、スマホがまた「ピッ」。

0.5秒だけ“圏内”。


「……」

全員が無言。誰も突っ込まない。

ただ、ルチアだけが手帳にそっと「夕刻帯で三回」と書き込んだ。


カレンは空元気を出すようにスマホを掲げて、

「次こそスクショ撮るから!」と声を張る。


その横でライは腹を押さえ、深呼吸。


笑い声の奥に、不安を抱えたまま――夜は静かに更けていった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

笑いの中にちらりと顔を出す不安、そして「必ず残す」というライの誠実な言葉。

ギャル・カレンの賑やかさと、消えそうな儚さ。

このギャップこそが次回に繋がる大きなポイントです。

さて、果たして「透け問題」はどう解決するのか? モフドラの湯気でなんとかなるのか!?

気になった方は、ぜひ次話もチェックしていただけると嬉しいです。


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